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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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インターネット通販の「詐欺的な定期購入商法」に対する特商法改正のポイント

インターネットの普及によって誰でも簡単に商品やサービスを購入することができるようになりました。ただ、同時にインターネットを利用した悪質商法による被害も増えており、中でも定期購入に関するトラブルは増加の一途をたどっています。

消費者庁のデータでは通信販売の「定期購入」に関する相談件数は2020年で56,302件と前年比で約26%の増加、2015年と比べると約14倍に急増しています。さらに、その90%以上がインターネット通販における相談でした。

特に食品や化粧品などの定期購入に関しては、「お試し」や「モニター」等という魅力的な広告を見て申し込んだところ、定期購入の契約をしたことになっており、解約しようとすると多額のお金を要求された、あるいは販売業者と連絡が取れず解約の手続きができないなどの相談が数多く寄せられています。

この問題に対し、消費者庁の主導で2020年2月から6回にわたって「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」が開催されました。そして、その中では、ある種の販売方法について、「詐欺的な定期購入商法」という、強い言葉が用いられています。どのような結論に至ったのでしょうか。

今回は検討委員会が報告書の中で指摘する「詐欺的な定期購入商法」に対する「特定商取引法(特商法)」の改正のポイントについて詳しく解説します。

「詐欺的な定期購入商法」に対する規制強化の5大方針

2020年8月19日に公表された「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」の報告書でまとめられた「詐欺的な定期購入商法」に対する規制強化の重要な方針は次の5つになります

  1. 悪質な行為については独立した禁止行為とし規制の実効性を高める
  2. 解約・解除の不当な妨害の禁止を特商法に盛り込む
  3. 解約権等の民事ルールを創設する
  4. 違反のおそれがあるサイトへのモニタリングを実施し、法執行を強化する
  5. インターネット通販における「意に反して契約の申込みをさせようとする行為」に係るガイドラインの見直しを早期に実現する

現状の特商法の規定範囲

特商法第14条第1項第2号では、販売業者が顧客の意に反して契約の申込みをさせようとする行為により、顧客の利益が害される恐れがあるときには当該行為の是正などを主務大臣が指示できると定めています。また、禁止行為の内容については主務省令で定め、ガイドラインで具体的に解説しています。

通産省(現経産省)の省令

特商法に基づき昭和51年に当時の通産省が出した省令「特定商取引に関する法律施行規則」に関するガイドラインでは、通信販売における禁止行為について次のように説明しています。

施行規則 第1号 申込みとなることの表示について

インターネット通販において、あるボタンをクリックすればそれが有料の申込みとなることを、消費者が容易に認識できるように表示していない場合

<該当する恐れがある例>

  • 最終的な申込みをするボタンの表示が「購入・注文・申込み」ではなく「送信」などとなっており、また、画面上の他の部分でもそのボタンをクリックすることが「申込み」となることを明確に表示していない場合
  • 最終的な申込みをするボタンの近くに「プレゼント」と表示されているなど、有償契約の申込みではないとの誤解を招くような表示がなされている場合

<通信販売において該当する恐れがある行為>

  • 申込みの最終段階の画面上において、契約期間、1ヶ月あたりの料金、解約方法などの定期購入契約の主な内容の全てが表示されていない場合
  • 申込みの最終段階の画面上において、定期購入契約の主な内容の全てが容易に認識できないほどその一部が最下部などの離れた場所に表示されている場合

施行規則 第2号 確認・訂正機会の提供について

インターネット通販において、申込みをする際に、消費者が申込み内容を容易に確認し、かつ、訂正できるように措置していない場合

<該当する恐れがある例>

  • 申込みの最終段階の画面上に申込み内容が表示されず、これを確認するための手段(「注文内容を確認」などのボタン)も設置されていない場合
  • 申込みの最終段階の画面上において、訂正するための手段(「変更」などのボタン)が設置されていない場合
  • あらかじめ申込者が自分で変更しない限りは同じ商品を複数申し込むように設定してあるなど、よほど注意していなければ申込み内容を正しく認識せずに申し込んでしまうようになっている場合

特商法の改正ポイント

「詐欺的な定期購入商法」に対する規制強化の3大ポイントの中で、特商法の改正に関するものは2点あります。これは、インターネット取引が中心となっている現在の通信販売において、現行の特商法を補足する重要な役割を担うものです。

解約・解除の不当な妨害の禁止を追加する

冒頭で触れたように、単品の購入あるいは無償サンプルと思って申し込んだのちに、それが定期購入の申し込みであると分かった場合に解約・解除を妨げる次のような行為を禁止する必要があります

  • 販売業者が虚偽の名称・住所・電話番号などを表示するなど、解約をしようと思っても連絡できない
  • 解約の申し出をしたときに、残額の支払いなど不当な金銭を要求する

解約権等の民事ルールを創設する

特商法において認められている消費者による契約解除(クーリングオフ)は、電話勧誘販売や訪問販売などであって、通信販売にクーリングオフはありません。また、特商法で規定されている通信販売における返品は、商品の受領日から8日以内であれば品できますが、申し込みを撤回できないという特約があれば返品できないことになっています。

そのため、詐欺的な定期購入商法から消費者を守るためにも、通信販売についても解除権を設ける必要があるのです。

今後の課題

数ヶ月で法律を改正するというわけにはいきません。しかし、特商法→省令→ガイドラインという三層構造で基本条項から具体的な適用範囲までブレイクダウンしていることを考えると、ガイドラインの変更によって省令に基づく適用範囲の拡大は可能であり早期の実現が求められます。

また、アフィリエイト広告の不当表示やアフィリエイトサービスプロバイダー(ASP)の法的位置付けなどのアフィリエイト広告における違反行為への対応や、消費者契約法に基づく通信販売における適格消費者団体の差止請求の対象範囲の拡大などの検討も必要と思われます。

まとめ

「詐欺的な定期購入商法」に対する規制強化の5大方針、現状の特商法の規定範囲、特商法の改正ポイント、今後の課題、について解説してきました。

デジタル化が進む中で消費者の新しい消費スタイルにおける不安を払拭し、取引の安全を確保することが特商法の役割です。しかし、特商法を改正したとしても取引の違法性についてはさまざまな事情を考慮しなければ判断はできません。

悪質な取引行為があった場合には、自分だけで判断せずに専門的な法律知識と経験豊富な法律事務所に早めに相談し、どのような対応方法があるのかアドバイスを受けることをおすすめします。

販売者の立場で「サプリメント定期購入で初回限定割引を行う際の注意点」について詳しく知りたい方は下記記事にて詳述しています。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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