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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

ウェブサービス等の利用規約の作り方を弁護士が解説(前編)

利用規約の正しい作成方法と注意点(前編)

いわゆるウェブサービスなど、インターネット上のサービスにはおおむね、「利用規約」というものが存在します。この「利用規約」の内容は、事業者とユーザー間とのトラブルの際の解決内容に大きく影響し、類似の事例であっても「利用規約」の内容によっては結論が大きく変わる場合があります。本記事では、利用規約の作成方法と作成の際の注意点について、サンプルの条項を紹介しながら解説を加えていきます。

利用規約とは

「利用規約」とは、いわゆるウェブサービスやゲームなどのサービスを提供する事業者がユーザー向けに整理したサービス利用上のルールを文章にまとめたものを言います。利用規約は様々なビジネスについて作成されますが、SNSやクラウド型サービス、各種ダウンロードサービスなどのインターネット上のサービスについて作成されるケースが多くなっています。利用規約の内容はサービスを提供する事業者が決定し、ユーザーがこれに同意してサービスを利用することにより、利用規約の内容はサービス提供事業とユーザーの契約内容になります。また、利用規約は訴訟に発展した際、裁判所が判断を加えるための一資料になりますので、その意味でも、抜けのないものを作成しておく必要があるといえます。

利用規約の正しい作成方法

以下、利用規約の正しい作成方法について解説していきます。

利用規約の作成については、雛形等を参考にするとしても、各々のサービス毎に独自性があることが通常であることから、自社の提供するサービスに依拠した形で作成しなければいけない部分が大きいという特徴があります。しかし、どのようなサービスを提供するのであれ、盛り込むべき一定の内容について、以下で解説していきます。本編では、利用規約への同意やアカウントの管理、禁止行為等について解説をし、残りの部分については後編の記事へと解説を譲ります。

利用規約への同意について

(サービスの利用)
第〇条
登録ユーザーは、本サービスの登録ユーザーとしてのアカウントを用いてログインした時点で、利用規約に有効に同意し、当社と登録ユーザーの間に本サービス利用規約を内容とする利用契約が成立することを承諾するものとします。

作成した利用規約を実際に適用するためには、適用対象となる各ユーザーから利用規約が適用されることについて同意をしてもらう必要がある為、その旨を明記します。 同意をもらう方法としては、「同意ボタンのクリック」や、「チェックボックスへのチェック」など、契約書を取り交わす場合と比べて簡易的な方法によることとなりますが、ここで認識しておきたいのは、契約書に当事者双方がそれぞれ署名捺印をして契約する方法と比べると、クリックのみで契約を済ませるという方法は、確実性が劣るものであるということです。

そのため、利用規約を全文表示しなければ、同意のボタンを押せないようにするなど、「クリック」という行為に出来る限り重みを持たせて、何か問題が起こった際に反論・対抗が出来るようなサイト設計にする必要があります。

利用規約の変更の方法

(本規約等の変更)
第〇条
1.当社は、本サービスの内容を自由に変更、廃止することができるものとします。
2.当社は、本規約(当社ウェブサイトに掲載する本サービスに関するルール、諸規定等を含みます。以下本項において同じ。)を変更できるものとします。当社は、本規約を変更した場合には、登録ユーザーに当該変更内容を通知するものとし、当該変更内容の通知後、登録ユーザーが本サービスを利用した場合又は当社の定める期間内に登録取消の手続をとらなかった場合には、登録ユーザーは、本規約の変更に同意したものとみなします。

いったん利用規約への同意を得た後も、サービスの内容が変わったりした場合に備えて、自社の都合により利用規約を変更する場合の利用規約の変更の方法について規定しています。利用規約は契約の条件であることから、条件を変更する場合はその都度ユーザーから同意を取らなければならないのが原則です。もっとも、著しく条件が悪化しない限りは、多くのユーザーは利用規約の変更には無関心であり、合意を取り直さなくてもクレームにつながることが少ないことなどから多くのウェブサービスでは、利用規約において、「ウェブサービス事業者が、一方的に利用規約を変更できる権利」を定め、ユーザーから明示的に同意を取ることなく利用規約を変更しています。

しかし、ユーザーにとって影響が大きい条件や、不利益が及ぶ条件の変更を行う場合は、少なくとも、変更内容と、「変更日以降にサービスを継続利用していることをもって変更に同意したものとみなす」などの旨を通知するといった対応を定めるべきでしょう。

定義

(定義)
第〇条
1.「登録ユーザー」とは、第3条に基づき本サービス会員としての登録がなされた個人又は法人を意味します。
2.「有料プラン」とは、本サービスの「Pro Plan(理由の如何を問わず名称は若しくは内容が変更された場合は、当該変更後のプランを含みます。)」など、登録ユーザーが対価を支払うことで利用し得る地位を得るプランを意味します。
3.「有料登録ユーザー」とは、第7条に基づき本サービスの有料プランの登録を行い、かかる登録が維持されている登録ユーザーを意味します。
4.「未登録ユーザー」とは、第3条に基づくユーザー登録を行わずに本サービスを利用する個人又は法人を意味します。
…(以下略)…

利用規約は、トラブルが生じた際に備えて作成されている一面もあることから、かかる場合を想定して、ユーザーと事業者だけでなく、裁判所などの第三者からみても、意味が明確にわかる内容に整備することが必要です。

そこで、自社のサービスの提供の中で、独自に用いられている用語に関しては、「用語の定義」に関する規定を設けて、自社のサービスを知らない裁判所などの第三者から見ても、利用規約の内容の意味を明確に読み取れるようにしておく必要があります。また形式面としては、用語を五十音順に並べて定義を説明することで、利用規約の本文の読みやすさが向上します。

アカウントの登録・管理

(ユーザー登録)
第〇条
…(前略)…
4.当社は、当社の基準に従って、登録希望者の登録の可否を判断し、当社が登録を認める場合にはその旨を登録希望者に通知し、この通知により登録希望者の登録ユーザーとしての登録は完了したものとします。
5.前項に定める登録の完了時に、本規約の諸規定に従った本サービスの利用契約が登録ユーザーと当社の間に成立するものとします。
6.当社は、本条第1項に基づき登録を申請した者が、以下の各号のいずれかの事由に該当する場合は、登録を拒否することがあります。
(1)本規約に違反するおそれがあると当社が判断した場合
(2)当社に提供された登録情報の全部又は一部につき虚偽、誤記又は記載漏れがあった場合
(3)過去に本サービス又は本サービスの利用の登録を取り消された者である場合
(4)未成年者、成年被後見人、被保佐人又は被補助人のいずれかであり、法定代理人、後見人、保佐人又は補助人の同意等を得ていなかった場合
(5)反社会的勢力等である若しくは反社会的勢力等であった、又は資金提供その他を通じて反社会的勢力等の維持、運営若しくは経営に協力若しくは関与する等反社会的勢力等との何らかの交流若しくは関与を行っていると当社が判断した場合
…(中略)…
(8)その他、当社が登録を適当でないと判断した場合
7.当社は、登録ユーザーの本人確認及び登録情報の内容が真実であるかの確認をいつでもすることができるものとし、登録ユーザーは、当社の求めに応じて、当該確認に必要な情報を書面等により当社に提供するものとします。

本規定は、サービスを利用させることで後々トラブルにつながりかねない対象を除外すべく、除外事由を列挙した規定となっています。

6項の(3)は、過去に問題を起こしたユーザーが別のアカウントを取得して再登録を試みようとしてきた際を想定して設けられている規定です。

6項の(4)は、未成年者取消等の民法上の取消が認められる場合を想定した規定です。携帯電話・スマートフォンの若年層への普及に伴い、ソーシャルゲームなどの分野において、保護者の同意を得ずに行った未成年者の課金が高額化し、保護者と事業者との間でトラブルになるケースが増加しています。民法は、未成年者が保護者(正確には「法定代理人」)の同意を得ずに契約をした場合には、その契約をいつでも取り消すことができることを原則としているため、「保護者の同意を得ていない場合は、将来契約を取り消されてしまう可能性がある以上、そもそも登録は受け付けない」ということを明確にしています。
もっとも、このように登録拒否事由としておけば、保護者の同意を得たかを確認しなくてもいいという事にはならず、確認を怠って、保護者から同意を得ていない未成年者の申し込みを受け付けてしまった場合には、本項の規定だけで未成年者取消を防ぐことは難しいという点には注意が必要です。

6項の(5)は、各自治体の暴力団排除条例などをふまえて規定したものです。反社会的勢力などとの関係を断ち切る旨を規約や条約の条項に入れておくことは、上場会社との取引などにおいても求められるのが最近の傾向です。

6項の(8)は、登録を拒む必要のあるすべてのケースを具体的に列挙することはできないため、穴をカバーする目的で設けている条項です。

(パスワード及び登録情報の管理)
第〇条
1.登録ユーザーは、自己の責任において、パスワード及び登録メールアドレスを管理及び保管するものとし、これを第三者に利用させたり、貸与、譲渡、名義変更、売買等をしてはならないものとします。
2.パスワード又は登録メールアドレスの管理不十分、使用上の過誤、第三者の使用等による損害の責任は登録ユーザーが負うものとし、当社は一切の責任を負いません。
3.登録ユーザーは、パスワード又は登録メールアドレスが盗まれたり、第三者に使用されていることが判明した場合には、直ちにその旨を当社に通知するとともに、当社からの指示に従うものとします。

ユーザーは、アカウントを自分のものとして、自由に利用・処分できると考えがちですが、アカウント毎の課金の制度がある以上、アカウントの共用は売り上げの減少を招いてしまいますし、アカウントの共用や譲渡は、セキュリティ上のトラブルの原因になる可能性もあります。また、ユーザーにおいてアカウントを作成するサービスの場合、第三者によって、登録したアカウントが乗っ取られる、といった事態が生じることがあります。そこで、アカウントの共用・譲渡の禁止、自己の責任の下で管理する旨を規定し、これらに反したことによって発生した事故は、ユーザーの自己責任となることを明記しています。

利用規約の正しい作成方法と注意点(前編)
最後に禁止行為について説明していきます。

禁止行為

(禁止行為)
第〇条
1.ユーザーは、本サービスの利用にあたり、以下の各号のいずれかに該当する行為をしてはなりません。
(1)当社、又は本サービスの他の利用者、外部SNS事業者その他の第三者の知的財産権、肖像権、プライバシーの権利、名誉、その他の権利又は利益を侵害する行為(かかる侵害を直接又は間接に惹起する行為を含みます。)
(2)犯罪行為に関連する行為又は公序良俗に反する行為
(3)猥褻な情報又は青少年に有害な情報を送信する行為
(4)異性交際に関する情報を送信する行為
…(中略)…
(18)その他、当社が不適切と判断する行為 
2.当社は、本サービスにおける登録ユーザーによる行為が前項各号のいずれかに該当し、又は該当するおそれがあると当社が判断した場合には、登録ユーザーに事前に通知することなく、以下の各号に基づく措置を講ずることができるものとします。当社は、本項に基づき当社が行った措置に基づき登録ユーザーに生じた損害について一切の責任を負いません。
(1)違反行為を停止するよう要求すること
(2)違反行為の対象となっている内容の削除、違反行為の差止
(3)本サービスの利用を停止すること
(4)その他、当社が必要とする処分を行うこと
(5)前各号の措置を講じたことについて、当社が適当と認める方法において公表すること

アプリやWebサービス上では、迷惑行為や有害な行為を行うユーザーが必ず一定数現れます。このような事態は是正すべき必要があるところ、このような迷惑行為を禁止する規定をあらかじめ用意していなかった場合、迷惑行為をやめさせることは事実上難しくなります。そこで、事業者にとって不都合な行為については、あらかじめ利用規約の中に「禁止行為」として列挙しておくことが必要になります。

多くのウェブサービスは、多くのユーザーに対して同一のサービスを提供することで収益を上げる構造を取っています。そのため、事業者にとって好ましくないユーザーの、想定外の行動を、いかに効率よくコントロールできるかは、サービスの継続可能性に直結する非常に重要な要素です。そのため、禁止行為は、利用規約に定められている様々な条件の 中でも実務上最も重要な規定の一つといえます。禁止事項においては、他社の権利侵害・犯罪行為の禁止など、一般的な事項に加えて、実際に提供するサービスに特有の禁止事項をなるべく網羅的、具体的に列挙しておくことで、禁止事項違反に伴うアカウント停止などの措置を取りやすくなります。

例えば、禁止事項に違反した場合のペナルティが不当であるとの抗議を受けた際、その違反している行動が明確に禁止行為に該当する場合は、単にその旨を伝えるだけで簡単にクレームが収まることも多いです。そのような意味で、禁止行為を抜け目なく具体的に記載する事は、実務上非常に有用です。もっとも、リリース段階で禁止行為を全て挙げ尽くすことは現実には困難であるため、サービスの運営を通じて問題が生じるごとに、禁止事項を見直していくという姿勢が現実的かつ重要です。

2項は、禁止行為を行った際の罰則等について規定しています。禁止行為を規定してもそれに対するペナルティが存在しなければ、迷惑行為に対する抑止力となりません。上記規定では、その内容として、迷惑行為の停止の要求、差止、利用停止処分等が、段階的に規定されています。

まとめ

利用規約も契約であり、当事者の意思の合致が必要である以上、合意の形成に至るまでどれだけ適切なプロセスを通っているかが適切な利用規約となるための重要なカギとなり、またユーザーとの無用な対立も避けることが出来ます。後編では、禁止行為に抵触する行為を行った際の処分や、損害賠償等について、解説をしていきます。

後編はこちらになります。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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