IT・ベンチャーの企業法務

システム開発において不法行為責任が問題となった事案とは

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システム開発において不法行為責任が問題となった事案とは

システム開発における法律問題のうち、様々な権利・義務の所在をめぐる争いは、そのほとんどが、事前に締結された「契約」の存在を前提にして繰り広げられるものです。しかし、法律上の義務というものは、必ずしも事前に締結された「契約」の存在を根拠に持つものばかりではありません。法律上の不法行為責任はその典型です。本記事では、契約を根拠として持たない「不法行為」という概念について紹介するとともに、不法行為法とシステム開発プロジェクトの関連について解説しています。

システム開発プロジェクトと不法行為のつながりとは

システム開発における「炎上」「責任」問題は契約内容が論点となります。

システム開発を取り巻く種々の責任 

システム開発に関連する話題で、「法律」が問題になる場面といえば、やはり真っ先に連想するのはプロジェクトが「炎上」したような場面であったり、ユーザーとベンダーで何かしらの揉め事が起きているような場合ではないでしょうか。

上記の記事では、具体的な「炎上」事案の多様性に比して、それを法的な枠組みのもとで観察する際には、比較的シンプルな見取り図によって整理が可能であることを説明しています。

また、具体的な「炎上」事案を前にして、それに対して何らかの法的な(たとえば、訴訟や調停などの)措置によって解決を目指す場合に、誰がどれだけの義務(=責任)を負っていたのかという点が問題になってきます。システム開発プロジェクトと特に関連の深い「責任」の話については、以下の記事にて整理を行なっています。

責任の内容は契約に基づいて決まっているものが大半

システム開発の「炎上」、「責任」といったトピックの詳細はこうした他の記事に譲りますが、ここで重要な点は、システム開発関連の紛争場面で講じられる法的なオプション(たとえば契約の解除しかり、損害賠償請求しかり)は、そのほとんどが契約の内容を根拠とするものだということです。たとえば、システム開発関連のトラブルで多いものとして、「債務不履行責任」、「瑕疵担保責任」などを例にとって考えてみれば、このことは明らかでしょう。

  • 債務不履行責任 →たとえば納期の遅延(=履行遅滞)や、システムそのものの未完成(=履行不能)といった問題。そもそも納期がいつか、つくるべきシステムの要件がなにであったかは、契約に沿って決まるものである。
  • 瑕疵担保責任 →たとえば納品された後でバグが発見された場合や、処理速度に大きな問題があることが発覚した場合など。これについても、結局は「作るべきシステムが本来どのようなものであったか」という契約内容との乖離が問題となるものである。

不法行為責任は契約を根拠としない

しかし、「債務不履行」、「瑕疵担保」などが契約を前提とするものであることとは対照的に、不法行為責任は契約の存在を前提とはしません。これはシステム開発に限った話ではなく、およそ民法が関係する紛争すべてに対していえることです。

そもそも不法行為とはなにかというと、以下に定める民法709条に規定されるものです。

第709条

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

「他人の」という文言が重要なキーワードとなっています。取引関係に入っている相手方のみを対象とせず、本人以外の「他人」すべてを含んだ規定になっています。

不法行為の典型は交通事故です。脇見運転などで交通事故で人をぶつけた場合、刑事だけでなく、民事上も責任を負うことになります。ここでいう民事責任とは不法行為責任のことです。つまり、自動車事故の被害者との間で「車をぶつけない契約」などを締結しているわけではありませんが、「他人」との関係で、こうした責任をひろく負っているわけです。

システム開発で不法行為が問題になる場面とは

システム開発を巡る不法行為責任が問われるケースとは?

システム開発で不法行為責任が問われるのは希である

もっとも、システム開発を巡る種々の紛争で、あたかも「自動車事故」類似の「契約関係を前提としない責任追及」なるものは想定しがたいと感じた人も多いのではないでしょうか。事実、システム開発を巡る過去の裁判例において、不法行為責任が認定された例というのはそう多くはありません。

このことはなにも不思議なことではありません。むしろシステム開発プロジェクトが、ユーザーとベンダー相互に協力しあいながら進んでいくものであることからすれば、自然なことだといえるでしょう。システム開発にまつわる争いの多くは「プロジェクトマネジメント義務」と「ユーザーの協力義務」といった契約関係を前提とした役割整理の問題に帰結することが多いからです。

たとえば以下の記事では、「ユーザーがプロジェクトを中断したい」と言い出した場合における事案の整理の仕方を示しています。

ここでは、中断を申し出てきたのがユーザーの側であったとしても、ベンダー側も自分たちの落ち度について省みることの重要性を説明しています。また以下の記事では、「納期の遅延」といった問題についての法的整理も以下の記事で行なっています。やはり、結局はユーザーとベンダーの役割整理が問題となっているにすぎないことがわかるでしょう。

このように見ていくと、システム開発プロジェクトというものの特徴は、「プロジェクトをマネジメントしていくベンダー」と「それに協力するユーザー」といった関係の緊密さに象徴されるものであるように思われます。そして、こうした契約関係の緊密さこそが、皮肉にも、ときに紛争の火種ともなるのです。したがってこの意味では、システム開発をめぐる紛争で、不法行為責任が問題となる事案というのは、当該領域における「典型論点」とは言い難いかもしれません。

契約締結前につき不法行為責任が問題となった事案 

しかし、実際にベンダー側に不法行為責任が認められた事案は存在します。以下に引用する判決文の事案は、ベンダーからユーザーに対して充分な情報提供がなされていなかったことで、プロジェクトが進むにつれて両者の認識の食い違いが次第に浮き彫りとなり、最終的にはプロジェクトが頓挫したものです。本件では、そもそもの企画・提案という段階におけるベンダーの説明不足がプロジェクトが頓挫した理由であったところ、これらが実務上の敢行としても契約締結「前」に行われるものであることから、契約に基づく責任ではなく不法行為に基づく責任追及の可否が問題となりました。(下線部の追記、太字への修正は説明の便宜上筆者が追記したものです。)

企画・提案段階においては,プロジェクトの目標の設定,開発費用,開発スコープ及び開発期間の組立て・見込みなど,プロジェクト構想と実現可能性に関わる事項の大枠が定められ,また,それに従って,プロジェクトに伴うリスクも決定づけられるから,企画・提案段階においてベンダに求められるプロジェクトの立案・リスク分析は,システム開発を遂行していくために欠かせないものである。そうすると,ベンダとしては,企画・提案段階においても,自ら提案するシステムの機能,ユーザーのニーズに対する充足度,システムの開発手法,受注後の開発体制等を検討・検証し,そこから想定されるリスクについて,ユーザーに説明する義務があるというべきである。このようなベンダの検証,説明等に関する義務は,契約締結に向けた交渉過程における信義則に基づく不法行為法上の義務として位置づけられ,控訴人はベンダとしてかかる義務(この段階におけるプロジェクト・マネジメントに関する義務)を負うものといえる。

東京高判平成25年9月26日

つまり、契約締結「前」の事柄である以上、契約に基づいて課された債務の不履行を追及するという理論構成は困難であったものの、不法行為に基づく義務違反を認めることで公平な解決を見込んだのです。

不法行為とプロジェクトマネジメント義務とつながりとは

なお、システム開発がベンダーとユーザーがそれぞれの立場で協働しあいながら進めていくものであるところ、システム開発の専門家たるベンダーが負っている義務のことは「プロジェクトマネジメント義務」と呼ばれます。プロジェクトマネジメント義務というものについての全体的な解説は以下の記事にて行なっています。

本判決では、「システム開発において、不法行為責任が問題となる場面はあるか」という点もさることながら、「プロジェクトマネジメント義務が、契約締結前の関係においても課されるものなのか」という観点からも一定の注目を集めたものであったということができます。

信義則とはなにか

また、判決文中に出てくる「信義則上の義務」という点ですが、これは以下の条文の内容を踏まえたものです。

民法第一条二項

権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

これは民法における一般条項とも呼ばれるものであり、民法を用いた紛争解決すべてに妥当する基本的な原理原則にあたるものです。権利や義務にかかわる法律論は、その根本に「信義」や「誠実さ」を踏まえたうえで展開されるべきものであるということです。

本判決文の事案を踏まえていうならば、「企画・提案段階においては、契約が締結されていない以上、事前説明を試みる義務もない」といった反論をもしベンダーの側から行うのであれば、それは根本的な誠実さを欠いており、法律論としても支持できるものではないといった意味合いでしょう。

まとめ

「不法行為」、「プロジェクトマネジメント義務」、「信義則」などいくつか重要な用語がまとまって登場してきましたが、全体のつながりはさほど難しいものではありません。一連のシステム開発においてベンダーが包括的に負っている責任・責務をあらわす概念として、「プロジェクトマネジメント義務」というものがあり、これらは基本的には契約から具体内容が導かれるものです。

しかし法律上の義務は、事前に交わされた契約内容ありきで形式的に決まるものではなく、「信義則」といったものも取り込みながら個別に判断される面もあります。そして、契約関係を前提としない民事責任の追及というもの自体は、「不法行為」という理論構成によって、法律上も最初から予定されているものでもあるということです。

法律上の義務が必ずしも契約関係のみを前提とするわけではないという点とともに、全体の流れを掴んでおくべきでしょう。

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