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eスポーツのプロ選手所属契約書の要チェックポイント

eスポーツのプロ選手所属契約書の要チェックポイント

eスポーツのプロ選手は、PCゲームで育った若者たちの間ではとても人気がある職業で、今や世界全体で年間数千億円のビッグビジネスに成長しています。

その中で、企業がイメージアップや認知度の向上などを目的として、将来有望なプロ選手を専属にするケースも増えつつあります。しかし、プロeスポーツチームと選手の契約とは異なり、経験の少ない一般企業とプロ選手の契約においてはどのような内容にすべきか判断できないことも多いと思われます。

そこで、今回は企業がeスポーツのプロ選手を専属とする業務委託契約書のサンプルをもとに、気をつけたいポイントについて解説します。

契約書の前文について

「専属契約書」前文
株式会社●●(以下「甲」という。)と本書面末尾に記名押印した者(以下「乙」という。)は、甲のために、乙がeスポーツのプロ選手として活動を行うにあたり、以下のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。

契約書の「前文」は全ての条項の前提となりますので、ここでは「甲のために、乙がeスポーツのプロ選手として活動を行う」という部分が重要で、内容によっては個々の条項と整合性が取れなくなることもあるので注意が必要です。

委託業務に関する条項

第1条(業務の委託)
甲は乙に対し、eスポーツのプロ選手として、甲の指定するeスポーツの大会に出場する等の競技活動、各メディアへの出演、広告・宣伝等その他の商業的活動を行う業務(以下「本件業務」という。)を委託し、乙はこれを受諾する。尚、乙の両親は、本件業務を履行する義務を負わない。

この条項は非常に重要なので、いくつかの項目に分けて詳しく解説します。

「専属」の記載の有無

契約のタイトルは「専属契約書」となっていますが、前文及び本条では単に「eスポーツのプロ選手」と記述しています。「専属」であることを明確にするためには甲専属のeスポーツのプロ選手と明記する必要があります。

委託業務の記述

この契約において報酬の前提となる委託業務について定められているのは本条のみですが、期間、時期、場所、回数などの詳細が不明であり、乙にとって報酬額が適切かどうかの判断ができないため別紙などで委託業務の詳細を具体的に明記しましょう。

なお、業務委託契約については下記記事にて詳述しています。

委託業務は十分か

甲が本契約を締結する目的には、企業のイメージアップや認知度の向上があると思いますが、そのためには選手のユニフォームなどに自社のロゴを入れる、あるいはゲーム機器メーカーであれば自社のゲーミングデバイスを使用するなどの項目を委託業務の中に具体的に明記することをおすすめします。

協会や所属チームの契約との優先順位

eスポーツプレイヤーは、関係する協会の規定や所属チームとの選手契約等に違反できませんから、但書で「本件業務が選手契約等に抵触する場合には、選手契約等の定めを優先する」など優先順位を明確にしましょう。

未成年と契約する場合

優秀なeスポーツプレイヤーには未成年者が少なくありません。本条末尾の「尚、乙の両親は、本件業務を履行する義務を負わない。」は、未成年者との契約を想定したものと思われますが、むしろ別条項で「乙は本契約の締結にあたり、法定代理人の同意書を甲に提出しなければならない」などの規定の方が重要です。

法定代理人の同意のない未成年者の契約行為は取り消すことができます。なお、民法改正により、2022年4月1日から成年年齢が20歳から18歳に引き下げられますので注意しましょう。

報酬について

第2条(委託報酬)
⒈ 甲は乙に対し、本件業務に対する対価(以下「委託報酬」という。)として、半年俸●●円(税別表示)を6分割して毎月支払うものとする。
⒉ 甲は、第三者との間で、第三者のために乙に本件業務の一部または全部を行わせるスポンサー契約を締結したとき、当該第三者からスポンサー契約に基づき取得する報酬のうち、●%を乙に支払うものとする。
⒊ 甲は乙に対し、第1項及び前項の金員を、月末締め翌月末払いにて、乙の指定する銀行口座に振込送金する方法によって支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。

第三者とのスポンサー契約について

この条項で特に問題となるのは第2項です。乙の業務は前文に書かれているように「甲のために業務を行う」のであって、「第三者のために行う業務」は本件業務に含まれません。

また、第三者と乙のスポンサー契約を甲が勝手に締結するというのは、雇用契約では可能であっても業務委託契約では無理があるので、別途合意書などを作成することをおすすめします。

賞金や出演料などについて

この契約の中で、乙が獲得した試合のファイトマネーや賞金などの扱いについて規定されていませんので、具体的に明記するか、別途協議するなどの文言を追加しておきましょう。

経費について

本契約では乙が本件業務を行うための経費についての規定がありません。どこまでを報酬に含めるのか明記し、それ以外の費用の取り扱いを規定する必要があります。

例えば「甲の事業所へ通所する費用は報酬に含まれるものとするが、それ以外の甲が指示した業務の遂行に必要な費用は甲の負担とする」などの条文が考えられます。

eスポーツのプロ選手所属契約書に限った話ではありませんが、経費は、どこまでが報酬に含まれるのか・どこからが経費として別途支払われるものなのか、後で揉めやすいポイントです。面倒に思えても、契約時になるべく具体的な取り決めを行っておくべきですし、その「取り決め」を契約書にも明記しておくべきです。

業務遂行上の義務について

第3条(業務遂行上の義務)
1. 乙は、1週間のうち●日間は、甲の事業所●●(所在地:____)に通所しなければならないものとする。ただし、甲の都合により、乙が通所できない場合はこの限りではない。
2. 乙は、本契約に定められた各条項を誠実に遵守し、善良なる管理者の注意をもって、本契約に定める委託業務を遂行し、その履行に関し事業者としてすべての責任を負う。
3. 乙は、本件業務の遂行に関して甲及び乙に適用される法令、監督官庁の告示・通達及び業界の自主ルール等を遵守しなければならない。

第1項の「通所」について、通所して何かの業務を行うと考えるのが普通ですがその業務 が報酬の対象となるのであれば「本件業務」に明記する必要があります。

また「●日間」という表現は継続的な拘束を意味し雇用契約と判断されるリスクがあるので「1日に1回を原則とし、一週間に●回」という表現も考えられます。

肖像権及びパブリシティー権

第5条(肖像権等の許諾)
乙は、甲が契約期間中に取得した乙を被写体とする写真等の画像や動画が掲載された各種制作物(以下「制作物等」といいます。)について、甲の自由な利用に同意し、制作物等の肖像権、プライバシーにかかる権利、パブリシティ権等を、甲又は甲が指定する第三者に対して行使せず、また甲又は甲の指定する第三者の求めに応じて行使し、同権利の侵害を主張しないものとする。

肖像権やパブリシティ権などについては個人の人格的な側面が含まれるため、本人が望まない使われ方を避けるために利用範囲を明確にした上で許諾を得るのが一般的です。

なお、肖像権については下記記事にて詳述しています。

残置条項の例外

第14条(残置条項)
本契約終了後も、第4条(権利の帰属)、第5(肖像権等の許諾)、第9条(損害賠償)、第10条(秘密保持義務)、第15条(裁判管轄)、第16条(協議)及び本条は、その効力を有するものとする。

細かい部分ですが第5条の肖像権等の許諾について、甲の反社条項違反による契約解除の場合には反社会勢力に無期限で肖像権等を使用されることを避けるため、残置条項から除外した方が良いと思われます。

まとめ

今回は、業務委託契約という建て付けの契約でしたが、委託業務の内容は自由に決めたい、予定のない日は出社させて何かの業務を行わせたい、第三者とのスポンサー契約を管理したいなどの要求がある場合は、業務委託契約ではなく短期の雇用契約も考えられます。

いずれにしても、eスポーツ選手という新しい職業に関する専属契約を作成するには、専門的な法律知識と経験豊富な法律事務所に相談しアドバイスを受けることをおすすめします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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