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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

任天堂vsコロプラの訴訟は一体何が問題とされたのか

近年、インターネットが発展し、また、ゲームのクオリティが向上したこともあり、ゲームの人気が高まっています。

また、eスポーツの盛り上がりもあり、ゲームがさらに注目されています。

ゲームに関しては、様々な法律との関係が問題となる可能性があり、実際に、様々な事件が起こっています。

そのため、ゲーム会社の方やゲームを実際にプレイする方にとって、ゲームに関して、どのような事件があったのかということを知っておくことは有益であると考えられます。

そこで、本記事では、有名なゲーム関連の訴訟を取り上げ、有名なゲーム関連の訴訟では、どのような点が問題とされたのかについて説明をします。

任天堂VSコロプラの白猫プロジェクト特許訴訟について

事件の概要

本事件は、2017年12月22日に、原告である任天堂が、被告であるコロプラに対し、コロプラが配信するゲームアプリである「白猫プロジェクト」で実装されたシステムが、任天堂の特許権を侵害すると主張して、「白猫プロジェクト」の配信差し止めや任天堂が被った損害400億円の一部である44億円の損害賠償を請求した事件です

任天堂側が主張している特許は、特許4262217号(いわゆる「チャージ攻撃」技術)、特許3734820号(タッチパネル上の「ジョイスティック」技術)、特許3637031号(障害物を透明にすることで、障害物に隠れたキャラクターを表示させる技術)、特許4010533号(プレイヤーが省電力モードの状態からゲームを再開する際に確認画面を挟むいわゆる「スリープモード」技術)、特許5595991号(他のユーザーと協力プレイやメッセージの送受信を行える「フォローシステム」技術)及び特許6271692号(「フォローシステム」に関わる通信システム技術)の6つの特許になります。

争点

本事件における争点は、簡単にいえば、被告であるコロプラが配信している「白猫プロジェクト」で用いられている技術が、任天堂の特許権を侵害しているかという点です。

被告コロプラによる反論内容

被告であるコロプラの反論は種々存在しますが、その中での主要な反論は、そもそも任天堂の特許が無効であるとの反論(特許無効の抗弁)であると考えらえます。

具体的には、任天堂の特許には、新規性(技術が客観的にみて新しい技術であると認められること)及び進歩性(技術の発明について困難性が伴うことが認められること)が認められず、特許は無効であるとの反論になります。

なお、特許無効の抗弁とは、本事件のような特許侵害訴訟において、原告の請求に対して、被告が、原告の請求の基礎となっている特許が無効であることを主張する抗弁のことをいい、以下の特許法104条の3が根拠となります。

(特許権者等の権利行使の制限)
第百四条の三 特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
2 前項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
3 第百二十三条第二項の規定は、当該特許に係る発明について特許無効審判を請求することができる者以外の者が第一項の規定による攻撃又は防御の方法を提出することを妨げない。

特許無効の抗弁が認められれば、原告である任天堂の請求の基礎となっている特許が無効ということになりますので、原告である任天堂の請求が棄却されることになります。

原告任天堂による訴訟対応

原告任天堂としては、被告コロプラによる特許無効の抗弁が認められてしまうと、訴訟に敗訴してしまう可能性が極めて高くなります。

そこで、任天堂は、コロプラによる特許無効の抗弁を封じるために、本事件で任天堂の請求の基礎となっている特許について、訂正審判の請求を行いました。

訂正審判については、以下の特許法126条に規定されています。

(訂正審判)
第百二十六条 特許権者は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 特許請求の範囲の減縮
二 誤記又は誤訳の訂正
三 明瞭でない記載の釈明
四 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。

上記の特許法126条のうち、本事件との関係で重要となるのは、第1号です。

任天堂は、特許請求の範囲を減縮することにより、特許の新規性や進歩性が否定されそうな部分を特許の範囲から外し、コロプラの特許無効の抗弁を封じる形となりました

任天堂VSコロプラ特許訴訟からわかること

本事件は本記事執筆時(2020年5月30日現在)も係属中で今後の動向が注目されますが、本事件からわかることは、ゲームの知的財産に関する訴訟は、とても大きな事件に発展する可能性があるということです。

任天堂もコロプラも人気ゲームを多く世に送り出しており、知的財産に関する紛争となると損害額も大きくなります。

そのため、ゲーム会社としては、トラブルが生じないように、知的財産の取り扱いについては特に注意をする必要があります。

関連記事:特許・商標・著作権などの知的財産権侵害リスクとその対策とは

マリカー訴訟

マリオなどの任天堂キャラクターのコスチュームを着た人たちが、公道上を走っている姿を目にしたことがある人も多いと思いますので、マリカー訴訟の存在を知っている人は多いかもしれません。

ただ、どのような事件であるかについてまで知っている人はあまり多くないと思います。

そこで、マリカー訴訟について説明をします。

なお、マリカー訴訟に関しては、中間判決も出されていますので、中間判決との関係については、以下の記事をご参照ください。

関連記事:マリオカート事件中間判決と知的財産権侵害

事件の概要

本事件は、原告である任天堂が、マリカー(現:MARIモビリティ)及び同社の代表取締役に対し、不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)違反等を理由とし、知的財産権の侵害行為の差止め及び損害賠償を請求した事件です

被告が使用していた商号は、「マリカー」でしたが、これは任天堂の人気ゲームである「マリオカート」の略称として使用されているものでした。

争点

本事件において、争点1ないし争点15が問題となっていますが、大きな争点は、以下の争点になります。

  1. 被告標章第1(マリカー、MariCar、MARICAR、maricar)の営業上の使用行為及び商号としての使用行為が不競法2条1項1号又は2号の不正競争行為に該当するか(争点4)
  2. 任天堂の周知又は著名な商品等表示である表現物(マリオ、ルイージ、ヨッシー、クッパ)と類似する部分を含む写真及び動画をインターネット上のウェブサイトへアップロードする一連の行為、従業員のマリオ、ルイージ、ヨッシー及びクッパのコスチューム着用行為及び店舗におけるマリオの人形の設置行為(以下、併せて「本件宣伝行為」といいます。)並びに上記各コスチュームを利用者に貸与する行為(以下「本件貸与行為」という。)が、不競法2条1項1号又は2号の不正競争行為に該当するか(争点7)
  3. 任天堂の特定商品等表示である文字表示及び「MARIO KART」表示と類似するドメイン名(maricar.jp、maricar.co.jp、fuji-maricar.jp、maricar.com)(以下「本件各ドメイン名」といいます。)の使用行為が不競法2条1項13号の不正競争行為に該当するか(争点9)

争点に対する裁判所の判断

争点4について

まず、不競法2条1項2号では、以下のように規定されています。

(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

上記の条文の前段における「不正競争」に該当するためには、「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用」することが必要となります。

簡単にいえば、他人の著名な商品等表示の真似をした場合には、不正競争行為に該当するということになります。

争点4について、裁判所は、「マリオカート」及び「MARIO KART」は任天堂の商品等表示として著名なものであり、マリカー社の使用する文字標章(マリカー、MariCar、MARICAR、maricar)と類似し、かつマリカー社の上記標章の使用が商品等表示としての使用に当たるとして、不競法2条1項2号に該当するものと認めました。

争点7について

争点7について、裁判所は、マリオ、ルイージ、ヨッシー及びクッパの形態が、任天堂の商品等表示として著名であり、マリカー社の使用するマリオ、ルイージ、ヨッシー及びクッパのコスチューム等がそれに類似し、かつマリカー社のコスチューム等の使用が商品等表示としての使用に当たるとして、不正競争2条1項2号該当性が認めました。

これについても、争点4と概ね同様の考え方になります。

争点9について

次に、不競法2条1項13号では、以下のように規定されています。

(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
十三 その取得した後にその限定提供データについて限定提供データ不正取得行為が介在したことを知ってその取得した限定提供データを開示する行為

また、「限定提供データ」について、不競法2条7項では、以下のように規定されています。

7 この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)をいう。

争点9について、裁判所は、マリカー社が、不正の利益を得る目的で、「MARIO KART」及び「マリカー」と類似する各ドメイン名(maricar.jp、maricar.co.jp、fuji-maricar.jp、maricar.com)を使用しているとして、不競法2条1項13号該当性を認めました。

具体的には、裁判所は、マリカー社が、不正の利益を得る目的をもって、任天堂の特定商品等表示である文字表示及び「MARIO KART」表示と類似する本件各ドメイン名を使用したと認められるから、同行為は不競法2条1項13号所定の不正競争行為に該当し、任天堂の営業上の利益を害するものであるということができると判示しました。

マリカー訴訟からわかること

本件では、主に、マリカー社が、「マリカー」という表記を行ったことが問題となっています。

「マリオカート」を「マリカー」という略称を用いて呼ぶ人も多いと思いますが、「マリカー」という表記に関する商標については、多くの区分で、株式会社MARIモビリティ開発(旧:株式会社マリカー)が商標権者となっています。

任天堂側からみれば、結果論にはなってしまいますが、マリオカートという正式名称だけでなく、略称についても商標登録をする必要があったものといえます。

また、株式会社MARIモビリティ開発からみれば、商標権者とはいえ、不競法との関係も考えるべきであったといえます。

本事件では、控訴審判決で、株式会社MARIモビリティ開発及び同社代表取締役に対して、連帯して、5000万円及びこれに対する平成30年10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払いが命じられています

関連記事:商標権侵害とは?違法性判断の枠組みを解説

関連記事:営業秘密の持ち出しと不正競争防止法の関連性とは?

まとめ

以上、有名なゲーム関連の訴訟は一体何が問題とされたのかについて説明をしました。

ゲームに関連してどのような法律が問題となるかを知ることは重要ですが、実際の事件を参考にし、具体的にどのような点が問題となっているかを知ることも重要となります。そのため、ゲーム会社の方やゲームをプレイする方などは、少なくとも有名なゲーム関連の訴訟については、知っておいた方がよいと考えられます。

有名なゲーム関連の訴訟でどのような点が法的に問題となったのかという点については、法律についての法知識や専門的な判断が要求されますので、詳しい内容について、法律事務所に相談をするようにしてください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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