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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

病院の予約サイト・送客用メディアサイト制作の発注時の注意点

病院・クリニックにて、自院専用の予約サイトや、予約ページへの送客を目的とするメディアサイトの開設・運用を検討するケースがあります。こうした場合、IT企業にそうしたサイトの開発を委託し、完成後もその運用を委託するケースが多いと言えます。

ただ、どのような「委託」も同じですが、「面倒なことを全てまとめて・内容がブラックボックスに近い状態で委託する」という方法では、中長期的に不利益が発生する可能性があります。

こうしたサイトの開発・運用を委託する際に注意すべき点について、解説を行います。

独自ドメインの取得と「所有者」の問題

独自ドメインの取得と「所有者」の問題

専用の独自ドメインを利用するということ

自院専用の予約サイトや、予約ページへの送客を目的とするメディアサイトは、病院・クリニック自体の公式サイトとは別の独自ドメインを用いて運用することが可能です。例えば、クリニックの公式サイトは「monolith-clinic.jp」で、しかし、医療脱毛関係のメディアをこれと別に、例えば「datsumou-info.com」といった独自ドメインで運用する、といった具合です。

ドメイン登録をウェブサイト制作事業者に委託することのリスク

そして、独自ドメインを取得する際に、ドメインの登録などをウェブサイト制作事業者であるIT企業に委託する方法があります。ただし、独自ドメインについても登録の更新手続きが必要となり、ウェブサイト制作事業者がドメイン登録の更新手続きを怠った場合には、当該ドメインを用いてウェブサイトを運用することができなくなります。また、更新期限を徒過した場合、元の利用者はドメインの所有権を喪失し、一定期間経過後にオークションに出された後、第三者に取得されてフィッシング詐欺などに悪用される可能性があります。

さらに、ドメインの登録者が基本的に当該ドメインの所有者となることから、ウェブサイト制作事業者が代行して事業者の名義で登録を行うと、ウェブサイトに使用されている独自ドメインの所有者がウェブサイト制作事業者になってしまいます。そのため、たとえばサイト制作事業者との関係が悪化した場合に、ウェブサイト制作事業者がドメインを競合する他のクリニックに使用させたり譲渡したりする可能性があります。

サイト制作業者との関係悪化や契約交渉の可能性

サイト制作業者との関係が悪化することは、もちろん、当初は想定されていないと思われます。しかし、あるIT企業Aに、「サイト制作で●万円、その後は運用で月5万円、12ヶ月単位で更新」といった条件でサイトを制作してもらった後、更新時に、例えば「保守の工数が思ったより多く、来年は月10万円にしてほしい」といった打診を受けることもあり得ます。そうした場合に、保守の委託先を、別のIT企業Bに「切り替える」可能性は、少なくとも「選択肢」として存在している方が望ましいものです。ドメインの所有権がIT企業Aにある場合、この「可能性」がなくなってしまい、不利な条件でも契約更新を受け入れざるを得なくなってしまう、という問題が発生しかねません。

対策としては、独自ドメインの登録はウェブサイトの運営者が自ら行うか、登録の代行を委託するとしても登録者情報やレジストラのアカウントは運営者本人のものにしておくことが安全でしょう。なお、ウェブサイト制作事業者からドメインの所有権の譲渡を受ける方法もあります。しかし、ウェブサイト制作事業者との関係が悪化する等の事態が発生した場合に、この事業者からドメインの譲渡に対する同意を得ることは難しく、問題の解決策として採用することはできないでしょう。

関連記事:ドメインの移転請求に関する紛争処理の仕組みとは?

プログラムとコンテンツの著作権の問題

プログラムとコンテンツの著作権の問題

予約サイトにおけるプログラムの著作権

予約システムなどのソースコードは、「プログラムの著作物」(著作権法第10条第1項第9号)として著作権法上保護される可能性があります。具体的には、ソースコードの著作権を有する者の許可なく、これをコピーして全く同じウェブサイトを制作したり、改良のために勝手に変更したりすることは、複製権(著作権法第21条)や翻案権(同第27条)の侵害となり許されません。

ウェブサイトのソースコードの著作権は、その著作者であるウェブサイト制作事業者に帰属します。ウェブサイトのソースコードの著作権をその制作事業者に帰属させたままにしておくと、ウェブサイトのリニューアルなどを自由に行えないなどの不都合があります。そのため、ウェブサイトの制作を委託する際に、ソースコードの著作権をウェブサイト制作事業者から譲り受けることが重要です。そこで、制作を委託する契約書に、ウェブサイト制作事業者から著作権の譲渡を受ける条項を設けることになります。

関連記事:プログラムのソースコードの著作権は誰に帰属するのか

著作権譲渡と著作者人格権に関する条項

著作権の譲渡条項を定める場合には、翻案権(著作権法第27条)と二次的著作物の利用に関する権利(同第28条)の取扱いに注意する必要があります。著作権法上、これらの権利を譲渡する場合は、契約において特に定めなければ、譲渡者に留保されたものと推定されます(同第61条第2項)。つまり、「ソースコードに関する著作権は、乙から甲に移転する」と定めても、翻案権や二次的著作物に関する権利は譲渡されません。そこで、「ソースコードに関する著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む。)は、乙から甲に移転する」のように、これらの権利も含めて譲渡する旨を特掲しなければなりません。

また、著作者人格権の取扱いにも注意が必要です。著作者人格権とは、著作者に一身専属的に帰属する権利であり、財産権である著作権とは異なり譲渡することはできません(著作権法第59条)。そのため、ソースコードの著作権の譲渡を受けても、なお著作者から著作者人格権の行使を受ける可能性があります。例えば、ウェブサイトをリニューアルした際に、著作者人格権の一つである同一性保持権(同第20条)に基づいて差止請求(同第112条)がされることが考えられます。そこで、「乙は甲に対して著作者人格権を行使しない。」などのように、著作者人格権の不行使条項を定めておく必要があります。

メディアサイト内の記事の著作権

メディアサイト内の記事の著作権

そして、メディアサイトの内容である記事は、「言語の著作物」(著作権法第10条第1項第1号)として、著作権法上保護されます。メディアサイトの記事の著作権をその作成者に帰属させたままにしておくと、許可なく記事を改変して情報を更新する等の作業ができなくなるという不都合が生じます。

特に大きな問題となるのが、保守契約等が終了した場合です。ドメインに関する上記と同様に、たとえばサイト制作事業者との関係が悪化し、ウェブサイト制作事業者がドメインを競合する他のクリニックに使用させたり譲渡したりした場合、自院のために作られたはずの記事が、競合する他院への送客に利用されてしまう危険性があります。

そのため、メディアサイトの制作や執筆を委託する際に、契約書により記事の著作権をその著作者から譲り受けることを明記する必要があります。

まとめ:予約システムや送客サイト発注時の契約の重要性

このように、クリニック関連のサイト、例えば予約サイトや送客用メディアの制作等を委託する場合には、ウェブサイト制作事業者となるIT企業との間で、どのような契約を行うかが、重要となってきます。そしてその際には、ドメインに関する権利や著作権など、サイトを構成する「権利」が誰のものになるのか、そのことが将来にどのようなリスクを生じさせるものなのかを、きちんと精査することが必要です。こうした契約関係について知識と経験がある法律事務所に相談することも検討すべきだと言えるでしょう。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。システムの開発や保守等を委託するにあたっては作成する契約書の内容が重要になります。当事務所では、東証上場企業からベンチャー企業まで、さまざまな案件に対する契約書の作成・レビューを行っております。詳しくは、下記をご参照ください。

モノリス法律事務所の取扱分野:システム開発関連法務

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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