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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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後継者不足にどう対処する?事業承継・引継ぎ補助事業を解説

事業継承

コロナ禍は私たちの生活を一変させました。その変化のうねりは、ビジネスの世界にも及びました。コロナ禍が当初の想定以上に長引いたことで、経営状況や資金繰りが悪化した企業が増加。廃業・倒産を迎える前に、事業承継や事業譲渡で突破口を見出そうとする動きもみられます。

親族以外への事業承継やM&Aの際には、専門家による調査(デューデリジェンス)で、会社の状況を明らかにする必要があります。しかし、これまでは専門家に支払う費用などを工面できず、結果として事業承継が進みにくいとの指摘もありました。

このような背景から、コロナ禍においても中小企業の事業承継を補助するための政策の一つとして、事業承継にかかる費用を補助する「事業承継・引継ぎ補助金」ができました

以下では、事業承継やM&Aを検討している企業に向けて、事業承継・引継ぎ補助事業についてポイントを解説します。

事業承継・引継ぎ補助事業とは

新型コロナウイルス感染症の影響下においても経営資源を散逸させず事業承継を適切に行うための支援が引き続き求められています。

事業承継・引継ぎ補助事業の目的

中小企業の経営者は高齢化が進んでおり、後継者不足から将来的に多くの企業が廃業を迎えるといわれています。

しかしながら、中小零細企業の中には、世界的に見ても高度な技術やノウハウを有しているところも多いことはよく知られています。そのため、政府は後継者不足の企業が事業承継によって廃業を回避できるよう環境整備を進めています

補助の対象となる費用

事業承継・引継ぎ補助事業において、補助金の対象となる費用は以下の費用です。

  • 設備投資にかかる費用
  • 販路開拓等にかかる費用
  • 廃業にかかる費用
  • 士業専門家の活用費用

士業専門家の活用費用としては、会社の後継者探しやM&Aによる会社の売却をする際の仲介手数料やデューデリジェンス費用、企業概要書作成費用などが想定されています。特に、仲介手数料や専門家によるデューデリジェンス費用は高額となることが多く、これが中小零細企業にとってM&Aを活用する際の大きなハードルでした。

今回の補助事業で事業承継にかかる費用を補助することで、これまでM&Aなどの対象となりにくかった中小零細企業や小規模事業において円滑な後継者探しやM&Aの検討が進められることが期待されています。

なお、補助金は助成金などと異なり、要件を満たしたとしても必ず受領できるとは限らず、審査があります。また、交付決定日前に発生した経費は原則として補助の対象とならないため、余裕をもって補助金申請を行うことが大切です。

補助金申請代行業者を利用する場合の注意点に関しては、以下の記事で詳細に解説しています。

関連記事:補助金申請の代行業者利用上の注意と必要な契約書項目を解説

事業承継・引継ぎ補助事業の類型

事業承継・引継ぎ補助事業の類型

事業承継・引継ぎ補助事業においては、

経営革新型として以下の3類型

  • 創業支援型
  • 経営者交代型
  • M&A型

に加え、

  • 専門家活用型

の合計4つの類型が想定されており、類型ごとに異なる補助上限額が設定されています。

なお、「経営革新型」の場合、補助率は2分の1以内で、補助上限額は500万円以内(生産性向上要件を充足する場合)です。

一方、「専門家活用型」の場合、補助率は2分の1以内で、補助金上限額は400万円以内(引継ぎが実現しない場合は200万円以内)となっています。

参考:令和4年度当初予算|事業承継・引継ぎ補助金事務局

では、それぞれ個別に見ていきましょう。

経営革新:創業支援型

創業支援型とは、他の事業者が保有している経営資源を引き継いで創業した事業者に対する支援を目的とした補助事業をいいます

具体的には、以下のすべての要件を満たす必要があるとされています。

創業支援型(Ⅰ型)

以下の1~2をいずれも満たすこと

1.事業承継対象期間内における法人(中小企業者)設立、又は個人事業主としての開業

2.創業にあたって、廃業を予定している者等から、株式譲渡、事業譲渡等により、有機的一体としての経営資源(設備、従業員、顧客等)の引き継ぎを受けること
 ※ 廃業に伴い店舗や設備のみを引き継ぐ等、個別の経営資源のみを引き継ぐ場合は対象外

引用元:令和4年度当初予算|事業承継・引継ぎ補助金事務局

経営革新:経営者交代型

経営者交代型とは、親族内承継等により経営資源を引き継いだ事業者に対する支援を行う補助事業をいいます

具体的には、以下のすべての要件を満たす必要があるとされています。

経営者交代型(Ⅱ型)

以下の1~2をいずれも満たすこと

1.親族内承継や従業員承継等の事業承継(事業再生を伴うものを含む)

2.産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者等、経営等に関して一定の実績や知識等を有している者であること

引用元:令和4年度当初予算|事業承継・引継ぎ補助金事務局

経営革新:M&A型

M&A型とは、株式譲渡や事業譲渡等の手法によるM&Aにより経営資源を引き継いだ事業者に対する支援を行う補助事業をいいます

具体的には、以下のすべての要件を満たす必要があるとされています。

M&A型(Ⅲ型)

以下の1~2をいずれも満たすこと

1.事業再編・事業統合等のM&A(親族内承継を除く)

2.産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者等、経営等に関して一定の実績や知識等を有している者であること

引用元:令和4年度当初予算|事業承継・引継ぎ補助金事務局

事業承継をM&Aで行うメリットと手続きについては、以下の記事で詳細に解説しています。

関連記事:事業承継をM&Aで行うメリットと手続きについて

専門家活用型

企業外の第三者に会社を売却するM&Aを実施する場合には、税理士や弁護士をはじめとする士業専門家の関与が不可欠です。このような士業専門家を活用するための費用を支援する類型を専門家活用型と呼びます

専門家活用型には、会社の買い手を支援する「買い手支援型」と、売り手企業を支援する「売り手交代型」の2種類があります。それぞれの類型が適用される要件は以下のとおりです。

買い手支援型(Ⅰ型)
事業再編・事業統合に伴い、株式・経営資源を譲り受ける予定の中小企業等を支援する類型で、以下1~2をいずれも満たすことが要件です。

1.事業再編・事業統合に伴い経営資源を譲り受けた後に、シナジーを活かした経営革新等を行うことが見込まれること。
2.事業再編・事業統合に伴い経営資源を譲り受けた後に、地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業を行うことが見込まれること。

売り手支援型(Ⅱ型)
事業再編・事業統合に伴い、株式・経営資源を譲り渡す予定の中小企業等を支援する類型で、以下1を満たすことが要件です。

1.地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業等を行っており、事業再編・事業統合により、これらが第三者により継続されることが見込まれること。

※ なお、不動産売買のみの引継ぎは、買い手支援型、売り手支援型のいずれもおいても補助対象外となります。

引用元:令和4年度当初予算|事業承継・引継ぎ補助金事務局

事業承継・引継ぎ支援センターの活用を

事業承継・引継ぎ支援センターの活用を

この事業承継・引継ぎ補助事業では、事業承継を必要とする中小企業のニーズや相談に適切に対応し、また後継者等とのマッチング支援を行うための「事業引継ぎ支援センター」が設けられています

事業引継ぎ支援センターは、事業承継に関する相談や各企業の課題の抽出、事業承継計画の策定、マッチング支援、専門家支援などを行う組織であり、各都道府県に設置されています

特に、企業内や親族に後継者となるべき人材がいないというケースでは、事業引継ぎ支援センターでのマッチング支援を受けるとよいでしょう。事業引継ぎ支援センターは営利団体ではないので、事業承継について悩みを抱える経営者が比較的気軽に相談できるという点もポイントです。

まとめ:事業承継・引継ぎ補助金の利用は弁護士に相談を

事業承継に関しては、従来から、中小企業の経営者の高齢化や後継者不足が指摘されてきました。また、IT企業を中心に近年では若年の経営者であっっても、IPOではなくM&Aによる会社売却を目指す動きが増えています。IPOやM&AによるEXITに関しては、以下の記事で詳細に解説しています。

関連記事:IPO・M&AによるEXITの方法

現在の政策としては、中小企業の事業承継や売却を支援する方針を採っています。補助金の対象となる場合には、この制度を積極的に活用するとよいでしょう。

事業承継やM&Aでは、弁護士は法務デューデリジェンスに関わることがあります。法務デューデリジェンスとは、売却する会社の適法性や潜在債務を明らかにするものであり、財務デューデリジェンスと並んで非常に重要な役割をもちます。

法務デューデリジェンスができる弁護士は限られていますので、企業法務に詳しい弁護士に相談するとよいでしょう。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。事業承継や引き継ぎにあたっては契約書の作成が必要です。当事務所では、東証プライム上場企業からベンチャー企業まで、さまざまな案件に対する契約書の作成・レビューを行っております。もし契約書についてお困りであれば、下記記事をご参照ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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