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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

事例で学ぶ「商標権侵害」の基準と罰則(懲役・罰金)について

商標権侵害の罰則とは

自社の会社名や商品名などを「商標権」として登録した後、他人が当該商標を勝手に使っていたら、商標権侵害を主張することができます。そして、商標権の侵害は犯罪なので、侵害者は刑事上の責任を問われ、罰則を受ける可能性があります。

商標権侵害の罰則はどのように定められており、また、どのように判断されるのでしょうか。

商標権侵害の罰則とは

商標権は、商標法によって定められている権利ですが、その第78条には、罰則に関する規定があります。

第九章 罰則
(侵害の罪)
第七十八条 商標権又は専用使用権を侵害した者(第三十七条又は第六十七条の規定により商標権又は専用使用権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

また、下記は少し条文の読み方が難しいですが、

第三十七条 次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
一 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
二 指定商品又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品であつて、その商品又はその商品の包装に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為
(中略)
第七十八条の二 第三十七条又は第六十七条の規定により商標権又は専用使用権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

という罰則もあります。

商標権は「類似」する範囲にも及ぶ

単純に言うと、

  1. 同一の商標を、同一の(商品or役務)に使用した場合→10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金又は併科
  2. 類似する商標を、同一の(商品or役務)に使用した場合→5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金又は併科
  3. 同一の商標を、類似する(商品or役務)に使用した場合→5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金又は併科

という構造です。商標は、ある商標を、ある(商品or役務)について登録すると、

  1. それと同一の商標を、同一の(商品or役務)について使用禁止できる
  2. それに類似する商標も、同一の(商品or役務)について使用禁止できる
  3. それと同一の商標を、類似する(商品or役務)について使用禁止できる

という範囲で権利を取得することが可能です。ただ、この中で、特に強い部分、言い換えれば違反行為に対して強い罰則を与えるべき部分は、1でしょう。したがって1と2,3で罰則の強さが分けられている訳です。

ただ、ここでいう「使用」というのは、少し特殊な概念です。単純に言うと、商標権とは、「それがオフィシャルであると読み取れるような態様での使い方」のみを禁止できる権利だからです。この点に関しては下記記事にて詳細に解説しています。

商標権侵害は「非親告罪」

このように、商標権の侵害は、罰則の定めのある刑罰です。したがって、商標権の侵害を受けた場合、警察に被害を訴え、逮捕などを求めることが可能です。なお、少し分かりにくいですが、商標権侵害は、非親告罪です。つまり、警察に対して「告訴」を行う必要はなく、被害届を出すなどして、警察による捜査や逮捕を事実上求めれば足ります。

商標権侵害にも故意が必要

商標権侵害が成立する「故意」の条件とは?

ただ、あらゆる犯罪に関して共通なのですが、犯罪は、(いわゆる過失犯を除き)故意がなければ成立しません。例えば、他人の財物を盗めば窃盗罪ですが、友達の家でボールペンを借り、うっかりポケットに入れたまま家に帰っても窃盗罪にはなりません。これは、ボールペンを盗むという意図(認識)がなく、「故意」に欠けるからです。

同様に商標権の場合も、商標権侵害の認識が無ければ、犯罪としての商標権侵害の罪は成立せず、罰則の問題にはなりません。では、商標権侵害の認識とは、具体的にはどういうことでしょうか。つまり、

  • その商品について商標登録が行われている事を調査し、調査した上でなお侵害を行っていた場合
  • その商品について商標登録が行われている可能性があると思いつつ、調査せずに侵害を行っていた場合
  • その商品について商標登録が行われていることは特に考えず、したがって調査せずに侵害を行っていた場合

どの場合であれば、「商標権侵害について故意があった」と言えるのでしょうか。

著名な商品の偽物の事例

著名な商品の偽物の販売であれば、この点が問題になるケースは少ないものと言えます。例えば、アディダスのジャージやバーバリーの帽子などの偽物を販売した事例において、裁判所は下記のような判断を行っています。

(被告人は)ドイツ連邦共和国法人アディダスアーゲー社が被服を指定商品として商標権の設定登録をしている商標(商標登録第1893741号)と類似する商標を付したジャージ上下セット3点を,高知市朝倉西町〈番地略〉マンションZ606号ほか2か所あてにゆうパックなどで発送し,平成22年7月8日ころから平成23年3月25日ころまでの間に,情を知らない配達員をして,丙川三郎らに到達させて,代金合計2万8500円(送料を含む。)で販売譲渡し
(中略)
商標権侵害の程度は大きい上,模倣性が強い犯行であることにも照らすと,厳しい態度で臨む必要がある。また,各商標権者は慰謝の措置を受けておらず,その処罰感情が厳しいのはもっともである。
被告人らは,楽に金を稼ごうとして本件各犯行に及んでいるが,その安易な動機に酌量の余地はない。

松山地裁平成23年9月13日判決

この判決は、「類似する」と述べるのみで、故意については特に判示を行っていません。ある意味、有名ブランドの偽物を作っている以上、故意があるのは当然である、という判断だと言えるでしょう。松山地裁は、こうした判断の上で、商標権侵害の犯罪の成立を認め、懲役1年6ヶ月(執行猶予4年)と罰金100万円という罰則を科しています。

一般論として、いわゆる偽物や偽造品を自ら作成している場合、権利者の許諾なく意図的に偽物や模造品を販売している以上、故意は当然にあり、犯罪として成立する、と考えられるケースが多いと言えます。

ソフトウェアの不正使用プログラムの事例

不正使用のプログラム販売は、商標登録されている可能性が分かっていながら行われていると判断されることも。

IT・インターネットの分野でも同様で、例えばインターネット上のオークションサイトで、著名なソフトウェアの不正使用のプログラムを販売していた被告が、不正使用プログラムの販売のために、「著名なソフトウェア」の名称を記載していたケースについて、東京高裁は、以下のような判断を行っています。

世界的に販路を展開するソフトウエア販売企業の商品であることは商標登録があることについての未必的な認識を推認させる事情であるといえるのであって,現に被告人は広告において出品したソフトウエアの内容に関する説明はしておらず,需要者にとってはそれらが名称のみでどのようなものかを理解できる程度に著名なソフトウエアであることを被告人が認識していたために特に説明しなかったものと推認でき,そのようなソフトウエアであれば,商標登録がされている可能性が高いことをも認識していたはずである。被告人はソフトウエアに関する同種の商標法違反の有罪判決を受けた経験を有するにもかかわらず,商標登録の調査をするなどの商標登録の有無について注意を払うことなく,登録商標に類似する標章を付して商品の広告をしていたのであるから,少なくとも商標登録がされているかもしれないがそれでも構わない旨の未必の故意があったことは明らかであ(る)
(中略)
被告人を懲役1年及び罰金100万円に処(す)

東京高裁平成29年3月10日判決

この事件の被告人が販売していたソフトウェアが具体的に何なのかは判決上明らかではないのですが、上記判決は、下記のような判断を行っている訳です。

  1. 被告人は、オークションサイト上で「●●●を不正使用するためのプログラム」といった説明しかしておらず、その説明のみでプログラムが何に使えるものか、購入者は理解できると考えていたとしか思えない
  2. 被告人が1と考えていたのは、●●●が著名なソフトウェアだからである
  3. 2だとすれば、そんな著名なソフトウェアが商標登録されている可能性は、当然分かっていたはず
  4. 3より、「未必の故意」があり、犯罪が成立する

「未必の故意」というのは法律用語なのですが、単純に言えば、「確定的に商標登録の存在を認識していた」訳ではないが「商標登録されている可能性があると思いつつ、それでも構わないと考えていた」のであれば、故意があると言える、という議論です。

上記判決は、こうした議論の上で、犯罪の成立を認め、懲役1年と罰金100万円という罰則を科している訳です。

悪質なリスティング広告も同様に考えられる?

あまり議論されていないテーマですが、「模造品」や「不正使用プログラム」でなくても、他人の著名な商標を、著名性を理解しながら使った場合も、同様に考える余地はあるものと思われます。例えば、インターネット上で問題になる「商標権侵害」の一つの態様として、リスティング広告における商標権侵害があります。A社が著名な会社や商品である場合に、そのブランドイメージや、A社目当てで検索を行うインターネットユーザーを狙って、別のB社が、例えば、

化粧品ならA社と思う人にオススメ!

といったリスティング広告でB社サイトへのアクセスを促すようなケースです。こうした事例への対応方法に関しては下記記事にて詳細に解説しています。

この場合も、B社は、A社の著名性を理解し、それを悪用する意図で上記のような広告を出しているものと言えます。そうだとすれば、この場合も上記と同様に、B社には「未必の故意」があり、犯罪が成立すると考える余地があるように思えます。

商標権侵害の故意と警告書

ただ、模造品や不正使用プログラムなど、著名な他社商品の名称を意図的に使っているケース以外の場合、「故意」は重要な問題になり得ます。ある会社が先に商標登録を行った商品と同じような商品名で、別の会社が似たような商品を出している、といったケースです。商標権の登録状況は公開されますが、例えば、「およそ商品名を付ける場合、まず商標権検索をすべきで、検索をすれば発見できたのだから、常に故意がある」とは、なかなか言いがたいものです。

そこで、警察に被害を訴え、罰則などを求める場合には、「相手に対して商標権侵害の警告書の送付などを十分に行ったが、それでも相手が態度を改めなかった」といった事実や、その証拠を作っておく必要があります。つまり、

  1. 単に気付かず商品名を付けてしまっただけなら「故意」があるかは微妙だが
  2. 十分に警告などを行ったにも関わらず態度を改めず、商品を販売し続けていたのであれば
  3. その時点では商標権侵害の故意があり、犯罪であると言える

という理屈です。

したがって、こうした事案で、侵害者に対して罰則を求めるのであれば、「警告書を送付したこと」は、侵害者の故意を立証するための重要な証拠となり得ます。そこで、「権利者として、間違いなく侵害者に対して警告書を送ったこと」を証拠として確保しておくことが重要です。いわゆる内容証明は、こうした場面で活用される制度です。内容証明とは、「内容」を「証明」する郵便、という意味で、

誰が誰に対し、いつ、どういう内容の書面を郵送したか

という点について、公的な証明がなされる郵便です。したがって、警告書を内容証明で郵送しておけば、「商標権侵害について警告を行った」という点について、固い証拠となるのです。

まとめ

以上のように、商標権侵害は、罰則の定められた犯罪です。そして、少なくとも、模造品や不正使用プログラムなど、悪質なケースでは実際に逮捕や、懲役1年、罰金100万円と言った罰則が科せられています。今後は、模造品といった古典的な侵害事例だけでなく、新しい形での商標権侵害に対しても、同様の罰則などが科せられるケースは登場する可能性が高いものと思われます。ただ、特に「故意」の部分について、犯罪成立や罰則のためには、「証拠」をどのように確保しておくかが問題です。商標権侵害の被害に遭ってしまった場合、専門家に相談することが重要だと言えます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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