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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

IPアドレス特定の壁、開示請求は本当に「意味ない」のか

風評被害対策

「SNSで誹謗中傷された」「ネットの投稿者が誰かを調べたい」

そのときに必要な手続きが、投稿に利用されたIPアドレスの確認です。そして、IPアドレス開示請求は、身元特定のために行う最初の手続きになります。

しかし、IPアドレスの開示請求については「意味ない」と言われることもあります。IPアドレスの開示請求が機能しないことはあるのでしょうか?開示請求に関する「限界」について解説し、「IPアドレスの開示請求は意味ないのか」という点について、考えてみます。

前提として、ネット上の風評被害対策には、大きく分けて3つの方法があります。

  • 投稿者特定(IPアドレスの開示請求、住所氏名の開示請求)
  • 投稿ページ削除
  • 逆SEOなどのIT技術による対策

1つ目と2つ目を行えるのは法律上弁護士のみで、3つ目はIT企業によっても可能です。
今回は、1つ目のIPアドレス開示請求について説明していきます。

IPアドレスは発信者情報開示請求で明らかになる

IPアドレスは、いわば“インターネット上における住所”のような情報です。インターネットに接続しているあらゆるマシン、自宅のPCやスマートフォンなどは、固有の「IPアドレス」という住所情報を持っています。

発信者情報開示請求とは、プロバイダ責任制限法第4条1項によって規定されている情報開示請求のことです。インターネット上で、誹謗中傷等の違法な投稿を行った発信者の住所、氏名、電話番号等の開示を、掲示板・ブログなどの運営者やプロバイダに請求できる制度です。

開示請求の対象となる情報は以下の通りです。

  • 発信者氏名
  • 発信者住所
  • 発信者メールアドレス発信者IPアドレス
  • 発信者のIPアドレス/IPアドレスと組み合わされたポート番号
  • 携帯端末のインターネット接続サービス利用者識別番号
  • 利用者識別符号
  • SIMカード識別番号
  • 送信日時、時刻(タイムスタンプ)

この手続やフローについては別記事で詳細に解説しています。

IPアドレスは個人の特定に役立つ重要な情報ですが、IPアドレスが判明しても、投稿者の特定に至らないケースとは、どのような場合でしょうか。以下ではIP開示請求の限界事例について、個別に解説していきましょう。

IP開示請求の限界事例①:サーバー管理者等が保持していない

サーバー管理者等が、IPアドレスログを保存していない理由を解説します。

サーバー管理者にはIPアドレスログの保存義務がない

サーバー管理者等は、IPアドレスをきちんと保持しているとは限りません。そもそも「インターネット上でサーバー運営を行う場合、投稿者のIPアドレスを保存し、開示請求に応じられるようにしておかなければならない」といった法律は存在せず、サーバー管理者等にはIPアドレスの保存義務はありません。

したがって、せっかくIPアドレスの開示請求を仮処分で求め、IPアドレスの開示を受けたとしても、サーバー管理者等から「ログを開示しようと思ったが、保存されていなかった」といった回答が来る可能性もあるのです。

もっとも、多くのサーバー等は投稿者のIPアドレスを保存しており、上記の理由で「IPアドレスの開示請求は意味ない」と断言できるケースは少ないでしょう。IPアドレス情報の保存期間はサーバー管理者等によって異なりますが、投稿から3〜6ヶ月が大体の目安です。

削除でIPアドレスのログが消えてしまうケースも

なお、同質の問題として、掲示板などで、「先に投稿削除を行ってしまうと、当該投稿に関するIPアドレスのログが消えてしまう」というケースもあります。これは、サイトごとのノウハウを豊富に持つ弁護士であれば事前に察知し回避できます。詳細は、以下の記事をご覧ください。

IP開示請求の限界事例②:IPアドレスが海外プロキシ経由

IPアドレスの開示請求で開示されたIPアドレスが、海外プロキシ経由等であった場合、追跡はできなくなります。

開示されたIPアドレスが、国内のインターネットサービスプロバイダー(ISP)や携帯キャリア、例えばNiftyやdocomoだった場合、国内法人であるニフティ株式会社や株式会社NTTドコモを相手方として、「当該IPアドレスを用いていた契約者の住所氏名を開示せよ」という開示請求を行うことになります。

しかし、これが海外プロキシサーバーなどであった場合、日本の裁判所で当該海外プロキシサーバー等を相手方として裁判を行うことができません。「追跡失敗」となってしまうのです。

ただ、例えば5ちゃんねるは、身元を匿名化するために悪用されがちな海外プロキシサーバー経由の投稿を、はじめから可能な限り遮断しています。

つまり、「海外プロキシサーバー経由の投稿」というのはそもそも非常に珍しく、この場合でも「開示請求に意味がない」ということはなさそうです。

IP開示請求の限界事例③:IPアドレスのログをISP等が保持していない

ISP等がIPアドレスのログを保持していない背景を解説します。

携帯キャリアのログは約3ヶ月で消えてしまう

IPアドレスの開示を受けた時点で、当該投稿が、どのISPや携帯キャリアから行ったものかが判明します。言い換えると、開示を受けるまで、その投稿が固定回線(のISP)経由なのか、携帯ネットワーク(の携帯キャリア)経由なのかは分かりません。

そして、携帯キャリアの場合、「携帯キャリアは約3ヶ月間しか通信ログを保持していない」という制限があります。つまり、せっかくIPアドレスの開示を受けても、その投稿が携帯キャリアの回線経由で、かつ、投稿から既に3ヶ月以上経過していると、技術的に追跡を諦めざるを得ないのです。

しかし、経験豊富な弁護士が迅速に処理を行えば、IPアドレスの開示請求は長くとも1ヶ月~1.5ヶ月程度で実現可能です。したがって、投稿されてからあまり時間が経っていない投稿に対してIPアドレスの開示請求を行えば、上記のログ保存期間中にIPアドレスの開示を受けることができます。

また、携帯キャリアは、住所氏名の開示を求める訴訟に先立ち、「今から裁判を起こすので、当該ログを消さずに保全せよ」と求めれば、この求めには応じてくれるケースが多いです。

なお、固定回線の場合は、ログ保存期間の問題はあるものの、12ヶ月程度はログが残されます。

携帯キャリア回線経由の誹謗中傷は意外と少ない

また、例えば掲示板上で多数の誹謗中傷投稿が行われているというケースにおいて、ログが保持されないという心配はあまりしなくて良いと言えるでしょう。

なぜなら、「家で、家庭内無線LANを経由し、スマートフォンでインターネットを閲覧した(そして掲示板に誹謗中傷投稿を行った)」という場合、

  • 接続端末はスマホ
  • しかし、接続回線は固定回線

となるからです。「ある程度まとまった数の誹謗中傷投稿についてIPアドレスの開示請求を行ったところ、全てが携帯回線経由であった」というようなケースはむしろ少ないと言えます。

IP開示請求の限界事例④:インターネットカフェからの投稿

ISP等が判明した場合、そのISP等を相手方として、住所氏名の開示請求を裁判上で求めることになります。その際、裁判で勝訴すれば住所氏名が開示されるのですが、ここで開示されるのはあくまで「回線契約者の住所氏名」です。

つまり、インターネットカフェ経由の投稿などの場合、そのインターネットカフェの運営者の住所氏名が開示されることになります。そして多くの場合、インターネットカフェは「ある日時分に、誰が、どのサイトに接続していたか」というログを保持しません。

つまり、「このインターネットカフェから投稿された」というところまでは分かっても、肝心の「誰が投稿したのか」は分からないのです。

ただ、昨今ではインターネットカフェに入店する際には、運転免許証や保険証などで本人確認を行っています。入店時の確認により、投稿日時に当該インターネットカフェを利用した人物や投稿を行った端末を特定できる場合には、弁護士会照会制度によって利用者の情報を取得することで、誰が投稿したのかを特定できる場合があります。

また、インターネットカフェ内では端末ごとに別途IPアドレスを割り振っており、特定が可能な場合もあります。

IP開示請求の限界事例⑤:公衆無線LANを利用した投稿

フリーWi-Fiといった公衆無線LANを利用してネット投稿を行った場合、そのネット回線の契約者は無線LAN接続サービスを提供している施設であるため、開示請求を行ったとしても判明するのは、それら施設のIPアドレスになります。

よって、そのIPアドレスをもとに情報開示を求めても、投稿者本人の個人情報を開示することはできません。

ただ、例えば刑事事件と認められ警察による捜査が行われる場合には、防犯カメラ等の映像によって個人を特定することが可能です。インターネットカフェと同様、特定が必ずできないというわけではないのです。

まとめ:IPアドレスの開示請求は「意味ない」ことではない

このように、IP開示請求から始まる投稿者特定は裁判で認められたからといって100%たどり着けるわけではありません。だからといって、「IP開示請求は意味ない」と断じるのは間違いでしょう。上記の事例の多くが、「非常に珍しい」場合が多く、専門家の力を借りれば一般的にはIPアドレスの特定は、比較的に高確率で可能です。

当事務所は、TwitterやInstagramといったSNSから、2ちゃんねる・5ちゃんねるなどの掲示板、その他の各種サイトなど、様々なサイトへの投稿について、投稿者特定を実現しています。

お困りの場合は、ぜひ当事務所の弁護士にご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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