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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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商標権侵害とは?違法性判断の枠組みを解説

商標権侵害とは?違法性判断の枠組みを解説

自社の商品や商材について、商標権を取得すれば、所謂「パクリ」を防ぐことができます。

ただ、商標権とは、例えば「『ディズニー』と言うなという権利」ではありません。商標権によって禁止されるのは、あくまで「商標的使用」に限られます。ディズニーの例で言えば、第三者が「ディズニーアイランド」という施設を作ると、実際にはディズニーと関係のないものであったとしても、ディズニー公式の施設であるように見えてしまいます。商標権とは、こうした態様の使用(後述するように「商標的使用」と呼ばれます。)を禁止する権利です。

インターネット上での、例えばECサイトやコーポレートサイトでの「商標」の使用を、商標権者はどこまで禁止できるのでしょうか。過去の事例を参考に解説していきます。

商標権によって禁止される商標的使用とは

指定商品等の限定はありますが、商標権者には登録商標の独占的な使用が認められています。そして、第三者が、許諾なく、同一又は類似の商標を指定商品等に使用すれば原則として商標権侵害が成立します。

しかし、平成26年の商標法改正において、以下のように26条1項6号が設けられ、「商標的使用」に当たらない事例では、商標権侵害とならないことが明確化されました。

第26条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
⑥ 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標

(商標法26条1項6号)

この「商標的使用」とは一体何を指すのでしょうか。

先述の通り、自己の商品・サービス等を他の商品・サービス等と見分けられるようにし(自他商品識別機能)、商品等の出所を表す(出所表示機能)ために使用されるのが商標です。

そして、この自他商品識別機能、出所表示機能を有する形での使用が、「商標的使用」とされます。

例えば、商品に付されている「ABC」という文字列を一般消費者が見たとき、それがどこの企業の商品であるのか想起することが可能であるというときには、自他商品識別機能、出所表示機能を有するといえ、商品に「ABC」という文字列を付す行為が、商標的使用に当たることになります。

逆に言えば、自他商品識別機能、出所表示機能を果たさないような使用法の事例では、「商標的使用」とは認められず、登録商標の効力が及ばないことがある、というわけです。

商標権が侵害された時の罰則については下記にて詳細を記載しております。

商標権侵害の裁判の事例

商標権侵害訴訟となったケースと裁判所による判断について説明していきます。

書籍や記事のタイトルは商標権侵害になるか(朝バナナ事件)

標準文字の「朝バナナ」に対し「雑誌、書籍、ムック」等を指定商品とする商標権を有している原告が、「朝バナナダイエット成功のコツ40」というタイトルで書籍を販売した被告に対し、商標権侵害訴訟を提起したという事例です。 裁判所は、以下のように、被告が表示している「朝バナナ」という文字列は、あくまで題号として表示されているのであって商品の識別や出所の表示をしているのではないと判断し、商標権侵害を否定しました。

被告書籍のカバーや表紙等における被告標章の表示は、被告標章を、単に書籍の内容を示す題号の一部として表示したものであるにすぎず、自他商品識別機能ないし出所表示機能を有する態様で使用されていると認めることはできないから、本件商標権を侵害するものであるとはいえない。

(東京地裁平成21年11月12日判決)

このように書籍の題号の場合、たとえそれが自分の登録商標と同一の文字列を含むものであったとしても、それがその書籍の内容を表すものであって、その書籍の商品としての出所を表すものでなければ、「その使用は商標としての使用ではない」と判断される場合があります。

ただし、雑誌や新聞と言った定期刊行物、同一のタイトルの下に反復継続して制作、販売されるシリーズものとしてのタイトルといった事情がある事例であれば、商標権の侵害に該当することもあると考えられます。

著名商品にフリーライドする商品は商標権侵害になるか(ベレッタ事件)

イタリアの有名銃器メーカー「ベレッタ」が、モデルガンメーカーである「ウエスタンアームス」とライセンス契約をしていたところ、「ベレッタ」の模型を製造・販売する他のモデルガンメーカーである被告に対して、不正競争防止法2条1項1号(周知表示誤認混同行為)違反に該当すると主張し、差止め及び損害賠償を請求した事例です。

本件においては、前記認定の事実関係によれば、被告各商品は、我が国においては、市場において流通することがなく、所持することも一般に禁じられている実銃であるM92Fを対象に、その外観を忠実に再現したモデルガンであり、実銃の備える本質的機能である殺傷能力を有するものではなく、実銃とは別個の市場において、あくまで実銃とは区別された模造品として取引されているものであって、その取引者・需要者は、原告実銃の形状及びそれに付された表示と同一の形状・表示を有する多数のモデルガンの中から、その本体やパッケージ等に付された当該モデルガンの製造者を示す表示等によって各商品を識別し、そのモデルガンとしての性能や品質について評価した上で、これを選択し、購入しているものと認められる。したがって、原告実銃において原告商品形態が原告ベレッタの商品であることを示す表示として使用されており、また、被告各商品が原告商品形態と同一の商品形態を有しているとしても、被告商品形態は、出所表示機能、自他商品識別機能を有する態様で使用されているものではないというべきである。

(東京地判平成12年6月29日)

裁判所は、製造・販売されているモデルガンが実物の商品形態を忠実に再現したものであっても、模型としての商品の形態は、出所表示機能、自他商品識別機能を有する態様で使用されているとはいえないと判断しました。

この事例では、ベレッタ社がモデルガンを製造・販売しておらず、同社の実銃と他社のモデルガンでは殺傷能力という本質的機能において明らかな差があり、一般需要者が商品の同一性に誤認を生じる余地がないとされました。したがって、仮に、ベレッタ社自身がモデルガンの製造・販売を行っており、その意匠・商標等をウエスタンアームス社に使用許諾していたといった事例であれば、ウエスタンアームス社の製品にも商品識別機能が認められ、他者の模造品が商標権を侵害するものであると判断された可能性があります。

キャッチフレーズは商標権侵害になるか(オールウェイズ・コカ・コーラ事件)

販売促進とするキャッチフレーズが商標権侵害になるのか。

コカコーラ社が、販売促進のために「オールウェイズ コカ・コーラ」というキャッチフレーズを缶に表示してコーラ飲料を販売した行為について、コーラなどの清涼飲料を含む旧29類善類で「オールウェイズ」を商標登録していた原告が、商標権侵害に当たるとして「Always」の使用禁止と損害賠償を求めた事例です。

「常に、いつでも」を意味する「Always」の語は、需要者がいつもコカ・コーラを飲みたいとの気持ちを抱くような、商品の購買力を高める効果を有する内容と理解できる表現であり、販売促進のためのキャンペーンの一環であるキャッチフレーズの一部であると認識されるので、商品を特定する機能ないしは出所を表示する機能を果たす態様で用いられているとはいえないから、商標として使用されているとはいえない。従って、商標権侵害にはならない。

(東京地裁平成10年7月22日判決)

裁判所は、缶容器の「Coca―Cola」のロゴの左上に小さく表示された「Always」の文字列は、あくまで販売促進のためのキャンペーンキャッチフレーズの一部と認識し、商品の出所表示機能を果たすような態様で使用されているとはいえず、商標の仕様には当たらないと判断しました。

なお、キャッチフレーズそれ自体も商標登録は可能とされています。

従来は、キャッチフレーズなどの広告宣伝に用いられる文言は、その商品・サービスに限らず、一般的な商品・サービスにも汎用的に使われるものである場合が多く、その宣伝文句によって誰の商品・サービスであるかを需要者が区別することは困難であることから、商標登録が拒絶されるケースがほとんどでした。

しかし、平成28年の審査基準改定により、「出願商標が、その商品もしくは役務の宣伝広告または企業理念・経営方針等としてのみならず、造語等としても認識できる場合には、本号に該当しないと判断する」との商標審査基準が明記されました。

したがって、「商品・役務の宣伝広告」や「企業理念・経営方針」を普通に表示したものとして認識されるものではなく、造語を使用する、自社ブランド名を入れ込む等、商品やサービスを識別する標識となり得る要素があれば、キャッチフレーズであっても商標登録を行うことができるのです。

それを踏まえると、登録商標を使用しているのがキャッチフレーズであることを理由に、直ちに識別力が否定され、商標権侵害にならないと言い切ることはできません。登録商標の使用態様が自他商品識別機能、出所表示機能を果たすものであるといえれば、キャッチフレーズでの使用であっても、商標的使用に当たる事例もあるものと考えられます。

こうした法理は、インターネット上での商標の使用、例えばリスティング広告内における商標の使用などでも同様です。

まとめ

特に、数多くの商品やサービスの情報が溢れかえるインターネット上の市場では、自社の登録商標と似た商標を使用した商品が販売されているのを見つけた、もしくは、販売している商品について他社から商標権侵害の通知書が送られてきた、という事例も珍しくありません。そういった場合には、すぐに削除等の対策をしなければいけないと焦ってしまいがちです。

しかし、ここまで述べてきたように、登録商標を使用しているからといって、必ずしもすべてが商標権侵害となるわけではありません。その使用方法が商標的使用に当たるのか当たらないのか、商標権侵害になるのかならないのか、具体的な判断については、個別事情に基づいた多角的な観点からの判断が必要になることから、知的財産権の専門家に相談することをお勧めします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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