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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

コンプガチャが違法な理由と景品表示法との関係性を詳しく解説

近年、スマホのゲームアプリ(ソシャゲ)に課金する人が増え、市場規模は1兆円を超えるまでに成長しています。その利益率は40%を超えるとも言われており、ゲーム開発者にとって、魅力的な市場といえるでしょう。

このようなソシャゲ市場の成長を支えているのは、ゲームの中で使用できるキャラクターやアイテムを獲得できる「ガチャ」と呼ばれるシステムです。

しかし、その中でも「コンプガチャ」と呼ばれるシステムは違法とされており、ゲーム開発の際は注意しなければなりません。

そこで、本記事では、ゲーム開発者の方々が気を付けるべきコンプガチャについて、コンプガチャがなぜ違法なのか、その理由や経緯について景品表示法との関係を詳しく解説します。

違法となり話題を呼んだ「コンプガチャ」とは

オンラインゲームやソーシャルゲームで用いられる課金システムに「コンプリートガチャ」というものがあります。これを略して「コンプガチャ」と呼ばれています。

そもそも「ガチャ」とは、ゲームプレーヤー(消費者)が、キャラクターやアイテムを手に入れるためのシステムです。ランダムにアイテムが供給されるため、消費者にとってどのアイテムが入手できるかは偶然に左右されます。

そして、「コンプガチャ」とは、ガチャのシステムにより特定のアイテムを揃えることを条件に、別の新たなアイテムを入手できる仕組みです。このときに得られるアイテムは希少性が高くなることがあり、「レアアイテム」と呼ばれています。

コンプガチャは、ガチャで特定の種類のアイテムを揃えなければならず、それが偶然に支配されていることから、レアアイテムを手に入れるには何度もガチャを引かなければならないという特徴があります。

コンプガチャが起こした社会的問題

コンプガチャは、上記のように偶然に左右されるガチャを何度も引かねばなりません。そして、レアアイテムはゲーム上のバトルで強い効果を発動するなど誰もが欲しがるよう設定されているため、レアアイテムを手に入れるために射幸心を煽られて、高額な課金をする人が続出したことがありました。

オンラインゲームは収入の少ない若者や学生、未成年でも気軽に利用できます。ゲーム内の仮想通貨を用いたり、クレジットカードで決済する方式で現金を使わないため、気が付かないうち何十万円も課金してしまうケースが続出し、社会問題となりました。

しかし、このような問題に関する各プラットフォーム事業者からの相談に対して、当初、消費者庁は、コンプガチャに違法性は認められない旨の回答をしていました。

他方で、ガチャでの課金で消費者センターに相談が増え、メディアからの批判も強まっていきました。

そこで、2012年4月、まずは大手のソーシャルゲーム会社で構成されたプラットフォーム連絡協議会が、青少年のユーザーの利用限度額を設定するなど自主規制を行うことで合意。同年5月には「コンプリートガチャガイドライン」を策定し、いち早くコンプガチャ全廃の方針を打ち出しました。

消費者庁が示した見解

このような世論に後押しされる形で、2012年5月、消費者庁は、初めてコンプガチャが景品表示法違反である旨の見解を明らかにし、同年7月から、コンプガチャに対して景品表示法を適用する運用を開始しました。

以下では、景品表示法とは一体何なのか、コンプガチャは景品表示法によってどのように規制されていくのかを、詳しく解説していきます。

そもそも景品表示法とは

景品表示法 (以下「景表法」といいます)は、商品のサービス内容、価格、品質等を偽って表示することを取り締まり、また景品の最高額や総額等を規制することなどによって、消費者が商品やサービスを自主的かつ合理的に選択できる利益を保護し、また事業者の不健全な競争を防止するための法律です。

例えば、牛肉と偽って馬肉が売られたり、チューインガムの売り込みのために1,000万円当選キャンペーンがとられたりなど、不当な表示過大な景品があれば、消費者の商品の選択に悪影響が生じます。景表法は、これらを防止して、消費者が適正に商品選択をできるようにしています。

そして、景表法は、大別して景品規制と表示規制を行なっています。コンプガチャは、このうち景品規制によって取り締まられています。

コンプガチャを取り締まる景品規制

景品規制とは、事業者が過大な景品を提供することにより、消費者が当該景品に惑わされて不利益を被ることを防止するため、過大な景品の提供を規制するものです。

一般的に景品とは、おまけや賞品等をいいますが、景表法上の「景品類」とは、以下の3つの要件を満たすものをいいます(法第2条第3項)。

  • 顧客を誘引するための手段として、
  • 事業者が自己の供給する商品・役務の取引に付随して提供する
  • 物品、金銭その他の経済上の利益

違反した場合の処分

景品の価額が過大であるときは、景表法に抵触します。

これが疑われる場合、消費者庁は調査を実施します。当該調査により違反行為が認められた場合、当該景品を提供した事業者に対して、景品の提供を禁止するなどの一定の措置命令が出されます。

そして、当該措置命令に従わない場合、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金、あるいはその両方が科される可能性があります。

コンプガチャと関係が深い「カード合わせ」とは

カード合わせとは、「2以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供のこと」をいいます(懸賞景品制限告示第5項)。

すなわち、ガチャ方式で、ランダムでアイテムが入っているような商品の指定されたアイテムを全て集めて、全て集まると景品がもらえるような場合が、カード合わせに当たります。

カード合わせは、景表法によって、景品類の最高額や総額に関わらず、全面的に禁止されています。

しかし他方で、例えば、コンプガチャが全て無料であったら、それは「事業者が自己の供給する商品・役務の取引」があるとはいえないので、コンプガチャで得られるアイテムは、そもそも「景品類」に該当しません。

また、ガチャ方式ではなく、どのアイテムを買うか消費者が指定することができる場合、つまりA〜Eを全て買うとレアアイテムXがもらえると言う場合は、ランダムではないため「懸賞」に当たりません。

さらに、「Aを5枚集める」という場合も、「異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる」ことに該当しません。

したがって、これらは全て「カード合わせ」に該当しないため、適法に行うことが可能です。

では、どうしてコンプガチャが違法と判断されたのか、その理由について以下で説明していきます。

カード合わせの仕組みと全面禁止の理由

例えば、A、B、C、D、E、F、G の異なるカードがランダムで封入されているポテトチップスが販売されていたとします。このカード自体は「景品類」に該当するものの、安価なものであり過大とはいえないので、違法にはなりません。

しかし、そのうち特定の2枚以上のカードを集めると別の景品がもらえるようなシステムになっている場合、「カード合わせ」に該当し、違法になります。すなわち、A〜Gのうち何が入っているかはランダムであり、偶然に左右されることから、「懸賞」の性質をもつものといえます。

実際に、先ほどの例でいうと、一発で全て出揃う確率は、
7/7×6/7×5/7×4/7×3/7×2/7×1/7=5,040/823,543
であり、百分率に引き直すと約0.6%という低い確率です。

そして、コンプリートしていく過程で、最初に出たカードがAとして、次第に、A以外のカード、AB以外のカード、ABC以外のカード…と欲しい対象が狭くなり、最終的に全てのアイテムを集める難易度が高くなるという特徴があります。

しかし、初めの方は対象アイテムが出やすいため、「いけるかも」と思い込みやすいのです。これが、「次こそは、次こそは…」という心理状態を生みやすく、射幸心を煽るものといえます。

さらにいうと、コンプリートに必要な確率を操作していて、なかなか集めにくいシステムにプログラミングされていた、という報道もありました。

このように、カード合わせは、その方法に欺瞞性が高く、射幸心を煽る度合いが著しく高いことが全面禁止とされる最大の理由です。また、制度的背景として、過去に子ども(未成年者)を対象としたような商品にその手法が用いられ、子どもがハマってしまい、苦情が多く寄せられたという背景があります。

コンプガチャが景表法上違法になる理由

前述のとおり、消費者庁が2012年7月に施行した運用基準(懸賞景品制限告示運用基準)により、コンプガチャが景表法上違法であることが明らかになりました。

以下では、なぜコンプガチャが景表法に抵触し、違法となるかを解説していきます。

コンプガチャは「カード合わせ」に該当する

コンプガチャは、前述の運用基準において、「カード合わせ」に該当するとされました。

それ以前は、コンプガチャは、オンラインゲーム内で多く実装されていたシステムで、多くのプレーヤー(消費者)が課金していました。あるゲームでは、全体の売上げの15%以上がコンプガチャに対する課金であったとされています。

コンプガチャは「景品類」に該当する

それぞれのガチャ自体は、有料の課金システムで、課金によってアイテムを購入するものなので、「景品類」には該当しません。しかし、ガチャで得たアイテムをコンプリートして得られるアイテムは、「顧客を誘引するための手段」として用意されたものといえます。

また、コンプガチャで提供されるアイテムは、ゲーム内でプレーヤーの能力が強化されるなど、何らかの「役務」を提供するものです。さらに、コンプガチャで提供されるアイテム等は、消費者にとっては金銭を払ってでも手に入れたいもので、「経済上の利益」といえます。

従って、コンプガチャによって提供されるアイテムは「景品類」に該当します。

告示第5項の「符票」に該当する

ゲーム内のガチャにおいてランダムで提供されるアイテム等、例えばアバターの着せ替えアイテムや、ゲーム内で使用できる戦闘アイテムなどは、これが同告示第5項にいう「二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票」に該当するとの判断が示されました。

そして、この「符票」たる課金アイテムをガチャで集めて、ある一定の組み合わせをコンプリートすることで、アイテムを獲得できる仕掛けの「コンプガチャ」は、「…特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供」に当たると判断されたといえます。

コンプガチャは賭博罪に当たるか

かつて、コンプガチャは刑法上の賭博罪(刑法187条〜187条)にあたるのではないかという指摘も、一部ではありました。「賭博」とは、金品、金銭等の財物を賭けることをいいますが、コンプガチャは、レアアイテムという財物を賭けるシステムなのではないかという見方があったのです。

しかし、当時の国家公安委員長は、「コンプリートガチャ」について「賭博罪などの刑罰法令に該当するような実態は確認されていない」と発言しています。

これは、レアアイテムがオンライン上のデータという情報にすぎず、無体物であり財物性が否定されること、また、レアアイテムは金銭的価値があるとは言い難いということが背景にあったと考えられます。

コンプガチャ違法化に関する報道後の動向

前述のとおり、消費者庁がコンプガチャが違法であるとの見解を示したのは2012年のことですが、それまでは多くのゲームにおいて、コンプガチャのシステムが採用されていました。

違法であるとの消費者庁の見解を受け、ゲーム会社は次々にコンプガチャを廃止しましたが、他方で、その影響により、コンンプガチャを採用していたゲーム会社の株価は多いもので25%も下落しました。

現在では、多くの会社はコンプガチャ以外の方法で収益モデルを確立していますが、現在でもコンプガチャに当たる可能性のあるシステムを採用しているゲームはあります。例えば、海外製のゲームで、海外ではそのような規制を受けていない場合などです。

実際に、Call of Duty(CoD)というゲームでは、日本版のみ「ボーナスコーリングカード」というコンプリートシステムが削除されています。

まとめ:コンプガチャのように違法性が気になるなら弁護士に相談しよう

以上、本記事では、コンプガチャが違法な理由について、主に景表法との関係性で解説しました。

もっとも、どのようなシステムが景表法に抵触し違法となるかの判断は難しく、理解しづらいのが実情です。

どのような課金システムならリリース可能なのかなど、お困りの方は、データプラットフォームや、ネットワークに強い弁護士にご相談ください。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。景品表示法など、ビジネスを行う上でリーガルチェックの必要性はますます増加しています。当事務所は様々な法律の規制を踏まえた上で、現に開始したビジネス、開始しようとしたビジネスに関する法的リスクを分析し、可能な限りビジネスを止めることなく適法化を図ります。下記にて詳細を記載しております。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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