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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

ネット掲示板等への「●店でコロナ」といったデマと業務妨害罪

風評被害対策

ネット掲示板等への「●店でコロナ」といったデマと業務妨害罪

新型コロナウイルスに関して、 いわゆるインターネット上のデマによる風評被害が、社会問題となりつつあります。例えば、

●●の○○店で新型コロナウイルス感染が発生した
●●の○○店の店員が新型コロナウイルスに感染していた

といったデマ情報の書込です。

悪質なデマ情報は、飲食店やエステ、美容院、ホテル等を営む事業主にとって、昨今の社会的状況下では、看過しがたいものとなっています。なるべく迅速な対応が必要であると言えます。

こうしたデマは、名誉毀損や営業権・業務遂行権侵害として違法となり得る旨、上記記事でも記載しました。

実際に、悪質なデマの書き込みが原因で、業務妨害により逮捕となる事例も発生しています。

コロナ関連の典型的なデマは業務妨害罪

4月11日付の毎日新聞によれば、

特定の飲食店を挙げて、新型コロナウイルスの感染者がいるかのようなうその書き込みをインターネット上の掲示板にして業務を妨害したとして、山形県警米沢署は10日、米沢市(中略)を業務妨害容疑で逮捕した。県警は認否を明らかにしていない。
逮捕容疑は3月2日、自身の携帯電話からインターネット上の掲示板に、同市内の飲食店を名指して、「A店が新型コロナ」などと、同店に新型コロナの感染者がいるかのような虚偽の書き込みをして、業務を妨げたとしている。

ネット掲示板に「A店がコロナ」 飲食店業務妨害容疑で米沢の会社役員逮捕

との記載があります。飲食店を特定し、その飲食店に新型コロナウイルスの感染者がいる旨を掲示板に書き込んだという、典型的な新型コロナウイルス関連デマであると言え、この事例において、業務妨害容疑での逮捕が行われたとのことです。

なお、業務妨害には、

  • 間接的(無形的)な方法で業務を妨害した場合に成立する偽計業務妨害罪
  • 直接的(有形的)な方法で業務を妨害した場合に成立する威力業務妨害罪

という区別があり、ただ、その境界は曖昧であると言われています。実際、これまでインターネット上の書込について業務妨害が成立する典型的なケースは爆破予告などでしたが、同じ爆破予告でも、偽計業務妨害での逮捕や起訴が行われているケース、威力業務妨害での逮捕や起訴が行われているケースがあり、その境界は曖昧です。

本件の逮捕ですが、さらに、同日付の朝日新聞によれば、

県警は、ほかにも新型コロナ関連の業務妨害容疑事件を1件捜査していることを明らかにした

飲食店名挙げ「コロナ」と書き込み 業務妨害容疑で逮捕

とのことであり、同様の書込について、少なくとも同県警は厳正な対処を行う方針であるようです。

警察に被害を訴え迅速な解決を図れる可能性

これは、同様のデマ被害を受ける可能性のある事業主にとって、「良い」ニュースであると言えます。仮にデマ被害を書き込まれてしまった場合、迅速な解決を行える可能性が出て来たからです。

一般論として、インターネット上の風評被害には、民事的な解決策と、刑事的な解決策があります

民事的な解決策

当該風評被害に該当する書込を民事上で違法と言えれば、弁護士に依頼することで削除や投稿者特定を行うことができます。ただし、弁護士による投稿者特定では、

  1. サイト運営者相手のIPアドレス開示:仮処分という迅速な手続で可能であり、1-2ヶ月
  2. プロバイダ相手の住所氏名開示:訴訟を用いる必要があり、3ヶ月以上

という2段階の工程が必要となります。特に問題なのが第2段階。いわゆる正式な訴訟手続を用いる必要があるため、投稿者が判明するには合計で半年以上がかかってしまうケースが多いのです。なお、記事の削除自体は第1段階でIPアドレス開示と同時に求めることができるため、比較的迅速に実現可能です。

こうした手続については、当サイト内別記事にて詳細に解説しています。

刑事的な解決策

当該風評被害に該当する書込が刑事上でも違法であれば、警察に捜査を求めることができます。警察は、仮処分や訴訟といった裁判所手続を用いず、捜査権によって、

  1. サイト運営者相手のIPアドレス開示
  2. プロバイダ相手の住所氏名開示

を実現することができるため、

  • 警察が実際に捜査を行ってくれる
  • サイト運営者やプロバイダが警察の捜査に応じてくれる

という2条件が満たされれば、解決は非常に速やかです。本件でも、3月2日の書込について、4月10日に逮捕が行われている訳ですから、1ヶ月強で住所氏名特定が実現されています。

ただ一般論として言えば、上記の2条件が、困難です。よく言われている通り、警察は、残念ながら、インターネット上の誹謗中傷被害に関して、いわゆる「民事不介入」と言われる態度(その意味内容なニュアンスについては本記事では割愛します。)を採ることが多く、結果として、なかなか捜査が行われないケースも少なくありません。ただ上記各報道は、コロナ関連のデマについては、警察は比較的迅速な対応を行ってくれる可能性がある、という可能性を示すものでしょう。

なお、業務妨害罪は親告罪ではないため、警察に捜査を促すために告訴は不要であり、実務上、被害届を提出することになります。

以上のとおり、コロナ関連のデマについて、以下が言えると思われます。

  • 「●店でコロナ」といった、コロナ関連の典型的なデマは、名誉権侵害など「民事的に違法」なだけでなく、業務妨害として刑事上でも違法である可能性が高い
  • コロナ関連の典型的なデマについて、警察は実際に迅速な対応をしてくれる可能性がある

こうした典型的なデマの場合、弁護士に依頼せずとも、事業主自らが警察に被害を訴えることで、迅速な解決を実現する可能性があると言えます。

警察による捜査・逮捕の限界と海外サイト

しかし、少なくとも一般論として、海外事業者等が運営する掲示板・ウェブサービスの場合、事業主は日本の警察に対して非協力的であるケースが少なくありません。本記事では詳細は割愛しますが、

我が国の刑事事件の捜査(公判における補充捜査を含む。以下,本節において同じ。)に必要な証拠が外国に存在する場合,共助に関する条約により別のルートを定めていない外国に対しては,外交ルートを通じて国際礼譲による捜査共助を要請することとなる。
(中略)
検察庁の依頼により我が国から外国に対して要請した捜査共助について見ると,この10年間の嘱託件数は,合計で169件,相手国(地域を含む。)は27か国である。(法務省刑事局の資料による。)

第3節 捜査・司法に関する国際共助

というように、日本の警察は、海外事業主に対して、直接の捜査権を有していないからです。

即ち、例えばTwitterにおいて同様のデマツイートが投稿された場合、デマツイートを行った犯人を特定するための「捜査に必要な証拠」は、海外法人であるTwitter, Inc.が管理するものとして「外国に存在」し、日本の警察はこれについて直接の捜査権を有していない、ということです。なお、Twitterや多くのグローバルカンパニーは国内にも法人を持っていますが、

  • Twitterといったウェブサービス自体の運営主体はあくまで海外法人
  • 国内法人は、国内における広告関連・日本語ローカライズ等の事業のみを行っている

といったケースがほとんどで、犯人特定のために必要な証拠を、国内法人は保有していません。

従って、TwitterやFacebookなど、明確に海外事業主が運営しているウェブサービス、2ちゃんねるや5ちゃんねるなど海外法人が運営しているとされている掲示板等について、同様の刑事的な解決を実現できるかは、何ともいえません。

海外事業主が運営するウェブサービス等の場合は?



ただ、上記の懸念は、あくまで「犯人のIPアドレスを特定できるか」という段階に関するものです。繰り返しになりますが、インターネット上の風評被害について、犯人特定を行うためには、

  1. サイト運営者相手のIPアドレス開示
  2. プロバイダ相手の住所氏名開示

という2段階の工程を踏む必要があります。そして、コロナ関連デマに関しても、上記の第2段階とは、

(犯人が国内から投稿を行っているのであれば)国内のプロバイダ(携帯回線の場合のdocomoや固定回線の場合のNiftyなど)に対して、犯人のIPアドレスを元に、住所氏名開示を求める

というものです。このステップは、犯人が国内プロバイダを利用している限り、日本の警察の通常の捜査権の発動として実現できるケースが多いと思われます

したがって、TwitterやFacebookなどの海外事業主等の運営するウェブサービスの場合、

  1. 弁護士に依頼し、サイト運営者相手のIPアドレス開示を行う
  2. IPアドレスが開示され、それが国内プロバイダ(携帯回線の場合のdocomoや固定回線の場合のNiftyなど)であることが判明したら、この時点で警察の捜査を促す

という手順を取るべきかもしれません。IPアドレスさえ判明してしまえば、そしてそのIPアドレスが国内プロバイダのものであれば、「弁護士を通じて仮処分でこのIPアドレス開示を受けたこと」を警察に証拠として提出し、以後の捜査(プロバイダ相手の住所氏名特定)を警察に行って貰うことができる可能性があるからです。

まとめ

当サイト内別記事でも記載した通り、コロナ関連の典型的なデマは、

  • 削除のみであれば、「利用規約違反」といった構成もあり得、裁判所手続を用いなくても迅速に実現できる可能性がある。例えば食べログは、「内容の確認が困難」な投稿は規約違反であると定めており、「ある店でコロナウイルス感染が発生した」といったデマは、その内容が真実であるか否か確認が困難なものとして、利用規約違反による削除を実現できる可能性がある。
  • 上記のような形の利用規約が整備されていないサイトであっても、真実に反するデマは、名誉毀損(名誉権侵害)として、民事的に違法となり得る。実際に、「あの店で食べた食事で食中毒が生じた」といったデマについて、名誉権侵害により違法であると認めた裁判例などが存在する。名誉毀損(名誉権侵害)に該当するとして、裁判外交渉で削除を実現できる可能性がある。
  • 少なくとも、名誉毀損(名誉権侵害)に該当する書込の場合、上記の「仮処分」という迅速な裁判所手続によって、削除&IPアドレス開示を求めることができる。

といったものです。今回のニュースは、上記に加えて、

  • 警察も、コロナウイルス関連の典型的なデマについて、業務妨害であることを前提とした捜査を行ってくれる可能性がある。警察が動けば、少なくとも国内事業主の場合、(サイト運営者に対する)IPアドレスや(プロバイダに対する)住所氏名開示を実現することができる。
  • ただし、海外事業主の場合は必ずしも同様とは言えない。インターネット上のデマの場合、特に、海外事業主が運営するウェブサービス等が問題。これについては、弁護士に依頼し、仮処分手続でIPアドレス開示を求める方が結果として迅速かつ確実である可能性が高い。

というものであると言えるでしょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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