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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

メール送信による名誉毀損と伝搬可能性

風評被害対策

メール送信による名誉毀損と伝搬可能性

ネット上の名誉毀損に関しては、掲示板やSNSにおける書き込み、あるいはメッセージのやり取りを中心として、裁判例が積み重ねられてきました。メールの送信については、通常1対1でなされるというメールの特性上、名誉毀損は成立しないように思われます。なぜなら、民法上においても、不法行為としての名誉毀損の本質は社会的評価の低下ですが、「社会」という観念は不特定もしくは多数の人を含んでおり、特定少数者に対する表明では「公然性」という要件を満たさず、社会的評価が低下したと言うのは難しいからであり、メールでトラブルとなった時、プライバシー侵害が争点となることが多くなるのはこのためです。

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ただし、必ずしも名誉毀損が成立しないというわけではありません。例えば、他者を誹謗中傷したメールを多数の人に送信すれば、公然性が認められてしまうのは当然でしょう。

多数人へのメールによる名誉毀損

多数人にメール送信し、公然と事実を適示し、社会的評価を低下させたのであれば名誉毀損が認められるケースがあります。

勤務していた会社を含む企業グループの社員及び役員が閲読することのできるメールアドレス宛に、原告に関する虚偽の事実を記載したメールを送信したとして、被告が損害賠償を求められた事例があります。

運輸会社□□・グループの取締役であった原告の問題ある言動について告発するとして、原告について「寝坊をして乗務員は朝から2時間待たされて給料の説明会を聞かされた時は酒臭かった」という噂や、「あんたが酒にだらしないの有名やわ。(中略)途中に事故の連絡が入ってもあんた、バカが!と吐き捨てただけで2次会キャバクラ突入やて?赤い顔して女の子の乳モミしとったらしいやん。下品やで、おっさん」という社員の声や、「会社に別荘の金を出してもらったて? おっさん、あんた総会屋かいな?」等の内部証言を得られたとして、運輸部長であった被告が、会社に対する苦情や要望を書き込むためのメールアドレスにこれらを記載したメールを送信し、このメールは少なくとも約150名の社員及び役員に対し自動的に配信されました。

刑事事件としてはすでに被告が罰金刑に処せられた後の民事裁判で、裁判所はまず「少なくとも約150名の社員及び役員という多数人に自動的に配信され、自由に閲読され得る状態にあったものであることから、原告は、公然と事実を摘示したものと認められる」と公然性を認めた上で、一部については真実であるが、多くは伝聞情報である上に誰がそのような話をしていたのかを具体的に明らかにしないことから、被告の供述は信用できないものが多いとし、

本件メールは、□□・グループの少なくとも約150人の社員及び役員に送信されており、相当多数の社員及び役員が本件メールを閲読したものと推認され、原告に及ぼす精神的打撃は大きいといえる。
さらに、被告は、本件メールを送信した目的について、原告の問題ある言動について社内での議論を喚起し、これを改めさせることにあると述べるが、このような目的は、多数の社員及び役員が閲読し得るメールアドレスにメールを送信するという手段によらなくても、□□・グループの代表者や役員に報告・相談するなど、より原告の社会的評価の低下やその影響の範囲が小さい手段によって容易に達成することができたといえる。それにもかかわらず、被告が安易にメール送信という手段を選択している点で、その態様は悪質であるといわざるを得ない。  

東京地方裁判所2017年2月13日判決

として名誉毀損を認め、80万円の慰謝料の支払いを被告に命じました。
メール送信ではあれ、約150人に対して公然と事実を適示し、社会的評価を低下させたのですから、仕方ない結果といえるでしょう。

しかし、このような多数人への送信でなくても、メールによる名誉毀損が成立する可能性があります。特定少数人への伝達であっても、そこから不特定又は多数の人への伝搬可能性があれば、それは「公然と」なされたものといえ、名誉毀損となり得るからです。

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ここに、ネット時代の、メールというものの特殊性があります。メールは手紙等の私信と異なり、「転送」によって瞬時に不特定多数に閲覧させることが可能になります。そして、重大な関心のある事柄については、転送が続く可能性があることは容易に想像できます。また、メーリングリストも忘れてはなりません。
メールだからといって安心していても、1人もしくは少数者への送付であっても、伝播性があるとされれば、公然性が認められてしまいます。

特定の知人に送信したメールと名誉毀損

当サイトの別記事「メールとプライバシー侵害を弁護士が解説」でご紹介した、生命保険会社員Cが、知人Aから保険加入の相談を受けた際に知った、Aが精神障害者3級の認定を受けているという個人情報を記載したメールを、第三者であるBに送信したことが名誉毀損、プライバシー侵害に該当するかどうかが争われた事例では、裁判所は、原告が過去に鬱病ないし精神病に罹患しており、精神障害者3級の認定を受けていると記載し、また「社会に適合出来ないネット依存者」や「常識に欠ける人間」と記したB宛の6通のメールについて、

特定の知人に対して送信されたものにすぎず、控訴人及び被控訴人以外の多数の第三者に閲読可能な状態に置かれたものではないから、被控訴人による上記各電子メールの送信が、直ちに控訴人の客観的な社会的評価を低下させたとはいえない。

東京地方裁判所2009年11月6日判決

として公然性を認めず、したがって名誉毀損を認めませんでした。メールにおける誹謗中傷の場合、伝搬可能性を考えなければ、通常は特定少数者への送信とみなされる可能性が高いと言えますが、そうとも限りません。

[blogcard url=”https://monolith-law.jp/reputation/mail-privacy-invasion”]

メーリングリストへの送信

同じ会社の社員である原告とAが不貞関係になり、Aは2013年7月、原告の妻であった被告との間で、原告と不貞関係になったことを認めて謝罪し、慰謝料として300万円を支払い、その後は原告と私的な接触を持たないことを確約する等の内容の和解契約を締結しました。
結局、原告と被告は同年12月に協議離婚をしたのですが、その翌日、被告は本件会社の部長、事業部長及び総務部に対し、原告が本件会社の従業員と不倫をしていること等を内容とするメールを送信し、その後2回、総務部採用グループメーリングリストに対して、原告を非難するメールを送信しました。

各メールには、

  1. 原告は妻子があるのに20歳年下の職場の同僚と不倫をしていたこと
  2. 原告が自ら不倫をしながら被告の暴力を主張して被告を家から追い出そうとしたこと
  3. 原告が不倫発覚時に証拠の奪い合いをして被告の左腕を傷つけたこと

等が記されており、裁判所はこれらを、原告の社会的評価を低下させるものと認めました。

一方、記載された各事実は被告及び子供の感情を著しく傷つけるものであり、社会倫理に違反し、被告に対する不法行為を構成するとし、したがって、被告が原告の本件会社内の不貞行為について上司に相談して被告への指導監督等を求めることは、社会通念上許容される行為と考えられるとしました。
ただ、各メールは、原告との離婚及びCとの和解契約の成立後に、本件会社内の不特定人に送付したという点で不法行為に該当すると言わざるを得ないものであるとして、

電子メールは、転送が容易で、相当期間にわたり、アクセス可能な状態で保存される可能性が高いから、被告が本件メール1及び3を本件会社内のメーリングリストを含む複数のアドレスに送信したことにより、原告の社会的評価を低下させる事実が本件会社内の不特定人の閲覧可能な状態に置かれたといえる。

東京地方裁判所2014年12月9日判決

として、慰謝料45万円、弁護士費用4万5000円、合計49万5000円の支払いを被告に命じました。

会社内の特定人に相談したのであればよかったのでしょうが、メーリングリストにメールを送信すれば、不特定多数に送信したことになってしまう可能性があります。伝搬可能性という言葉は使われていませんが、同じ理解だとみなしていいでしょう。

伝搬可能性を認めた事例

「不特定多数の者に伝わることは十分に想定される 」伝搬可能性を認めた事例とは?

原告らが被告2社の取締役等を辞任する際にその従業員に対して違法な引き抜き行為をしたなどと記載したメールを、被告2社がその社員等90名に送信したことにより、原告らが名誉を毀損されたと主張して、不法行為に基づく慰謝料等の連帯支払を求めた事例があります。

裁判所は、メールで原告らの行為が背任罪又は特別背任罪に当たると摘示した部分は原告らの社会的評価を低下させるものであるとした上で、本件メール送信行為は公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的でされたものと認められるが、一部については、真実であることの証明があったとはいえず、被告会社らにおいてそれを真実と信じたことに相当の理由があったともいえないなどとして、原告らの損害として被告2社に慰謝料各50万円、弁護士費用各5万円を認めて、請求の一部を認容しました。裁判所は判決文において、

被告らは、本件メールは特定の者に対してのみ送信されており、不特定多数の者がその内容を認識し得る状態にはないことから、本件各摘示部分はいずれも原告らの社会的評価を低下させるものではないと主張する。
しかしながら、本件メールは、原告の在籍するb社の従業員及び被告Y2社の従業員等合計約90名に対して送信されており、その人数は決して少数とはいえない上、上記従業員らを通じて本件メールの内容が不特定多数の者に伝わることは十分に想定されることからすれば、本件メールが特定の者のみに送信されていることをもって、原告らの社会的評価が低下していないということはできず、被告らの上記主張は採用することができない。

東京地裁2014年11月11日

としました。約90名は少数とは言い難いのですが、さらに伝搬可能性を考えれば、「不特定多数の者に伝わることは十分に想定される」こととなります。

まとめ

本記事で取り上げた事例は、いずれも投稿者が誰であるかを特定できていた場合であり、しかも「特定の知人に送信したメールと名誉毀損」を除いては、伝搬可能性が認められた例外的な場合にすぎないと言えます。一般的な、メールによる悪意あるメッセージの送信では、投稿者が誰であるか不明であったり、伝搬可能性を肯定できない場合が多いのは事実です。一般的な場合については、当サイトの下記記事をご参照ください。

[blogcard url=”https://monolith-law.jp/reputation/email-sender-identification”]

しかし、私信であるからといって、メールで気軽に他者の名誉を侵害するような発言をすると、名誉毀損に問われる場合もあるということを忘れてはなりません。SNSであれば当然払うような注意を、たとえ特定の個人に対するメール送信であったとしても、同じように払うべきだと言えるでしょう。

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