弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-17:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

雇用契約書の競業避止義務で同業他社への転職を禁止できるのか?

IT・ベンチャーの企業法務

雇用契約書の競業避止義務で同業他社への転職を禁止できるのか?

従業員が、転職する場合に生じる企業のリスクとして、企業の情報やノウハウが社外に持ち出されて利用されることが考えられます。このようなリスクを回避する方法として、雇用契約書において同業他社への転職禁止条項を規定し、従業員に競業避止義務を負わせるということが考えらえます。ただ、 競業避止義務による同業他社への転職禁止条項については、労働者が自由に職業を選択することを制約するものであることから、職業選択の自由(憲法第22条第1項)との関係からその有効性を考える必要があります。そこで、本記事では、競業避止義務による同業他社への転職禁止条項の有効性について説明をします。

同業他社への転職禁止条項とは

転職禁止条項を予め雇用契約に規定させておく場合もあります。

競業避止義務による同業他社への転職禁止条項とは、使用者と競合する企業に就職することや自ら開業することを行わない義務(競業避止義務)を規定する条項のことをいいます。競業避止義務については、労働者が在職中の場合であれば、雇用契約書等で特別の条項を規定しておかなくとも、信義則を根拠に認められることとなります。

一方、労働者が退職後については、雇用契約が終了している以上、信義則を根拠に競業避止義務を認めることは原則としてできません。そのため、労働者に競業避止義務を負わせるためには、同業他社への転職禁止条項をあらかじめ雇用契約書で規定しておくか、又は、労働者が退職する際に、合意書を締結するか、誓約書等を差し入れてもらう必要があります。

同業他社への転職禁止条項の有効性(職業選択の自由との関係)

退職後について競業避止義務を負わせるためには、上記のように、雇用契約書に競業避止義務による同業他社への転職禁止条項を規定しておくという方法が考えられますが、雇用契約書に競業避止義務による同業他社への転職禁止条項を規定したとしても、労働者の職業選択の自由との関係から、常に有効性が認められるものではありません。競業避止義務による同業他社への転職禁止条項は、労働者の職業選択の自由(憲法第22条第1項)を制限することとなるため、その制限があまりに強度であると、公序良俗に反し、無効と判断される可能性があります。そこで、どのような内容であれば、有効と判断されるかを意識して、雇用契約において競業避止義務による同業他社への転職禁止条項を規定する必要があります。

競業避止義務による同業他社への転職禁止条項の有効性の判断基準

競業避止義務による同業他社への転職禁止条項の有効性について、いくつかの裁判例が存在するため、裁判例を紹介します。フォセコ・ジャパン・リミティッド事件(奈良地判昭和45・10・23判時624号78頁)では、競業避止義務による同業他社への転職禁止条項の有効性について、以下のように述べられています。

競業の制限が合理的範囲を超え、債務者らの職業選択の自由等を不当に拘束し、同人の生存を脅かす場合には、その制限は、公序良俗に反し無効となることは言うまでもないが、この合理的範囲を確定するにあたつては、制限の期間場所的範囲制限の対象となる職種の範囲代償の有無等について、債権者の利益(企業秘密の保護)債務者の不利益(転職、再就職の不自由)及び社会的利害(独占集中の虞れ、それに伴う一般消費者の利害)の三つの視点に立つて慎重に検討していくことを要する(下線は筆者)。

また、東京リーガルマインド事件(東京地決平成7・10・16労判690号75頁)では、競業避止義務による同業他社への転職禁止条項の有効性について、以下のように述べられています。

労働者が使用者の下でどのような地位にあり、どのような職務に従事していたか、当該特約において競業行為を禁止する期間地域及び対象職種がどのように定められており、退職した役員又は労働者が職業に就くについて具体的にどのような制約を受けることになるか等の事情を勘案し、使用者の営業秘密防衛のためには退職した労働者に競業避止義務賦課による不利益を受忍させることが必要であるとともに、その不利益が必要な限度を超えるものではないといえるか否かを判断すべきであり、当該特約を有効と判断するためには使用者が競業避止義務賦課の代償措置を執ったことが必要不可欠であるとはいえないが、補完事由として考慮の対象となるものというべきである。(下線は筆者)。

競業避止義務による同業他社への転職禁止条項の有効性については、定型的に判断されるのではなく、上記のように、具体的事情との関係で個別的に判断されることになりますが、判例は以下のような要素から有効性を判断していると考えられます。

競業禁止の期間 

競業禁止の期間が長いと転職禁止条項の有効性を否定する方向に働く

期間については、競業避止義務の有効性を判断する上で、重要な判断要素になります。ただ、裁判所の判断として、競業禁止の期間が短いから転職禁止条項が有効となる、競業禁止の期間が長いから転職禁止条項が無効となるというように、競業禁止の期間で機械的に転職禁止条項の有効性を判断しているわけではなく、他の事情との関係で、競業禁止の期間が適切といえるかという観点から判断をしています。新大阪貿易事件(大阪地判平3.10.15労判596号21項)では、以下のような事情を考慮し、競業禁止の期間を3年間とすることは不合理ではないと判断しています。

  • 営業部長が退職後に顧客情報をほとんど利用できないようにし、得意先を奪ったこと
  • 退職の際に従業員2名を引き抜き、また、退職前に在籍していた会社が、競業行為を認めているような案内を自ら行い、退職前に在籍していた会社の競争力を減殺するような行為を行ったこと

一方、東京貨物社事件(浦和地決平9.1.27判時1618号115頁)では、代償措置が設けられていないことや、転職禁止条項や転職禁止条項の成立経緯等も考慮して、期間が3年間で、地域及び職種の制限のない転職禁止条項を無効としました。

競業禁止の地域 

競業禁止の地域が広いと転職禁止条項の有効性を否定する方向に働く

競業禁止の地域についても、地域が無制限であるから転職禁止条項が無効である、地域が限定されていることから転職禁止条項が有効であると機械的に判断されるわけではなく、他の事情との関係で、競業禁止の地域が適切かという観点から判断されます。フォセコ・ジャパン・リミティッド事件(奈良地判昭和45・10・23判時624号78頁)では、退職前に在籍していた会社の営業が特殊な分野であり、また、競業禁止の期間が2年間という比較的短いものであったことから、競業禁止の地域が無制限でも、転職禁止条項は有効であるとの判断がされました。

禁止される業務の範囲 

禁止される業務の範囲が広いと転職禁止条項の有効性を否定する方向に働く

アサヒプリテック事件(福岡地判平19.10.5)では、「在職中の会社の全取引先」と規定された転職禁止条項について、「競業禁止の対象となる取引の範囲(種類・地域)は広範」と指摘され、無効と判断されています。

禁止対象者の地位や役職 

地位や役職の高い者が対象であると、その分重要な情報や機密性の高い情報に接していると考えられるため、転職禁止条項の有効性を肯定する方向に働く

フォセコ・ジャパン・リミティッド事件(奈良地判昭和45・10・23判時624号78頁)では、退職前に在籍していた会社の技術的秘密を取り扱うことができる地位にいた従業員に対しての転職禁止条項について、有効と判断されています。

一方で、会社の重要な情報を扱わない一般的な従業員の場合には、転職禁止条項が無効と判断されるケースが多く、例えば、キヨウシステム事件(大阪地判平12.6.19労判791号8頁)では、工員に対しての転職禁止条項について、業務が単純作業であり、工員が会社のノウハウを扱う地位にいなかったことから、代償措置などが何ら行われていなかったことも考慮され、期間6か月の転職禁止条項の有効性が否定されました。

代償措置の有無 

十分な代償措置が講じられている場合には、転職禁止条項の有効性を肯定する方向に働く

アフラック事件(東京地決平22.9.30労判1024号86頁)では、執行役員について、執行役員という地位に基づき高額な年収、ストックオプションの付与、高額な退職金の支給などの事情を考慮し、2年と規定された転職禁止条項のうち、1年間について有効と判断されました。

一方、東京貨物社事件(浦和地決平9.1.27判時1618号115頁)では、本来よりも少額の退職金しか支給されなかったことが考慮され、競業行為の禁止に見合う代償措置ではないと判断されました。また、新日本科学事件(大阪地判平15.1.22労判846号39頁)では、代償措置としての退職金等が支給されておらず、在職中に月額4000円の秘密保持手当しか支給されていなかったことが考慮され、競業行為の禁止に見合う代償措置ではないと判断されました。

競業避止義務による同業他社への転職禁止条項に違反した場合の労働者の責任

有効性のある転職禁止条項を違反した場合、どのような措置が取られるのでしょうか。

同業他社への転職禁止条項が有効である場合、従業員が違反をすると、企業は、債務不履行としての損害賠償請求や、競業行為の差止め請求を行うことが考えられます。

ただ、競業行為の差止め請求については、損害賠償請求と異なり、労働者の職業選択の自由を制約する程度が強いため、認められるためには、雇用契約書等において、競業行為の差止めを認める条項が規定されていることに加え、放置すれば会社に回復しがたい損害が生じるということを立証する必要があります(前掲フォセコ・ジャパン・リミティッド事件)。

競業避止義務による同業他社への転職禁止条項の期間について

同業他社への転職禁止条項の期間については、あまりに長期に渡ると、公序良俗に反し無効と判断されることとなります。実務上、2年間とされる例が多く、長くとも3年と規定されるケースが多いように思います。ただ、この期間の規定の仕方についても、ケースバイケースですので、具体的事情との関係で、適切な期間を設定する必要があります。

競業避止義務による同業他社への転職禁止条項の条項例

競業避止義務による同業他社への転職禁止条項の条項例としては、例えば以下のような条項が考えられます。

第○条(競業の禁止)
社員は、在職中はもとより、退職後2年間は、会社の許可を得ることなく、会社と競業する事業を営み、または競合する会社に雇われてならない。
第○条(差止め請求)
1.会社は、社員が前項の規定に違反している場合、競業を即刻中止することを求めることができる。
2.前項の請求は、内容証明付き郵便で行い、かつ、会社に返答すべき期限を示すものとする。
3.所定の期限までに返答がないときは、競業を中止する意思がないものとみなす。
第○条(賠償請求)
会社は、競業によって会社に損害が出たときは、本人に対し、損害賠償を請求することができる。

まとめ

以上、雇用契約書における競業避止義務による同業他社への転職禁止条項の有効性について説明をしました。従業員の競業行為により、会社の重要なノウハウが外部に流出してしまう可能性もありますので、雇用契約書において、競業避止義務による同業他社への転職禁止条項をしっかり規定しておくことが必要となります。企業の法務担当者の方から、競業避止の期間につき、無期限とすることはできませんかとの質問を受けることがありますが、競業避止義務の期間を無期限とすると、公序良俗に反する部分につき無効と判断されることもありますので注意が必要です。

雇用契約書における競業避止義務による同業他社への転職禁止条項については、本記事で紹介しているように、具体的事情との関係で個別具体的に検討する必要がありますので、弁護士によるアドバイスを受けるということが望ましいといえます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る