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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

「まとめサイト」に対する名誉毀損や著作権侵害による削除請求

風評被害対策

「まとめサイト」とは、ネットに散らばる情報をテーマごとにまとめるサイトのことで、個人・団体を問わず誰でも開設できます。ブログを利用して2ちゃんねるの書き込みを編集したものだけでなく、「NAVERまとめ」など企業が運営するプラットフォームもあります。人力でまとめるものだけでなく、テーマに沿って自動的に収集・編集されるものもあります。ニュースサイト、ブログ、掲示板、SNSなどを情報源として比較的容易にコンテンツを作ることができますし、うまくテーマを設定すれば読者を集めやすく、アフィリエイト広告が簡単に設置できることから乱立するようになりました。

SNSなどのシェア機能を利用して情報の「拡散」をする人のうち、およそ4人に1人は「まとめサイト」を情報源として使っているという調査結果もあります。

「まとめサイト」の問題

「まとめサイト」といっても、その形式や作られる動機は様々であり、大きな事件が発生し、それが多数に関心のあるものだった場合、事件に関する情報を集める為に作られるものや、画像掲示板に投稿された画像をテーマ別に収集するといったものがあります。便利な面もある一方で、他者が作成した情報を使うこと、それによって利益を得ることには否定的な意見も多く、コンテンツの転載に伴う著作権侵害の問題も、常に指摘されてきました。また、閲覧数の増加とそれに結果する広告収入の増大を目的とした恣意的な編集や不正確な情報の流布といった問題も指摘されています。

実際、「まとめサイト」の中には閲覧数を稼ぐため、確定情報でないものまで断言するような見出しで煽るものもあり、過激なネタに走る傾向があります。さらに、誹謗中傷を繰り返すものもあります。

「まとめサイト」による名誉毀損等

在日朝鮮人の女性フリーライターが、「まとめサイト」の「保守速報」に名誉毀損や人種差別的な記事を掲載されたとして、同サイトを運営する男性に対し、名誉毀損、侮辱、人種差別、女性差別、いじめ、脅迫及び業務妨害に対する損害賠償を求めて提訴しました。同サイト内では非常に汚い表現で原告女性を攻撃するコメントがまとめられ掲載されていましたが、「2ちゃんねる」への投稿を引用・転載する「まとめ」という行為に対し、不法行為が成立するかどうかが論点となりました。サイト運営者は「情報の集約に過ぎず、転載したことに違法性はない」とし、「単なる転載であって名誉毀損や侮辱などの意図はない」と主張したのです。

裁判所の判断を、ひとつずつ、見ていきます。名誉毀損については、原告が北朝鮮の工作員であるというブログ記事等をあげ、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすれば,原告の言動が犯罪行為又はこれを擁護する行為に当たるような極端なものであるという印象を与えるものであるから、原告の社会的評価を低下させると認めるのが相当とし、「原告個人に対する批判ではなく、対立思想に対する批判である」という被告の主張を排しました。

侮辱については、「トンスルライター」や「火病ライター」という記載等をあげ、トンスル及び火病等という言葉の意味や用いられ方を考慮すると、原告の名誉感情を著しく害するものというべきとし、「対立思想に対する批判にすぎないから原告の名誉感情を害するものではない」という被告の主張を排しました。

人種差別については、在日朝鮮人であることを理由に原告を著しく侮辱し、日本の地域社会から排除することを煽動するものであって、憲法14条1項、差別的言動解消法及び人種差別撤廃条約の趣旨及び内容(差別的言動解消法1条及び2条、人種差別撤廃条約1条1項、2条1項柱書及び6条)に反する人種差別に当たる内容を含むものと認められるブログ記事を数多く指摘し、「原告個人に向けられたものではなく、在日朝鮮人全体に向けられたものにすぎないから、原告に対する人種差別には当たらない」という被告の主張を排しました。

女性差別については、原告の容姿を揶揄し、性別、年齢等をことさら侮辱するブログ記事が多くあるとし、女性差別に当たる内容を含むものと認められるとし、「対立思想に対する批判又は保守的な政治思想に基づく意見ないし論評にすぎないから、女性差別に当たる内容を含むものではない」という被告の主張を排しました。裁判所は結局、いじめ、脅迫、業務妨害に関しては、そこまでの内容を含むものとは認めませんでしたが、名誉毀損、社会通念上許される限度を超えた侮辱、人種差別、女性差別を認めました。

そして、

被告は、表題に続くレス又は返答ツイートにおいて、D(注:2ちゃんねる)のスレッド又は原告のツイッターに掲載されていたものを単純に引用しただけではなく、引用するレス又は返答ツイートの数を少なくすることにより全体の情報量を減らした上、レス又は返答ツイートの順番を並べ替え、その表記文字を拡大したり色付けしたりするなどの加工を行って強調したことが認められる。
以上のような被告による表題の作成、情報量の圧縮、レス又は返答ツイートの並べ替え、表記文字の強調といった行為により、本件各ブログ記事は、引用元の投稿を閲覧する場合と比較すると、記載内容を容易に、かつ効果的に把握することができるようになったというべきである。

大阪地方裁判所2017年11月16日判決

とし、本件各ブログ記事の掲載行為は、引用元の2ちゃんねるのスレッド等とは異なる、新たな意味合いを有するに至ったというべきであるとして、被告がこれらのブログ記事を掲載した行為は、被告が主張するように「仮に、本件各ブログ記事に名誉毀損、侮辱、人種差別、女性差別、いじめ、脅迫又は業務妨害に当たる内容が含まれているとしても、原告の権利利益は、これらの引用元の投稿の掲載行為により侵害されたのであって、被告による本件各ブログ記事の掲載行為により新たに侵害されたものではない」という弁明を排し、

(被告がブログ記事を掲載した行為は)原告の社会的評価を新たに低下させたものと認められ、また、原告は本件各ブログ記事を閲覧しているから(原告本人,弁論の全趣旨)、被告による本件各ブログ記事の掲載行為により新たに侮辱、人種差別及び女性差別を受けたと認めるのが相当である。

同上

とし、被告がブログ記事を掲載した行為は、「2ちゃんねる」のスレッド又はツイッター上の投稿の掲載行為とは独立して、新たに憲法13条に由来する原告の人格権を侵害したものとし、慰謝料180万円、弁護士費用20万円、合計200万円の支払いを命じました。

「保守速報」は判決を不服として控訴しましたが、控訴審である大阪高等裁判所も1審判決を支持し、最高裁判所もこの判決を支持して上告を棄却しました。これにより、高裁判決が確定しましたが、「まとめサイト」に対しこうした賠償が命じられるのは初めてのこととなりました。

「まとめサイト」によるイラスト無断転載

2018年6月、イラストレーターが、「VIPPER速報」など複数のまとめサイトを無断転載で訴えていた件で、このうちの1つ「ガールズVIPまとめ」との裁判が決着し、東京地方裁判所はサイト運営会社に対し、損害賠償金などを含む約30万円の支払いを命じました。問題になったのは、原告が2014年にツイートしたイラスト3点の無断転載で、これらのイラストは当時多くのサイトに転載されましたが、原告は掲載を許諾していなかったとして、各サイト運営者に対し使用料を請求しました。即座に支払いに応じたサイトもありましたが、「ガールズVIPまとめ」をはじめ、応じなかった4サイトに対しては個別に裁判を起こしていました。

原告が最初にサイト側に連絡を取ったのは2017年6月上旬で、この時点で14のサイトに連絡し、うち6サイトはすぐに請求に応じたため、これを元手に残り8サイトへの対応を弁護士に依頼したといいます。その後は各サイトの運営元に対し内容証明を送付し、さらに4件と示談が成立し、最後まで応じなかった「VIPPER速報」「ガールズVIPまとめ」「腹痛い速報まとねた」「ニュースちゃんねる」の4サイトに対しては、裁判で争うこととなったのです。

「ガールズVIPまとめ」側は、「ツイッターのサービス利用規約上、ツイッターの利用者は、他の利用者(投稿者)が投稿した記事(ツイート)については、ツイート自体を埋め込む方法によって他のウェブサイトに掲載することが認められている。原告は本件各イラストをツイッターに掲載しているから、原告は「第三者が原告のツイート自体を埋め込む方法で他のウェブサイトに掲載することは承諾していたといえる」と主張しましたが、裁判所はこれを、「被告の主張を前提としても、本件における被告の掲載行為が適法となる余地はなく、上記に述べた本件サイトの性質等に照らしても、被告の上記主張は採用することができない」とし、

被告は,原告が著作権を有する本件各イラストを本件サイト上に掲載することによって,本件各イラストに係る送信可能化権(著作権法23条1項)を侵害した。そして,本件各イラストの内容その他認定説示したところによれば,被告には,当該侵害行為につき故意又は少なくとも過失が認められる。
したがって,原告は,被告に対し,民法709条及び著作権法114条3項に基づき,本件各イラストの著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害賠償金の支払を求めることができるというべきである。

東京地方裁判所2018年6月7日判決

として、27万円(1年当たりの使用料3万円×3点×3年分)と弁護士費用3万円、合計30万円の支払いを命じました。「まとめサイト」の無断転載は、以前から問題になっていたのですが、これに対し正面から挑み、請求が認められたという点で画期的な裁判例であると言えます。

なお、残りの3サイトについても、「VIPPER速報」は被告欠席により請求が全面的に認められ、強制執行(差し押さえ)を行う形で全額を回収、「腹痛い速報まとねた」(現在はサイト閉鎖)も一審で勝訴判決を得た後に二審で和解し、「ガールズVIPまとめ」とほぼ同程度の解決金を受け取ったそうです。「ニュースちゃんねる」(個人運営)のみ、結果が不明です。

「まとめサイト」に対する発信者情報開示請求

入ってきたばかりのニュースで詳細は不明ですが、2019年12月3日、36人が犠牲になった京都アニメーション放火殺人事件に絡み、インターネット上の「まとめサイト」に虚偽の内容を掲載されたとして、NHKがサイトのサーバー管理会社に発信者情報開示を求めた訴訟の判決で、大阪地方裁判所が発信者の氏名・住所の開示を命じました。NHKは発信者に損害賠償を請求する方針です。

判決文がまだ公表されていないので、現時点では新聞等の報道によるしかないのですが、発信者はネット上の複数の投稿を編集し、NHKディレクターの実名をあげて「なぜ放火犯の遺留品を回収したのか」とするタイトルを付けたまとめ記事を7月26日に公開しました。記事の中では「警察よりも早く、事件の犯人の遺留品を回収するNHK取材クルー」「NHK共犯説唱えられても仕方ないぞ」などの投稿を掲載したそうです。判決理由では、掲載内容は虚偽だとした上で、NHKが放火事件に関与しているかのような印象を与えるタイトルを付け、投稿内容を編集した発信者の責任を認定し、NHKの社会的評価を低下させたとしているとのことです。

まとめ

「まとめサイト」は、情報を閲覧するユーザーにとって、メリットもあります。1つのサイトで特定のテーマについての情報を手軽に、多く、得ることができます。同じ情報を自分ひとりで集めようとすると様々なキーワードで複数のサイトを調べたりしなければならないため、「まとめサイト」は使い勝手のよいサイトといえるのです。誹謗中傷、虚偽情報、ヘイト発言、著作権侵害などの問題が生じないように運営してもらい、発展してもらいたいものです。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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