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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

薬機法違反による行政処分の対応状況とは?事例を含めて解説

薬機法では、従前から医薬品等の製造販売業者に対する業務改善命令や、製造販売の承認取消しなどの行政処分が規定されていましたが、令和元年(2019年)の改正により、新たに課徴金制度などが導入されました。

この記事では、新たな制度にも触れつつ、薬機法違反に対する行政の対応や、具体的な事例について解説します。

行政措置の2つの類型と薬機法における対応状況

薬機法は、医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保や、保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止などに必要な規制・措置を講ずることで、保健衛生の向上を図ることを目的としています(薬機法第1条)。

これらの措置は、大きく分けると、①行政によって、私人に対して法律の効果として、権利や義務を生じさせる行為と、②①の行為によって課された義務の履行を確保する手段に分けられます。

行政によって、私人に法律上の権利や義務を生じさせる行為

この行為は、さらに、私人に対して作為または不作為を命じる「命令行為」、私人に対して法的地位を設定する「形成行為」、私人に関する法律関係を確定させる「確定行為」に分類されます。

(引用:平成30年6月7日第3回医薬品医療機器制度部会資料1

薬機法では、命令行為として、品質や安全管理の方法の改善命令や(薬機法第72条第1項)、違反行為の中止命令(薬機法第72条の5第1項)、業務停止命令(薬機法第72条第1項、第75条第1項など)などが規定されています。

特に、違反行為の中止命令をはじめとする措置命令(薬機法第72条の5)については、令和元年の改正により、対象となる違反行為が拡大しました。

措置命令を含めた令和元年の薬機法改正については、次の記事をご参照ください。

関連記事:令和元年の薬機法改正の内容~薬局・薬剤師のあり方、課徴金制度~

また、形成行為としては、登録認証機関の業務規程の認可(薬機法第23条の10第1項)や製造販売業の許可の取消し(薬機法第75条第1項)などが規定されています。

私人に対して課された義務の履行を確保する手段

上述した行為でいえば、医薬品等の製造販売業者に対して品質や安全管理の方法の改善命令を出したとしても、それによって品質や安全管理の方法が改善されるわけではなく、命令を出された製造販売業者が実際に改善する行動に出なければ義務を果たしたことにはなりません。

そこで、私人による義務の履行を確保するための手段として、行政が私人に対して義務の履行を強制する方法や、義務違反に対する制裁が法律によって規定されています。

薬機法では、従来から懲役刑や罰金(薬機法第83条の6以下)、過料(薬機法第91条)などが定められています。令和元年の改正によって新設された課徴金制度(薬機法第75条の5の2)も義務違反に対する制裁として位置づけられます。

薬機法の課徴金制度とは

課徴金とは、違反者に対して課される金銭的負担です。似たような金銭的負担として、「罰金」がありますが、罰金は刑法に定められた刑罰の一種であり、科せられた場合前科となります。一方、課徴金は行政罰に位置付けられるものであり、納付命令を受けた事実は前科にはなりません。

課徴金制度が導入された一因として、従来から規定されていた罰金の上限が200万円とされており、薬機法に違反した行為による売上げに比べて少額であることが挙げられます。

このような制度に対しては、違反行為に対する抑止効果が不十分であり、不当な収益を取り上げるべきであるなどの批判がありました。そこで、課徴金制度では、違反行為による売上げの4.5%を課徴金の額と定め、違反行為に応じた金銭的負担が課されるようになりました

また、課徴金の額には上限が設けられておりません。したがって、虚偽・誇大広告といった違法な広告を行って医薬品等を販売した企業などは、大きな金銭的負担を受けるおそれがあるため、医薬品等の広告を行う際には、法規制に違反していないか、細心の注意を払う必要があります。

課徴金の算定方法など、より詳細な内容については、以下の記事をご参照ください。

関連記事:薬機法の課徴金制度とは?対象となる行為や減免されるケースを解説

薬機法違反による行政処分の事例

薬機法違反による行政処分の事例

薬機法に違反した企業等に対して行政処分が行われた場合、厚生労働省などから報道発表がなされます。以下では、実際に企業に対して行われた行政処分の一例を紹介します。

事例1:ファイザー株式会社

2015年9月、ファイザー株式会社に対して、業務改善命令(薬機法第72条の4第1項)が出されました。

医薬品等の製造販売業者には、副作用と疑われる症状が発覚した場合に厚生労働大臣に対して一定の期間内に報告する義務があります(薬機法第68条の10、同法施行令第228条の20)。今回の事案では、ファイザー株式会社の製造販売する抗がん剤など11種類の薬について、212例の副作用を把握していたにもかかわらず、期間内に報告がなされなかったことなどが問題となりました。

この事案は、副作用等を把握していた医薬情報担当者から安全管理統括部門に報告がなされていなかったという事情があったことから、業務改善命令の内容として、安全管理業務手順書の改定や、社員に対する教育訓練、是正措置及び再発防止策に係る改善計画の提出などが言い渡されました

参照:医薬品医療機器法違反業者に対する行政処分について|厚生労働省

事例2:株式会社関西メディコ

2017年3月、株式会社関西メディコに対して、奈良県及び奈良市から、業務改善措置命令(薬機法第72条の4第1項)や、業務停止命令(薬機法第75条第1項)などが出されました。

これは、C型肝炎の治療薬である「ハーボニー配合錠」の偽造品が薬局において調剤され、患者に流通したという事例です。

偽造品を仕入れた店舗に対しては、偽造品を仕入れ、他の店舗に対して販売授与の目的で貯蔵させたこと(薬機法第55条第2項違反)、医薬品の仕入れ業務や分譲業務を管理者に管理させていなかったこと(薬機法第7条第2項違反)、仕入れ段階で箱や添付文書がないにもかかわらず、医薬品の試験検査を管理者に行わせなかったこと(薬機法第9条第1項)などを理由に業務停止命令及び管理者変更命令(薬機法第73条)が出されました。

また、仕入れ店から偽造品を交付されていた2店舗については、医薬品等の管理体制や薬局開設者の監督体制に対する業務改善命令が出されました。

参照:県内で発見されたC型肝炎治療薬「ハーボニー®配合錠」の 偽造品への対応について(第5報)(奈良県報道発表資料) 

参照:県内で発見されたC型肝炎治療薬「ハーボニー®配合錠」の 偽造品への対応について(第6報)(奈良県報道発表資料)

薬機法に違反しないための対策

ここまで紹介してきたように、薬機法に違反した場合、行政処分を受けることとなり、また自社の薬機法違反の事実や行政処分の内容なども公に知られることとなり、金銭的な負担だけではなく、自社の信用を失うおそれもあります。

それでは、薬機法に違反しないためにはどのような対策をとればいいのでしょうか。

自社のガイドラインを策定する

対策の一つは自社ガイドラインの策定です。どのような行為が薬機法違反になるのかは条文などを確認するほか、厚生労働省から出されている各種ガイドライン・通知などの内容も把握する必要がありますが、これらの中から必要な情報を理解するのは労力がかかります。

そこで、自社の業務のうち、薬機法などに違反するおそれがある点について、どのように業務を行うかを自社のガイドラインとして社内に共有することで、一人一人の社員に薬機法違反に対する注意喚起を行うことができます。

特に医薬品等の広告については、製造販売会社だけでなく広告業者にも薬機法違反にならないよう注意してもらう必要があることから、取引先にも気を付けるべき点を伝えられるようになれば、より薬機法に違反するおそれは低くなるでしょう。

弁護士へ相談する

ガイドラインの制定にあたって、参照すべき情報の取捨選択や、制定したガイドラインが十分な内容となっているかが不安な場合には、薬機法に詳しい弁護士に相談することも大切です。薬機法の規制が及ぶ行為かどうかという点は断定的な判断は難しいものの、過去の経験などを踏まえた弁護士ならではの法的視点からのアドバイスが期待できます。

まとめ:薬機法のリーガルチェックは弁護士へご相談を

まとめ:薬機法トラブルでお悩みなら弁護士へご相談を

どのような行為が薬機法に違反するかというのは、個々の会社で明確に判断できるものもあれば、考えようによっては適法とも違法とも思われるような判断が難しいものもあります。ガイドラインの制定だけでなく、すでに行っている業務や今後行う予定の業務が薬機法に抵触していないか気になる場合には、弁護士へご相談ください。

薬機法等のリーガルチェックや書き換え表現の提案は、非常に専門性の高い領域です。モノリス法律事務所は、薬機法法務チームを組成し、サプリメントから医薬品まで、様々な商材の記事チェックに対応しています。

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モノリス法律事務所の取扱分野:記事・LPの薬機法等チェック

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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