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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

出向・派遣・準委任・請負・偽装請負・労働者供給の区別と違いとは

IT企業やIT系のプロジェクトに限らず、企業にとって人事・労務まわりの実務は厄介な法律問題が起こりがちな領域です。特に雇用関係にかかわる話は、労働者としての身分保障に直接かかわるものでもあるため、非常に深刻な争いも起こりがちです。こうした話に関連して、特に厄介な問題が起こりやすいのは、出向や派遣など、間に仲介者を挟んだ三者間での労働者の活用です。ここには請負や準委任契約などに基づく稼働も含まれます。仲介者を挟んだ三者間で争いが起きる場合、偽装請負や労働者供給などの違法な人材ビジネスとなってしまうことも懸念されるケースがあります。

本記事では人事部門の実務で区別が曖昧になりがちな、出向・派遣・準委任・請負などの人材活用の手法についての整理を行なっています。また、それらが偽装請負や労働者供給のような違法なやり方にならないようにするための注意点についても解説しています。

IT企業やITビジネスは、人事や労務の法律問題で溢れている

「IT」と「法律」の二つを柱とする活動では、出向や人材派遣などの法律問題は、とても重要です。

弊所モノリス法律事務所が企業にむけて提供するIT系法律サービスには、大きく二種類の領域があります。ひとつは、法律という「守り」の側面が手薄になりがちな先端的なIT企業やIT系のビジネスに対し、法的な見地から支援を行うことです。そしてもう一つは、これまでの一般的な企業法務において手薄になりがちだった「IT」という分野で、特にきめ細やかな法律的支援を行うものです。後者は、IT企業か否かにかかわらず、(現代においてITと最早無縁ではいられなくなった)およそ全ての一般企業を対象とするものです。

「IT」と「法律」の二つを柱とする活動において、出向や人材派遣などにまつわる法律問題は、重要度の高い領域です。これらは一見ITと無関係なトピックに見えるものの、今日のIT業界のあり方を踏まえると、非常に問題が起こりやすい領域であるからです。

IT業界全体、ないしIT系技術者の人材活用において、出向や派遣などの仲介者を挟んだ複雑な人材活用が多くなりがちな理由としては、その多くがプロジェクトベースでの稼働となる点が挙げられます。一定の期間を設けて、巨額の予算・多数の人手を巻き込んで進めていくことが多いIT系のプロジェクトは、人材を用いたサービス業を提供する企業にとっても有望な市場となりうるものです。なお、IT系のプロジェクトの特徴を踏まえて、そのプロジェクトをマネジメントしていくための包括的な義務について解説したものとしては、以下の記事があります。

プロジェクトベースの業務の多くに共通するのは、多数の人員の力を巻き込みながら、限られた期間や予算のなかで、プロジェクトの達成という共通の目標の達成を目指していく必要があることです。IT企業やIT系のビジネスにおいて、人材活用のあり方をいかにして適法な状態するかという点が重要な課題となりがちな理由も、ここにあります。

仲介者を挟んだ人材活用の種類と違い

IT系技術者の人材活用は、人材派遣や人材紹介といった人材ビジネスを営む事業者にとっても有望な市場となりうるものです。また、SES契約を用いて、多くのIT企業がクライアント先に常駐するかたちでのビジネスを展開している点も、よく知られる通りです。

こうした仲介者を挟んだ人材活用のやり方として一般的なのは、出向・派遣・準委任・請負などの手法です。

出向とはなにか

出向とは、ある企業に雇用され在籍した状態のまま、他の企業の従業員となり、当該企業の業務にすることだと定義できます。単なる転勤などとの違いは、場所や業務内容に変更がある点だけでなく、指揮・命令を行う主体も変更される点にあります。とはいえ出向は出向元と出向先で二重の雇用関係を構築するものであり、もとの雇用関係が失われるわけではないので、いわゆる「転職」とはこの点で区別されます。

IT企業やIT系のビジネスに限らない話として、出向はグループ企業間などでの人材交流や雇用の調整、教育や訓練の場の確保などを目的として出向という手段はよく用いられるものです。

派遣とはなにか

また、上記の出向の定義を踏まえて、それが派遣とはどのように異なるものなのかが気になったという人もいるでしょう。派遣とはなにかという点については、法律上に定義があります(下線部・太字は筆者が追記したものである)。

派遣法 第2条(用語の意義)

この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするもの含まないものとする。

つまり、出向も派遣も、もともと雇用がなされている立場を前提として、さらに新たな指揮・命令関係が構築され、そこで労働力の提供がなされるという点までは共通です。しかし、派遣の場合には、「他人に雇用させることを約してするものを含まない」という規定となっている点が大きな違いとなっています。つまり、雇用関係が労働者と派遣先の間には成立しない点が出向との違いなのです。出向の場合には、出向先と労働者の間にも労働契約が締結され、労働契約が二重に締結されることになるため、この点で派遣と出向を区別されるのだと理解しましょう。

準委任・請負とはなにか

準委任や請負は、出向や派遣などの話と異なり、必ずしも企業に雇用される人材の話とは限りません。たとえばフリーランスなどの個人事業主が、クライアント先の企業に常駐して働く場合にも、そこでは準委任・請負といったかたちでの契約が締結されるのが通常です。しかし、IT系の技術者を雇用する企業が、別の企業との間で、準委任・請負などの契約を締結し、自社で雇用する技術者を現場に常駐させる場合には、出向や派遣との区別はわかりにくいものとなります。

なお、準委任契約と請負契約の比較と、その内容については以下の記事で詳細に解説しています。

相応の注意義務をもって委任事務の履行にあたることが求められる準委任契約と、「仕事の完成」という結果が重視される請負契約では多くの差異があります。しかし、出向や派遣との違いの話でいうのであれば、クライアント(システム開発などであれば通常はユーザーなど)と労働者の間では雇用関係が成立せず、かつ指揮・命令関係なども成立しないという点は共通です。簡単に行ってしまえば、クライアントは技術者を雇用しているわけでもなければ、当該技術者の上司になるわけでもなく、単に企業に業務を発注しているだけの関係にすぎないということです。

準委任契約や請負契約などに基づいて人材を現場に常駐させる場合には、常駐先の技術者にはあくまで”自社が受託した自社の業務に従事させている”というかたちをとることが大切です。業務のために常駐先の責任者らとどれほど緊密な連携が必要となるとしても、直接的な指揮・命令関係が構築されるならば法律上雇用にいれる義務が発生するためです。この点は、偽装請負などの違法な人材活用に陥らないようにするためにも重要な点となります。

なお、いわゆる「SES契約」と呼ばれるものは、準委任契約の一種です。そのため、SES契約の本質として理解すべき点は、

  • 「仕事の完成」といった結果が義務として課されるわけではないこと(請負契約との違い)
  • 常駐先の責任者との間には指揮・命令関係が形成されるわけではないこと(派遣との違い)

などであるといえます。

請負契約を特徴づけるものとして、「仕事の完成」という概念がどのようなものであるかについては、以下の記事でも詳細に解説を行なっています。

偽装請負・労働者供給の定義と、それらが違法となる理由

「偽装請負」「労働者供給」のそれぞれの定義について説明していきます。

以上の出向・派遣・準委任・請負の内容を踏まえると、偽装請負というものについても同時に理解することができます。また、偽装請負と深く関連する話題として、「労働者供給」について知っておくことも大切です。労働者供給は現行法で罰則付きで禁止されており、これについての理解は偽装請負を防ぐのみならず、適法な出向契約を締結する際にも重要になります。

偽装請負とはなにか

偽装請負とは一言でいうと、契約書などの表面的な事実としては請負契約を締結しているにもかかわらず、労働の実態が派遣になっているものをいいます。派遣と請負の異なる点は、常駐先の企業との間で指揮・命令関係が構築されているか否かにあります。つまり、労働者を現場に送る側の企業の目線でいえば、人材派遣業の許可を得たうえで適法な人材派遣業を営む必要があるのにそれを行なっていない点が違法だということです。また、労働者を受け入れる現場側の企業の目線でいえば、本来直接的に労働者に指揮・命令を行いたいなら雇用をすべきなのにそれを行なっていない点が違法だということです。

なお、偽装請負の定義や、その対策や改善策について法令を踏まえてより詳細に解説を行なったものには以下の記事があります。

労働者供給とはなにか

また上の記事では、偽装請負の解説とセットで、労働者供給というものについても詳しく解説しています。労働者供給とは、派遣に該当するもの以外で、他人の指揮下で労働させることをいい、現行法では罰則付きで禁止されているものです。労働者供給が法律によって禁止されていることは、偽装請負というものを違法たらしめている根拠でもあります。労働者供給というものについては、偽装請負がなぜ違法となるかという話のなかで全体の流れを意識しながら理解するのがよいでしょう。

なお、労働者供給との関連で問題となるのは、適法な出向と違法な労働者供給がどのように区別されるかという点です。この点については、「労働者供給事業」という言葉の通り、事業性、すなわち反復継続して営まれることが前提となっているビジネスといえるものであったか否かが判断の分かれ目となります。たとえば出向の目的が以下のようなものであれば、労働者供給事業という評価はされないケースが多いといえます。

  • 労働力としての活用というよりも、人材交流や、人材育成や労働者のキャリア開発などが主な目的となっている場合
  • グループ会社・関係会社内での労働力の調整が目的となっており、離職させることが目的となっている”厄介払い”などと異なることも明らかである場合

まとめ

労働者を活用する方法には、直接的に人材を雇用するものからそうでないものまで、様々なものがあります。しかし、日本の労働法の基本的な考え方として、「働く人(労働者・被用者)」と「働かせる人(企業・雇用者)」の間には仲介者を挟まないことが原則であるという点をまずは理解しましょう。すなわち、指揮・命令といったかたちで労働者にマネジメント及ぼすのであれば、雇用することによって労働者の権利を擁護する義務も同時に課されるということです。偽装請負や労働者供給のもつ違法性はこうした観点から裏付けられるものです。準委任・請負といった契約において、労働法を遵守する必要がない理由も同様です。

出向や派遣を適法に行う際には、法令上の問題に十分注意を払わないと違法となる危険性がある理由もまた、統一的に説明づけられるものでもあります。出向・派遣・準委任・偽装請負・労働者供給といった用語はバラバラに理解するのではなく、労働法の基本を踏まえて関連付けて理解していくようにしましょう。また実務上、これらの区別が曖昧になるような場合には、弁護士などの法律の専門家に相談しましょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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