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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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委託業務をリモートワーク化。新たな契約書(覚書)の締結に必要な内容

新型コロナウイルス感染症の影響により、「リモートワーク」が一躍脚光を浴びています。在宅勤務用のWebサービスやフリーツール等の増加に伴い、今後もますます拡大が無込まれるリモートワーク。

ですが、企業間の業務委託契約において受託企業側が受託業務をリモートワークで行う際には、新たな契約書(覚書)を締結する必要があります。

そこで本記事では、業務委託契約における受託業務をリモートワークにて行う旨の覚書の各条項について、詳しく解説します。

なお本記事における覚書とは、既に当事者間で契約書を締結している場合において、当該契約条項の内容について一部修正・追記等を行いたい場合に締結する書面のことです。この場合では、締結済みの原契約に「業務をリモートワークにて実施する場合の取り決めについて」追記等をするための書面としてご紹介いたします。

覚書冒頭の記載について

【覚書】
株式会社●●(以下「甲」という。)及び株式会社●●(以下「乙」という。)は、●●年●月●日付「業務委託契約書」(以下「原契約」という。)について、以下のとおり合意したので、覚書(以下「本覚書」という。)を締結する。

まず覚書冒頭の記載において、契約当事者間で締結する本覚書が、既に当事者間で締結している契約のうちどの契約に関係する(紐づく)ものであるのかを特定しておく必要があります。そのため記載例のように、原契約を締結した日付、契約名称を記載してどの原契約に関係する覚書であるのかを特定するための記載をしています。

目的に関する条項について

第1条(目的)
本覚書は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、業務委託における作業担当者がその居宅において原契約に基づく委託業務(以下「本業務」という。)を行うあたり、本業務遂行に関する基本事項を定めることで本業務を円滑に遂行することを目的とする。

目的に関する条項では、覚書締結の趣旨を記載します。今回の覚書は新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のために締結する目的のため、この旨を記載します。

本覚書の条項例においては、業務委託における作業担当者がその居宅にて業務を実施する場合を想定した記載としています。案件によっては、当該業務実施方法の記載内容を変更する等の必要が生じる場合もあり得ます。

リモートワークに関する条項について

第2条(リモートワーク)
リモートワークとは、委託業務における作業担当者がそれぞれその居宅において、各種のネットワーク回線を通じ、本業務における作業に必要な貸与又は提供された設備、機器等(以下「貸与設備等」という。)及び自身が所有する設備、機器等を用いて本業務を行うことをいう。

契約書においては、各文言の定義を記載する場合がありますが、条項例においても「リモートワーク」の定義を記載しています。業務内容や使用する設備、機器等に応じて記載内容を変更することが可能です。

あえて定義として記載するのは、契約当事者間において想定するリモートワークの意味を明らかにすることで、認識の違いから生じる紛争等を防止するためです。リモートワークは本覚書の要点でもあるため、一般的な用語であるとしても定義として記載する意義があります。

リモートワークの実施に関する条項について

第3条(リモートワークの実施)
1. 乙は、甲の要請に基づき、リモートワークを行う場合には、以下を遵守するものとする。
1)本業務の実施日及び実施時間は、原則として甲所定の営業日及び営業時間とする。
2)作業報告として、「作業開始時」「作業終了時」「休憩及び移動開始、終了」を速やかに報告する。
2. 乙がリモートワークを行うにあたって発生する一切の諸経費(光熱費、通信費等を含み、これに限らない。)は、乙が負担するものとする。
3. 甲は、リモートワークの実施期間が終了する場合には、事前に乙へ通知するものとする。

この条項は、乙の社員がリモートワークにて業務を行う場合の日時、時間、報告内容や経費の負担そしてリモートワーク実施期間終了時の通知について詳しく定めるものです。

上記第3条第1項において「甲の要請に基づき」とありますが、乙側が要望する場合も考えられるため、必要に応じてリモートワークを実施する場合の要件を、上記条項例とは別の内容にて規定することも考えられます。

また、上記条項例の第3条第1項第2号の「作業報告」として「作業内容」を必要に応じて追記することも考えられます。そもそもリモートワークでは受託者側の作業内容が見えづらくなるため、仕事を行った・行っていないといった紛争が生じるおそれがあります。こうしたトラブルを避ける意味で、作業内容の報告を「作業報告」として規定することに意義があります。当事者間で後に禍根を残さないためにも、どの事項を報告事項とするのかについては十分に協議しておく必要があるでしょう。

貸与設備等の取り扱いに関する条項について

第4条(貸与設備等の取り扱い)
1. 乙は、必要な点検を講じた上で貸与設備等を使用し、善良なる管理者の注意をもって保管、管理するものとする。甲が別途、貸与設備等に関する注意事項を定めた場合は当該注意事項に従って、保管、管理するものとする。
2. 乙は、貸与設備等について譲渡、転貸、占有の移転、担保の提供、目的外使用は一切しないものとする。
3. 乙は、本業務を完了した場合又は甲からの要請があった場合は、甲より貸与・提供された資料等(複写物及び複製物を含む。)を速やかに甲へ返還するものとする。
4. 乙の故意又は過失により、貸与設備等が滅失若しくは毀損したとき、又は返還が不可能となったとき(盗難及び紛失の場合を含む)は、速やかに電話等の手段で甲に報告するものとともに、別途その詳細を書面で報告し、甲の指示を受けるものとする。この場合、甲は、乙に対し損害賠償を請求できるものとし、賠償の方法、金額については甲乙協議のうえ定めるものとする。

この条項では、受託者側が業務実施にあたり貸与設備を使用する場合において、貸与設備の管理方法・注意義務の程度や貸与設備を滅失、毀損等した場合の対応・賠償責任等について定めたものです。

貸与設備の内容にもよりますが、例えば委託者側の資料を受託者側が紛失してしまった場合には、当該資料の内容が外部に漏れる等により委託者側に損害が生じることが想定されます。受託者の社員が在宅という私的な場所で業務を行う以上は、受託者のオフィスや指定場所で業務を行う場合に比して、より一層貸与設備の管理について注意管理する意識が必要と言えますので、貸与設備について独立の条項を設けて規定しています。

セキュリティの確保に関する条項について

第5条(セキュリティの確保)
1. 乙は、接続環境及び貸与設備等のセキュリティの確保に努めるとともに、本業務を行うエリアへの不正侵入、貸与設備等の紛失、コンピュータウイルスの感染等による被害防止に努めるものとする。
2. 乙は、万一事故が発生した場合には、すみやかに甲に報告しなければならない。

この条項では、受託者が業務を実施する場合のハード環境やネット環境に係るセキュリティ面について、被害防止の努力義務及び被害発生時の報告義務について規定しています。なぜなら、リモートワークにおけるセキュリティレベルは、受託者のオフィスや指定場所で行う場合に比して低い可能性があるためです。例えば、受託者社員のパソコンで業務を行う場合に、当該パソコンにセキュリティソフトが導入されていない場合があり、受託者社員の個人宅への侵入の方が受託者のオフィスへの侵入よりも一般的に容易といったリスクが考えられます。必要に応じて、受託者側のセキュリティ確保における義務のレベルを努力義務よりも上げることや、委託者側からの具体的なセキュリティの確保に関する要望事項を規定することも考えられます。

まとめ

今回はリモートワークを認める内容の業務委託契約書に関する覚書について解説いたしました。新型コロナウイルス感染症の収束までの道のりは不透明ですが、企業では今後も日々社員の健康状態に注意し、この難局を乗り切る必要があります。

現在、リモートワークの導入を検討し、個々の案件に応じたリモートワークに関係する働き方や、契約書面の記載方法等について心配や不安がある方は、一度専門知識の豊富な弁護士にご相談されることをおすすめします。

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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