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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

SES契約書の注意点を解説~トラブルを防ぐポイントは?~

エンジニアは、専門的な技術が要求されることから、人材の確保が難しいという問題があります。

そこで、エンジニアの慢性的な人材不足を解消する方法として、SES契約の締結が注目されています。

しかし、SES契約は、エンジニアの人材不足を解消できるというメリットの反面、契約内容に気を付けないと違法な労働者派遣になってしまう可能性があるというデメリットがあります

また、SES契約には、ベンダーとクライアント間のトラブルを防ぐために気を付けるべきポイントがあり、契約締結前に契約内容を慎重に検討する必要があります。

そこで、本記事では、SES契約の当事者となるベンダーとクライアントを対象に、SES契約における要チェックポイントを具体的な条項を参考にして説明をします。

SES契約とはどのような契約か

SES契約とは、システムエンジニアリングサービス(system engineering service)契約の頭文字を取った契約で、ベンダーが、エンジニアに対して、クライアントのオフィスや事務所などの作業場で、サービスを提供させることを内容とし、ベンダーとクライアント間で締結される契約のことをいいます。

SES契約の法的性質はなにか

SES契約の法的性質は、契約内容により決定されることとなりますが、エンジニアがサービスを提供し、そのサービスの提供に対して報酬が支払われることとなりますので、一般的には、準委任契約と考えられています。

SES契約において注意すべき条項

以下では、SES契約において注意すべき条項を具体的に明示し、注意すべき点を説明します。

業務の内容に関する条項

SES契約において業務の内容が明確に定められていなければ、契約内容に関して、ベンダーとクライアントの間でトラブルとなる可能性があります。

そのため、業務の内容について、以下のように規定することが考えられます。

第●条(業務の内容)
委託者(以下「甲」という。)は、受託者(以下「乙」という。)に対し、以下の業務(以下「本件業務」という。)を委託し、乙はこれを受託する。
(1) ソフトウェア開発業務
(2) その他甲から特に委嘱のあった業務、事項

委託金額に関する条項

金銭に関する条項については、当事者間でトラブルに発展する可能性が高い条項であるといえます。

そこで、委託金額に関する条項を明確に規定しておくことが必要となります。

SES契約に関する委託金額の定め方には、色々な方法が考えられますが、例えば、以下のような規定が考えられます。

第●条(委託料)
1. 本契約に基づき甲が乙に支払う業務委託代金は、基準月額を●円(消費税別)とする。
2. 本契約における基準時間は、下限を140時間、上限を180時間とする。
3. 当月の実労働時間が、基準時間の下限を下回った場合には、1時間あたり●円(消費税別)を控除し、基準時間の上限を上回った場合には、1時間あたり●円(消費税別)を加算する。

業務の遂行に関する条項

SES契約の場合、エンジニアが、クライアントのオフィスや事務所などの作業場で業務を遂行することになるため、どのように業務を遂行していくかを明確にしておく必要があります

また、業務の遂行については、違法な労働者派遣か否かを判断する重要な材料となるため、適法なSES契約となるように注意する必要があります。

例えば、以下のような条項が考えられます。

第●条(本件業務の遂行)
1. 乙は、乙が雇用するエンジニア(以下「乙のエンジニア」という。)を、東京都●●区●●所在の甲の事務所(以下「甲の事務所」という。)に赴かせ、本件業務に従事させる。
2. 甲及び乙は、次の各号に定める事項を確認した。
(1) 本件業務の遂行手順は、乙が指導するものとし、乙のエンジニアは当該指導にしたがって本件業務を遂行するものとする。
(2) 本件業務を行う日時は乙により指定することができるものとする。 
(3) その他本件業務に関する事項は甲乙協議のうえ円満に解決するものとする。
3. 本件業務の遂行に関し、甲は、乙のエンジニアに対し、直接、指揮命令をしてはならないものとする。
4. 乙のエンジニアの労働時間の管理については、乙が、当該エンジニアから、直接、報告を受けることによりを行う。

経費の負担に関する条項

経費の負担に関する条項の内容についても、違法な労働者派遣か否かを判断する重要な材料となります。

具体的には、経費を委託者が負担する場合には、適法なSES契約と判断される方に傾き、経費を受託者が負担する場合には、違法な労働者派遣と判断される方に傾きます。

そのため、経費を委託者が負担することを明示しておく必要があります

例えば、以下のような条項が考えられます。

第●条(経費の負担)
本契約に基づく業務処理に要する経費については、甲が負担するものとする。

著作権の帰属に関する条項

SES契約では、エンジニアによる業務の遂行により、著作権が生じる可能性があります。

著作権の帰属に関する条項を規定しておかなければ、当事者間で、著作権の帰属についてトラブルが生じる可能性があります。

そこで、著作権の帰属に関する条項を規定しておく必要があります

具体的には、以下のような条項を規定しておくことが考えられます。

第●条(成果物の著作権)
1. 成果物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)は、乙又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、納品の完了と同時に、乙から甲へ移転する。なお、かかる乙から甲への著作権移転の対価は、業務委託代金に含まれる。また、乙は、自ら又は乙に所属する者をして、甲に対して著作者人格権を行使せず又は行使させない。
2. 乙は、前項により乙に著作権が留保された著作物につき、成果物を甲が利用するために必要な範囲で甲及び甲が指定する者に対して当該著作物の利用を許諾し、乙は、かかる利用について自ら又は乙に所属する者をして、甲に対して著作者人格権を行使せず又は行使させない。

秘密保持に関する条項

ベンダーは、エンジニアを通じてクライアントの情報を取得することも考えられます。

そのため、SES契約において、秘密保持に関する条項が規定されることが一般的です

例えば、以下のような条項が考えられます。

第●条(秘密保持)
甲及び乙は、本契約の遂行に際して相手方から開示を受けた営業上・技術上の情報に関する秘密を保持し、本契約期間中はもとより終了後も、第三者に開示又は漏洩してはならない。ただし、次の各号に該当する情報を除く。
⑴ 開示された時点で既に公知となっていた情報。
⑵ 開示後、受領当事者の責めに帰すべき事由によらずに公知となった情報。
⑶ 正当な権限を有する第三者から適法に入手した情報。
⑷ 受領当事者が秘密情報を利用せずに独自に開発した情報。
⑸ 法令に基づき開示を強制された情報。

解除に関する条項

解除に関する条項が規定されていないと当事者間でSES契約を解除することができるかについて意見が食い違い、トラブルとなる可能性があります。

そこで、SES契約において、解除に関する条項が規定されることが一般的です

具体的には、以下のような条項が考えられます。

第●条(即時解除及び期限の利益の喪失)
1. 甲又は乙が次の各号のいずれかに該当した場合には、相手方は、何らの催告を要せず、また、自己の債務の提供を要しないで、直ちに本契約を解除することができる。この場合、解除権を行使した当事者は、損害賠償の請求を妨げられない。
(1) 本契約に違反し、相当期間を定めた催告を行ったにもかかわらず是正されない場合。
(2) 破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始又は特別清算開始の申立てがあった場合。
(3) 支払停止又は支払不能の状態に陥った場合。
(4) 自ら振出し又は引受けた手形・小切手について、一度でも不渡処分を受けた場合
(5) 監督官庁から事業停止又は事業免許若しくは事業登録の取消処分を受けた場合。
(6) 資本減少、事業の廃止若しくは変更又は解散の決議をした場合。
(7) 仮差押え、仮処分、強制執行若しくは担保権の実行としての競売の申立て、又は公租公課の滞納処分を受けた場合。
(8) 信用資力の著しい低下があったとき、又はこれに影響を及ぼす営業上重要な変更があった場合。
(9) その他上記各号に準ずる事由が生じた場合。
2. 甲又は乙は、前項各号のいずれかに該当した場合には、本契約が解除されたか否かにかかわらず、相手方に対して負担する全ての金銭債務について当然に期限の利益を喪失し、相手方に対し直ちに一括して債務の弁済をしなければならない。

まとめ

以上、SES契約における要チェックポイントについて説明をしました。

SES契約について、ベンダーとしては、クライアントとの関係だけでなく、エンジニアとの関係にも留意して契約の内容を検討する必要があります。

クライアントとしても、ベンダーの違法な労働者派遣に関わらないように注意をする必要があります。

SES契約については、労働法に関する知識及びITに関する知識が要求されますので、専門的な知識を有する弁護士に相談をすることをおすすめします。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。

SES契約にあたっては契約書の作成が必要です。

当事務所では、東証プライム上場企業からベンチャー企業まで、様々な案件に対する契約書の作成・レビューを行っております。

もし契約書についてお困りであれば、下記記事をご参照ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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