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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

労働者派遣基本契約書作成のポイントについて弁護士がわかりやすく解説

IT企業は労働者派遣を受ける機会が比較的多い業種です。労働者派遣基本契約書のひな型は比較的定型的なものではありますが、多くの条項は労働者派遣契約法に基づいたものです。したがって、労働者派遣基本契約書を作成するためには労働者派遣契約法の基礎的な知識が欠かせません。

そこで、労働者派遣基本契約書における典型的な条項例を取りあげつつ、関連する労働者派遣契約法についても解説します。

労働者派遣契約とは

労働者派遣とは、労働者が派遣会社(派遣元)と労働契約を締結した上で、実際に指揮命令を受けて働く別の会社(派遣先)に派遣される仕組みです。出向・派遣・準委任・請負・偽装請負・労働者供給の区別に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

派遣労働においては、雇用契約を締結している会社と実際に指揮命令を受けて働く会社が異なる点に大きな特徴があるといえます。また、派遣労働者と派遣先企業との間には、契約関係が存在しない点も留意しておく必要があります。

以前は労働者派遣には、登録型といわれる「特定労働者派遣事業」と、常用型といわれる「一般労働者派遣事業」の2種類があり、前者は許可制、後者は届出制となっていました。しかし、2015年施行の改正労働者派遣法によりこの区別は撤廃され、現在はすべての労働者派遣業が許可制となっています。

なお、かつて若年層を中心に利用が目立った日雇い派遣については、社会問題となったことを契機に法改正が行われ、現在は原則禁止とされています。

また、派遣と似て非なるものとしてIT業界で問題となりやすい偽装請負に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

労働者派遣基本契約書のポイント

派遣元が派遣先に対して労働者を派遣する際、派遣元と派遣先との間で労働者派遣基本契約書を締結した上で、個別の派遣業務に関して個別契約を締結するということが一般的です。ここでは、労働者派遣基本契約書のポイントについて解説します。なお、以下の条項例の中で「甲」は派遣先、「乙」は派遣元を指しています。

個別契約に関する条項

甲及び乙は、乙が甲に労働者派遣を行う都度、派遣労働者の従事する業務内容、就業場所、就業時間、その他労働者派遣に必要な細目について労働者派遣法第26条第1項に規定する労働者派遣契約(以下「個別契約」という。)を締結する。

労働者派遣契約とは、「契約の当事者の一方が、相手方に対し労働者派遣することを約する契約」(労働者派遣法第26条第1項)をいいます。労働者派遣契約は派遣元会社と派遣先会社との間で締結されるものです。

多くの場合に、派遣元と派遣先との間では労働者派遣に関する基本契約を締結した上で、個々に労働者派遣をする際に個別に就業条件等を個別契約で定めることが行われています。労働者派遣法第26条にいう労働者派遣契約は、基本契約ではなく個別契約の方を指している点に注意する必要があります。

個別契約において定めるべき事項は法定されています。以下は一例ですが、個別契約において定める事項は多岐にわたっています。

  • 派遣労働者が従事する業務の内容
  • 派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事する事業所の名称及び所在地その他労働者派遣に係る派遣労働者の就業の場所
  • 労働者派遣の役務の提供を受ける者のために、就業中の派遣労働者を直接指揮命令する者に関する事項
  • 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日
  • 派遣就業の開始及び終了の時刻並びに休憩時間、安全及び衛生に関する事項

派遣受け入れ期間に関する条項

甲及び乙は、事業所その他派遣就業の場所(以下「事業所等」という。)ごとの業務について、派遣可能期間の3年を超える期間(ただし、意見聴取手続により延長された場合はその期間。)、継続して労働者派遣(期間制限の対象外となる労働者派遣(労働者派遣法第40条の2の第1項各号に該当するもの。)を除く。)を受け入れ又は派遣しないものとする。

2015年に施行された改正労働者派遣法において、一人の派遣社員が派遣先の事業所に対して派遣される期間を、原則3年以内とするルールが設けられました。この派遣受け入れ期間に関するルールは、具体的には以下の2つの内容を含みます。

  • 派遣先と同一の組織単位において、3年を超えて同一の派遣労働者を継続して受け入れできない
  • 派遣先の同一の事業所において、3年を超えて労働者派遣を継続して受け入れできない

ただし、派遣先は派遣期間が終了する1か月前までに、当該事業所の過半数労働者組合等(過半数労働組合又は過半数代表者)から意見を聴取することにより3年の派遣可能期間を延長することは可能です。

本条項は、この派遣受け入れ期間に関する労働者派遣法の規制に対応して定められたものです。

金銭の取り扱い、自動車の使用に関する条項

甲が、派遣労働者に現金、有価証券、その他、これに類する証券及び貴重品の取扱いをさせ、又は自動車を使用した業務その他特別な業務に就労させる必要がある場合には、甲の管理監督責任のもと甲乙間で別途必要な取り扱いを定める。

派遣社員が派遣先企業において金銭を取り扱うこと、自動車を使用することについては派遣先の業務上必要となる場合には別途合意する扱いが一般的です。

派遣社員が金銭や貴重品を扱わせると、当該派遣社員が金銭等を紛失した場合には派遣元が損害賠償性責任を負うことがあります。また、自動車の使用に関しても、運転中に交通事故を起こした場合には同様に派遣元が損害賠償責任を負う可能性があります。

このため、派遣元としては派遣社員の金銭の取り扱いと自動車の使用を原則禁止としつつ、必要がある場合に個別の合意で許容する扱いが行われています。

適正な就業の確保に関する条項

1.甲は、派遣労働者に対し、労働基準法等の諸法令並びに本契約及び個別契約に定める就業条件を守って派遣労働者を労働させるとともに、当該派遣就業が適正かつ円滑に行われるようにするため、セクシャルハラスメントの防止等に配慮するとともに、診療所、給食設備等の施設で派遣労働者の利用が可能なものについては便宜の供与に努める。
2.甲は、乙が行う派遣労働者の知識、技術、技能等の教育訓練及び安全衛生教育並びに派遣労働者の自主的な能力開発について可能な限り協力するほか、派遣労働者と同種の業務に従事する甲の労働者に対する教育訓練等については、派遣労働者もその対象とするよう便宜を図るよう努める。

派遣先がセクシャルハラスメント等を防止する配慮をすることや、派遣先企業の社員と同等の教育訓練等を受けさせるよう図ることなどが、あわせて労働者派遣基本契約書に定められることがあります。

労働者派遣法第40条において、派遣先企業は派遣社員の適切な就業環境の維持等に努める義務が定められています。具体的には、派遣社員から就業に関して苦情申し出を受けた場合には、派遣元に通知するとともに苦情の処理を行う必要があります。また、派遣先はセクシャルハラスメントの防止等を含む適切な修行環境の維持等に努める必要があります。条項例の第1項は、このようは派遣先企業に課せられた義務を労働者派遣基本契約書においても確認的に定めるものです。

また、労働者派遣法第40条においては、派遣社員を受け入れる派遣先企業は、教育訓練や福利厚生等に関して派遣先企業の社員と同等とするよう配慮すべきこととされています。条項例の第2項は、このような派遣先の義務に対応するものです。

時間外労働等に関する条項

甲は、派遣労働者に対し、労働基準法第36条に基づき乙により届けられた協定(36協定)の範囲内でかつ個別契約の定めに基づき、時間外及び休日の就業を命ずることができる。

労働者派遣において、派遣先における派遣社員の就業条件に関しては、派遣元と派遣先の間で締結される労働者派遣契約書で定められます。多くの場合に、労働者派遣基本契約書には抽象的事項のみが定められ、具体的内容は個別契約で定められることになります。

派遣先は労働者派遣契約において定められた就業条件を遵守する必要があります。また、労働基準法上の時間外労働や、休憩、休日に関する義務に関しても派遣先が責任を負うこととされています。

労働基準法上、労働者に1日8時間、1週40時間を超える時間外労働をさせる場合には、いわゆる36協定の届出が必要とされています。労働者派遣において、36協定の届出などの負担を負うのは派遣元ですが、実際に時間外労働等の管理をする責任を負うのは派遣先である点に注意が必要です。

損害賠償に関する条項

派遣業務の遂行につき、派遣労働者が故意又は重過失により甲又は第三者に損害を与えた場合は、乙は甲に賠償責任を負うものとする。ただし、その損害が、指揮命令者その他甲が使用するもの(以下「指揮命令者等」という。)の派遣労働者に対する指揮命令等(必要な注意・指示をしなかった不作為を含む。)により生じたと認められる場合は、この限りではない。

派遣労働者が、派遣労働に関して派遣先企業や顧客など第三者に損害を発生させた場合には、損害賠償責任の所在が問題となることがあります。条項例では、原則として派遣元が損害賠償責任を負うとしつつ、派遣先の指揮命令等が原因である場合には、派遣先の損害賠償責任を負わないか又は負担割合を減らすことを想定しています。

また、金銭の取り扱いや自動車の使用などを派遣社員が行う場合には損害賠償額が過大になりやすいため、損害賠償額の上限を定めておくことも有効です。

まとめ

労働者派遣基本契約書に関しては、多くの条項が労働者派遣法に基づいて規定されています。労働者派遣法は頻繁に改正されるため、常に最新の法律を確認することが大切です。特にIT業界では労働者派遣がよく行われていますので、労働者派遣に関する法律の基本的な部分は把握しておく必要があるでしょう。

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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