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投資契約における株式買取条項とは

投資契約における株式買取条項とは

投資契約において、株式買取条項と呼ばれる条項が規定されることがあります。
株式買取条項については、そもそも、どのような場合に規定すればよいのか、また、どのような内容にすればよいのかなど検討すべき事項が多くあります。そこで、本記事では、投資契約における株式買取条項について説明をします。

株式買取条項とは

株式買取条項とは、一定の場合に、VC等の投資家が、会社や経営陣に対し、自己が保有する株式の買取りを請求することを認める条項のことをいいます。例えば、投資契約において、会社や経営陣が投資契約の内容に違反したなどの場合に、VC等の投資家が、会社や経営陣に対して、保有する株式の買取りを請求することができる条項として規定されることがあります。

株式買取条項の目的

株式買取条項が規定される目的について説明していきます。

それでは、株式買取条項はどのような目的で投資契約に規定されることとなるのでしょうか。株式買取条項は、VC等の投資家が、会社や経営陣に対して、自己が保有する株式の買取りを請求する条項ですので、VC等の投資家にとってメリットのある条項です。そのため、VC等の投資家が、投資契約に規定することを提案することとなります。

株式買取条項が規定される目的として、主に以下の3点が考えられます。

  1. 投資契約違反を行った会社や経営陣に一種の制裁を与える目的
  2. VC等の投資家に投下資本を回収する機会を確保するという目的
  3. VC等の投資家が会社との関係を解消する機会を確保するという目的

投資契約違反を行った会社や経営陣に一種の制裁を与える目的

まず、株式買取条項を投資契約に規定する目的として、投資契約違反を行った会社や経営陣に一種の制裁を与える目的が考えられます。

会社や経営陣が投資契約に違反した場合、投資契約で規定された責任追及や法律上行うことができる責任追及などを行うことが考えられます。これらの責任追及は、損害賠償請求という方法が一般的ですが、損害賠償請求を行う場合には、会社や経営陣の対象行為の特定が必要であったり、損害や因果関係の立証が必要であったりと、請求のためのハードルが高いの現状です。そこで、一種の制裁を目的として投資契約に株式買取条項が規定されることがあります。

株式買取条項が規定された場合、会社や経営陣が投資契約に違反した行為を行うと、VC等の投資家により株式買取請求がなされ、会社や経営陣は株式の買取を余儀なくされることとなります。
会社や経営陣がVC等の投資家からの株式の買取りを避けるため、投資契約に違反する行為を行うことを避けるということが期待できます。

VC等の投資家に投下資本を回収する機会を確保するという目的

株式買取条項が規定されていると、VC等の投資家は、自己が保有する株式を会社や経営陣に対して売却することができるため、いざというときに投下資本を回収することができます。VC等の投資家は、投下資本が回収できなくなる可能性があるというリスクを負って株式を引受けていますが、会社や経営陣が投資契約違反という不当な行為を行った場合のリスクまで背負う必要はないと考えられます。

そのため、VC等の投資家に投下資本を回収する機会を確保するという目的で、投資契約に株式買取条項が規定されることが考えられます。

VC等の投資家が会社との関係を解消する機会を確保するという目的

会社や経営陣が投資契約に違反する行為を行った場合、VC等の投資家は、会社との関係を解消したいと考えるケースもあります。
株式会社の株式が公開されている場合には、株式を売却し、会社との関係を解消することも比較的容易に行うことができますが、株式が公開されていない場合には、会社との関係を解消することは容易ではありません。

そこで、投資契約に株式買取条項を規定しておき、会社や経営陣が投資契約に違反する行為を行った場合には、VC等の投資家が、会社や経営陣に自己が保有する株式に買取を請求し、会社との関係を解消する機会を確保しておくというということが考えられます。

株式買取条項の発動事由

株式買取条項の発動事由について紹介していきます。

株式買取条項は、会社や経営陣が、投資契約に違反した場合に認められる形で規定されることとなります。株式買取条項の発動事由については、ケースバイケースではありますが、投資契約の中で規定されるケースが多い事由を以下で紹介します。

  1. 表明保証条項違反
  2. 情報開示条項違反
  3. ベンチャー企業等の株式会社が上場しない場合

表明保証条項違反

表明保証条項とは、契約締結時などの一定の時点において、契約の一方当事者が相手方に対して、契約当事者に関する事実、契約内容に関する事実、契約に関係する事実または企業活動に関する事実等、一定の事実を表明し、かつその内容を保証する条項のことをいいます。表明保証条項で保証された事実に反する事実が存在することが明らかになった場合、VC等の投資家と会社や経営陣との信頼関係が失われ、VC等の投資家は、会社との関係を解消したいと考えることが通常です。このような場合に備えて、投資契約において、表明保証条項に違反した場合には、株式買取請求ができる旨を規定しておくことが考えられます。

ただ、表明保証された事実の中には、重要な事実とあまり重要でない事実が混在していることもあります。このような場合には、重要な事実に関する表明保証違反があった場合にのみ、株式買取請求を認めるという内容を規定することも考えられます。

情報開示条項違反

情報開示条項とは、会社が、VC等の投資家に対して、一定の情報を開示することを規定する条項のことをいいます。会社や経営陣が、情報開示条項に規定されているにも関わらず、情報をVC等の投資家に開示しない場合に、株式の買取請求を認める規定を定めることが考えられます。

会社や経営陣から情報が適切に開示されない場合、VC等の投資家は、会社との信頼関係を維持することが難しくなりますので、そのようなケースに備え、情報開示条項違反を株式買取請求の発動事由として規定しておくことが有益となります。

ただ、開示すべき情報の中には、重要な情報とあまり重要でない情報が混在していることもあります。このような場合には、重要な情報に関する開示義務違反があった場合にのみ、株式買取請求を認めるという内容を規定することも考えられます。

ベンチャー企業等の株式会社が上場しない場合

投資契約の中で、一定の条件を満たした場合に、株式会社の上場義務を定める条項が規定されることがあります。VC等の投資家は、株式上場によるExitを目指している場合も多く、ベンチャー企業等が株式上場をしないとなると、得られるはずの利益を得ることができなくなってしまいます。そこで、ベンチャー企業等の株式会社が上場しない場合に、VC等の投資家に株式買取請求を認める条項を規定することが考えられます。

この場合、VC等の投資家に投下資本を回収させるだけでは足りず、株式が上場した場合を想定し、株式の買取額を決めることが望ましいといえます。

株式買取条項の条項例

以下に株式買取条項の条項例を挙げます。

株式買取条項の条項例について、例えば、以下のような条項が考えられます。

第○条(株式買取条項)
1 ○○株式会社(以下「乙」という。)および乙代表取締役○○(以下「丙」という。)は、以下の事由が発生した場合、それぞれ、法令上可能な範囲で、株主(以下「甲」という。)の請求により、その保有する本件株式(本項において「買取対象証券」という。)を買取り、かかる請求を受領後○○日以内に甲の指定する方法でその買取価格を甲に支払う。
かかる場合の買取対象証券の買取価格は、乙の直近の監査済貸借対照表上の簿価純資産に基づく乙の一株当たり純資産価額を基準とする。買取価格について争いのある場合は、甲が指名する公認会計士が上記の基準に基づき決定する。なお、甲の請求により買取義務を負う乙および丙は、かかる公認会計士の報酬および費用を負担し、これを支払う。
(1)乙または丙が本契約に基づく義務を履行しない場合で、甲が不履行当事者に宛てた不履行通知(その写しは他の当事者にも送る)の不履行当事者による受領後○○日以内にかかる債務不履行が是正されないとき、またはかかる不履行が是正不可能である場合
(2)本契約締結に関し乙が甲に交付した書面または提供した情報のいずれかが、契約締結時または払込期日において重要な事実について不正確または不十分であった場合
(3)第○条に基づき乙が甲に交付した書面または提供した情報のいずれかが、その交付または提供した時において重要な事実について不正確または不十分であった場合
(4)乙もしくは丙の支配権、経営権もしくは株主構成に重要な変更がある場合、または発行会社の基本経営方針に重要な変更がある場合で、甲の事前の同意を得ていない場合
2 乙の財政状態および経営成績の点で、乙の株式を上場または店頭登録する要件を充足しているにもかかわらず、乙が上場または店頭登録しない場合、乙および丙は、それぞれ、法令上可能な範囲で、甲の請求により、その保有する本件株式(本項において「買取対象証券」という)を買取り、かかる請求の受領後○○日以内に甲の指定する方法でその買取価格を甲に支払う。かかる場合の買取対象証券の買取価格は、財政状態および経営成績の点で上場要件を満たす取引所または登録要件を満たす店頭取引市場において甲の株式が公開されていたならば成立したであろう一株当たり初値を基準として、関係当事者間の合意により決定される。かかる合意が○○日以内に成立しない場合、買取価格は、本契約当事者と利害関係のない投資者の指名した引受業務の免許を有する証券会社が上記の基準に基づき決定する。この場合、本項の買取価格支払期限である○○日の期間は○○○日の期間に延長する。なお、甲の請求により買取義務を負う乙および丙は、かかる証券会社の報酬および費用を負担し、これを支払う。
乙および丙は、本条に基づくすべての買取その他の譲渡について、名義書換その他譲渡の実施に必要な措置をとる。

まとめ

以上、投資契約における株式買取条項について説明をしました。ベンチャー企業が、VC等と投資契約締結の交渉を行う際、VC等から、株式買取条項を規定することを提案されることも多くあると思います。ベンチャー企業がVC等から投資を受けるためには、VC等の要望に応える必要がありますが、後々不利にならないよう、株式買取条項の内容をしっかり検討する必要があります。株式買取条項の検討に関しては、専門的な知識が要求されるため、専門家である弁護士によるアドバイスを受けるということが望ましいといえます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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