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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

パブリシティ権の侵害が認められる場合と認められない場合

風評被害対策

著名人の氏名や肖像は顧客吸引力を持っているので、一つの経済的利益、または価値を有します。著名人の氏名や肖像から生じる経済的利益ないし価値を排他的に支配する(つまり無断で第三者に使わせない)権利を、パブリシティ権といいます。

パブリシティ権という言葉は法律上の言葉ではなく、裁判により少しずつ明らかになり、認められてきた比較的新しい権利です。2012年2月2日に、「ピンク・レディー事件」の最高裁判決が出て、パブリシティ権の意義及び侵害基準の判例として注目されました。

ここでは、どのような場合にパブリシティ権を侵害したと認められ、どのような場合には認められないのかを、裁判例を見ながら、解説します。

「ピンク・レディー事件」の裁判

「ピンク・レディー事件」は、ピンク・レディーの楽曲の振付を真似たエクササイズによるダイエット法を解説した本に、14枚の写真が無断で掲載されたことが、パブリシティ権を侵害する不法行為になるとして、ピンク・レディーが掲載雑誌を発行した出版社に対して、損害賠償を求めた事案でした。

この事案は最高裁判所まで争われましたが、2012年2月2日、最高裁はパブリシティ権は一定の要件のもとで法的に保護されるべきとしつつも、本件写真の無断掲載は、記事の内容を補足する目的で使用されたものであり、専らピンク・レディーの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず、パブリシティ権侵害にはあたらないとして上告を棄却し、損害賠償請求は認められないことが確定しました。

パブリシティ権の意義と侵害基準

このパブリシティ権に関する最初の最高裁判決は、パブリシティ権の意義に関し、「人の氏名、肖像等は商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(パブリシティ権)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる」としました。

また、侵害基準としては、「肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もある」としています。不法行為が成立する場合の類型として以下の3例をあげました。

  • 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合
  • 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合
  • 肖像等を商品等の広告として使用する場合

以降、この判例を基に、パブリシティ権侵害が判断されることとなっています

「嵐」「KAT-TUN」裁判

人気グループ「嵐」「KAT-TUN」のメンバーが、各個人の写真集9冊とグループの写真集3冊の合計12冊によりパブリシティ権が侵害されたとして、損害賠償と本件各書籍の出版、販売の差止め及びその廃棄を求めた事例があります。

主な争点は、「パブリシティ権侵害の有無」、「受けた損害の額」、「差止め及び廃棄請求の可否」でした

パブリシティ権侵害の有無

裁判所は12冊の本件各書籍それぞれについて詳細な検討を加え、「ページの大部分は写真だけか、写真の脇に短い記述を添えただけのものであり、各章の冒頭には見出しとともに前文があるが、いずれも写真を掲載した各章の導入としての意義があるというにとどまる。」とし、各コラムには「比較的まとまった文章があるが、その具体的な内容と掲載された写真との間に格別の関連はなく、本件各写真の枚数やその取り扱われ方等に照らすと、コラムは、本件各写真の添え物であって独立した意義があるとは認められない。」として、本件書籍はいずれも各写真を鑑賞の対象とすることを目的とするものという見解を示し、ピンク・レディー事件判例にある類型1の「肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合」にあたるとして、パブリシティ権侵害を認めました

受けた損害の額

裁判所は、本件各書籍の出版に当たり、それぞれが自己を被写体とする写真の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭に相当する額の損害を受けたものであって、その額は、本件各書籍の本体価格の10%に相当する額に発行部数を乗じた金額を下らないとして、これがXらが受けた損害の額であると認定しました。

これにより、例えば原告Aは単独で書籍①(2万8,000部)とグループ5人で書籍⑥(3万9,000部)に掲載される行為によりパブリシティ権を侵害されたので、

1,300円×10%×2万8,000部=364万円

1,300円×10%×3万9,000部÷5=101万4,000円

となり、弁護士費用46万5,400円を加えた511万9,400円が認められました。

裁判所はこのように計算し、9人(当時)のメンバーに対して、合計約5,400万円の損害賠償金を支払うよう、被告出版社に命じました。

差止め及び廃棄請求

12冊の書籍の出版及び販売の差止め並びに廃棄請求については、裁判所は、

被告は、今後、本件各書籍を出版してこれを販売し、又は占有する本件各書籍を販売するおそれがあるものと認められる。

そして、パブリシティ権が人格権に由来する権利の一内容を構成するものあることに鑑みれば、原告らは、被告に対し、原告らのパブリシティ権の侵害の停止又は予防のために、本件各書籍の出版及び販売の差止め並びに被告が占有する本件各書籍の廃棄を求めることができるというべきである。

東京地方裁判所2013年4月26日判決

として出版及び販売の差止め並びに廃棄を認容する、厳しい判決を下しました。

この判決に対し、被告出版社は不服として控訴をしましたが、知財高等裁判所は控訴棄却の判決を下し、出版社による上告に対して最高裁は上告棄却の判決を下して、判決が確定しています。

「おっぱいイラスト」裁判

女性芸能人8人が、原告らの肖像写真に裸の胸部(乳房)のイラストを合成した画像を用いた記事を掲載した週刊誌を出版、販売して原告らのパブリシティ権並びに人格権及び人格的利益を侵害したとして、被告出版会社に対し、損害賠償金等の支払を求めた事例があります。

問題となった記事は、本件雑誌巻のモノクロ印刷のグラビア部分3頁にわたり、見出しを「勝手に品評!!」「芸能界妄想オッパイグランプリ」として掲載したものです。本件記事は上記見出しに続き、裸の乳房のイラストを合成し、各芸能人の氏名や胸の推定サイズ並びに評価項目を掲載するなどしていました。

パブリシティ権侵害の有無

裁判所は、原告らは本件雑誌が出版、販売された当時から、いずれも写真集等に登場し、テレビ番組に出演するなど固有の名声、社会的評価を有する芸能人であって、パブリシティ権の主体となり得る著名性を有していた、と認めました。

その上で、本件記事につき、

裸の胸部のイラストを合成し、性的な表現を含むコメント等を付したものであり、肖像等そのものを鑑賞させることではなく、原告らを含む女性芸能人の乳房ないしヌードを読者に想像させる(妄想させる)ことを目的とするとみることができる。しかも、本件記事は、全248頁の本件雑誌中の巻末に近いモノクログラビア部分に掲載されたもので、表紙には取り上げられていない上、各原告の肖像等は1頁当たり9名又は10名のうち1名として掲載されるにとどまっている。これらの事情によれば、原告らのファン等が本件記事中の肖像写真を入手するために本件雑誌を購入することがあるとはおよそ考え難い。そうすると、本件記事に原告らの肖像等を無断で使用する行為は、上記①の肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用するものとはいえず、また、上記①以外の理由により専ら原告らの肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものと認めることもできない。

東京地方裁判所2015年1月29日判決

として、パブリシティ権の侵害は認めませんでした。

全248頁のうちの3頁にすぎず、写真も小さいものであったので、「肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用するもの」であるとは言えないという判断です。

受けた損害の額

原告らは、本件記事の氏名及び肖像の無断掲載は、原告らの人格権としての氏名権、肖像権及び名誉権並びに人格的利益としての名誉感情を侵害するものであると主張したのですが、裁判所は、

本件記事は社会通念上受忍すべき限度を超えた侮辱行為により原告らの名誉感情を不当に侵害するものであり、かつ、受忍限度を超えた氏名及び肖像の使用に当たる

東京地方裁判所2015年1月29日判決

として、9人の原告それぞれに慰謝料75万円、弁護士費用5万、計80万円を支払うよう、被告出版社に命じました。

パブリシティ権の侵害が認められなくても、肖像権や名誉感情の侵害等として、責任を追及することが可能であることを示した裁判例といえます。

まとめ

「パブリシティ権」は著名人の氏名や肖像から生じる経済的利益ないし価値を第三者に無断使用させない権利のことであり、この権利は2012年の「ピンク・レディー事件」判決より認められはじめた比較的新しい権利です。

パブリシティ権に関するこれまでの有名な事案の対象の多くは紙媒体ですが、ネットメディアの需要が高まりを受け、今後どのような主張や判断がされていくのか、その変化に興味が持たれるところです。

「パブリシティ権」を侵害されているおそれがある場合、こうした事情に詳しい専門の弁護士へ相談することをおすすめします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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