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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

名誉毀損の慰謝料請求の相場とは?

風評被害対策

名誉毀損の慰謝料請求の相場とは

名誉毀損が認められると、被害者は、加害者に対する損害賠償請求権を認められます。その損害賠償の中心が慰謝料です。

では一体どれくらいの金額が認められるのか、またその算定基準とは。昨今、高額化していると言われる慰謝料の「相場」について実際の判例をもとに解説します。

慰謝料とは、

物質的損害ではなく精神的損害に対する賠償、いわば内心の痛みを与えられたことへの償い

最高裁判所1994年2月22日判決

とされていますが、その苦痛の程度を客観的・数量的に把握することは困難です。様々な要素を考慮して、裁判所が決定しています。

考慮する要素は明らかにされておらず、個別の慰謝料の額を認定するに至った根拠を示す必要もないため、弁護士としては慰謝料額の見通しを断定するのは難しいです。

ただ、過去の裁判例からどのような要素が重視されるのか、どのような事例でどの程度の慰謝料が認められているかを見ることで、ある程度の見通しをつけることは可能です。

慰謝料計算の方法

要素に関してはいくつも議論があるのですが、整理すると、概ね次の7つと考えられています。

  1. 被害者の年齢・職業・経歴
  2. 被害者の社会的評価
  3. 被害者が被った不利益の程度
  4. 加害行為の方法及び結果としての流布の範囲
  5. 加害行為の悪質性
  6. 名誉毀損に至った事情
  7. 名誉毀損後の回復措置

裁判所はこれらの要素を比較衡量し、慰謝料を算出していると考えられています。

また、『名誉毀損の慰謝料算定』(学陽書房:西口元・小賀野晶一・眞田範行著)では、次の算定式が提唱されています。

被害者属性別中央値±伝搬性・影響力の強弱±加害行為の悪質性

つまり「誰に対して」「どのような形で」「どれほど悪質な」名誉毀損が行われたのか、が算定基準になるということです。

なお、この本では、「被害者属性」について

「団体」=「被疑者・被告者・受刑者」>「大学教授・医師・弁護士」>「公人」>「著名人」=「企業の代表者」>「一般人」

と表現しています。

名誉毀損の慰謝料請求の方法

名誉毀損された場合はまず、物・証拠の保存をしなければなりません。例えば、Twitterで名誉毀損された場合はそのツイートをスクリーンショットして保存したり、特定の人に名誉毀損となるような発言を受けた場合は、録音するなどの手段があります。さらに、ネット上であれば悪質な投稿者の身元特定をする必要性があります。

身元特定を行うには、サイト運営者へ投稿者のIPアドレスを開示するように請求を行う必要があります。投稿者と実際に会って示談で解決することが可能ですが、示談で解決できない場合は民事訴訟を起こし、慰謝料請求を行うことが出来ます。

では、実際の事例を解説しながら、名誉毀損の賠償額について説明していきましょう。

自衛官への誹謗中傷事例

個人への風評被害と慰謝料


インターネット上の名誉毀損行為では、どの程度の慰謝料が認められているのでしょうか。

最初に取り上げるのは、匿名掲示板2ちゃんねるにおいて、特定の個人(元自衛官男性)について、「性病」「便所」といったキーワードを用い、当該自衛官が男性の性交渉の対象となり、いくつもの性病に罹患していると読み取れるような書き込みが行われた事案です。

裁判所の見解

平成27年9月8日、この事案について東京地方裁判所は、

  • 原告が元自衛官であり、退官後に出版活動等を行っている者であること
  • 上記のような書き込みは、一見すると「こういう誹謗中傷を行うのはやめよう」という体裁で書かれているが、あくまでその体裁を装っただけのものであること
  • 2ちゃんねるというサイトの著名性や見る者の多さ
  • 本件投稿が1回しか行われていないこと

といった要素を挙げて、慰謝料として80万円を認容しました。

過失相殺の反論排斥

被告側は、「原告側に過失がある」として「過失相殺」を主張しました。本件における「原告側の過失」とは、書き込みを長期間放置し反論等を行わなかったことなどを指します。

「過失相殺」は交通事故の裁判で歩行者が自動車にはねられた場合に、「歩行者も信号無視をしていた」として損害賠償額の軽減を求める論理です。ですが、本件では裁判所はこの主張を完全に排斥しました。

暴力団関与デマの事例

ウェブサイトにおける企業や個人への風評被害

ウェブサイトにおいて、株式会社やその役員等2名が、暴力団・反社会的勢力と関与しているなどというデマを書き込まれた事案です。具体的には、会社の役員等である個人が、以下のような多数の犯罪・不正行為を行っている、という書き込みです。

  • 新橋のホテルで暴力団関係者と面会した
  • 暴力団関係者に依頼して恫喝行為を行った
  • 自衛隊員の名簿を不正入手して不動産売買を行った
  • デート商法等の不正な営業を行った
  • デート商法等の不正な営業について警察や消費生活センターから捜査を受けたがもみ消した
  • 大使館特権を利用し資金隠しや脱税を行った

また、盗撮された写真も掲載されていたようです。

裁判所の見解

平成27年1月29日、東京地方裁判所は、

損害の額の算定に当たっては,名誉毀損の内容,表現の方法と態様,流布された範囲と態様,流布されるに至った経緯,加害者の属性,被害者の属性,被害者の被った不利益の内容・程度,名誉回復の可能性など諸般の事情を考慮して個別具体的に判断するのが相当である。

東京地裁平成27年1月29日判決

と述べて、以下の損害賠償請求を認めました。

  • 会社について:「原告会社の業務内容に影響を与えることは否定できないことなどその他本件に顕れた全ての事情を総合考慮すると,原告会社には信用を棄損されたことにより無形の損害が生じていると認められ」るとして、80万円の損害
  • 個人について:一人については「精神的損害が生じていると認められ,その損害を慰謝するための金額」として50万円、もう一人については30万円の損害

厳密にいうと、「慰謝料」は精神的損害であり、精神が存在する個人にしか認められません。ただ、会社等の場合は「無形損害」という名目での損害が認められており、個人の場合と同じような考慮要素が考慮されて慰謝料が算定されています。会社についての80万円の損害は、厳密に言えば慰謝料ではなく、この「無形損害」です。

ウェブサイトの規模等も損害額に関わる

なお、原告らは、会社と個人あわせて合計で3,800万円という高額の請求を行い、その理由について、以下のように主張していたのですが、

記載内容を「2ちゃんねる」や「Yahoo!知恵袋」等に書き込みをして,インターネット上に同記載内容が拡散して,同原告の名誉,信用が毀損し,社会的評価が著しく低下しており,本件各写真の掲載は,将来にわたり不特定多数の第三者によって,複製された写真がインターネット上で公開されて同原告に対し誹謗中傷が加えられる危険性もあり,同原告の精神的苦痛は回復し難いほど甚大である。

東京地裁平成27年1月29日判決

この点について裁判所は

記載内容が拡散する恐れがあることは否定できないものの,実際にこれが拡散したことを認めるに足りる証拠はなく,また,本件ホームページはそのアクセス数(被告本人の供述によっても1日2万件)などからみて必ずしもその社会的影響力の大きな情報源であるとは言い難い。

東京地裁平成27年1月29日判決

と述べ、上述のとおりの金額を認容しています。1日2万件のアクセスがあるサイトの「社会的影響力」が小さいか否かには議論があり得そうですが、ただ、アクセス数などウェブサイトの規模も損害額算定の考慮要素になるという点を判示しているものと言えます。

なりすまし投稿の事例



ネット上で誹謗中傷の被害となった事例を紹介していきます。

長野県在住の男性が、GREEの掲示板にて自分になりすました投稿をされ、投稿内容により名誉を侵害されたとして、大阪地方裁判所に訴えを提起しました。

裁判所の見解

判決では、以下のように、原告の名誉権が侵害されたことを認め、慰謝料60万円の損害としました。

投稿は、いずれも他者を侮辱や罵倒する内容であり、第三者に対して原告が他者を根拠なく侮辱や罵倒する人間であるかのような誤解を与えるものであるといえるから、原告の社会的評価を低下させている。

大阪地方裁判所2015年8月30日判決

この場合に問題となるのは、原告が、「なりすまし」の被害を受けたことで、周囲の人々から誤解を受けた事に対する慰謝料です。

単に匿名の第三者が悪口を書き込む場合より、「なりすまし」の方が、被害は大きいと言えるでしょう。上記の7要素で言えば、被害者が被った不利益の程度や加害行為の悪質性が高い事案であったと思われます。

「ウソつき常習男」という新聞広告の慰謝料の事例

「ウソつき常習男」という見出しの新聞広告で名誉を傷つけられたとして、鈴木宗男元衆院議員が「週刊新潮」を発行する新潮社に損害賠償などを求めた訴訟で、東京高等裁判所は2003年12月25日、新潮社に100万円の支払いを命じた一審の東京地方裁判所判決を取り消し、「うそをついたと信じる相当な理由がある」と認定して元議員側の請求を退けました。

問題になったのは、「田中真紀子に鬼の涙を流させたウソつき常習男鈴木宗男」との見出しですが、二審である東京高等裁判所は「いささか品のない表現だが、論評を逸脱する人身攻撃ではない」と結論づけました。 ここで興味深いのは、上にあげた名誉毀損算定式では「公人」である被告に対し、週刊誌が行った名誉毀損を認めた東京地方裁判所での認容額が、わずか100万円であったということです。
「公人」は他の案件では高く評価されているようにも思われるのですが、疑問です。

19歳の娘への誹謗中事例

元朝日新聞記者植村隆氏(58)の長女(19)が、自分の写真と中傷コメントをTwitterに投稿され、精神的苦痛を受けたとして、関東地方の40代男性に損害賠償を求めていた裁判です。

被告男性は、別の場所で入手した植村氏の長女の写真をTwitterにアップし「朝日新聞従軍慰安婦捏造の植村隆の娘」として、当時通っていた高校名と実名を書き込み、祖母や母親に言及した後「反日捏造工作員の父親に育てられた超反日サラブレッド。将来必ず日本に仇なす存在になるだろう」などと、書き込んでいました。

裁判所の見解

2016年8月3日、東京地方裁判所は原告の訴えを全面的に認め、170万円(うち慰謝料は100万円)の支払いを命じる判決を言い渡しました。

原告の父がその仕事上した行為に対する反感から未成年の娘に対する人格攻撃をしたものであって、悪質で違法性が高い(中略)本件投稿をスクリーンショットによって撮影した画像がインターネット上に残存しており、権利侵害の状態が継続している(中略)賠償額は本来、原告の請求を上回る200万円が相当である。

東京地方裁判所2016年8月3日判決

本事案の場合、被害者属性は未成年の一般人ですが、被告の本来のターゲットの娘であるという点、無関係な未成年を巻き込んだという点が悪質であると評価されました。

上述した7つの要因のうち「被害者が被った不利益の程度」と「加害行為の悪質性」が、特に大きかったと思われる事案です。

データ捏造と批判された研究者の事例

原告は、被告のホームページに記載された文書により名誉を毀損されたとして、また、被告は、原告のホームページに記載された文書や講演等により名誉を毀損されたとして、双方から慰藉料と文書の削除及び謝罪広告の掲載を請求した事例があります。

裁判所の見解

2012年11月8日、東京地方裁判所は、原告が学会誌に投稿した記事に対し、「被告が研究データのねつ造又は改ざん等を行ったと批判し、その旨ホームページに掲載したことは原告の社会的評価を低下させるものである。」と認め、330万円(慰藉料300万円、弁護士費用30万円)の支払いと、各文書の被告ホームページからの削除及び謝罪広告の掲載を命じ、反訴については、「原告の上記投稿は学問的見地から批判したものであり、被告の社会的評価を低下させるものではない。」として、請求を棄却しました。

本事案の被害者属性は「大学教授・医師・弁護士」であり、ネット上で行われたものです。匿名ではなかったものの、公正な論評の範囲内とは判断されず、研究データのねつ造又は改ざん等を行ったという非難は、社会的評価を大きく低下させる可能性があり、加害行為の悪質性高いと評価されたのでしょう。

まとめ

犯人に対して請求できる慰謝料の認容額は、高額化しつつあるという指摘もありますが、実際に受けた被害に対してはいまだ、低額であるといえます。

名誉毀損が認められ、損害賠償請求が可能になっても、被害者の手元に残るお金はそれほど高額にはなりません。「内心の痛みを与えられたことへの償い」としては、不十分といえます。

ただ、犯人特定や損害賠償請求まで成功すれば、被害者側に費用負担が生じるということは原則、ありません。

「ネット掲示板でなりすまし投稿をされた事例」の場合、慰謝料は60万円でしたが、弁護士費用と調査費用を合計した損害賠償金の総額は130万6,000円です。一般市民にとって裁判所から訴状を送達され、裁判所に出廷し、名誉毀損と認定され、130万円6,000円の損害賠償金を支払わなければならないのは、大きな痛手です。さらに、刑事告訴されれば処罰され、罰金を支払わなければなりません。

誹謗中傷を繰り返す加害者の責任を追及したい、泣き寝入りしたくない、加害者に反省させたいと願うのであれば、経験豊かな弁護士にご相談ください。裁判の見通しや手続きについても、詳しい説明を得ることができます。

この記事の内容を動画で知りたい方は、弊所YouTubeチャンネルの動画をご覧ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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