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バーチャルオンリー株主総会が可能に 「場所の定めのない株主総会」の新制度を解説

バーチャルオンリー株主総会

近年では、株主を大々的に会場に集めて行う株主総会を開催しづらい状況になっています。そこで、会場とインターネットでの配信を併用して株主総会の決議を行うハイブリット型のバーチャル株主総会が多くの会社で導入されています。

「バーチャルオンリー株主総会」とは、このハイブリット型をさらに一歩進め、会場を定めずにインターネット配信のみで実施する株主総会をいいます。

この記事では、バーチャルオンリー株主総会の実施要件や実際の進め方について解説します。開催の注意点にも触れますので、自社がリアル、ハイブリット、バーチャルオンリーのどの方法で株主総会を行うべきかを検討する際の参考にしてみてください。

バーチャルオンリー株主総会とは

バーチャルオンリー株主総会とは

バーチャルオンリー株主総会とは、特定の会場を用意せず、インターネット配信のみで株主が株主総会に出席する仕組みです。ただし、これまでの会社法上では株主総会の開催に物理的な場所が必要とされるため、実現不可能とされていました。

株主総会の4つの分類

経済産業省が2020年6月に打ち出した「ハイブリット型バーチャル株主総会の実施ガイド」では、株主総会を以下の4つに分類しています。

  1. リアル株主総会
  2. ハイブリット参加型バーチャル株主総会
  3. ハイブリット出席型バーチャル株主総会
  4. バーチャルオンリー型株主総会

2.のハイブリット参加型バーチャル株主総会は、リアル株主総会の内容をオンライン上で傍聴可能とする株主総会です。ただし、傍聴する株主は株主総会に出席したとはみなされません。

3.の方法では、2.を一歩進め、オンライン上での傍聴でも会社法上の「出席」扱いとすることが可能となります。

4.のバーチャルオンリー型株主総会は、オンライン上でのみ株主総会を開催する方法であり、これまでの会社法上は開催不可能とされていました。

会社法の規定と制度実施の背景

2020年以降、大勢の株主が集合する状態を避けるため、会社法の解釈によって2.や3.のハイブリット型株主総会を開催する会社が増加しました。

つまり、物理的な会場を設けて総会を開催する一方、株主に出席自粛を要請し、議決権を事前行使するよう求めたのです。

しかし、これまでの会社法上では、株主総会はあくまでも物理的な場所を定めて開催する必要があったため、4.のバーチャルオンリー株主総会は、法改正なしでは実施不可能とされていました。

産業競争力強化法による会社法の特例

以上のような背景があり、2021年6月に施行された「産業競争力強化法」の一部改正によって、一定の条件をクリアした場合に限り、バーチャルオンリー株主総会の開催が可能となりました。

バーチャルオンリー株主総会には、以下のようなメリットがあります。

  • 遠隔地の株主が参加しやすい
  • 会場の確保が不要で運営コストを低減できる

バーチャルオンリー株主総会の開催要件

バーチャルオンリー株主総会を開催するには、以下の4つの要件を満たす必要があります。

  1. 上場会社であること
  2. 「省令要件」該当性について、経済産業大臣および法務大臣の「確認」を受けること
  3. 株主総会の特別決議による定款変更によって、定款規定を設けること(経過措置あり)
  4. 招集決定時に「省令要件」に該当していること

以下で、詳しく解説します。

「省令要件」該当性についての確認

バーチャルオンリー株主総会を開催するためには、以下の「省令要件」すべてに該当し、そのことにつき経済産業大臣および法務大臣の確認を受ける必要があります。

<省令要件>

  1. 通信の方法に関する事務の責任者の設置
  2. 通信の方法に係る障害に関する対策についての方針の策定
  3. 通信の方法としてインターネットを使用することに支障のある株主の利益確保に配慮することについての方針の確定
  4. 株主名簿に記載・記録されている株主の数が100人以上であること

株主は会社のオーナーであるため、通信障害による株主総会参加への阻害はあってはならない事態です。そのため、万が一の状況に備えて通信障害への対策をとり、責任者を設けておかなければなりません。

全ての株主の利益を保護するためにも、インターネットに明るくない株主の利益確保に配慮した方策を講じておくことも必要です。また、株主が少数であればバーチャルオンリー株主総会を開催する必要性は低いため、この制度は100人以上の株主がいる会社を対象としています。

バーチャルオンリー株主総会開催のための定款変更

バーチャルオンリー株主総会を開催するには、「場所の定めのない株主総会」を開催できる旨の定款変更をしなければなりません。

ただし、定款変更には株主総会の特別決議が必要です。株主総会の特別決議は議決権の3分の2をもつ株主が参加し、出席した株主の議決権のうち過半数の賛成を得なければなりません。ただし、上場会社では2021年6月16日施行後2年間は定款の定めがあるものとみなす経過措置がとられています。 

バーチャルオンリー株主総会実施方法

以下で、具体的なバーチャルオンリー株主総会の実施方法について解説します。

株主総会の招集方法

まずは、株主総会を場所の定めのない株主総会とすること、書面による事前議決権行使の採用、通信の方法、事前行使と当日行使が重複した場合の取り扱いなどを取締役会の招集決議にて決定します。

実際の招集通知には、会社法第299条第4項の招集決定事項に加え、以下の事項を記載し、株主に対して発送します。

  1. 書面による事前の議決権行使を認めること
  2. 通信の方法
  3. 事前決議行使と当日決議行使の重複行使があった場合の取り扱い
  4. バーチャルオンリー株主総会への出席方法(URL、ID、パスワードなど)
  5. 通信障害への対策方針
  6. デジタルに対応できない株主への配慮方針

株主総会の議事進行

実際のバーチャルオンリー株主総会の議事進行は、リアルの総会と大きくは変わりません。招集通知に記載した特設のウェブサイト内でライブ配信し、質問や動議提出、または議決権行使ができるシステムを準備します。

決議は、当日の議決権行使システムによる集計と、事前行使分の集計データを統合して採決をします。この方法により、採決の速報値を株主総会当日に報告することも可能になるでしょう。

バーチャルオンリー株主総会開催の注意点

バーチャルオンリー株主総会開催の注意点

バーチャルオンリー株主総会を開催することで、実際の会場を抑える手間とコストが削減できます。一方で、以下のような点に注意が必要です。

定款変更みなし規定の経過措置は2年

上場会社は2021年6月16日の制度施行以降、2年間はバーチャルオンリー株主総会を実施できる旨の定款変更があったものとみなされます。しかし、このみなし規定は2年間の経過措置です。

また、バーチャルオンリー株主総会を開催する旨の定款変更は、バーチャルオンリー株主総会では決議できません。そのため、定款変更のために、一度はリアルの株主総会を開催し、特別決議によって可決しなければなりません。

株主総会の特別決議には、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主議決権の3分の2以上の同意が必要です(会社法第309条第2項)。

通信障害に対する実務的な対策が必須

バーチャルオンリー株主総会を実施するうえで、通信障害への対策や発生した際の対応は、現実的なリスクとなりえるでしょう。通信障害の発生したタイミングによっては、決議の取消事由となってしまいます。

通信障害の対策として、あらかじめ通信回線を増強しておく、バックアップを用意する、または予備日を設定しておくなどの方法を講じておく必要があります。

また、延期・続行の議長一任決議(産業競争力強化法第66条第2項)をしておけば、通信障害が発生した際、議長がその権限により延期・続行を速やかに決定できます。

まとめ:バーチャルオンリー株主総会の開催は弁護士に相談を

バーチャルオンリー株主総会が可能になることによって、会社側としては手間やコストが軽減され、株主側も遠方から出席する時間と費用をカットできるなどの利点があります。

ただし、その実施のためには、あらかじめ定款の変更や通信障害への対応、デジタルに対応できない株主への配慮など、さまざまな準備をしなければなりません。

バーチャルオンリー株主総会の開催は、会社法だけでなくシステムトラブルなどにも詳しい弁護士に相談しながら準備を進めましょう。

関連記事:株主総会資料の電子提供制度とは?2022年施行の改正会社法のポイントを解説

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。近年、バーチャルオンリー株主総会は注目を集めており、その開催プロセスのリーガルチェックの必要性は増加しています。当事務所ではIT・ベンチャーに関するソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

モノリス法律事務所の取扱分野:IT・ベンチャーの企業法務

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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