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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

人材不足を解消する「SES契約」の法律上の注意点を解説

労働人口の減少に伴って、人材の確保は企業において喫緊の課題になりつつあります。

中でも、エンジニアなどの専門職は、高度なスキルが要求される職業で、人材の確保が難しく、企業のエンジニア不足を解消する契約として、SES(システムエンジニアリングサービス)契約が注目されています。

そこで、本記事では、SES契約を締結し、エンジニアを提供しようと考えている会社(ベンダー)及びSES契約を締結し、エンジニアの提供を受けようとしている会社(クライアント)を対象に、SES契約の概要及び要点を説明します

SES契約とは

SES契約とは、エンジニアが、クライアントの事務所やオフィスなどの現場で、技術の提供や作業等のサービスを提供することを内容とする契約のことをいいます。

SES契約では、エンジニアが、クライアントの現場に一定期間常駐し、サービスを提供するケースなどがあります。

SES契約の法的性質

サービスを提供する契約については、大きく分けて、委任契約(準委任契約)と請負契約があります。

請負契約は、「当事者の一方がある仕事を完成すること」(民法632条)が目的ですが、エンジニアの提供するサービスは、必ずしも仕事の完成を目的とするものではなく、サービスの提供自体が目的となるケースが多いものです。

そのため、SES契約では、エンジニアが提供するサービスの時間に応じて報酬が定められるケースが多く、法的性質としては、一般的に準委任契約と考えられています。

SES契約のメリット・デメリット

SES契約は、ベンダー、エンジニア及びクライアントの3主体について、それぞれ、メリット・デメリットがあります。

以下、3主体のメリット・デメリットを紹介します。

ベンダーについて

IT業界では、エンジニアを探している会社は多いものの、エンジニアの数が不足しているという問題があります。

このような人材不足の状況では、エンジニアのサービス提供の対価を高く設定することができます。

そのため、ベンダーとしては、比較的高額な金額をクライアントから受け取ることができるメリットがあります。

デメリットとしては、エンジニアの確保がうまくいかない可能性があるという点があげられます。

SES契約を締結するためには、エンジニアの存在が不可欠ですので、自社で、エンジニアを養成する仕組みを作るなど、エンジニアを安定的に確保できるようにする必要があります。

エンジニアについて

エンジニアのメリットとしては、色々な現場を経験できるメリットがあります。

また、自らが積極的に仕事を探さなくとも、ベンダーが、仕事を探してくれる点もメリットといえます。

デメリットとしては、自らが直接契約をする場合と比べると、ベンダーを介している分、もらえる報酬が下がってしまう可能性があります。

また、働く場所が、定期的に変わった場合、環境変化に対応したり、人間関係を構築する必要がある点は、人によっては、デメリットと感じてしまう場合もあります。

クライアントについて

クライアントのメリットとしては、人材が必要になったタイミングで、求めている技術を有するエンジニアによるサービスの提供を受けることができるという点があげられます。

デメリットとしては、ベンダーに対して支払う金額が高くなってしまう可能性があるという点があげられます。

労働者派遣との関係

SES契約としては、まず、ベンダーとエンジニアが雇用契約等を締結し、その後、ベンダーとクライアントが、SES契約を締結し、エンジニアが、クライアントの現場でサービスを提供するというケースが考えられます。

このようなケースで、注意をする必要があるのは、いわゆる偽装請負と判断され、実態としては、違法な労働者派遣と判断されてしまう可能性がある点です。

労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないもの」(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律[以下「労働者派遣法」といいます。])をいいます。

労働者派遣事業(労働者派遣を業として行うこと)を行う場合、厚生労働大臣の許可を受けなければならない(労働者派遣法第5条)とされているため、SES契約が実質的に労働者派遣と判断されてしまうと、違法な労働者派遣となってしまいます。

SES契約(準委任契約)と労働者派遣の区別

SES契約と労働者派遣の区別は、クライアントとエンジニアとの間に指揮命令関係が認められるかという点から判断されます。

具体的には、以下のような要素から総合的に判断されることになります。

  • エンジニアに対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理をベンダーが行っているか否か
  • エンジニアの業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理をベンダーが行っているか否か
  • エンジニアの始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)をベンダーが行っているか否か
  • エンジニアの労働時間を延長する場合又はエンジニアを休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)をベンダーが行っているか否か
  • エンジニアの服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理をベンダーが行っているか否か
  • エンジニアの配置等の決定及び変更をベンダーが行っているか否か
  • 業務の処理に要する資金につき、すべてベンダーの責任の下に調達し、かつ、支弁しているか否か
  • 業務の処理について、ベンダーが、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこととなっているか否か
  • ベンダーの責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理しているか否か
  • ベンダーが行う企画又はベンダーの有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理しているか否か

違法な労働者派遣を行うことのリスク

厚生労働大臣の許可を受けずに、違法な労働者派遣を行った場合、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金となる可能性があります。

また、違法な労働者派遣を行っていることをSNSで拡散されてしまうなどのレピュテーションの問題が生じるリスクもあります。

SES契約上の留意点

SES契約上の留意点としては、前述のSES契約(準委任契約)と労働者派遣の区別を考慮し、違法な労働者派遣とならないように規定を定める必要があります。

クライアントとしては、ベンダーに対し、エンジニアのサービスの提供に関し様々な要望を出したいと考えるかと思います。

ただ、ベンダーとして、違法な労働者派遣となってしまうことは避ける必要があるため、応じることができない要望は断るようにしましょう。

要望を断る際には、ただ断るだけではなく、違法な労働者派遣になってしまう可能性があるということを説明すると、クライアントに納得感を与えることができます。

まとめ

以上、SES契約の概要及び要点を説明しました。

SES契約を締結する際には、エンジニアをクライアントの事務所やオフィスなどに常駐させるケースが多いという関係上、しっかりと意識をしていないと違法な労働者派遣となってしまう可能性があります。

そのため、SES契約の当事者となるベンダーとクライアントの双方が、しっかりとした知識を持っておく必要があります。

また、エンジニアとしても、ベンダーとクライアントが、しっかりとした知識を持っていれば、余計な心配をすることなく、エンジニアとしてのサービスの提供に専念することができます。

SES契約については、労働者派遣法に関する知識に加え、労働法に関する知識やIT業界に関する知識も必要とされるため、専門的な知識を有する弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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