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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

「死ね」という投稿は名誉毀損?争われた2つの判例を解説

風評被害対策

他人から「死ね」と罵倒されたら、誰でも嫌な気分になるでしょう。ネット上でこうした発言を繰り返されたら、何とかしたいものだと考えるのが自然です。

では、他者を「死ね」と罵倒する投稿は罪に問われるのでしょうか、問われるとしたらどういう罪に該当するのでしょうか

1ヶ月に13回「死ね」と投稿された事例

2ちゃんねるにおいて、約1か月の間に13回にわたって「死ね」「さっさと死ね」「キンモ早く死ね」「とっとと死ね」などと繰り返し投稿された会社経営者が、損害賠償を請求した事例があります。

被害者が主張した4つの罪

原告はまず、『「死ね」「さっさと死ね」という投稿は原告に対する強い殺意を示すものであり、少なくとも原告を脅迫する内容を含むものとして、その人格権を侵害するものであり、脅迫罪に当たる』として権利侵害を主張しました。

また、人に対して「死ね」ということは単なる悪口にとどまらず、相手の全人格を否定して「生存に値しない人間」と評価する表現であり、原告の名誉感情を害する侮辱的な投稿であって人格権を侵害し、侮辱罪に当たると主張しました。

さらに、『原告は何者かにより「死ね」「さっさと死ね」と強い殺意を抱かれるような人物であるか、又は何者かに対してひどいことをした人物なのだろう』と一般読者に誤解を与え、原告の社会的評価を低下させかねない内容であり、名誉毀損に当たると主張しました。

原告が経営する会社に対する権利侵害としては、『事業に関して尋常でないトラブルがあるため、代表取締役が顧客から何度も何度も繰り返し「死ね」と書かれているのだ』と誤解を与え、原告会社の社会的評価を低下させ、名誉、信用を含む人格権を侵害するおそれがある内容であり、信用毀損罪に当たると主張しました。

これほど強い殺意を示す者であれば、いつか実行に移すことが予想され顧客に店舗訪問を躊躇させるおそれがあり、取引機会の逸失につながることから業務妨害罪に当たるということ。また、店舗が殺害実行の現場にならないよう警備を強化したり、注意喚起したりする必要が生じ、この点でも業務妨害であり、営業権侵害であることを主張しました。

裁判所の判断は「侮辱罪のみ」30万円の支払い

裁判所はまず本件投稿の脅迫罪について、

  • 「死ね」という表現を使用しているに過ぎず、「殺す」といった表現を使用しているわけではない
  • 「死ね」というのみで、殺害行為の日時、場所、方法などの具体的な事実を予告しているわけではない
  • 本件サイト(2ちゃんねる)に投稿されたものであるに過ぎず、原告やその会社に対して、直接、文書送付ないしメール送信されたものではない

という理由から、「本件投稿が原告に対する殺意を示すものであるとは認められない」として認めませんでした。

また、名誉毀損罪は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず」(刑法第230条)成立するのですが、本件投稿は原告に関する具体的な事実を摘示するものであるとは認められず、原告に関する何らの具体的な事実を暗示するものであるとも認められないとして、名誉毀損罪は認めませんでした。

一方、本件投稿は原告が見ることを見越して、約1ヶ月の間に13回にわたって原告に対して「死ね」と繰り返したものであると考えられ、一定の恐怖感を与える内容であるとともに、名誉感情を害する侮辱的なものであり、原告の人格権を侵害するものとして不法行為を構成すると認めるのが相当であるとして、侮辱罪の成立を認めました。

会社に対する権利侵害としては、代表取締役が顧客から何度も何度も繰り返し「死ね」と書かれていることから、投稿者に悪感情を持たれていると考えられるとしても、直ちに「事業に関して尋常でないトラブルを抱えている会社である」という印象を与えるとは考えられないとして、信用毀損罪は認めませんでした。

また、「原告に対する殺意を示すものであるとは認めらず、原告会社の業務を妨害するものであるとも認められない」として、業務妨害罪も認めませんでした。

裁判所は、「本件投稿は原告に対して一定の恐怖感を与え、原告の名誉感情を害するものである」として、慰謝料30万円、弁護士費用3万円、合計33万円の支払いを被告に命じました。

「死ね」という文言を含む投稿は名誉毀損や脅迫罪には該当しない場合でも、侮辱罪に該当する可能性があります。

「死ね」「自殺しろ」と執拗に投稿された事例

では、呪詛のように何度も「死ね」と複数のSNSなどで中傷された場合はどうでしょうか。

「電子メールやインターネットを利用しての誹謗中傷等により名誉及びプライバシー権が侵害され、ホステスとしての信用を毀損された」と主張して、被告に対し以下の請求を行った事例があります。

  • 電気通信回線を通じて個人情報等を送信することで、不特定多数の者が閲覧し得る状況の事前差止請求 ※人格権(名誉ないし信用を保持する権利、プライバシー権、精神的平穏を害されない自由権)侵害行為の差止請求
  • 不法行為に基づく損害賠償金の請求

被告の行動について

原告はクラブでホステスとして「A」の通称で勤務し、その後、別のクラブへ移籍した女性であり、被告は移籍前店舗の顧客ですが、移籍を機に連絡等交流を一切断とうとしたところ、これを快く思わなかった被告は「自殺しろ」などと恫喝する電子メールを度々送信し始めました。

さらに、移籍先店舗を探り当て、ホストラブ掲示板のスレッド上に、

  • 「死ねAババア!明日交通事故で死んだら!!!!」
  • 「Aは死ね!早く死ねよ!とにかく早く死んで!!お前は生きててもキャバクラで働くしかない極道の女たちによくて出れるくらいのババアなんだから早く死ねよ!」

などと投稿し、原告の氏名、携帯電話番号などの個人情報を許可なく無断で公開し、顔写真まで掲載した上で、原告があたかも犯罪行為をはたらいたかのようなデマ・中傷記事を投稿しました。

やがて、被告は移籍先にも来店するようになったので、原告は弁護士に相談し、今後こういった行為を止めるよう求め、さらに、迷惑行為を続ける場合には裁判上の対処も辞さない旨を通告する内容証明郵便を送付しました。

しかし、被告はその後も脅迫等を止めず、ホストラブ掲示板のスレッドに上記の内容証明郵便の内容を公開しつつ、

  • 「困惑する暇があるなら自殺しろ!」
  • 「日給3時間で5万円貰って色恋営業結婚詐欺してなにが弁護士だ!死ね!」
  • 「心から死んで欲しいという真心です!!今死ね、今日死ね、明日死ね。毎日死ね!」

などと、開き直りとしか取れない誹謗中傷を続け、さらには原告になりすましてFacebookのサイトを開設し、原告の顔写真を何枚も掲載・公表するとともに、原告の名誉・信用を傷つける記事を掲載し、「死ね」「自殺しろ」と繰り返しました。

裁判所の「慰謝料100万円」の判断

裁判所の見解は以下の通りです。

被告の行為は、執拗かつ異常なものであり、卑劣極まりないものである。呪詛のように「死ね」とか「自殺しろ」と繰り返す被告の行為は、それ自体、対象者が生存に価しないという侮辱的表現であり(中略)被告のこのような行為は、ホステスとして稼働する原告の信用を毀損するばかりでなく、原告の名誉及びプライバシー権を侵害するものであり、原告を困惑、不快にさせるばかりでなく、畏怖させるに十分な不法行為である。

東京地方裁判所2016年8月25日判決

名誉毀損、プライバシー権侵害、信用毀損罪を認め、慰謝料100万円(請求額の満額)を認容し、さらに、今後も原告の名誉及びプライバシー権等を侵害する行為を続ける蓋然性が高く、かかる侵害行為を予め禁止する必要性が高いと判断して、事前差止を命じ、原告の請求を全て認容しました。

このように、いくつもの条件が重なった場合には、侮辱的表現であるというだけでなく、名誉毀損が認容される可能性もあります。また、名誉毀損における事前差止は、表現の自由との関係で厳しい要件の下でしか認められないことが多いのですが、この事例のように「執拗かつ異常な」名誉毀損や脅迫が繰り返され、今後も同様の行為を繰り返すことが明らかに予想される場合には、認められる可能性があります。

まとめ

他者を「死ね」と罵倒する投稿は罪に問われるのか、問われるとしたらどういう罪が該当するのか、という問いに対する答えは、投稿全体の中で判断されることになります。その判断は難しく、証拠保全にもある程度の経験やノウハウが必要になるため、専門の弁護士へ相談することをおすすめします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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