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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

誹謗中傷の犯人への損害賠償請求の相場と計算方法とは

風評被害対策

誹謗中傷の犯人への損害賠償請求の相場と計算方法とは

インターネット上の誹謗中傷事件で、名誉毀損など犯人が違法な投稿を行った場合、被害者は犯人に対し損害賠償請求を行うことができます。こうした場合、どのような「損害」に対し賠償請求をすることができるのでしょうか。

結論から述べますと、基本的には下記の各金額の合計となります。

  1. 慰謝料(精神的損害に対する損害賠償)
  2. 調査費用(犯人特定に要した弁護士費用)
  3. 弁護士費用(慰謝料の10%程度)

これらの項目について、その請求の可否など詳細を解説していきます。

犯人特定から損害賠償請求の手順

まず、違法な投稿によって風評被害を受けた被害者は、犯人(加害者)が誰なのか特定しなければなりません。でなければ損害賠償請求を行うことができないからです。

例えば5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)などの匿名掲示板の場合、匿名掲示板上で誹謗中傷投稿を行った犯人が誰なのかは、掲示板を見るだけでは分かりません。匿名で運営されているブログなどの場合も同様です。

犯人に対する損害賠償請求を行う前提として、犯人を特定する必要があります。犯人特定の手順は、おおまかに説明すると、いわゆるコンテンツ・サービス・プロバイダ(例えば5ちゃんねる管理者)に対するIPアドレス開示請求と、この結果判明した犯人の利用している経由プロバイダ(例えば携帯回線の場合のdocomoや固定回線の場合のNifty)に対する住所氏名開示に分けられます。この手続については下記記事にて詳細に解説しています。

もっとも、これは誰が犯人か分からない匿名掲示板や匿名ブログの場合です。犯人が自ら実名を名乗って運営しているウェブサイトなどの場合は、特定は不要です。

犯人に対する損害賠償請求の方法

犯人特定後、当該犯人に対し損害賠償請求を行うことができるようになります。

この損害賠償請求は、例えば貸したお金の返済を求める場合と同様、裁判外交渉によって求めることもできますし、裁判外交渉で交渉がまとまらなかった場合、裁判によって請求することもできます。

裁判の場合、裁判所は「誹謗中傷投稿によって名誉毀損などの被害を受けた際にどの程度の損害賠償請求を認めるか」という点について、後述するように一定のルールを持っています。こうしたルールに基づく判決が行われる可能性が高いものといえます。

裁判外交渉の場合も、被害者(やその代理人弁護士)と犯人(とその代理人弁護士)は、「もし交渉がまとまらずに裁判になった場合、裁判所はどの程度の損害賠償請求を認めるのか」ということを念頭に置きながら交渉を行うことになります。例えば、裁判で数十万円程度の損害賠償しか認められないような事案で、裁判外交渉の場面で1000万円の請求を行っても、犯人(とその代理人弁護士)は、「この金額で交渉に応じるべきではない」という判断になりやすいでしょう。

結論、裁判外交渉の場合であっても、「裁判になった場合にはどのようなルールに基づき、どの程度の損害賠償請求が認容される可能性が高いか」ということは重要な問題となります。

裁判所が認容する「損害」とその詳細

「損害賠償」とする請求の内容について説明していきます。

冒頭で述べたとおり、裁判所が認容する「損害」とは、下記の3種類の金額の合計です。

  1. 慰謝料(精神的損害に対する損害賠償)
  2. 調査費用(犯人特定に要した弁護士費用)
  3. 弁護士費用(慰謝料と調査費用の合計の10%程度)

少し分かりにくいのですが、2の「調査費用」というのは、前述の犯人特定の際に既に支払った弁護士費用のことです。「弁護士に依頼して犯人特定に関する調査を行った、その調査のための費用」という意味です。

これに対し3の「弁護士費用」とは、「犯人に対する損害賠償請求のために弁護士に依頼を行った、その依頼のための費用」という意味です。ただし後述するように、この金額は、現に損害賠償請求のために支払った弁護士費用の金額ではなく、慰謝料の10%程度となります。この理由については後述します。

損害1:精神的な損害に対応する慰謝料

慰謝料とは、通常の言葉の意味通り、名誉毀損やプライバシー侵害に該当するような誹謗中傷によって被害者が精神的な損害を受けた、その損害に対応するものです。インターネット上では「名誉毀損の場合の慰謝料の相場は数十万円程度から数百万円程度」といった言説もありますが、総じて、裁判所が認める慰謝料の金額は、必ずしも被害者側として「十分である」と感じられるような金額ではありません。

事例1:他人になりすまして、第三者に対する誹謗中傷等を行った事例

大阪地方裁判所は、2017年8月30日、ネット掲示板において、他人の顔写真やアカウント名を利用して他人になりすまし、第三者に対して「みんなキチガイなんだから仲良くしましょう」「妄想おばあちゃん全開ですよ~」「お前の性格の醜さは、みなが知った事だろう」などと、他者を侮辱や罵倒する内容である投稿を繰り返した被告に対し、「それらは原告が他者を根拠なく侮辱や罵倒する人間であるかのような誤解を与えるものであり、原告の社会的評価を低下させ、その名誉権を侵害した。」として、慰謝料60万円を認定しました。

なお、「なりすまし」がいかなる意味で「違法」と言えるのかという点については下記記事にて詳細に解説しています。

事例2:原告が女子トイレで盗撮しているとする投稿を繰り返した事例

2ちゃんねるに、原告が女子トイレで盗撮しているとする投稿を繰り返したことに対し、原告は「本件書込による受けた精神的苦痛を慰謝するには400万円を下らない」として、400万円の慰謝料を請求しました。

東京地方裁判所は2012年1月31日、名誉毀損を認定し、損害賠償として慰謝料100万円を認定しました。

これは、虚偽事実を書き込まれることによって被害者が社会的評価を低下させられているケースであり、名誉毀損の典型例と言えます。

事例3:サイエンスライターに誹謗中傷を繰り返した事例

森友学園や加計学園に関する政府や安部首相についての疑惑に関して、Twitterにて、「『疑われた側が潔白を証明すべし』という理屈は絶対に認めるべきではないという論調もありますが、政府や行政機関にはアカウンタビリティー(国民に対する説明責任)が当然求められます」と投稿した女性サイエンスライターに、潔白を証明せよとして、「若い頃淫売やって学位取得」「今も研究費着服」「子供に淫売術を教授して実施を強要」「旦那の強姦を親告されないために娘も含めて淫売家業」等の投稿を50回以上にわたって続けた行為に対し、さいたま地方裁判所は2019年7月17日、名誉毀損を認めました。

この裁判では、被告は口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しなかったので、請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして、すべての事実を認めて自白した(「擬制自白」といいます)とみなされ、裁判所は請求満額の慰謝料200万円を認めました。

また、「被告の行為により失った原告の社会的評価・信頼は、単に金銭賠償を受けたからといって回復されるものではない。したがって、原告の名誉を回復するためには、掲載された内容が真実に反することが謝罪文によって明らかにされることが必要である」として、謝罪文の交付も命じています。

損害2:犯人特定に要した弁護士費用である調査費用

前述した犯人特定手続は、仮処分や裁判を用いるなど、かなり複雑で専門的です。一般論として、裁判や仮処分は弁護士に依頼せずとも自分自身で行うことも可能です。いわゆる「本人訴訟」と呼ばれるものです。

ただ、あくまでも「不可能ではない」という意味であり、実際には自身で行うには内容が繊細で難しく、現実的ではありません。経験豊かな弁護士に委任し、行ってもらうことが望ましいでしょう。

誹謗中傷の犯人を特定するための調査費用は相当程度かかります。被害者が調査費用を犯人に請求し、負担させたいと考えるのは当然のことです。

犯人特定に関する弁護士費用の請求は、弁護士が適切な費用で、適切に業務を行い、その業務内容を正確に記録して請求すれば、認容されるのが現在の裁判実務となっています。

例えば、前述しました格裁判例は、調査費用に関して下記のような判断を行っています。

事例1:他人になりすまして、第三者に対する誹謗中傷等を行った事例

発信者情報の取得に要した調査費用として58万6000円を認定しました。犯人特定のために現に支払った弁護士費用全額が調査費用として認定されています。

事例2:原告が女子トイレで盗撮しているとする投稿を繰り返した事例

原告は、本件書込の主体を特定するため、弁護士に依頼し、『2ちゃんねる』に対し、アクセスログ等の開示を求める仮処分などの調査をせざるを得なかったもので、その調査費用として63万円を要している」として63万円を調査費用として請求しました。裁判所はこれについて、「本件訴訟が『2ちゃんねる』の違法な書き込みについての犯人の特定のため、上記のとおり、原告が弁護士を介して、漸く被告に辿り着いた経緯に照らすと、被告の特定のための調査費用63万円も被告に対する不法行為の損害として被告が負担すベきである」として、63万円の調査費用の請求を認めています。

事例3:サイエンスライターに誹謗中傷を繰り返した事例

上述のように擬制自白の成立した事案ではありますが、調査費用として請求された43万8000円が認められています。

損害3:損害賠償のための弁護士費用

裁判所が認める「弁護士費用」とは?

前述の通り、この「弁護士費用」とは、犯人特定に要した費用(調査費用)ではなく、特定された犯人に対する損害賠償請求を弁護士に依頼し行うための費用のことです。

ただし非常に分かりにくいのですが、裁判所は、「被害者は現実に被害者側の代理人弁護士との間でどのような契約を行い、当該弁護士にいくら報酬を支払ったのか」ということをベースには、この弁護士費用を計算しません。裁判所は、現実の支払額と基本的に関係なく、「その損害賠償請求で請求する金額の10%」を、「弁護士費用」と認定するというルールを用いています。

損害賠償請求の場合の弁護士報酬とは

まず、弁護士に損害賠償請求を依頼する場合に、現実に必要となる弁護士報酬について解説します。

弁護士報酬には、元々、日弁連が定める「弁護士報酬基準」という基準が存在し、弁護士は報酬を自由に決めることができませんでした。

この弁護士報酬は平成16年(2004年)4月から自由化され、個々の弁護士が自由に金額設定できるようになり、事務所ごとに報酬基準を定めることになっています。

しかし、ほとんどの弁護士や法律事務所が、弁護士会の従来の報酬基準を自由化後も引き続き使っています。実務感覚として、旧弁護士報酬基準は、長年基準として用いられていただけあって、結果的に「適正」となるケースが多い点で参照すべき基準だからです。

そして、この旧弁護士報酬基準では、損害賠償請求の場合「経済的利益」が300万円以下の部分については、着手金8%、成果報酬金16%と定められています。この「経済的利益」とは、金銭請求の場合、着手金については請求額、報酬金については請求認容額です。例えば、300万円の損害賠償を求め、裁判で200万円が認容された場合、着手金は300万円の8%で24万円、成果報酬金は200万円の16%で32万円、合計56万円となります。

上述のように既にこの基準は自由化されているので、実際の受任に際しては、事案の性質や難易に応じて金額や計算式を調整しますが、この数字が一つの「基準」として、現在も機能しているわけです。

裁判所の認定する弁護士費用とは

被害者はこの額を弁護士に支払うわけですから、普通に考えれば、「弁護士費用」とは、つまり56万円のことです。

しかし裁判所は、そのような考え方を用いません。「相当因果関係」という言葉を用い、「相当因果関係があると裁判所が認定する弁護士費用」として、認容された損害の10%を「弁護士費用」と認めるのです。つまり、例えば、300万円の損害賠償を求め、裁判で200万円が認容された場合、裁判所が認める弁護士費用は、200万円の10%である20万円です。

これは、詳細を述べれば、「不法行為」の場合の議論です。不法行為とは、契約等に基づかず、加害者側の「違法」な行為で被害者が被害を受けた場合であり、典型例は交通事故です。

交通事故の場合、加害者と被害者間には契約関係などはなく、単に加害者が「違法」な形で被害者の身体等を侵害したことから損害賠償請求の問題となります。誹謗中傷の場合も同様で、加害者と被害者間には契約関係などはなく、単に加害者が名誉毀損等に該当する「違法」な形で被害者の名誉権などを侵害したからこそ、損害賠償請求の問題となるわけです。

これに対して、例えば、お金を貸したけど返ってこないという場合、原告被告間には金銭消費貸借契約が存在し、その契約に基づく貸金や利息を請求することになります。これは「不法行為」ではないので、上述のルールは適用されません。

不法行為の場合、必ずしもすべての場合ではありませんが、ほとんどの事案で任用された費用の10%とされています。これは、上述の例を見れば明らかなように、あまりにも低額だといわざるを得ません。

名誉毀損と弁護士費用の裁判例

週刊現代の八百長疑惑報道があった際、名誉を傷つけられたとして、日本相撲協会と北の湖前理事長が、同誌発行元の講談社と執筆者に損害賠償などを求めた事案がありました。東京地方裁判所は2009年3月5日、講談社と執筆者に各770万円(慰謝料700万円、弁護士費用70万円)の損害賠償と、記事取り消し広告の掲載を命じました。

東京地裁は、「本件記事で摘示される具体的事実については、その根拠となる発言等について、ほとんどといってよいほど裏付け取材をすることなく、また、原告北の湖への取材が容易であるにもかかわらず、その機会をもたないまま、本件記事を作成したもの」であるとしました。この事件は、上記の通り700万円という高額な慰謝料が認められているため、「10%」でも70万円程にはなります。

しかし、上記の裁判例とは異なり慰謝料が低額な場合、例えば慰謝料が30万円しか認められないと、その10%とは3万円です。あまりに低額すぎると言えるでしょう。

上記の八百長疑惑報道事件は週刊誌による誹謗中傷ですが、インターネット上の場合も同様です。例えば、上記の各裁判例は、弁護士費用に関しては、下記のような判断を行っています。

事例1:他人になりすまして、第三者に対する誹謗中傷等を行った事例

なりすましによる誹謗中傷の事案ですが、慰謝料60万円に対し、弁護士費用として12万円を認定しました。この場合、弁護士費用は慰謝料の20%でした。必ずしも一般論ではないのですが、慰謝料が低額の場合、弁護士費用はその20%と計算されるケースもあるようです。

事例2:原告が女子トイレで盗撮しているとする投稿を繰り返した事例

女子トイレ盗撮を行っているという虚偽事実を書き込まれた事案ですが、慰謝料100万円に対し、弁護士費用10万円を認めました。つまり、弁護士費用は慰謝料の10%でした。

事例3:サイエンスライターに誹謗中傷を繰り返した事例

Twitter上で研究者に対して誹謗中傷が繰り返された事案ですが、慰謝料200万円に対し、弁護士費用20万円が認定されました。つまり、弁護士費用は慰謝料の10%でした。

まとめ

犯人に対して請求できる損害賠償の認容額については、高額化しつつあると言われるようになったものの、まだまだ少なすぎるといえます。名誉毀損が認められて損害賠償請求が認められても、被害者の手元に残るお金はそれほど高額にはならない可能性が高いといえ、「内心の痛みを与えられたことへの償い」としては不十分です。

ただ、犯人特定や損害賠償請求まで成功すれば、被害者側に費用負担が生じるということは原則的にはありません。犯人特定に至るまでの弁護士費用の相場や、これを踏まえて結局のところ被害者の手元にどの程度のお金が残るのか、という点に関しては下記記事にて詳細に解説しています。

そして、犯人に対する損害賠償請求には、いわゆる「時効」があります。この点に関しては下記記事にて詳細に解説しています。

誹謗中傷を繰り返す犯人の責任を追及したい、泣き寝入りしたくない、犯人に反省させたいと願うのであれば、経験豊かな弁護士にご相談ください。裁判の見通しや手続きについて、詳しい説明を得ることができます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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