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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

意見ないし論評を含む表現の名誉毀損の成立要件とは

風評被害対策

意見ないし論評を含む表現の名誉毀損の成立要件とは

かつては、名誉毀損の加害者は、情報発信力を持った新聞やテレビのようなマスメディアか、著名人であることが一般的でした。しかし、インターネットが発達し、掲示板やSNSを通して、誰もが不特定多数に向けて情報を発信する力を持つようになり、表現の場の拡大とともに、誰もが名誉毀損の被害者になりうる可能性が生じました。

うっかり不注意な投稿をすると名誉毀損の加害者になってしまうかもしれません。「名誉毀損の要件」「名誉毀損が成立しない場合」等については別記事でも解説していますが、ここでは、意見ないし論評を含む表現と名誉毀損の成否、いわゆる意見論評型の名誉毀損について解説します。

意見ないし論評を含む表現による名誉毀損

刑法における名誉毀損罪は、230条により、事実の摘示が要件であり、具体的な事実(証拠等をもってその存否を決することが可能な事項)を示さなければ成立しませんが、民事の名誉毀損は要件が明確に規定されていません

1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

刑法第230条

他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

民法第723条

この点について判例は、

名誉毀損の不法行為は、問題とされる表現が、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば、これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、成立し得るものである。

最高裁判所1997年9月9日判決

とし、意見ないし論評によっても名誉毀損が成立するとしています

つまり、

  1. いわゆる「刑事上の名誉毀損」に該当するケースとは、具体的な事実を述べるものであり、これは民事上も名誉毀損(名誉権侵害)である
  2. ただし、刑事上では名誉毀損に該当しない、意見ないし論評による名誉毀損(「意見論評型の名誉毀損」)も、民事上は名誉毀損(名誉権侵害)である

という構造です。上記1の名誉毀損の成立要件に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

したがって、民事においては、一般人の感覚を基準として人の社会的評価を低下させる表現であるのなら、それが事実の摘示か意見ないし論評であるかを問わず名誉毀損が成立することとなり、名誉毀損の成否を検討する場面では、事実の摘示と意見ないし論評との区別は不必要ということになります。

ただし、事実の摘示と意見ないし論評とでは、免責に関する要件が異なってくるため、免責を検討する場面ではそれらの区別が意味を持ち、名誉毀損による法的責任が生じるか否かの結論に大きく影響することとなります。

民法上の不法行為としての名誉毀損について、民法では損害賠償に代えて、または損害賠償とともに、名誉回復のための措置が認められています。 その一般的な措置としての謝罪広告については別記事にて詳細に説明しています。

事実の摘示による名誉毀損における免責要件

名誉毀損が免責される要件について説明していきます。

事実の摘示による名誉毀損の場合、以下の3つの要件を満たしていれば違法性が否定され、名誉毀損が免責されます。

  1. 公共の利害に関する事実を摘示するもの(公共性)
  2. 専ら公益を図る目的であること(公益性)
  3. 摘示された事実が真実であると証明されること(真実性)またはその事実が真実であると信ずるに足りる相当の理由があること(相当性)

刑法第230条の2の1では「公共性」「公益性」「真実性」をあげていますが、これに「相当性」を加え、名誉毀損的表現であっても、上の要件を満たしていれば、刑事責任も民事責任も負わないという判例法理があるのです。

ここで、「相当性」についてですが、「その事実が真実であると信ずるに足りる相当の理由」には、明確な根拠が必要とされます。先にあげた最高裁判所1997年9月9日判決は、「夕刊フジ・ロス疑惑事件」の上告審ですが、「特定の者が犯罪を犯したとの嫌疑が新聞等により繰り返し報道されていたため社会的に広く知れ渡っていたとしても、このことから、直ちに、右嫌疑に係る犯罪の事実が実際に存在したと公表した者において、右事実を真実であると信ずるにつき相当の理由があったということはできない」としています。 「テレビで言っていた」「本に書いてあった」等では通用せず、免責されません。注意が必要です。

意見ないし論評による名誉毀損における免責要件

意見ないし論評による名誉毀損の場合、以下の4つの要件を満たしていれば、違法性が否定され、名誉毀損が免責されます。

  1. 意見ないし論評が公共の利害に関する事項に係ること(公共性)
  2. 意見ないし論評の目的が専ら公益を図るものであること(公益性)
  3. 前提としている事実が真実であると証明されること(真実性)またはその事実が真実であると信ずるに足りる相当の理由があること(相当性)
  4. 人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでないこと

1~3の要件の考え方は事実の摘示による名誉毀損と同様、または類似していますが、4の要件については、表現方法の内容や執拗さ、被害者側の属性等を考慮して判断されます。

したがって、通常の名誉毀損と比較すると、意見ないし論評による名誉毀損は、「意見ないし論評としての域を逸脱」した場合に成立する、ということになります。

表現が事実の摘示か意見・論評か

学習塾チェーンであるAが、傘下のB塾に娘を通わせている親であるCの掲示板への投稿記事に関して東京地方裁判所に、名誉毀損の訴えを提起しました。

B塾の塾長であるDが出会い系サイトで知り合った女子高生にお金を渡してわいせつな格好をさせ、わいせつ写真を撮影したとして逮捕され、余罪を300件自白していたのですが、このニュースを聞いたCが「DはB塾の生徒にもわいせつ行為をしていたのではないか」「B塾の他の従業員も塾生にわいせつ行為をしている可能性がある」等の投稿をしたのです。

この裁判中にDの刑事裁判が行われ、Dは児童ポルノ法違反で有罪判決を受けました。その結果、前提事実である、Dの行為そのものは証明されました。また、このような世間を騒がせた犯罪行為に関する指摘なので、公共性も公益性も認められます。

そこで、Cの掲示板における表現が事実の摘示か、それとも意見ないし論評であるのかが大きな問題となりました。 これに対し東京地裁は、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準に理解すれば、この投稿を「Dや他の従業員がわいせつ関連の余罪を犯している事実を摘示している」と判断することはないとした上で、

原告が、本件事件と同年齢の生徒に対して学習指導を行う立場にありながら、300件もの余罪を認めたと報道されるDの犯行に気付かず、正社員として雇用し続けてきたばかりか、校長の地位に据えてきたという事実を前提に、そのような指導監督体制であればDにせよほかの従業員にせよ余罪の可能性があるのではないかとの意見を述べたものと理解すべきであって、ひいては原告の使用者としての社員教育や社員の管理監督の杜撰さ、社内規律の維持に対する疑問、生徒を預かり育てるという教育関係機関としての自覚の欠如を、痛烈に非難、糾弾し、その責任を問う旨の論評であると理解でき、したがって、事実を摘示したのではない

東京地方裁判所2011年11月25日

とし、Cの掲示板における表現は意見ないし論評であるとしました。

意見ないし論評としての域を逸脱しているか

そこで、最後の要件である、「人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない」かどうかが問題となりました。Cの掲示板における表現に極端なものが含まれていたため、表現の辛辣さから、免責が否定される可能性が問われたのです。

東京地裁は、いまだに意見ないし論評の域を逸脱していないと判断し、Cを免責しました。Cによる批判が辛辣で極端な表現も含まれるとしながらも、Dが引き起こした事件が社会的に大きな影響を与えたとしたうえで、社会にきわめて大きな動揺や不安をもたらし、大きな憤慨を引き起こしたことが当然であるにもかかわらず、Aから何らの事実関係の公表や弁明がなされなかったことにてらせば、いまだにCの批判は正当な意見ないし論評の枠内にあり、不当な攻撃には至っていないとして、免責を認めたのです。

その意味では、Cの書き込みと同じレベルの辛辣な批判的文章が、どのような場合にでも免責されるとまでは言えないことに注意が必要です。あくまでも、事案の全体から総合的に判断されるわけであり、免責が認められるか否かは、具体的な事実関係によります。

社会問題が発生し、それに関心を持ったユーザーが、辛辣で攻撃的な意見・論評を投稿するのはインターネット上の名誉毀損においてはよく見られるため、こうした場面における表現の自由と名誉権のバランスに関するものとして注目に値する案件と言えるでしょう。

まとめ

本記事で触れたような意見論評型の名誉毀損は、実務的には、「どのように構成しても具体的な事実が書かれているとは言いがたい」というような誹謗中傷案件において、「それでも名誉毀損は成立している」と主張するために検討される法律構成です。つまり、

  1. 基本的には、当該誹謗中傷表現は具体的な事実を述べている、と主張し、名誉毀損(名誉権侵害)を主張すれば良い
  2. しかし、どうしても「具体的な事実を述べている」とは言い難いような抽象的表現や「感想」に近いような表現の場合、1の構成を使えないため、意見論評型の名誉毀損だと主張することになる
  3. しかし意見論評型の名誉毀損だと主張すると、「意見ないし論評としての域を逸脱」していない限りは適法だということになるため、その意味でハードルは上がる

という構造です。実務感覚としては、上記1のレベルは、きちんと弁護士が丁寧な主張構成を行うか否かで、結論が変わり得る部分です。例えば、「ブラック企業」という表現は、「会社に対する従業員の意見に過ぎず、具体的な事実ではない(したがって意見論評型の名誉毀損の問題しか生じない)」といった見解もありましたが、当事務所は現に、「中もブラック」という表現に関して、それが具体的な事実であることを前提に勝訴判決を得ています。これは、掲示板内における他のレスの内容等を踏まえた解釈を裁判所に認めさせている例であり、「他のレスの内容を踏まえるべき」という主張が必要だったケースです。

意見論評型の名誉毀損は、上記2の通り、「どうしても」具体的な事実とは言い難いようなケースで、いわば「最後の砦」として主張されるべき法律構成であり、また、こうした判断を具体的事案の下で適切に行うには、ノウハウや経験が必要である、というのが実務感覚です。

この記事の内容を動画で知りたい方は、弊所YouTubeチャンネルの動画をご覧ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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