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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

名誉感情の侵害とは?過去の判例や書込みへの対処方法

風評被害対策

誹謗中傷と主観的名誉及び名誉感情の侵害

他人から「馬鹿」「不細工」などと罵倒されたら、誰でも嫌な気分になるでしょう。ネット上でこうした誹謗中傷が続けば、何とかしたいものだと考えるのが自然だと思います。

上記のような、いわゆる悪口などによる誹謗中傷は、法的には「名誉感情(主観的名誉)」の侵害として整理されます。

わかりにくい専門用語ですが、ポイントは、「名誉」という言葉は入っているが、法律上の「名誉毀損」には当たらないという点です。

「名誉毀損」と「名誉感情の侵害」の違い

法律用語として有名な「名誉毀損」については、刑法230条において規定されています。

第230条(名誉毀損)
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

法律的には、この場合の「名誉」とは、社会から受ける外部的な評価としての社会的名誉(社会的評価)を指します。

例えば、ある個人が、「あいつは以前勤めていた会社で横領をした人間だ」と言われた場合、その人は、周りから「雇うと危険な人物である」と評価されてしまい、転職などの社会活動に支障が生じるおそれがあります。

このように、他人の「社会的評価」を低下させることが、名誉毀損の成立要件となっているのです。

関連記事:名誉毀損で訴える条件とは?認められる要件と慰謝料の相場を解説

ただ、日常用語としての「名誉」には、もう一つの意味があります。

冒頭で述べたように、例えば、「馬鹿」「不細工」と罵倒されたら、自身の自尊心を傷つけられ、その意味で「名誉」を損なわれたと感じるはずです。

こうした自己に対する評価を意味する「主観的名誉」を傷つける行為が「名誉感情の侵害」に該当します。

なお、他人の自尊心を傷つけるまでには至らず、単に不快感を与える程度のものでは、違法な「名誉感情の侵害」であるとはいえません。

主観的名誉と社会的名誉

では、この「主観的名誉」とは具体的にどのようなものなのでしょうか?

例えば、「馬鹿」「不細工」と罵倒をされた人がいても、第三者は、通常、「その人は、人が本来有すべき知的能力や知識を持たない人である」や「よほど容姿が整っておらず、正視するに堪えないほどの人である」とは考えません。単に、「ケンカを始めたな」とか「面倒な人にからまれているな」と思うだけでしょう。

したがって、このようなシンプルな罵倒によって、その人に対する外部からの“社会的な”評価は必ずしも低下しません。

しかし、こうした罵倒を我慢し続けなければならないわけではありません。

このような事例では、刑事上の「名誉毀損罪」が成立しなくても、「名誉感情(主観的名誉)の侵害」に該当し、民事上は違法になり得ます。

刑事上の違法(犯罪)と民事上の違法(不法行為)

「刑事上」「民事上」などの言葉は少しわかりにくいですが、「違法」な行為を受けた場合、その「違法」は、

  1. 刑事上違法(=「犯罪」)であり、行為を行った者は処罰され、同時に当該行為は、民事上違法(=「不法行為」)であり、損害賠償請求等も認められ得る
  2. 刑事上は違法(=犯罪)ではなく、行為を行った者が処罰されることはないが、当該行為は、民事上は違法(=「不法行為」)であり、損害賠償請求等は認められ得る

という2とおりのケースがあります。

名誉感情の侵害は「犯罪」ではないが「不法行為」となり得る

そして、

  • 「社会的評価」を低下させる「名誉毀損」は、刑事上違法であり、かつ、民事上も違法
  • 「主観的名誉」を傷つける「名誉感情の侵害」は、刑事上違法ではないが、民事上は違法となり得る

ということになります。

ネット上の書込みの場合、民事上違法であれば、相手方を特定するためにIPアドレスの開示を請求したうえで、投稿者に対して損害賠償請求を行うことが可能です。

ただし、警察による逮捕や処罰は行われません。

なお、少しややこしい話ですが、社会的評価の低下を伴う一方で、具体的な事実を摘示しない名誉毀損として「意見論評型の名誉毀損」もあります。

これも「名誉感情の侵害」の場合と同様に、刑法上の「名誉毀損罪」には該当しませんが、民事上は違法になる場合があるとされています。

関連記事:意見ないし論評を含む表現の名誉毀損の成立要件とは

なお、これは、プライバシー侵害の場合も同様です。

プライバシー侵害は、民事上は違法になり得ますが、プライバシー侵害そのものを禁止する刑法上の規定はなく、刑法上の侮辱罪や名誉毀損罪などの成立要件に該当しない限り「犯罪」にはなりません。

「名誉感情の侵害」の違法性判断基準

「名誉感情の侵害」の違法性判断基準

2ちゃんねるにおける「気違い」投稿は違法か

小学1年生から高校3年生までの発達障害児のための学校である「A学園」を設置・経営する学校法人A学園の学園長が、2ちゃんねるの「A学園Part2」のスレッドに、「なにこのまともなスレ 気違いはどうみてもA学長」といった書込みをされたため、2ちゃんねるに対して発信者情報の開示を請求しました。

さらに、2ちゃんねるに対する発信者情報開示請求で得たIPアドレスなどをもとに、経由プロバイダであるDION(現在のau one net)に対して発信者情報開示の開示を請求しましたが、DIONはこれを拒否し、裁判となりました。

なお、「発信者情報開示請求」とは、書込みの投稿者を特定するための請求のことを指します。

関連記事:発信者情報開示請求とは?やり方と注意点を弁護士が解説

最高裁判所の判断

まず、最高裁は、判決において、「名誉感情の侵害」に該当する場合であっても、「社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて被上告人の人格的利益の侵害が認められ得るにすぎない」とした基準を示し、発信者情報の開示を認めた控訴審の判決を支持しました。

一方で、本件の「気違い」という書込みは、「名誉感情の侵害」に該当するものの、「社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白であるということはできない」と述べ、裁判外での情報開示に応じなかったDION側に重大な過失があったとは言えないと結論付けました。

なお、プロバイダ責任制限法では、プロバイダ側に重大な過失があったことが、プロバイダの損害賠償責任を認めるための要件となっています。

これにより、控訴審の判決のうち、DION側の重大な過失を認めた部分は取り消され、原告からDIONへの損害賠償請求は認められませんでした。

判決文:最判平成22年4月13日民集第64巻3号758頁

以上を踏まえると、まず前提として、単なる侮辱行為(名誉感情の侵害)がすべて違法となるわけではなく、違法と言えるるためには、侵害の程度が「社会通念上許される限度を超える」ことが必要であるといえます。

そのうえで、この判例によれば、「気違い」という表現の一語のみ、かつ投稿が一回のみの場合には、裁判外での発信者情報の開示要件を満たすかどうかの判断に際して、プロバイダ側に重大な過失があったとはいえず、プロバイダに対する損害賠償請求は認められないことになります。

「社会通念上許される限度を超える」とは

Web上のホームページに掲載された、自己と被告の間の訴訟の経緯に関する記事の文言が問題となった事例(東京地判平成27年6月16日)があります。

原告は、「ペテン師」「悪党一味」「ストーカーまがい」「精神状態が普通でない」などの数々の罵倒によって、社会的評価を低下させられたと主張し、

  1. 名誉権又は人格権を根拠とした掲載部分の削除
  2. 不法行為であることに基づく損害賠償(慰謝料)
  3. 名誉回復措置として、同人のホームページへの告知文の掲載

を求めました。

東京地方裁判所は、これらの表現は、「原告の訴訟行為の当否についての意見または論評として正当な範囲を超えて,原告の人格に対する攻撃的表現に及んでいる」としたうえで、「原告の名誉感情を社会通念上看過し得ない程度に侵害する違法な行為に当たる」と判断して、違法な「名誉感情の侵害」であると認め、被告に対して30万円の損害賠償、記事削除を命じました。

この判例によると、自己のホームページ上であっても、他人への罵倒を何度も繰り返せば、「名誉感情を社会通念上看過し得ない程度に侵害する」と判断され、民事上の不法行為に当たるとみなされる可能性があるといえます。

発信者情報開示請求における名誉感情の侵害

発信者情報の開示が認められた別の事例

ある女性が、2ちゃんねるの書き込みによって名誉感情を侵害されたと主張し、投稿者に損害賠償を請求するために、発信者情報開示請求を行った事例があります。

この女性は、2ちゃんねるが開示したIPアドレスなどにより、経由プロバイダを特定し、裁判外で発信者情報の開示を求めました。

しかし、経由プロバイダに拒否されたため、プロバイダに対して、発信者情報開示請求を内容とする裁判を起こしました。

東京地方裁判所は、「不細工」「ヤリマン」「出目眼鏡ババァ」「バカ女」などの書込みが、違法な「名誉感情の侵害」に該当すると認め、経由プロバイダに対して発信者情報の開示を命じました。

不特定多数の者が閲覧可能なインターネット上の掲示板において、女性が、氏名不詳の者から「不細工」、「ババァ」または「馬鹿女」などと侮辱的な評価を受けた場合、当該女性の名誉感情が害されることは明らかであり、それらの侮辱的表現を甘受しなければならない理由もないことに照らせば、本件各書き込みについては、上記評価を裏付ける具体的事実や根拠等が記載されていないとしても、社会通念上許容される限度を超えて原告の名誉感情を害するものというべきである。

東京地判平成28年11月18日

よって、「不細工」「ババァ」「馬鹿女」などの侮辱的な書込みを続けると、違法な「名誉感情の侵害」であるとみなされ、発信者情報開示請求が認められることがあるといえます。

「名誉感情の侵害」に当たる書込みへの対処方法

インターネット上に、自分への違法な「名誉感情の侵害」にあたる書込みがなされた場合の対処方法には、大きく分けて、以下の2つがあります。

  1. 書込み自体の削除請求
  2. 書込みの投稿者への損害賠償請求

書込み自体の削除請求

ある書込みが、人格権を侵害し、違法な「名誉感情の侵害」に該当する場合の対応策の一つとして削除請求があります。

削除請求は、誹謗中傷を受けた側の人格権侵害の程度と、投稿者の表現の自由などを比較衡量して、前者が後者よりも問題視される場合に認められます。

削除請求は、第一に、掲示板やブログの管理者(コンテンツ・サービス・プロバイダ)に対して行うことが考えられますが、書込みの数が膨大で、個別のサイトごとでの対応が現実的ではない場合には、検索エンジンを相手方として選択した方が効率的です。

書込みの投稿者への損害賠償請求

「名誉感情の侵害」が、社会通念上許容される程度を超えて、不法行為にあたる場合、書込みを行った者に対しての損害賠償請求ができます。

損害賠償請求を行うためには、その前段階として、相手方の特定が必要ですが、発信者情報開示請求を行うことにより、IPアドレスなどのアクセスログをたどることで判明した投稿者の情報の開示させることができます。

ただ、経由プロバイダが携帯キャリアである場合には、投稿を行った端末のIPアドレスの保存期間が約3か月程度と非常に短いため、早急な対応が求められます。

関連記事:発信者情報開示請求の時効は?ネット書き込みで注意すべき3つの時効

なお、違法な「名誉感情の侵害」に対して認められる慰謝料の額は、名誉毀損の場合に比べて、かなり少ないのが実情です。

まとめ:「名誉感情の侵害」でお悩みなら弁護士へご相談を

掲示板などに「馬鹿」「気違い」などと繰り返し書込まれたとき、こうした罵倒を甘受しなければならない理由はありません。

社会的評価を低下させる表現であると認められず、「名誉毀損」には該当しないとされる場合であっても、「名誉感情の侵害」として発信者を特定し、不法行為に基づく損害賠償を求めることができる可能性があります。泣き寝入りせず、経験豊かな弁護士にご相談ください。

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モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。近年、ネット上に拡散された風評被害や誹謗中傷に関する情報を看過すると深刻な被害をもたらします。当事務所では風評被害や炎上対策を行うソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

モノリス法律事務所の取扱分野:誹謗中傷等の投稿者特定

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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