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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

投資契約における会社の運営に関する条項とは

投資契約の内容として様々な条項が規定されますが、会社の運営に関する条項が規定されることがあります。会社の運営に関する条項は、投資家からみると、会社に健全な事業運営を行ってもらい投資の成功効率を高めるという狙い及び投資の対象となる企業の状況を適切に把握し、ファンドの運営者として適切な対応を行う体制を構築するという狙いがあります。

会社の運営に関する条項には、投資を受けるベンチャー企業等にとっても、投資家であるベンチャーキャピタル(VC)等にとっても重要な条項が多く含まれています。そこで、本記事では、投資契約における会社の運営に関する条項について説明をします。

投資契約における会社の運営に関する条項

投資契約における会社の運営に関する条項として、以下の条項が考えられます。

  1. 上場努力義務に関する条項
  2. 資金の使途に関する条項
  3. 取締役やオブザーバーの派遣に関する条項
  4. 誓約に関する条項
  5. 重要事項についての通知および投資家による事前承認に関する条項
  6. 投資家に対する事後通知に関する条項
  7. 経営の専念に関する条項

上場努力義務に関する条項

「上場努力義務」によって規定されている条項とは?

投資家であるVC等は、投資をする以上、投資によるリターンを目指す必要があります。また、ファンドという形で他の投資家から資金を預かっているVCにとっては、リターンが見込める状況で投資を行うことが必要となります。

そこで、企業がいつまでの上場を目指しているのか、また、企業が上場に向けて適切な事業運営を行うことができるのかなどに関する条項を規定することが考えられます。投資契約においては、上場努力義務と呼ばれる条項として規定されることとなりますが、この上場努力義務は、通常、「努力義務」という形で規定されることが多い条項となります。

ただ、「努力義務」であっても、企業が上場に向けた努力を怠れば、投資契約に違反することとなるため、企業は上場を目指して誠実に努力すべきこととなります。また、努力義務ではなく、明確に契約上の義務として規定されている場合もあり、違反をしたときに、株式の買取義務が発生するというケースもあります。そのため、努力義務にとどまっているのか、契約上の義務として明確に規定されているのかをよく確認する必要があります。

また、M&A等により、VC等がリターンを得るということも考えられるため、上場に加え、M&Aを含んだExit時期に関する条項が規定されることもあります。その場合には、Exit時期についての合意と、そのExitに向けた努力義務に関する条項を投資契約の内容として規定することとなります。

以下、上場努力義務の条項例となります。

第○条(株式公開)

乙は、乙株式を最短の期間で、甲の同意する公開株式市場に上場または店頭登録(以下「公開」という。)するために最大限の努力をするものとし、甲の助言に従って、公開に必要なあらゆる合理的手段を講じる。

資金の使途に関する条項

ベンチャー企業等が、資金調達を行う場合、目的なく資金調達を行うわけではなく、特定の資金需要との関係で資金調達を行うこととなります。投資家であるVC等は、ベンチャー企業等の特定の資金需要に対応しつつ、投資の必要性や必要な投資金額などを検討し、投資を行うこととなります。

そのため、投資契約の内容として、資金の使途に関する条項が規定されることがあります。資金の使途に関する条項については、ある程度資金の使途が定まっているものの、具体的には決まっていないような場合には、「○○に関する運転資金全般」など、抽象的に規定されることとなります。

一方、資金の使途が詳細まで具体的に決まっている場合には、「○○のためのシステムの導入」など具体的に規定されることとなります。資金の使途に関する条項については、投資家であるVC等とベンチャー企業等との間で十分に確認し、投資契約の内容として規定することが必要となります。

取締役やオブザーバーの派遣に関する条項

VC等が、ベンチャー企業等の意思決定を監視監督し、また、ベンチャー企業等の内部情報を把握するために、自社の関係者をベンチャー企業等の取締役として就任させるために派遣することや、オブザーバーとして派遣することが考えられます。取締役やオブザーバーの派遣に関する条項については、以下の記事で説明していますので、以下の記事を参照するようにしてください。

誓約に関する条項

投資契約の、誓約に関する条項にはどのような事が規定されているのでしょうか。

投資契約の内容として、誓約に関する条項が規定されることがあります。誓約に関する条項の主な目的は、上場などを行うことができるように適正な企業運営を約束してもらうという目的と、VC等が適切な情報収集を行う機会を確保するという目的等になります。具体的には、以下のような事項につき、投資契約の中で誓約条項が規定されることがあります。

会計帳簿の適正の維持に関する事項

ベンチャー企業等が上場を目指す場合、会計帳簿が適正なものである必要があります。そこで、ベンチャー企業等が会計帳簿の適正性を維持することについて誓約する旨の条項が規定されることがあります。

役員や関連当事者が行った取引の適正の維持に関する事項

ベンチャー企業等の上場審査において、関連当事者が行った取引については、原則とし て開示対象となり、その適正性が上場審査の対象となります。そのため、役員や関連当事者が行う取引の適正性を維持することについて誓約する旨の 条項が規定されることがあります。

VC等の投資家からの質問に対する回答に関する事項・ベンチャー企業等からVC等の投資家への情報開示に関する事項

投資家という外部的な立場からでは、ベンチャー企業等の内情を十分に把握することは 必ずしも容易ではありません。そこで、ベンチャー企業等に対し投資家から質問があった場合、ベンチャー企業等が、当該質問に回答することを誓約する旨の条項が規定されることがあります。また、ベンチャー企業等がVC等の投資家に対して、情報を開示することを誓約する旨の条項が規定されることもあります。

計算書類や税務申告書の適正の維持に関する事項

ベンチャー企業等が上場を目指す場合、計算書類や税務申告書についても適正なもので ある必要があります。そこで、ベンチャー企業等が計算書類や税務申告書の適正性を維持することについて誓約する旨の条項が規定されることがあります。

事業計画の内容や事業計画の提出に関する事項

企業は事業計画に基づいて事業を行っていくため、当然のことながら事業計画がしっかり策定され、それにしたがった事業運営が行われる必要があります。そのため、事業計画が適正であることを誓約する旨の条項や、ベンチャー企業等がVC 等に対して事業計画を提出する旨を誓約する条項が規定されることがあります。

反社会的勢力等との関係がないことに関する事項

反社会的勢力等と関係があると、上場することができないのみならず、レピュテーションリスクや場合によっては違法な行為に関与する可能性もあり、ベンチャー企業等にとっては致命的となります。そこで、反社会勢力等との関係がないことを誓約する旨の条項が規定されることがあります。

法令、定款、社内規則の遵守などコンプライアンスに関する事項

ベンチャー企業等がコンプライアンスに反する場合、VC等は、投資契約に規定がなく ともベンチャー企業等に対して、損害賠償請求をすることが可能です。ただ、契約違反を理由にベンチャー企業等に対して株式の買取請求等を行うためには、投資契約の内容として規定をしておくことが必要となります。そのため、投資契約がなくてもコンプライアンスは当然のことであるため投資契約にわざわざ規定しなくとも問題はないと考えずに、法令、定款、社内規則を遵守することを誓約する旨の条項を投資契約に規定することが必要となります。

重要事項についての通知および投資家による事前承認に関する条項

会社の運営上重要な事項がどのように行われるかということは、VC等の投資家からみれば重要な関心事です。例えば、ベンチャー企業等が、定款変更、組織再編行為および新株発行など、重要な事項を行うことにより、VC等が思わぬ損害を被るということも考えられます。そこで、投資契約の内容として重要事項についての通知および投資家による事前承認に関する条項が規定されることがあります。この条項は、ベンチャー企業等の側からみれば、経営の自由度が制約されることとなりますので、どのような事項が対象となるのか、どの範囲の投資家について通知が必要となるか、また、どの範囲の投資家に事前承認に関する権利を与えるか等につき、企業と投資家との間で十分に協議をする必要があります。

投資家に対する事後通知に関する条項

ベンチャー企業等からVC等に対して、一定の重要な事項について事後通知を行うべきとする条項が規定されることがあります。当該条項により、訴訟等の紛争にベンチャー企業等が巻き込まれた場合、破産等の申立などがなされた場合、ベンチャー企業等に何らかの問題が生じ営業停止処分等の行政処分が行われた場合、災害などにより会社に大きな損害が発生した場合等にベンチャー企業等からVC等へ、事後通知が要求されることとなります。

経営の専念に関する条項

ベンチャー企業等のように会社の規模がそこまで大きくない場合には、会社の経営がうまくいくかについて、経営者に依存する度合いが大きくなります。そうすると、VC等の投資家としては、経営者が誰であるか、経営者がどの程度しっかり経営を行ってくれるかという点が重要な関心事になります。そこで、投資契約書の内容として、経営の専念に関する条項が規定されることがあります。

具体的には、以下のような内容が規定されることが考えられます。

  1. 取締役の辞任や、再選に関する条項
  2. 兼任や兼職に関する条項
  3. 競業避止に関する条項

以上のような条項を投資契約に規定することにより、経営者をベンチャー等の経営に専念させることを期待できるようになります。

まとめ

以上、投資契約における会社の運営に関する条項について説明をしました。会社の運営に関する条項については、ベンチャー企業等にとっても、VC等の投資家にとっても重要な条項となります。会社が順調に成長し、会社にとっても、投資家にとってもよい結果となるためには、しっかり検討することが必要な条項といえるでしょう。このように投資契約における会社の運営に関する条項は重要な条項であるため、専門家である弁護士に投資契約書を作成してもらうか、弁護士によるアドバイスを受けるということが望ましいといえます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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