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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

キャッチフレーズ・見出しなど短い言語表現の転載は著作権侵害か

IT・ベンチャーの企業法務

キャッチフレーズ・見出しなど短い言語表現の転載は著作権侵害か

ある個人が記載した文章や撮影した写真には、「著作権」が発生します。そして、他人が著作権を有する文章や写真を無断転載すると、著作権侵害となってしまいます。ただ、これは言い方を変えれば、誰かが最初に書いた文章は、その文章に著作権が発生すると、その人「だけ」のものになってしまう、ということです。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という文章が「川端康成のもの」になるのは、特に問題がないかもしれませんが、しかし例えば、「今日は晴れだ」という文章に著作権が認められてしまい、他の人は「今日は晴れだ」と書くことができなくなってしまう、というのは、明らかに不都合です。

法律上、これは、「著作物の範囲」「著作物性」の問題、と扱われます。著作権法第2条第1項第1号は、著作物について、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」という定義を置いています。これに該当するものは「著作物性」を認められて「著作物」であるとされ、そうした著作物には著作権が発生し、それを創作した者が、当該著作権を有する「著作者」(同第2号)と認められる、という建付です。

では、キャッチフレーズや見出しなど、短い言語表現は、どこから「著作物」と認められるのでしょうか。

著作物の範囲

まず、文章に関する裁判ではないのですが、「著作物」を巡る、興味深い裁判例が存在します。

『ラストサムライ』等で海外進出を果たした映画俳優真田広之が若い頃、彼を被写体とするブロマイドを巡って、ブロマイド写真に著作物であるか否かを争った裁判がありました。裁判所はブロマイドの写真に著作物性を認めたのですが、その判決文では、

本件写真は被告の営業として販売する意図のもとに製作されたものの、撮影者の個性、創造性を窺うことができ、証明書用の肖像写真のように単なるカメラの機械的作用によって表現されるものとは異なり、写真著作物というに妨げない。そして、その著作権は、使用者たる被告に帰属するというべきである。

東京地方裁判所1987年7月10日判決

とされており、「証明書用の肖像写真」でもなければ、著作物性が認められるようです。最近も、女性が自身の両脚を撮影した2枚の自撮り写真がネット掲示板に無断転載されたことから、著作権及び著作者人格権を基に発信者情報開示を請求し、認められた事案があります(東京地方裁判所2019年2月28日判決)。

では、言語表現においては、小説・戯曲・詩・短歌・俳句・評論・学術論文などは、当然のこととして著作物性が認められてきましたが、これら以外の様々な言語表現、とりわけ短い言語表現においては、著作物性は認められるのでしょうか。言語表現における著作物性の範囲は、どの程度までなのでしょうか。気づかずに著作権侵害をしてしまわないように、また著作権侵害をされたら速やかに対応できるように、言語表現における著作物性の範囲を知っておきましょう。

絹織物の説明文の場合

正倉院に伝わる古代裂や前田家に伝わる名物裂を忠実に復元して、先染め絹の高級織物を製造販売していた原告の製品の酷似製品を被告が製造販売し、原告商品と誤認混同を生じさせたとして、原告が不正競争防止法に基づく差止請求を提起した事例があります。

この請求は認容され、被告に販売差し止めと賠償金の支払いが命じられたのですが、原告は、第四商品につき、原告による説明書目録記載の説明文添付していました。被告は第四製品の類似品の販売に際し説明文を印刷した説明書を添付していたのですが、この説明文が原告のものに極めて類似しているとして、原告はこれを著作権侵害としても訴えていました。

これに対し、裁判所は、

原告美術織物が原告第四製品を説明するため原告説明文を使用していることは当事者間に争いがない。しかしながら、原告説明文は、同製品の図柄・模様を客観的に解説するものに過ぎず、原告美術織物の同製品に関する思想・意図などを創作的に表現したものとは認められず(要するに、織物商品としての創作性以外に原告説明文に独自の創作性があるとはいえない)、著作権法の保護を受けるような著作物とは言い難いから、著作権侵害を根拠とする原告美術織物の本訴請求は失当である。

京都地方裁判所1993年2月18日判決

として、説明文の著作物性は認めず、著作権侵害は認容しませんでした。

原告による絹織物の説明文は、製品を客観的に解説するに過ぎず、同製品に関する思想・意図などを創作的に表現したものとは認められないから、独自の創作性があるとは言えないという判断です。著作権法は、著作物の定義を、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定めています(著作権法第2条1項1号)。
この規定によると、著作物性が認められるためには、①思想又は感情、②創作性、③表現、④文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属すること、の4つの要件を充足することが必要になるわけですが、原告による絹織物の説明文はこの要件を満たしていないという判断です。

模型飛行機の組立説明書の場合


模型飛行機等を製造販売する会社が、自社の商品形態と同一か又は類似しており、原告商品と混同を生ずる2つの商品を販売しているとして、被告会社の商品の販売停止等を求めた事例があります。

裁判所は、その商品形態が出所表示機能を有していることを前提として、不正競争防止法に基づく類似商品の販売等の差止め請求と在庫商品の廃棄を認め、財産上の損害と被告会社が劣悪品を販売したことにより原告会社が被った信用毀損による損害賠償金も認めたのですが、この裁判では、原告会社は飛行機の組み立て部材に同梱していた説明書が被告会社により複製されているとして、著作権法違反でも訴えていました。

これについて裁判所は、

原告としては、詳細で分りやすい説明書を作成する企画を立て、掲載する写真の撮影方法、掲載枚数、説明文の文章の簡潔化、明確化等の点について種々工夫する、舵角の調整等飛行方法など関連事項についても適切にコメントするなどの点に配慮し、時間をかけて右説明書を作成したことが認められる。そして、原告説明書は、表現の形式ないし仕方に独自性があり、いずれもその著作者の思想を創作的に表現したものであって学術の範囲に属するものであり、著作権法2条1項10号にいう著作物にあたると認めることができ、原告はその著作者であり、同時に著作権者であるというべきである。

1992年大阪地方裁判所7月23日判決

と、著作物性を認め、これを前提として、

著作物の複製とは、原著作物を印刷等の方法により有形的に再製することであるが、多少の修正増減があっても原著作物の同一性を変じない限り、同一物の複製にあたると解されるところ、被告説明書は、最初に創作された原告説明書に前示のような多少の修正増減を加えたに過ぎず、著作物の同一性を失っていないものと認められるから、前者は後者の複製物にあたることは明らかである。

同上

と、被告説明書が原告説明書の複製にあたるとして、著作権侵害を認めました。商品の組み立て説明書であっても、「表現の形式ないし仕方に独自性があり」、「その著作者の思想を創作的に表現したものであ」るなら、著作物と認められるという判断です。

商品のキャッチフレーズの場合

商品に使用されているキャッチフレーズが、著作物にあたるかどうかを争った事例があります。

1審の原告敗訴を受けた控訴審で、控訴人は自社の商品「スピードラーニング」に使用されている控訴人各キャッチフレーズの著作権侵害又は不正競争を構成するとして、被控訴人に対し、キャッチフレーズの複製、公衆送信、複製物の頒布の差止めを求めました。

控訴人は、一般論としてキャッチフレーズのような簡略で短いフレーズの多くは著作物として保護されないと言われることを認めつつ、創作性の有無は思想・感情の創作的表現であるか否かにあり、その本質は長さの点にはないとし、俳句の例(17字です)からも明らかなように、短い表現であるからといって、キャッチフレーズという一つのカテゴリーとして一律に創作性を否定することはできない。創作性の有無は、問題となる具体的表現内容に即して表現ごとにケースバイケースで判断されるべき問題である、と主張しました。特に、被控訴人のキャッチフレーズ3は、控訴人キャッチフレーズ2と完全に同一のデッドコピーなのですから、一定の説得力がある主張です。

これに対し裁判所は、広告におけるキャッチフレーズは、商品や業務等を的確に宣伝することが大前提となり、紙面や画面の制約等から簡潔な表現が求められ、必然的に字数制限を伴うとし、こういう場合には,

そのような大前提や制限がない場合と比較すると、一般的に、個性の表れと評価できる部分の分量は少なくなるし、その表現の幅は小さなものとならざるを得ない。さらに、その具体的な字数制限が、控訴人キャッチフレーズ2のように、20字前後であれば、その表現の幅はかなり小さなものとなる。そして、アイデアや事実を保護する必要性がないことからすると、他の表現の選択肢が残されているからといって、常に創作性が肯定されるべきではない。すなわち、キャッチフレーズのような宣伝広告文言の著作物性の判断においては、個性の有無を問題にするとしても、他の表現の選択肢がそれほど多くなく、個性が表れる余地が小さい場合には、創作性が否定される場合があるというべきである。   

知的財産高等裁判所2015年11月10日判決

として、著作物性を認めませんでした。

判決では、

劇的に学習効果が現れる印象を与えるための「ある日突然」という語句の組合せの利用や、ダイナミックな印象を与えるための「飛び出した」という語句の利用に関しても、上記アイデアを表現する上で一定の副詞や動詞を使用することは不可欠であるから、他の表現の選択肢はそれほど多くないといわざるを得ない。

同上

としているのですが、控訴人キャッチフレーズ2と、それに対応する被控訴人キャッチフレーズ3とは、

  • 控訴人 キャッチフレーズ2:ある日突然、英語が口から飛び出した!
  • 被控訴人キャッチフレーズ2:ある日突然、英語が口から飛び出した!

なのですから、「スピードラーニング」側は、不満だったことでしょう。なお、控訴人キャッチフレーズ1と、それに対応する被控訴人キャッチフレーズ1も、

  • 控訴人  キャッチフレーズ1:音楽を聞くように英語を聞き流すだけ
  • 被控訴人 キャッチフレーズ1:音楽を聞くように英語を流して聞くだけ

でした。

ニュース報道の記事見出しの場合

ニュース報道の記事見出しが著作物にあたるか否かを争った事例があります。

読売新聞社は、自社のホームページ「Yomiuri On-Line」にニュース記事及びその記事見出し(以下「YOL見出し」という)を掲出しており、Yahoo!と、原告がYahoo!に対し、「Yomiuri On-Line」の主要ニュースを有償で使用許諾する内容の契約を締結しており、「Yahoo!ニュース」には原告のYOL見出しと同一の記事見出しが表示されていました。

被告は「ライントピックス」と称する被告サイトにおいて、「Yahoo!Japan」上のニュース記事にウェブページへのリンクを貼り、そのリンクボタンの多くは上記ニュース記事の「見出し」語句と同一の語句を使用していました。

そこで、原告は、被告がウェブサイト上で「被告リンク見出し」を表示することは、原告の著作物の複製権侵害であるとともに、被告がユーザーに対して、「被告リンク見出し」を送信することは、著作物の公衆送信権侵害であるとして、上記行為の差止めおよび損害賠償を求めて、東京地方裁判所に訴訟を提起したのですが、棄却されたので、控訴しました。控訴審において裁判所は、

一般に、ニュース報道における記事見出しは、報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか、使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して、表現の選択の幅は広いとはいい難く、創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり、著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる。
しかし、ニュース報道における記事見出しであるからといって、直ちにすべてが著作権法10条2項に該当して著作物性が否定されるものと即断すべきものではなく、その表現いかんでは、創作性を肯定し得る余地もないではないのであって、結局は、各記事見出しの表現を個別具体的に検討して、創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものである。   

知的財産高等裁判所2005年10月6日判決

として、問題となった365個の見出しについて検討を加え、何れも著作物として保護されるための創作性を有するとはいえないとして、著作物性を認めませんでした。なお、著作権法10条2項は、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。」です。

しかし、一方で裁判所は、「不法行為(民法709条)が成立するためには、必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず、法的保護に値する利益が違法に侵害がされた場合であれば不法行為が成立するものと解すべきである」として、

本件YOL見出しは、控訴人の多大の労力、費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したものといえること、著作権法による保護の下にあるとまでは認められないものの、相応の苦労・工夫により作成されたものであって、簡潔な表現により、それ自体から報道される事件等のニュースの概要について一応の理解ができるようになっていること、YOL見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている実情があることなどに照らせば、YOL見出しは法的保護に値する利益となり得るものというべきである。   

同上

として、不法行為の成立を認め、被控訴人の損害賠償責任を認めました。

著作物性までは認められないものの、多大の労力や費用をかけて作成され、有償取引の対象となっている経済的価値のある情報を、第三者が無断で利用した場合、どのように評価すればよいのかという問題です。
この点につき、本件は不法行為の成立を認めたものですが、著作物性が認められなくても、経済的価値が認められる情報に対する法的保護の問題を検討するうえで、重要な裁判例であると言えるでしょう。

まとめ

表現の形式ないし仕方に独自性があり、その著作者の思想を創作的に表現したものであるなら、著作物にあたると認められます。上の条件を満たすのなら、模型飛行機の組み立て説明書にも著作物性が認められるのですが、短い言語表現の著作物性が肯定されるのは必ずしも容易ではないものと考えられます。ただ、著作物性が認められなくても、経済的価値が認められる情報に対しては法的保護が与えられる可能性があります。著作物にあたると言えるのか否か、もし言えない場合には何らかの権利を主張できるのか否かは、たいへん難しく、専門的な知識が必要となる場合があります。意図せずに他者の著作権等を侵害しているかもしれませんし、あなたの権利を侵害されているかもしれません。疑問を持った場合には、豊富な経験を持つ弁護士に相談しましょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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