風評被害対策

名誉毀損に対する名誉回復措置としての謝罪広告

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名誉毀損に対する名誉回復措置としての謝罪広告

民法上の不法行為としての名誉毀損について、民法では損害賠償に代えて、または損害賠償とともに、名誉回復のための措置が認められています。

民法第723条

他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

この名誉回復措置としては謝罪広告が一般的になっていますが、どのようなときに、どのような形で認められるのかは、裁判所の裁量に委ねられているので、明確さに欠けています。実際にはどのような名誉毀損に対して、どのような謝罪広告が認められているのか、整理してみたいと思います。

名誉回復措置のひとつとしての謝罪広告

名誉毀損への対応として、損害賠償の支払いだけではなく、謝罪広告の掲載も求められるケースも。

名誉を毀損されたとき、損害賠償だけでは被害の回復には十分でない場合に、名誉回復措置のひとつとして謝罪広告が認められることがあります。かつて謝罪広告を判決で強制することは良心の自由(憲法19条)に反しないのかが問題となりましたが、最高裁は1956年7月4日、「単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するに止まる程度のものにあつては」合憲であるとしました。

これ以後、謝罪広告を命じる判決が積み重ねられてきましたが、名誉毀損が認められた時に同時に請求していたからといって、謝罪広告が必ず認められるわけではありません。

週刊誌による名誉毀損の謝罪広告を当該週刊誌に掲載した事例

女子アナウンサーが学生時代にランジェリーパブに勤務していた等の虚偽の内容の週刊誌記事につき名誉毀損の成立が認められ、その記事に学生時代に撮影および別の雑誌掲載に同意した水着写真を、承諾なく再掲載したことについて肖像権侵害に当たるとされた事例があります。現在都議会議員の龍円愛梨さんが週刊現代を訴えた裁判ですが、東京地方裁判所(2001年9月5日)は770万円の損害賠償の支払いを命じ、また週刊現代に謝罪広告を1回掲載することを命じました。

記者会見における名誉毀損と報道した全国紙の事例

造形作家が自分の作品が舞台用造形美術作家によって剽窃されたとして記者会見を行い、それが新聞で報道されたことに対し、当該の舞台用造形美術作家と所属する劇団が造形作家を提訴した事例があります。

東京高等裁判所(2000年9月19日)は名誉毀損を認定し、劇団と舞台用造形美術作家それぞれに140万円の慰謝料の支払いと、この問題を報道した朝日新聞、産経新聞、読売新聞の全国版朝刊社会面、東京新聞の朝刊社会面、統一日報にそれぞれ1回、誤った記者発表であったことの訂正と謝罪を広告することを、造形作家に命じましたが、報道した新聞の責任は問われませんでした。

なお、この東京高裁判決に対する上告事件について、最高裁判所は2002年9月25日に上告棄却の決定をし、判決が確定しています。

ホームページで行われた名誉毀損と謝罪広告

原告は被告のホームページに記載された文書により名誉を毀損されたとして、また、被告は原告のホームページに記載された文書や講演等により名誉を毀損されたとして、双方から慰藉料と文書の削除及び謝罪広告の掲載を請求した事例があります。

東京地方裁判所(2012年11月8日)は、原告が学会誌に投稿した記事において、被告が研究データのねつ造又は改ざん等を行ったとし、その旨をホームページに記載したことにより原告の社会的評価を低下させたと認め、330万円の支払いと、文書の被告ホームページからの削除及び謝罪広告の掲載を命じ、反訴については、原告の上記投稿は学問的見地から批判したものであり、被告の社会的評価を低下させるものではないとして、請求を棄却しました。

ウェブ上の名誉毀損の場合、謝罪広告の掲載はウェブ上で行わせることが一般的です。

謝罪広告が認められなかった場合

名誉毀損が認められても、謝罪広告は認められないという場合も多くあります。例えば新聞等の媒体で謝罪広告を掲載するには高額の費用が必要となることもあり、裁判所は謝罪広告にはかなり謙抑的なのです。

謝罪広告を認めない一般的な理由

週刊新潮に株価操作の疑いがあるという記事が掲載され、FOCUSにソープランド経営を始めようとしていると報道されたことに対し、新潮社を訴えたベンチャー企業と経営者に対し、東京地方裁判所(2003年7月25日)は、いずれの記事も真実とは認められないとし、新潮社に対し企業へ110万円、経営者へ550万円の支払いを命じました。ただし、謝罪広告については、「原告らは謝罪広告も請求しているが、以上の金銭賠償に加えて、謝罪広告を掲載しなければ原告らの損害を填補することができないとの事情までは認めることができないので、原告らの謝罪広告の掲載請求は理由がない」として、認めませんでした。

この「謝罪広告を掲載しなければ原告らの損害を填補することができないとの事情までは認めることができない」というのは、名誉毀損を認めながら謝罪広告を認めないときの最も多い理由付けです。

名誉毀損の態様、被害者の地位などを考慮した事例

当サイトの別記事『会社や団体に対する名誉侵害と無形の損害』でもご紹介しましたが、のん(芸能事務所在籍時は能年玲奈)と彼女が当時所属していた芸能事務所レプロエンタテインメントとのトラブルについて週刊文春が、彼女が表舞台から姿を消した理由は、レプロの待遇にあると報じた事例があります。

記事に対し、レプロおよび同社社長は「事実に反する」として発行元の文藝春秋と当時の同誌編集長を名誉毀損で提訴し、2019年4月19日に東京地方裁判所で判決が下されました。この判決文においては、本件記事のうち名誉毀損が成⽴すると判断される表現の中にはその部分に限って⾒れば真実であるものもあるように(例えば、 Bの⽉給が5万円であったこと)、被告らによる名誉毀損⾏為が極めて悪質とまではいえないとされています。また、「原告会社は⼤⼿の芸能事務所であり、原告Aはその代表取締役かつ⾳事協の常任理事を務める者でもあるから、⾃ら名誉の回復を図ることが⼀定程度は可能であることなどを考慮すれば、毀損された原告らの名誉を回復する⼿段としては、上記認定の⾦銭賠償をもって⾜り、それに加えて、謝罪広告の掲載を認める必要性まで認めることはできない」として、謝罪広告は認められませんでした。

このように、名誉毀損の態様、被害者の地位などを考慮して判断し、謝罪広告の掲載が認められない場合もあります。

媒体の影響力と時間経過を考慮した事例

元社民党党首、日本社会党委員長で、衆院議長を務めた土井たか子が、出生地が朝鮮半島であり氏名が朝鮮人名である、そのために北朝鮮による日本人拉致事件に対する対応を十分に行わなかったという記事を掲載した月刊誌『WiLL』発行元のワックと編集長に対し、名誉権の回復と謝罪広告を請求した事例があります。

神戸地方裁判所尼崎支部(2008年11月13日)は、これらの記事が事実無根であるとし、ワックと編集長に連帯して200万円を払うように命じました。ただ、謝罪広告については、「本件記事掲載誌の実売部数は約4万部にとどまるところ、本件記載が摘示する事実は新聞広告や電車内吊り広告などに表示されていなかった」のだから、「本件記事の内容が社会に広く知れ渡る可能性は乏しかったものといえること、本件記事掲載誌が発行されてから2年以上が経過しているが、その間本件記載の存在が原告の政治活動や社会活動遂行の上で大きな支障となったとの事実を認めることができないこと、本件記事の内容や本件雑誌の言論界における立場等に照らすと、本件記事が与える影響力はほとんどないものと考えられること」などを総合考慮し、「名誉回復のために金銭による損害賠償とともに、謝罪広告などの原状回復処分を命じる必要性はないものといわざるを得ない」として、謝罪広告は認めませんでした。

掲載雑誌の影響力と掲載からの期間が考慮された例と言えるでしょう。

書籍による名誉毀損とホームページにおける謝罪広告

謝罪広告が行われる実例や汎用性は?

アニメ「エヴァンゲリオン」にフェミニズムの視点から新しい光をあてたといわれる評論集『聖母エヴァンゲリオン』の著者小谷真理さんが『オルタカルチャー日本版』という書籍内のコラムによって名誉を毀損されたとして、その記事を書いた被告とこれを編集、発行したメディアワークス、これを発売した主婦の友社に対して、損害賠償とともに、主要全国紙上に謝罪広告を掲載することや、それぞれのホームページにおいて謝罪文を掲載することを求めた事例があります。

東京地方裁判所(2001年12月25日)は、小谷さんの訴えを認め330万円の損害賠償と、被告は同人のホームページのトップページに、メディアワークスは同社のホームページのトップページに、それぞれ指定した謝罪文を掲載し、これを1か月続けよと命じました(請求は6か月)。

書籍による名誉毀損に対する謝罪広告をホームページで行わせるというのは、合理的だと思われます。新聞や週刊誌上での名誉毀損に対する謝罪広告を当該の新聞や週刊誌上で行わせるだけでなく、その新聞や週刊誌のホームページでも行わせる例も増えていますし、今後はこの方法が、スピーディーであり、費用もかからないので、増えることが予想されます。

謝罪広告の実例

実際には、どのような謝罪広告が掲載されるのでしょうか。このコラムで最初にご紹介した龍円愛梨さんの場合を見てみます。

裁判所は、

被告の原告龍円に対する名誉毀損の前記態様に鑑みれば、慰謝料の支払のみによっては、侵害された原告龍円の名誉を回復することはできず、それを回復するためには、被告が本件記事を掲載した雑誌「週刊現代」誌上において、別紙三記載の掲載条件により、別紙一記載の内容の謝罪広告を掲載することが必要不可欠である。

よって、被告は、原告龍円に対し、名誉毀損に対する原状回復措置として、前記のとおりの謝罪広告を掲載すべき義務があるというべきである。

東京地方裁判所2001年9月5日

としていますが、別紙三の掲載条件とは、

5分の2ページ(縦9センチメートル、横15.5センチメートル)

文字の大きさは、「週刊現代」誌面本文の通常の文字の倍角による。

であり、別紙一記載の内容の謝罪広告とは、

おわびと記事の取消し

当社発行の「週刊現代」1999年9月25日号に、「学生時代の(恥)アルバイト テレビ朝日の新人美人アナは『六本木のランパブ嬢』だった」との見出しのもとに、テレビ朝日のアナウンサーである龍円愛梨さんが、学生時代に六本木のランジェリーパブでアルバイトをしていたとの記事を掲載しましたが、そのような事実は全くありませんでした。

事実無根の記事を掲載し、龍円愛梨さんの名誉を著しく傷つけたことについて、深くおわびするとともに、右記事をすべて取り消します。

                           株式会社 講談社

                        代表取締役 〇〇〇〇〇

龍円愛梨様

と、いうものでした。

まとめ

「謝罪広告は懲罰的なものではなく、名誉回復の必要性がある場合に限り認められるもの」(東京高等裁判所2002年3月28日判決)であり、金銭による賠償である慰謝料と回復に必要な処分は対等並置です。にもかかわらず、裁判所の謝罪広告に対する謙抑的な態度の下には、掲載が命じられるメディアの表現の自由への配慮があるからだと考えることができます。

被害者としては、名誉毀損が認められるのなら、ぜひとも謝罪広告も認容してほしいところですが、難しい問題だといえます。

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