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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

みん就の投稿者を特定したい場合の対応方法について弁護士が解説

風評被害対策

大学生が卒業後の進路のために就職活動をするとき、企業や求人に関する情報を集める目的で就活サイトに登録することが多いと思います。具体的には就活生がこの企業はどのような社風でどのような労働環境なのか、どのような面接が行われているのか、というように就職先の選考や戦略を練るために就活サイト上の口コミや情報が活用されています。

みん就は就職コミュニティ・口コミサイトです。このサイトでは企業の情報を閲覧し、就活関連の掲示板を利用することができます。みん就にはポジティブな情報からネガティブな情報まで様々な口コミが掲載されていて、就活生としては実際に就活をした人の生の声を聞くことが出来るなど、役に立つサイトといえます。一方で、就活セクハラをされた等、企業の評判を著しく下げるようなネガティブな投稿がされた場合、求人活動に支障が出るばかりか、評判を下げることにもつながります。今回は、そのような口コミを投稿した人物に対して、どのような手続をすれば法的請求ができるのか、その方法を解説していきます。

みん就とは

みん就はどのようなサイトなのか

みん就は、楽天株式会社(Rakuten,Inc)が運営する就職コミュニティ・口コミサイトです。みん就では約26,000社の企業情報、約700万件以上の口コミを見ることができ、就活中の学生の約80%が登録しているともいわれ、就活関連サイトの中でも大手であるといえます。

みん就のコンテンツの一つである、選考・面接体験記では、面接でどのようなことを聞かれたか、通過したESにはどのようなことを書いて提出したかといった実体験が詳しく書き込まれています。また、掲示板コンテンツはリアルタイムで更新できることが特徴で、「〇月に受けた面接の結果はもう来ましたか?」「○○商事の面接はどんな感じでしたか?」など様々なトピックが並びます。みん就では、「ネガティブな投稿」も就活生にとっては「有益な情報」となりうると判断し、誹謗中傷などネガティブな内容を含むトピックも簡単には削除せずに残す方針をとっています。就活生にとっては、ある意味本音で語れるサイトと言えますが、誹謗中傷投稿が残りやすいという面で、企業にとっては悪影響になるおそれがあります。

みん就における誹謗中傷の例

みん就の投稿者は、みん就を利用している学生が中心です。しかし、みん就は楽天のコンテンツの一つで、楽天会員であれば誰でもサービスを利用することができ、また、楽天会員の登録はフリーメールアドレスでも可能(厳格な本人確認がない)なため、就活生以外でもサービスを利用(閲覧・投稿)することができます。

就職活動は人生の中でも重要なイベントの一つであり、その選考過程も不透明なことが多いため、センシティブな投稿をされることも少なくありません。特にネガティブな口コミが多いのは、選考・面接体験記という項目の「よくなかった点」を投稿する欄です。また、掲示板にもネガティブな口コミが多く書き込まれています。ネガティブな投稿の例として、以下のような口コミが考えられます。

  • 他の友人が2回の面接で内定をもらったのに、私は5回も呼ばれて結局落とされた。
  • インターン中に社員Bにセクハラをされた。気持ち悪かったが立場上何も言えなかった。
  • 内定を出すといわれて、他の企業も辞退したのに、結局内定がもらえなかった。
  • 面接官に暴言など人格否定のような攻撃を受けた。

みん就は利用者数も多く影響力が強いサイトなので、事実無根の内容や、大げさに悪い印象で書かれてしまうと、企業の求人活動に支障が出るばかりか評判を著しく下げてしまう恐れがあります。特に、書き込まれた口コミが「炎上」し非難の的になってしまうと、業績や株価にも影響し甚大な経済的損失を被る可能性もあります。

こうした危険を避けるためにも、問題のある投稿や風評被害に繋がるおそれのある・実際に悪影響を与えている投稿があれば、削除を請求することや、投稿者を特定して損害賠償請求をするなど、対応を早急に検討するべきでしょう。

投稿者を特定する (プロパイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求手続き)のためには、投稿に含まれる文言が違法と判断される必要があります。そのために重要なのは、権利侵害が明白であるかどうかということです。これは簡単にいうと、投稿内容の悪質性が高いことが要求されます。例えば、事実無根なのに、「人事部のB太郎さんにわいせつなことをされた」と書かれた場合、まるでB太郎さんがわいせつという犯罪にあたる可能性のある行為をしたように受け取られてしまい、名誉権侵害となる投稿であることが明らかで、責任制限法の要件を満たしています。詳しくは下記の弊所サイトのリンク先記事で解説しています。

投稿者特定の手順1:IPアドレス開示請求

IPアドレスとは

みん就に掲載された投稿の投稿者を特定するためにまず行うのはIPアドレスの開示請求です。IPアドレスとは、インターネットに接続した端末を識別するための番号で、インターネット上の住所のようなものです。IPアドレスを記録しているサイト運営者(コンテンツプロバイダ)に対して、問題となる口コミ投稿者のIPアドレスを開示請求し、投稿端末を特定します。

みん就は、先に述べた通り、楽天の提供するサービスの一つであり、楽天会員であれば誰でも投稿できます。そして楽天の会員登録は、厳格な本人確認や身分証明が不要で、Gmailなど匿名性の高いフリーメールアドレスでも登録が可能です。そのため、みん就に投稿者の会員情報の開示を請求しても、虚偽のおそれがある以上あまり意味はなく、本人を特定するためにはIPアドレスを開示してもらう必要があります。

仮処分手続による投稿者のIPアドレス開示請求

IPアドレスを開示する手続きは、発信者情報開示請求という裁判手続になります。削除依頼の場合は、裁判所を通さなくても規約違反等があれば受け付け可能となる場合がありますが、IPアドレスの開示となると裁判手続をすることになります。損害賠償請求などの必要がなく、とりあえず口コミの削除だけしたいという場合は、削除依頼のみ行うのも一つの手段といえます

裁判手続というと面倒で複雑なイメージがありますが、本裁判ではなく仮処分の申立てという手続を用いることにより、簡単で迅速な対応が可能です。費用面や手間はありますが、約1〜2ヶ月ほどで終わるので、有効な手段といえます。一般的に弁護士費用は、

着手金が30万円程度、成果報酬金が30万円程度

といわれています。これは、IPアドレスの開示と削除を求めた場合の相場です。もっとも具体的な金額は案件の内容によって変動するため、あくまで参考としてください。

投稿が違法であることを主張・立証する必要

裁判所に仮処分という方法でIPアドレスの開示を認めて貰うためには、その投稿が違法なものに該当することが認められる必要があります。プロバイダ責任制限法4条1項では「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」と定めていますので、これにあたる違法な点があることを主張する必要があるということです。

場合によっては、時間と手間のかかる裁判手続きを利用するよりも、削除のみ対応してもらえれば良いという場合もあると思います。その時は、コンテンツプロバイダ、今回であればみん就に依頼することで実現できるかも知れません。

その場合は、投稿内容の違法性に加えて、利用規約違反の事実があれば実現できる可能性があります。みん就が独自に禁止している投稿にあたれば違法とまではいえなくても削除ができるかもしれないということです。これはあくまでもみん就運営者が独自にとり決めた削除方針(基準)というだけで、必ずしも違法であり法的に認められるものとは限りません。つまり、サイトに削除を依頼すれば違法性がなくても削除に成功するかもしれないということです。

一方IPアドレスの開示請求を認めさせるには、

  • その投稿が違法であるという法的な主張(権利侵害が明白に存在すること、違法性阻却事由がないこと)
  • それらを基礎付ける証拠

が必要になり、どの証拠を提出するかなど非常に専門的で、本人が判断することは難しい手続きとなります。このような場合は弁護士に相談して個別のケースに合わせた対処をするのが望ましいと言えます。

投稿者特定の手順2:ログの削除禁止

IPアドレスの開示請求に成功した後、アクセスプロバイダにログの開示を求めます。アクセスプロバイダとは接続業者のことであり、J:COMやソフトバンクなどがこれに当たります。端末を契約するときに個人情報を記入したことがあると思いますが、このようにアクセスプロバイダは端末の契約者の情報を把握しているので、そのログと端末契約者の情報を照らしあわせることで、問題の投稿の投稿者がわかるということになります。ログは、IPアドレスから把握することができます。

アクセスプロバイダは一定期間が経過するとログを削除しますので、時間がかかりすぎるとログが分からなくなってしまいます。そこで、プロバイダに対して、「投稿者特定の手続をするので、ログは削除しないでね」というような発信者情報消去禁止の請求を行います。仮処分による手続も取れるのですが、通知を出せば任意で協力してくれることもあります。 この手続においても、法的な主張や証拠を記載しなければならないので、弁護士に相談する方が安心です 。

投稿者特定の手順3:住所氏名開示請求

手順2でプロバイダがログを保全(削除禁止)した場合、次に、プロバイダに対して、そのログから照らし合わせた端末契約者の住所氏名開示を求めます。この手続きは仮処分の方法によらず、正式裁判になります。IPアドレスのように数値化された情報と異なり、住所・氏名は個人特定のための重要な情報だからです。むやみに投稿者の情報が開示されると表現の自由やプライバシーが簡単に侵害されてしまうため、裁判所は、本当に開示を要するのかを慎重に判断することになります。例えば、仮にみん就で、「面接官が高圧的でした」と投稿したとしても、当該投稿は違法ではないのであれば、その投稿者のプライバシーや、表現の自由は尊重されるべきなのです。この点を慎重に判断して、違法だと認められた場合、裁判所は、請求を認容し開示命令を出すことになります。

この部分の弁護士費用の相場は着手金が30万円程度、成果報酬金が20万円程度であることが一般的です。

投稿者特定の手順4:損害賠償請求

上記の裁判に勝訴して投稿者が明らかになれば、その投稿者に対して直接、投稿によって受けた損害の賠償請求をすることが可能になります。この裁判に勝てば、弁護士費用や慰謝料なども回収可能です。これについてはリンク先の弊所記事で解説しています。

まとめ

みん就で投稿者を特定するには、多くの手続を経る必要があり、また主張も大変難しいものといえます。しかし、それらを放置していれば企業の損害にも繋がりかねません。誹謗中傷やプライバシー侵害などお困りのことがあれば、誹謗中傷対策に強い弁護士にご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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