風評被害対策

名誉毀損の慰謝料請求の相場とは

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名誉毀損の慰謝料請求の相場とは

名誉毀損が認められると、被害者は、加害者に対する損害賠償請求権を認められます。その損害賠償の内容にはいくつかの項目がありますが、中心となるのは慰謝料です。名誉毀損がどのようなものか、名誉毀損が成立する場合の要件などは以下のページで説明しています。

慰謝料とは、「物質的損害ではなく精神的損害に対する賠償、いわば内心の痛みを与えられたことへの償い」(最高裁判所1994年2月22日判決)とされていますが、その苦痛の程度を客観的・数量的に把握することは困難であり、様々な要素を考慮して、「慰謝料額の認定は原審の裁量に属する事実認定の問題」(最高裁判所1963年3月26日判決)とされています。つまり、裁判所が決定するということです。

ここで、考慮する要素は明らかにされていませんし、個別の慰謝料の額を認定するに至った根拠を示す必要もないとされているため、弁護士としては慰謝料額の見通しを断定するのは難しいのです。

ただ、過去の裁判例からどのような要素が重視されるのか、どのような事例でどの程度の慰謝料が認められているかを見ることで、ある程度の見通しをつけることは可能です。

慰謝料計算の方法

要素に関してはいくつも議論があるのですが、整理すると、概ね次の7つと考えられているようです。

  1. 被害者の年齢・職業・経歴
  2. 被害者の社会的評価
  3. 被害者が被った不利益の程度
  4. 加害行為の方法及び結果としての流布の範囲
  5. 加害行為の悪質性
  6. 名誉毀損に至った事情
  7. 名誉毀損後の回復措置

多くの例より、裁判所はこれらの要素を比較衡量し、慰謝料を算出していると考えられています。

また、『名誉毀損の慰謝料算定』(学陽書房:西口元・小賀野晶一・眞田範行著)では、次の算定式が提唱されています。

被害者属性別中央値 ± 伝搬性・影響力の強弱 ± 加害行為の悪質性

なお、この本の著者たちは「被害者属性」を「公人」「著名人」「大学教授・医師・弁護士」「被疑者・被告者・受刑者」「一般人」「企業の代表者」「団体」に分け、属性ごとの中央値を、

「団体」=「被疑者・被告者・受刑者」>「大学教授・医師・弁護士」>「公人」>「著名人」=「企業の代表者」>「一般人」

としています。

2ちゃんねるでの自衛官への誹謗中傷の事例と慰謝料

個人への風評被害と慰謝料

では、上記のような考え方の上で、具体的な裁判においては、どの程度の慰謝料が認められているのでしょうか。


インターネット上の名誉毀損行為では、どの程度の慰謝料が認められているのでしょうか

まず最初に取り上げるのは、匿名掲示板2ちゃんねるにおいて、特定の元自衛官(男性)個人について、「性病」「便所」といったキーワードを用い、当該自衛官が簡単に男性の性交渉の対象となり、いくつもの性病に罹患していると読み取れるような書き込みが行われた事案です。これは、名誉毀損の典型例とも言えるケースかと思われます。

この事案では、東京地方裁判所は、平成27年9月8日、

  • 原告が元自衛官であり、退官後に出版活動等を行っている者であること
  • 上記のような記事内容
  • 書き込みは、一見すると「こういう誹謗中傷を行うのはやめよう」という体裁で書かれているが、あくまでその体裁を装っただけのものであること
  • 2ちゃんねるというサイトの著名性や見る者の多さ
  • 本件投稿が1回しか行われていないこと

といった要素を挙げて、慰謝料として80万円を認容しました。

過失相殺の反論は排斥された

なお、この事案では、書き込みを行った被告側は、原告側にも、問題行動を行った、書き込みを長期間放置し反論等を行わなかった、というような過失があり、「過失相殺」が認められるべきであると主張しましたが、裁判所はこの主張を完全に排斥しています。

過失相殺とは、「たしかに被告は違法な行為を行ったが、原告側にも過失があり、損害全額を被告が負担すべきではない」という法理です。交通事故のケースを想定して頂ければ分かりやすいでしょう。歩行者が自動車にはねられた場合に、「歩行者も信号無視をしていたので」という論理です。ただ、名誉毀損の場合、

  • 被害者(原告)側にも、誹謗中傷を受けるだけの何らかの原因があった
  • 被害者(原告)側が、積極的な反論などを行わなかった

という要素は、一般論として、過失相殺の理由にはなりません。

暴力団関与のデマの書き込みの慰謝料の事例

ウェブサイトにおける企業や個人への風評被害

インターネット上のウェブサイトにおいて、株式会社やその役員等の個人2名が、暴力団・反社会的勢力と関与しているなどというデマを書き込まれた事案です。具体的には、会社の役員等である個人が、

  • 新橋のホテルで暴力団関係者と面会した
  • 暴力団関係者に依頼して恫喝行為を行った
  • 自衛隊員の名簿を不正入手して不動産売買を行った
  • デート商法等の不正な営業を行った
  • デート商法等の不正な営業について警察や消費生活センターから捜査を受けたがもみ消した
  • 大使館特権を利用し資金隠しや脱税を行った

など、多数の犯罪や不正行為を行っている、という書き込みです。また、盗撮された写真も掲載されていたようです。

裁判所による会社と個人への慰謝料の判決

東京地方裁判所は、平成27年1月29日、

損害の額の算定に当たっては,名誉毀損の内容,表現の方法と態様,流布された範囲と態様,流布されるに至った経緯,加害者の属性,被害者の属性,被害者の被った不利益の内容・程度,名誉回復の可能性など諸般の事情を考慮して個別具体的に判断するのが相当である。

東京地裁平成27年1月29日判決

と述べて、

  • 会社について、「原告会社の業務内容に影響を与えることは否定できないことなどその他本件に顕れた全ての事情を総合考慮すると,原告会社には信用を棄損されたことにより無形の損害が生じていると認められ」るとして、80万円の損害
  • 個人について、一人については「精神的損害が生じていると認められ,その損害を慰謝するための金額」として50万円、もう一人については30万円

の損害を認めました。

なお、厳密なことをいうと、「慰謝料」は精神的損害であり、精神が存在する個人にしか認められません。ただ、会社等の場合は「無形損害」という名目での損害が認められており、個人の場合の慰謝料と同じような考慮要素を踏まえて金額が算定されています。上記の会社についての80万円の損害は、厳密に言えば慰謝料ではなく、この「無形損害」です。

ウェブサイトの規模等も損害額に関わる

なお、原告らは、会社と個人あわせて合計で3800万円という高額の請求を行い、その理由について、

本件記事①ないし④を見た者が,その記載内容を「2ちゃんねる」や「yahoo知恵袋」等に書き込みをして,インターネット上に同記載内容が拡散して,同原告の名誉,信用が毀損し,社会的評価が著しく低下しており,本件各写真の掲載は,将来にわたり不特定多数の第三者によって,複製された写真がインターネット上で公開されて同原告に対し誹謗中傷が加えられる危険性もあり,同原告の精神的苦痛は回復し難いほど甚大である

東京地裁平成27年1月29日判決

と主張していたのですが、この点について裁判所は

しかしながら,本件記事①ないし④を見た者が,その記載内容を「2ちゃんねる」や「yahoo知恵袋知恵袋」等に書き込みをするなどして,インターネット上に同記載内容が拡散する恐れがあることは否定できないものの,実際にこれが拡散したことを認めるに足りる証拠はなく,また,本件ホームページはそのアクセス数(被告本人の供述によっても1日2万件)などからみて必ずしもその社会的影響力の大きな情報源であるとは言い難い。

東京地裁平成27年1月29日判決

と述べ、上述のとおりの金額を認容しています。1日2万件のアクセスがあるサイトの「社会的影響力」が小さいか否かには議論があり得そうですが、ただ、アクセス数などウェブサイトの規模も損害額算定の考慮要素になるという点を判示しているものと言えます。

ネット掲示板でのなりすまし投稿の慰謝料の事例


ネットやSNS等で誹謗中傷の被害となった事例を紹介していきます。

長野県在住の男性が、GREEの掲示板に自分になりすました投稿がなされ、投稿内容により名誉を侵害されたとして、大阪地方裁判所に訴えを提起しました。2015年8月30日の判決では、「投稿は、いずれも他者を侮辱や罵倒する内容であり、第三者に対して原告が他者を根拠なく侮辱や罵倒する人間であるかのような誤解を与えるものであるといえるから、原告の社会的評価を低下させている」として、原告の名誉権が侵害されたと判断しました。

そして裁判所は、慰謝料60万円を認めました。

少し分かりにくいですが、この場合に問題となるのは、原告が、「なりすまし」の被害を受けたことで、周囲の人々から、「あいつは他人を根拠なく侮辱したり罵倒したりするような人間だ」と見られてしまうような状態にされてしまったという、その事についての慰謝料です。

そして、単に例えば匿名の第三者が「あいつは他人を根拠なく侮辱したり罵倒したりするような人間だ」と書き込む場合より、「なりすまし」の方が、被害は大きいと言えるでしょう。上記の7要素で言えば、被害者が被った不利益の程度や加害行為の悪質性が高い事案であったと思われます。

「ウソつき常習男」という新聞広告の慰謝料の事例

「ウソつき常習男」という見出しの新聞広告で名誉を傷つけられたとして、鈴木宗男元衆院議員が「週刊新潮」を発行する新潮社に損害賠償などを求めた訴訟で、東京高等裁判所は2003年12月25日、新潮社に100万円の支払いを命じた一審の東京地方裁判所判決を取り消し、「うそをついたと信じる相当な理由がある」と認定して元議員側の請求を退けました。

問題になったのは、「田中真紀子に鬼の涙を流させたウソつき常習男鈴木宗男」との見出しですが、二審である東京高等裁判所は「いささか品のない表現だが、論評を逸脱する人身攻撃ではない」と結論づけました。

ここで興味深いのは、上にあげた名誉毀損算定式では「公人」である被告に対し、週刊誌が行った名誉毀損を認めた東京地方裁判所での認容額が、わずか100万円であったということです。「公人」は他の案件では高く評価されているようにも思われるのですが、疑問です。

19歳の娘への誹謗中傷の慰謝料の事例

元朝日新聞記者植村隆氏(58)の長女(19)が、自分の写真と中傷コメントをTwitterに投稿され、精神的苦痛を受けたとして、関東地方の40代男性に損害賠償を求めていた裁判で、東京地方裁判所は2016年8月3日、原告の訴えを全面的に認め、170万円の支払いを命じる判決を言い渡しました(請求通りの170万円、内慰謝料は100万円)。

被告男性は、別の場所で入手した植村氏の長女の写真をTwitterにアップし「朝日新聞従軍慰安婦捏造の植村隆の娘」として、当時通っていた高校名と実名を書き込み、祖母や母親に言及した後「反日捏造工作員の父親に育てられた超反日サラブレッド。将来必ず日本に仇なす存在になるだろう」などと、書き込んでいました。

判決は「原告の父がその仕事上した行為に対する反感から未成年の娘に対する人格攻撃をしたものであって、悪質で違法性が高い」と認定し、「本件投稿をスクリーンショットによって撮影した画像がインターネット上に残存しており、権利侵害の状態が継続している」として、「賠償額は本来、原告の請求を上回る200万円が相当」としました。

本事案の場合、被害者属性は未成年の一般人ですが、被告の本来のターゲットの娘であるという点、無関係な未成年を巻き込んだという点が悪質であると評価されました。上にあげた7つの要因のうちの「被害者が被った不利益の程度」と「加害行為の悪質性」が、特に大きかったと思われる事案です。

データ捏造と批判された研究者の慰謝料の事例

原告は、被告のホームページに記載された文書により名誉を毀損されたとして、また、被告は、原告のホームページに記載された文書や講演等により名誉を毀損されたとして、双方から慰藉料と文書の削除及び謝罪広告の掲載を請求した事例があります。

東京地方裁判所は、2012年11月8日の判決で、原告が学会誌に投稿した記事に対し、被告が研究データのねつ造又は改ざん等を行ったと批判し、その旨ホームページに掲載したことは原告の社会的評価を低下させるものであると認め、330万円(慰藉料300万円、弁護士費用30万円)の支払いと、各文書の被告ホームページからの削除及び謝罪広告の掲載を命じ、反訴については、原告の上記投稿は学問的見地から批判したものであり、被告の社会的評価を低下させるものではないとして、請求を棄却しました。

本事案の被害者属性は「大学教授・医師・弁護士」であり、やはりネット上で行われたものです。匿名ではなかったものの、公正な論評の範囲内とは判断されず、研究データのねつ造又は改ざん等を行ったという非難は、社会的評価を大きく低下させる可能性があり、加害行為の悪質性が高いと評価されたのでしょう。

名誉毀損の慰謝料請求の方法

名誉毀損された場合はまず、その名誉毀損をしたとされる物・証拠の保存をしなければなりません。例えば、Twitterで名誉毀損された場合はそのツイートをスクリーンショットして保存したり、特定の人に名誉毀損となるような発言を受けた場合はその発言を録音するなどの手段があります。そして、ネット上であれば名誉毀損となる投稿をした投稿者の身元特定をする必要性があります。投稿者の身元特定を行うにはそのサイトの運営者から投稿者のIPアドレスを開示するように請求を行ったりすることが出来ます。最終的には投稿者と実際に会って示談で解決することが望ましいですが、示談で解決できない場合は民事訴訟を起こして、慰謝料請求を行うことが出来ます。

まとめ

犯人に対して請求できる慰謝料の認容額は、高額化しつつあるという指摘もあるのですが、いまだ低額すぎるといえます。名誉毀損が認められて損害賠償請求が認められても、被害者の手元に残るお金はそれほど高額にはなりませんし、「内心の痛みを与えられたことへの償い」としては、不十分といえます。

ただ、犯人特定や損害賠償請求まで成功すれば、被害者側に費用負担が生じるということは原則的にはありません。

また、例えば「ネット掲示板でなりすまし投稿をされた事例」の場合、慰謝料は60万円でしたが、弁護士費用と調査費用を合計した損害賠償金の総額は130万6000円です。普通の市民にとって裁判所から訴状を送達され、裁判所に出廷し、名誉毀損と認定され、130万円6000円の損害賠償金を支払わなければならないのは、大きな痛手です。さらに、刑事告訴されれば処罰され、罰金を支払わなければなりません。

誹謗中傷を繰り返す加害者の責任を追及したい、泣き寝入りしたくない、加害者に反省させたいと願うのであれば、経験豊かな弁護士にご相談ください。裁判の見通しや手続きについても、詳しい説明を得ることができます。

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