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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

拡大する「eスポーツ枠」の求人、雇用契約締結の上で注意すべき点は?

2018年頃から日本でも急速にeスポーツ市場が拡大しています。大手企業にも参入が広がり、今後もますます盛り上がりが見込まれています。

従来までのeスポーツと企業の関わり方は、チームや大会のスポンサーとしての立場が主流でした。ですが、昨今ではゲーム業界と関わりの深いIT企業を中心にeスポーツ選手を社員として雇用する事例も出始めています。

そこで、eスポーツ枠の求人を検討する企業向けに、eスポーツ選手の求人活動や採用後の処遇としてどのような点に注意すべきであるか解説します。

なお、「eスポーツ枠」に限られない企業のeスポーツとの関わり方全般に関しては、以下の記事でも詳細に解説しています。

企業がeスポーツ枠を設けることの意義

eスポーツ(esports、イースポーツ)はコンピューターゲームをスポーツ競技とするものをいいます。元々、eスポーツは欧米を中心に市場を拡大し、近年では中国や韓国でも人気を集めています。

世界と比較すると日本は、eスポーツに関しては後発国でした。もっとも、2018年頃から景品表示法など日本の法律との抵触の問題がクリアになってきたこともあり、ようやく日本国内でもeスポーツの有名な大会が開催されるようになり、eスポーツの選手も増えてきました。

景品表示法など、eスポーツに関連するリーガルリスクに関して、以下の記事でも詳細に解説しています。

とはいえ、eスポーツの選手はまだまだ他の人気スポーツほどの収入を得られていないのが実情です。高額の賞金を手にすることができるのも一握りのeスポーツ選手に過ぎず、多くの選手は本業と掛け持ちをしながらeスポーツの選手として活動しています。

そこで、リアルのスポーツと同様に企業の社員としての立場で給料を貰いながら、仕事としてeスポーツの選手としての活動を行う「eスポーツ枠」を企業が設定することは、日本国内におけるeスポーツの普及にとって大きな意義があります。

海外の事例では、兼業のeスポーツ選手と専業の選手とでは、実績に大きな差がついてしまっています。かといって、専業のプロゲーマーとしてeスポーツに取り組んだ場合には、eスポーツ引退後に他の仕事に就くことが難しくなるというジレンマを抱えています。

eスポーツ選手の採用後

eスポーツ選手を実際に企業が採用した場合にはどのような働き方が想定されるのでしょうか。

eスポーツ枠の社員の働き方

eスポーツ枠で選手を自社の社員として採用した場合の働き方は、基本的には雇用契約の内容次第であり、決まった働き方があるというわけではありません。ただし、スポーツにおける実業団における選手の働き方が、eスポーツ枠の採用においても参考になると考えられます。

実業団の選手の場合、基本的に社員としての立場は他の一般社員と同様です。ただし、採用されたスポーツ枠の練習や大会への出場を会社の業務として行うことになります。また、企業にもよりますが、大会への出場のため遠征する場合には業務上の出張扱いとして、渡航費や滞在費が企業から支払われることもあります。

スポーツ枠で採用された社員が、一般の社員同様の日常業務をどの程度行うかは会社によって異なります。日常業務を一切行わず、所属部署への出社義務すら免除して練習に専念する恵まれた条件もあれば、午前中など決まった時間帯は他の社員と同様に日常業務に従事しながら他の時間帯に練習をするといった条件もあります。

企業としては、自社の所属する選手が大会などで活躍すれば、自社の宣伝にもなるというメリットがあります。ただし、自社の宣伝以上に、そのスポーツの発展に貢献したいという考えでスポーツ枠の求人を行っている企業も多いと考えられます。

eスポーツ選手のセカンドキャリア

eスポーツは瞬発力などが要求されることから、第一線で活躍できる期間は短いと言われています。このため、eスポーツだけで一生稼ぎ続けることは現実的ではなく、選手の多くは引退後のセカンドキャリアの問題に直面します。

eスポーツ枠で採用された選手が引退した後は、基本的にその会社の社員として日常業務を担うことになります。企業が引退した選手に期待する業務の内容によっては、現役時においても選手にある程度の日常業務を担わせておいた方が良いという考え方もあります。

したがって、eスポーツ選手のセカンドキャリアから逆算して、前述したeスポーツ選手の入社後の働き方(日常業務と選手としての活動の割合や業務内容など)を考えておくという視点も重要です。

なお、リアルのスポーツの場合には、選手の引退後の日常業務は体力や知名度などを活かした営業職などとなることも多いようですが、eスポーツの場合にはゲームそのものに詳しいことから、ゲーム業界に関わる企業であれば企画や広報のほか、webサイトの運用や開発などのエンジニアとなる道もあるでしょう。

eスポーツ枠の求人

eスポーツ選手を企業の従業員としてeスポーツ枠で採用する場合には、リアルのスポーツにおける既存の実業団などの求人条件が参考になります。

eスポーツ選手との契約は雇用契約

eスポーツ枠として選手を採用する場合には、正社員であるか契約社員であるかはともかく、通常は雇用契約となることが想定されています。あくまでも、eスポーツ枠の選手は他の一般社員と同様に扱うことが前提となるためです。

eスポーツ選手の求人内容

eスポーツ選手の求人条件に関しては、他の一般社員と多少異なる点があります。具体的には、次のような事項について一般社員とは別の条件を提示する必要があるでしょう。

  • 大会や試合参加時の出欠・ 手当・参加費用の取扱い
  • 日常業務の勤務時間
  • 練習にあてることのできる時間
  • 特別な手当(競技大会で好成績をあげた場合の報酬金など)
  • 宣伝活動(ユニフォーム等への企業ロゴの掲載など)

特に、eスポーツ選手の立場からすれば、選手としての日常的な練習や大会への出場がどの程度自由にできるのかが気になるところでしょう。労働条件は、前述した働き方やセカンドキャリアと密接に関わりますので、早期にすり合わせておく必要があります。

このほか、eスポーツ選手の採用に自社の宣伝効果を期待する場合には、選手の着用するユニフォームに会社名やロゴなどを掲載することも条件としておく必要があります。

このほか、想定年収など給与に関しては他の一般社員と同様の給与テーブルに従って決定されることが多いと思われますが、一方で大会などにおいて好成績をあげた場合にはどのように実績に報いるのかも決めておいたほうがよいでしょう。

定期の賞与に反映させるという考えもあれば、実績をあげる度に報酬金など特別手当を支給することも考えられます。

また、eスポーツ枠で採用された選手の所属は企業によって異なります。選手としての活動をメインとする場合には人事部付などとしておくことも多いようです。

eスポーツ選手を採用する際の注意点

eスポーツ枠で選手を採用する場合に、注意すべきこととして他の社員からの理解を得るということがあります。

これは実業団などリアルのスポーツ枠の採用でも同じなのですが、他の一般社員が、日常業務を担わずに練習のみさせてもらえるという、恵まれた環境のeスポーツ枠の選手に対して反感を持つ可能性があるためです。

このため、企業全体としてeスポーツ枠の選手を盛り上げるような機運を醸成することも、eスポーツ枠の求人活動を成功させるための秘訣といえます。具体的には、eスポーツを応援するイベントの企画や社内の広報誌においてeスポーツ選手へのインタビューを掲載することや、実績を社内でいち早く周知するなどの具体的な工夫が求められます。

まとめ

eスポーツ枠で求人をする企業はまだそれほど多くはありません。もっとも、eスポーツは海外では既に人気を集めている市場であり日本国内でも今後急速な普及が見込まれています。

したがって、特にゲーム業界と関係の深いIT企業においては、今の段階で他の企業に先駆けてeスポーツ枠の採用活動を始めるというのは経営戦略上も意味のあることでしょう。

ただし、eスポーツでの採用の実例がまだ蓄積されていないため、採用後に思わぬトラブルが発生する可能性もあります。そこで、実際にeスポーツ枠で選手の採用を検討している企業としては、事前に求人条件や採用後の処遇について十分に検討しておくことが望まれます。

その際、eスポーツ自体まだ新しいジャンルであることから、IT分野やeスポーツに詳しい弁護士を選んで相談することをおすすめします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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