弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

特許権の存続期間とは?法律の目的と延長登録を解説

特許法とは、発明などの技術的なアイデアに対して特許権を与えることで、特許権を有する者だけが、一定の期間、その発明を利用することができるようにし、当該発明を利用して得られる経済的価値を確保できるようにする法律です。

特許権は強い効力を有してしますが、土地の所有権とは異なり、その効力は永続するわけではありません。特許権は一定の期間を経過すると消滅するとされており、権利が続く期間を存続期間といいます。

ここでは、特許権の存続期間と、例外として設けられている延長登録の制度について、解説します

特許権の存続期間

特許法は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、産業の発達に寄与することを目的とする(特許法第1条)ものです。

特許法により保護の対象となる発明とは、これまで存在しなかった優れた技術的アイデアです。一方で、特許権者以外が永遠に自由に活用できないとすれば、産業の発達という本来の目的が阻害されてしまいます。

一方、どれほど優れた技術的アイデアであっても、時間が経過すれば時代遅れのものとなってしまうので、あまりにも長い期間、特許法による保護を与える必要性はありません。

そこで、発明者にもたらされる利益と産業の発達によって得られる利益とを調和させるべく、特許権には、原則として特許出願日から20年をもって終了すると、存続期間が設定されています(特許法第67条1項)。

存続期間のばらつき

特許権は特許庁において設定登録されたときに発生するとされている(特許法第66条)ので、実際に特許権が存続している期間は20年から特許出願から設定登録までにかかる期間を差し引いた期間となります。

特許権は慎重な審査を経て登録されるので、審査には一定の期間を要することが想定され、実際、通常はある一定の期間内で審査は終了しています。

しかし、出願人の書類提出の状況や特許庁での審査状況等によって、特許出願から特許査定を経て特許権の設定登録がされるまでに想定される一定の期間よりも長い時間を要するものが生じる場合があり、存続期間にばらつきが生じ、特許権者にとっては権利行使が可能である期間が短くなることがあります

特許出願日から20年をもって終了するという設定が、こうした事態を生むのですが、これは、国際的な自由貿易秩序維持形成のための知的財産権の十分な保護や権利行使手続の整備を加盟各国に義務付けることを目的として、1995年1月1日発効され、2017年1月23日改正されたTRIPS協定に従っているからです。

ここで、特許権者が権利行使できない期間について特許権の存続期間を延長すれば、特許権者にとって利益となります。

一方、特許権の権利行使をされる可能性のある第三者にしてみれば、いたずらに特許権の存続期間が延長されることとなると、事業の安定性等に影響する可能性が生じます。

そこで、特許法には、特許権者の権利行使の期間を確保する一方で、存続期間の延長による出願人の間の公平性、第三者への影響等を考慮して、特許権の存続期間の延長登録という制度が設けられています

特許権の存続期間の延長登録

特許権の存続期間の延長登録という制度は、出願後20年の特許権の存続期間満了後も、例外的に特許権を存続させる制度であり、2018年12月に施行された新特許法第67条2項と第67条4項の、2種類の延長登録があります

特許法第67条2項の延長登録

特許法第67条2項の延長登録とは、「特許庁の審査の遅延を理由とする延長登録」のことです

特許権の存続期間は特許出願日から計算するので、審査等に時間がかかった場合、その分の権利期間が短くなってしまいます。この設定登録の遅れが、特許庁による不合理な審査に起因する場合にまで、この規律を適用することは適切ではありません。

そのため、特許法67条2項では、特許出願の日から5年を経過した日、または出願審査請求から3年を経過した日のいずれか遅い日以後に特許権の設定登録がなされた場合には、特許庁の不合理な審査により遅滞した期間を上限として、特許権の存続期間が延長登録の出願により認められるとされています。ただし、特許庁による審査以外に起因する期間は、延長の対象にはなりません。

特許法第67条4項の延長登録

特許法第67条4項の延長登録とは、「政令処分を受けるために必要な期間の延長登録」のことです

特許権は、一般的に、「自らが特許発明を実施する権利(実施権または積極的効力)」と、「他者による実施を排除することができる権利(禁止権または消極的効力)」から成り立っているとされていますが、医薬や農薬等の発明は、特許を受けたとしても、監督官庁による安全性確保のための手続きが終了しなければ、販売、製造等ができません。

そうすると特許権者は、許可等を受けるまでの期間は、許可等がなくとも禁止権を行使することはできますが、実施権は行使できず、不完全な形でしか、特許権を行使することができません。

そこで、特許法67条4項は、政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的として、その期間については、20年の存続期間満了後(特許法67条2項に基づき延長された場合には、延長後の期間満了後)5年を上限として、延長登録を認めています。

なお、特許法67条4項では、延長登録の対象となる監督官庁の「許可その他処分」を「その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律」とだけしていますが、特許法施行令2条では、「農薬取締法」及び「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の2つの法律に基づく登録または承認を対象としています。

まとめ

特許権の消滅事由のひとつとしての存続期間の満了について解説しましたが、存続期間満了以外にも、

  • 特許料の不納(特許法第112条4項)
  • 相続人の不存在(特許法第76条)
  • 特許権の放棄(特許法第97条)
  • 無効審決の確定(特許法第125条)
  • 特許の取り消し(独占禁止法第100条)

によって、特許権は消滅します。

特許権を侵害した、あるいはされた疑いがある場合、まず、特許権が消滅していないかどうかを確認する必要があるといえます

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る