風評被害対策

IPアドレスの開示請求は「意味ない」のか

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IPアドレスの開示請求は「意味ない」のか

IPアドレスの開示請求について、「あまり意味がなく、行っても仕方がない」などと言われることもあります。これは、どのようなニュアンスなのでしょうか。どのような事柄にも、「デメリット」や「限界」はあります。IPアドレスの開示請求に関する「デメリット」や「限界」について解説し、「IPアドレスの開示請求は意味ないのか」という点について、考えてみます。

まず前提として、いわゆる風評被害対策には、大きく言って、3個の方法があります。

  • ページ削除
  • 投稿者特定(IPアドレスの開示請求、住所氏名の開示請求)
  • 逆SEOなどのIT技術による対策

前二者を行えるのは法律上弁護士のみで、IT技術による対策はIT企業によっても可能です。

ページ削除は法的に正当性があれば原則実現できる

このうちページ削除は、通常の弁護士業務に、ある程度近いものと言えます。どういうことかというと、例えば、交通事故に関する交渉や裁判をイメージしてください。交通事故の被害者が弁護士に依頼し損害賠償請求を行う場合、

自分の側に法的に言って正当性があり、それを基礎付ける証拠が揃っていれば、保険会社との交渉を経て、交渉がまとまらないなら最終的には裁判で勝訴すれば、保険会社等から適切な損害賠償金の支払を受けることができる。

という図式が成立します。ページ削除も、基本的にはこれと同様です。

ページの削除を求める側に法的に言って正当性があり、それを基礎付ける証拠が揃っていれば、サーバー管理者等との交渉を経て、交渉がまとまらないなら最終的には裁判で勝訴すれば、当該ページは削除される。

という図式が成立します。もっとも、上記には例外もあります。「海外サーバー上で運営されている、運営者が不明のサイトであり、交渉窓口がなく、国内裁判所での裁判ではページ削除を実現できない」といった場合には、交渉や裁判を行うことができず、法的な正当性や証拠があってもページ削除を実現できない、という事もあるからです。ただ、あくまでこれは「例外」です。

「法的な正当性や証拠が揃っていれば、最終的には裁判所を通じて請求を実現できる」というのは、一見「当たり前」に思えますが、しかし、投稿者特定の場合、この「当たり前」が、なかなか成立しにくいのはたしかです。以下に示すように、投稿者特定の場合、「法的に正当性があり、証拠も揃っていたのに、結果的に投稿者を特定できなかった」となってしまう「リスク」が、様々な箇所にあるからです。

サーバー管理者等がIPアドレスを保持していない場合

サーバー管理者にはIPアドレスログの保存義務がない

まず、投稿者特定のためには、サーバー管理者などを相手方として、IPアドレスの開示請求を行うことになります。この手続やフローについては別記事で詳細に解説しています。

ただ、サーバー管理者等は、IPアドレスをきちんと保持しているとは限りません。「インターネット上でサーバー運営を行う場合、投稿者のIPアドレスを保存し、開示請求に応じられるようにしておかなければならない」といった規律を行う法律は存在せず、サーバー管理者等には、IPアドレスの保存義務がないからです。したがって、せっかくIPアドレスの開示請求を仮処分で求め、勝ったとしても、サーバー管理者等から「ログを開示しようと思ったが、保存されていなかった」といった回答が来る可能性もあるのです。

もっとも、多くのサーバー等は投稿者のIPアドレスを保存しており、上記の理由で「IPアドレスの開示請求は意味ない」となってしまうケースは少ないものとは言えます。

削除でIPアドレスのログが消えてしまうケースも

なお、同質の問題として、掲示板などで、「先に投稿削除を行ってしまうと、当該投稿に関するIPアドレスのログが消えてしまう」というケースもあります。これは、サイト毎のノウハウを豊富に持っている弁護士であれば事前に察知し回避できる問題ではあります。

開示されたIPアドレスが海外プロクシ経由等であった場合


IPアドレス開示により、どこまで投稿者追跡が可能なのでしょうか。

ただ、IPアドレスの開示請求で開示されたIPアドレスが、海外プロクシ経由等であった場合、追跡を諦めることになってしまいます。

開示されたIPアドレスが、国内のISPや携帯キャリア、例えばNiftyやdocomoだった場合、国内法人であるニフティ株式会社や株式会社NTTドコモを相手方として、「当該IPアドレスを用いていた契約者の住所氏名を開示せよ」という開示請求を行うことになります。しかしこれが海外プロクシサーバーなどであった場合、日本の裁判所で当該海外プロクシサーバー等を相手方として裁判を行うことができません。「追跡失敗」となってしまうのです。

ただ、例えば5ちゃんねるは、身元を匿名化するために悪用されがちな海外プロクシサーバー経由の投稿を、最初から可能な限りで遮断しています。つまり、「海外プロクシサーバー経由の投稿」というのは、そもそも非常にレアです。

開示されたIPアドレスに関するログをISP等が保持していない場合

携帯キャリアのログは約3ヶ月で消えてしまう

IPアドレスの開示を受けた時点で、当該投稿が、どのISPや携帯キャリアから行われたものだったのかが判明します。言い換えると、開示を受けるまで、その投稿が固定回線(のISP)経由なのか、携帯ネットワーク(の携帯キャリア)経由なのかは、分かりません。そして携帯キャリアの場合、「携帯キャリアは約3ヶ月間しか通信ログを保持していない」という制限があります。つまり、せっかくIPアドレスの開示を受けても、その投稿が携帯キャリアの回線経由で、かつ、投稿から既に3ヶ月以上経過していると、技術的に追跡を諦めなければいけなくなってしまうのです。

ただ、携帯キャリアも3ヶ月はログを保持しています。そしてIPアドレスの開示請求は、経験豊富な弁護士が迅速に処理を行えば、長くとも1ヶ月~1.5ヶ月程度で実現可能です。したがって、投稿されてからまだあまり時間が経っていない投稿を対象としてIPアドレスの開示請求を行えば、上記のログ保存期間中にIPアドレスの開示を受けることができます。そして携帯キャリアは、住所氏名の開示を求める訴訟に先立ち、「今から裁判を起こすので、当該ログを消さずに保全せよ」と求めれば、この求めには応じてくれるケースが多いものといえます。

携帯キャリア回線経由の誹謗中傷は意外と少ない

また、実務感覚として、例えば掲示板上で多数の誹謗中傷投稿が行われているというケースで、携帯回線経由の投稿は、せいぜい半分程度です。

この問題について、たしかに現在、インターネット接続端末は、60台未満ではスマホがPCを上回っているとされています。

総務省|平成30年版 情報通信白書|インターネット利用の広がり

ただ、これは、あくまで「接続端末」の問題です。どういうことかというと、「家で、家庭内無線LANを経由し、スマートフォンでインターネットを閲覧した(そして掲示板に誹謗中傷投稿を行った)」という場合、

  • 接続端末はスマホ
  • しかし接続回線は固定回線

となるからです。したがって、「ある程度まとまった数の誹謗中傷投稿についてIPアドレスの開示請求を行ったところ、全てが携帯回線経由であった」というようなケースは、むしろ少ないものと言えます。

原因不明でログが消失しているケースも希にある

なお、ISP等が、原因不明でログを保持していないというケースも、多少なりともあります。インターネットの接続ログは膨大なので、原因不明でログが保存されていない・消失している、といった事態も、稀に発生してしまうようです。あくまで「稀に」ではあるのですが…。

ネットカフェ等からの投稿であった場合

ISP等が判明した場合、そのISP等を相手方として住所氏名の開示請求を、裁判上で求めることになります。この裁判で勝訴すれば住所氏名が開示されるのですが、ここで開示されるのは、あくまで「回線契約者の住所氏名」です。

どういうことかというと、ネットカフェ経由の投稿などの場合、そのネットカフェの運営者の住所氏名が開示されることになります。そしてネットカフェは、多くの場合、「ある日時分に誰がどのサイトに接続していたか」というログを保持していません。つまり、「このネットカフェから投稿された」というところまでは分かっても、肝心の「誰が投稿したのか」が分からないのです。

実務感覚として、ネットカフェ等が出てくるケースは、多くはありませんが、一定数は存在します。このような場合は、残念ながら追跡失敗となってしまうケースが多いものといえます。

まとめ

このように、IP開示請求から始まる投稿者特定は、「法的に正当性があり、証拠も揃っており、弁護士も適切な仮処分・裁判等の対応を行ったのに、結果的に犯人に辿り着けない」となってしまうリスクが、様々な箇所にあります。こうしたことから「IP開示請求は意味ない」と言われてしまうケースもあるのでしょう。

ただ、これらはあくまで、「そういうケースもある」という話ではあります。実務感覚として、少なくとも「ある程度の数の誹謗中傷投稿について投稿者特定を目指したが、一つも犯人に辿り着けなかった」となってしまうケースは、あまり多くはありません。IPアドレスの開示請求は、「意味ない」というものではないようには思えます。

当事務所は、TwitterやInstagramといったSNSから、2ちゃんねる・5ちゃんねるなどの掲示板、その他の各種サイトなど、様々なサイトへの投稿について、投稿者特定を実現しています。

なお、本記事で解説してきたような「リスク」を踏まえた上での、犯人特定や損害賠償請求までの弁護士費用に関する解説は下記記事です。

モノリス法律事務所は、NHKドラマ「デジタル・タトゥー」の原案を務める代表弁護士の下、企業・個人の風評被害対策を多数手がけております。

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