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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

2ちゃんねる(2ch.sc)に悪口や誹謗中傷を書いた犯人を特定する方法

風評被害対策

1999年に「ひろゆき」(西村博之)氏の個人サイトとして開設された「2ちゃんねる」は、現在は、「PACKET MONSTER INC,PTE.LTD」(シンガポール法人)が運営する「2ちゃんねる(2ch.sc)」と「Loki Technology,Inc.」(フィリピン法人)が運営する5ちゃんねる(5ch.net)となっています。

2つになっても影響力が弱まったわけではなく、最大規模の匿名掲示板であることに変わりはありません。個人や会社に対する悪口や誹謗中傷が投稿され、名誉毀損やプライバシー侵害等を目にすることもしばしばあります。被害を受けたら早急に対応し、悪質な場合には犯人を特定し、投稿を繰り返させないようにする必要があります。

ここでは、 2ch.scに悪口や誹謗中傷を書いた犯人を特定する方法 について説明します。

発信者情報開示請求が認められる見込みについての事前検討

投稿者を特定するためには、プロバイダ責任法に基づき、発信者情報開示を請求せねばなりませんが、 2ch.scに対して発信者情報開示請求を行うには、前提があり、事前検討が必要です。

2ch.scへの投稿であること

2ch.scは、5ch.netのミラーサイト(コピーサイト)なので、基本的には5ch.netと同じ投稿内容ですが、別途の投稿も可能です。投稿のID表示が「.net」となっていれば5ch.netへの投稿です。

発信者情報開示請求を行う際には、どちらへの投稿であるかを区別し、どちらに請求するかを判断せねばなりません。ID表示が「.net」となっている投稿の削除や発信者情報開示を2ch.scに求めても、意味がありません。

投稿者特定のためにはIPアドレスとタイムスタンプを入手しなければならないのですが、2ch.scは、2ch.scへの投稿のIPアドレスとタイムスタンプしか持っておらず、情報を共有しているわけではありません。これは5ch.netも同様です。どちらへの投稿であるかをまず確かめ、 2ch.scへの投稿の場合のとき、2ch.scに発信者情報開示請求をすることが可能となります。

違法な投稿であること

投稿記事の削除を請求する場合も同じですが、発信者の情報開示を請求するには、投稿記事が違法であることを主張・立証できなければなりません 。「不愉快である」とか「こんな投稿をするのはどんな人なのか知りたい」というような理由で情報開示を請求することはできません。

一般に、インターネット上の違法な投稿により名誉毀損や誹謗中傷を受けた場合、被害者は犯人に対して、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。

ただ、掲示板への投稿は、匿名で行われることがほとんどです。犯人が現実世界のどこの誰なのか、分からないのが通常です。そして、犯人を特定できないとなると、名誉毀損や誹謗中傷を受けた被害者は、犯人に対して損害賠償請求をすることができません。

この不法行為に基づく損害賠償責任を追及するために、訴える相手を特定するために、発信者の情報開示を請求することが認められているのですから、問題とする投稿が違法であるかどうかは、重要なポイントとなります。

例えば名誉毀損の場合、“被害者の社会的評価が低下した”という客観的な事実が前提となります。インターネット上の言論についても表現の自由(憲法21条)は保障されますから、問題の投稿の違法性よりも表現の自由が優越し、問題投稿が違法とはいえない場合もあります。

また、問題の表現行為が表現者の意見表明にとどまる場合、公共性、公益目的性の他、意見の基礎となった事実の重要な部分について真実といえるか、真実と信じたことについて合理的な根拠がある場合には、名誉毀損とはなりません。名誉毀損についての発信者情報開示請求では、この公共性・公益目的性・真実性の有無が争点となることがあります。

名誉毀損が成立するか否か、プライバシー侵害となるのか否か、信用毀損罪は問えないのかといったような、「違法な投稿であること」の見極めは難しいので、個人で判断するのではなく、経験豊かな弁護士の判断を仰ぐことが必要なときもあります。

投稿があまり古いものでないこと

IPアドレスとタイムスタンプを得たら、次に経由プロバイダを訴えます。ソフトバンクのような携帯キャリアやニフティのような固定回線の経由プロバイダは、契約時にユーザーの住所氏名を得ており、また「〇〇日の○○時にあるIPアドレスをどのユーザーに割り当てていたか」という「ログ」を記録しています。

そのため、経由プロバイダを訴えて勝訴すれば、当該投稿を行ったものの住所氏名を開示させることができるのですが、ここで時間的限界が問題となります。このログは膨大な量となるので、経由プロバイダは一定期間で削除することにしており、その期間は携帯キャリアで3か月程度、固定回線プロバイダで1年程度です。

例えば「1か月前の投稿に関して仮処分申し立ての依頼を受け、2週間で書類を整えて2ch.scに仮処分を申し立て、反論してきたので2週間かかり、その1週間後に2ch.scからIPアドレスとタイムスタンプを開示された」とすると、もう時間はほとんど残っていません。

投稿があまり古いものであるとログが消えてしまうので、犯人を特定するのに間に合わなくなってしまう可能性が生じます。

ステップ1:2ch.sc へのIPアドレス等開示請求

投稿者を特定する最初のステップは、2ch.sc に対するIPアドレスとタイムスタンプの開示請求です。IPアドレスとは、インターネットに接続している端末が固有に持っている「インターネット上の住所」であり、タイムスタンプとはWebサイトに記事の投稿をした時刻に関する記録です。

2ch.scは匿名掲示板です。したがって、2ch.scの運営者は、ある投稿を行った投稿者の住所や氏名を知りません。仮に「投稿者の住所や氏名を開示せよ」と求めても、「情報を持っていないので開示できない」となってしまいます。しかし、2ch.scは投稿を行った者のIPアドレスとタイムスタンプを記録しています。そこで、2ch.scに対して発信者情報開示請求を求めるのです。

まず、最初に2ch.scに「発信者情報開示請求書」を提出することが通常ですが、実際には発信者情報開示請求書を送っても、2ch.scから投稿者の特定に必要なIPアドレスなどの情報が開示されることはほとんどありません。これは、2ch.scにも投稿者の秘密を守る義務があるためです。2ch.scとしては、「裁判所の命令がなければ開示できない」という対応をするケースがほとんどです。

そこで、「発信者情報開示請求書」の発送と並行して、2ch.scに対して投稿者のIPアドレスとタイムスタンプの開示を求める「仮処分」と呼ばれる裁判を起こす準備を進めることが必要になります。

「発信者情報開示仮処分命令申立」は、「発信者情報開示請求書」を2ch.scに送っても2ch.scがIPアドレスとタイムスタンプを開示しなかった場合に、裁判所から2ch.scに対して開示に応じるように命じる決定(「仮処分」といいます)を出してもらう手続です。

2ch.scの運営はPACKET MONSTER INC,PTE.LTDというシンガポール法人ですが、仮処分手続は東京地方裁判所で行える ので、順調にいけば「約1か月」で、裁判所から仮処分を出してもらい、2ch.scからIPアドレスとタイムスタンプの開示を受けることができます。

仮処分が出れば、2ch.scは速やかにIPアドレスとタイムスタンプを開示してくれます。

なお、「海外法人相手の裁判所手続」の場合、書面や証拠等の英訳が必要となり、当該外国法人の登記取得が必要となるため、別途に経費が必要となる場合があります。

ステップ2:経由プロバイダの特定

ステップ1でIPアドレスが開示されたら、URLを見て、もしくは「WHOIS」等のプロバイダ特定サービスを用いて、発信者が使用した経由プロバイダを割り出します。

2ch.scは、いわゆる「荒らし」が多い、匿名性の高い回線、つまり海外のプロキシサーバーや公衆無線LANなどをブロックしています。

また、会社の場合、会社内から2ch.scへのアクセスを仕事に関係のないサイトへのアクセスとして禁止しているケースも多いので、2ch.scは、匿名性の高い回線や会社回線からの投稿が少なく、自宅や個人携帯電話の回線からの投稿が多いサイトであると言えます。

ステップ3:ログの削除禁止の申し立て

経由プロバイダは、〇月〇日〇時〇分に当該IPアドレスを用いた契約者の住所氏名というログを保持しています。したがって次は経由プロバイダに住所氏名の開示を求めれば良いのですが、上でも記したように、経由プロバイダは、無期限にはログを保持していません。そこで、経由プロバイダを相手に、「当該ログの削除を禁止せよ」という命令を出すために、新たな裁判所手続を用いる必要が生じます。

この手続を「発信者情報消去禁止仮処分命令申立」といいます。この手続きは経由プロバイダの本社所在地を管轄する裁判所で行う必要があります。多くの場合、東京地方裁判所になります。順調にいけば2週間ほどで、裁判所から、経由プロバイダに対して、投稿者の特定に必要な記録の消去を禁止する命令を出してもらうことができます。

ただし、実際のところ、多くの経由プロバイダは、「今から裁判所を通じて住所氏名開示を求めるので、しばらくログを消さずに保存しておいて欲しい」という通知を出せば、ログを保全しておいてくれます。したがって、この部分は通知のみで足りるケースが多いのですが、このときにも、対象とする投稿がどのように違法なのか、という主張・立証は必要となります。

ステップ4:経由プロバイダへの住所氏名等開示請求

経由プロバイダがログを保全してくれた場合、次に、 経由プロバイダに対して、投稿者の住所氏名開示を求めます この部分は、迅速な仮処分ではなく、正式な裁判手続となります。

住所氏名は、もちろん重大な個人情報です。例えば、仮に2ch.scで、ある会社を「ブラック企業」と投稿したとしても、その投稿には十分な根拠があり、当該投稿は違法ではなく、その投稿者の個人情報は守られるべきなのかもしれません。そうした問題意識に立つので、裁判所は正式な手続で違法と認めた場合に限り、住所氏名の開示を認めるのです。

この手続きも、経由プロバイダの本社所在地を管轄する裁判所で行う必要がありますが、経由プロバイダのほとんどは本社が東京にあるので、多くの場合、東京地方裁判所になります。地方在住の人にとっては面倒になってしまいます。

裁判所が「投稿記事により権利が侵害された」と判断し、民事上の損害賠償請求権の行使に必要であるため等の「正当な理由がある」と判断すれば、裁判所から経由プロバイダに対して、記事投稿の際に利用された契約者の住所氏名等を開示することを命じる内容の判決が出されます。そして、判決に基づき、住所氏名等の開示を受けることにより、投稿者を特定することができます。

まとめ

名誉毀損や誹謗中傷をする投稿が削除されたとしても、別のサイトや掲示板等に次々と同じ内容の投稿が行われるようなケースが、実際問題として多くあります。そういう場合、個別の書き込みを削除するだけでは、被害者の損害回復はできないことになります。

犯人の特定を行い、きちんとペナルティを科すという方法をとれば、事件の再発を効果的に防ぐことができ、それによって発生する無駄なコストを省くことも可能となります。

早い段階で専門の弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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