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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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オープンソース(OSS)の定義と著作権法上の注意点とは

IT系のエンジニア・デザイナーをはじめとする各種のクリエイターにとって避けて通れないのが、著作権の問題です。自身の作り上げた作品をめぐって争いが起きることもあれば、無自覚なまま他人の著作物に対する権利を侵害してしまうこともありえます。そうしたなか、著作権等の問題をあまり気にせずに利用できるオープンソース(OSS)は、クリエイターの作品づくりの心強い味方ともなりえるものです。しかし、オープンソース(OSS)に関しては正確に理解されていない場合も多く、ときにオープンソース(OSS)というものの誤解が引き金となってコンプライアンス上の問題が起きる場合があります。

本記事では、オープンソース(OSS)というものの法律上の定義を踏まえつつ、オープンソース(OSS)というものに対するありがちな誤解などについて解説していきます。

オープンソース(OSS)を取り巻く様々な誤解

オープンソース(OSS)の定義を正確に理解していないと、法律上の問題を引き起こす事があります。

オープンソース(OSS)は、正確に定義を理解する人が意外と少なく、様々に誤解されていることがあります。よくある誤解の例としては、たとえば以下のようなものです。

  • ネット上で不特定多数の人に向けてソースコードが公開されているプログラムなら、オープンソース(OSS)といえる。
  • オープンソース(OSS)には著作権はないため、著作権法は無関係であり、法律の話は特に気にする必要がない
  • オープンソース(OSS)であれば、その使用にかかるコストはすべて無料である
  • オープンソース(OSS)であれば、制限なく自由に利用していい

先に結論を述べておくと、これらはすべて誤りです。こうした誤解に基づくソースコード・プログラムの利用は、法律上の問題を引き起こす危険があります。オープンソース(OSS)とそうでないものの区別を明確にし、オープンソース(OSS)の利用者にどのような権利が認められているのかを知ることは、無用な法律問題を引き起こさないために重要なことです。こうした点に関連して、オープンソース(OSS)というものの正確な定義を理解しておくことは非常に重要なことだといえます。

著作権法上の「使用」と「利用」の違いを踏まえたオープンソース(OSS)の本質

では、結局のところオープンソース(OSS)とはなんなのでしょうか。オープンソース(OSS)の何たるかを知る際には、著作権法の基礎が問われます。著作権法上は、「使用」と「利用」は明確に意味の異なる日本語として区別されます。一般的な日本語としてみた場合には両者の意味に大きな違いがないことから、両者は混同されがちでもあります。したがって、まずはこの違いを認識することが重要です。

「利用」は著作権法の権利であり、著作権侵害がありうる 

そもそも著作権とは、著作物を生み出した本人を権利者として、ある種の独占的な地位を保障するための法分野です。すなわち、システム開発やソフトウェア開発の文脈に即してなるべく端的に説明すると、複製(同法21条)や、ネット経由での配信である公衆送信(同法23条1項目)、譲渡(同法27条)といった事柄について、権利者の意思にかからせることにあります。これらがすなわち、著作物の「利用」にかかわる話です。したがって、権利者でない人が無断でこれらの利用行為を行なった場合には、「著作権侵害」の事案となります。たとえば、以下の記事では他人のソースコードを「パクった」場合と「参考にしただけ」の場合の違いを説明しながら、著作権侵害の判断基準についての解説を行なっています。

著作権を侵害された場合には、権利者は、民事的な措置として、差止め(著作権法112条1項)や、不法行為責任に基づく損害賠償請求(民法709条)を求めることができます。

「使用」は独占的な権利ではなく、著作権侵害などもない

もっとも、著作権法は、権利者を保護し、権利侵害に対して制裁を加えることだけを目的にした法領域ではありません。そもそも著作権法の第一条、その目的規定には以下のような理念が示されています。

第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

ここには「権利の保護」という点のほかに、「文化の発展」という理念も謳われています。すなわち創作者の独占的な権利の主張も度が過ぎれば、他者の創作活動を不当に萎縮させる懸念があることから、こうした事柄とのバランスをとることも目的とする領域なのです。言い換えるなら、著作権が及ばぬ場合についての規定も当該法領域には多く存在するということです。これが著作権上の「使用」の話と関連してきます。

以下に、著作物の「使用」を許可する条文を掲載します。

第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。(以下略)

著作権法第30条にいう「使用」とは、書籍などであれば「読む」ことであり、音楽であれば「聴く」ことであり、映画であれば「観る」ことなどを指します。書店で本を立ち読みしたからといって著作権法上の問題にはなりません。つまり、ユーザーという立場での著作物の使用には、著作権の侵害という概念はないのです。まとめると、権利者でない人の「利用」すなわち、書籍であれば印刷や修正を行うこと、音楽であれば録音や演奏を行うこと、映画であれば配給や上映を行うことなどに対して一定の規制をかけるものが著作権という権利なのです。

権利者でない人に、「利用」の許可をするのがライセンス

以上の内容が、オープンソース(OSS)というものの法律上の意味合いを理解するための前提となります。権利者でない人の「利用」を幅広く制限するものが著作権であることは、裏返せば、権利者が許可するなら、権利者でない人の「利用」も認められるということを意味します。これがいわゆる利用許諾、すなわちライセンスです。なお、利用許諾を得ることは、著作権そのものの譲渡や移転を受けて著作権者になることとは意味が異なるので、この点には注意しましょう。あくまで利用許諾は、著作権がないことを前提としながらも、「利用」することについて正当な権利者の「許諾」を得るということを意味します。

また、オープンソース(OSS)とは、このライセンスによって、誰でも包括的に利用することを許可しているものなのです。

オープンソース(OSS)の本質を踏まえた注意点とは

オープンソース(OSS)の活用における誤解と注意点とは?

以上、著作権法の内容を基礎に、オープンソース(OSS)の活用について誤解の多い点について取り上げてみます。以下、オープンソース(OSS)について特に誤解しやすく注意を要する点を取り上げていますが、ここまでの内容を踏まえれば最早自明というべきものでもあるでしょう。

「ネット上で誰でも閲覧できる場所に開示してあるからオープンソース(OSS)である」は誤り

githubに開示されているコードなどについて、「ネット上で不特定多数の人が閲覧できる場所にあるのだからオープンソース(OSS)であり、著作権問題は気にしなくて良い」などと誤解されてしまうケースがあります。しかし、オープンソース(OSS)の本質は、「利用の許諾」という点にあるのであり、誰もが閲覧できるという点ではありません。

著作権者であるそのコードを書いたプログラマーは、そのコードをネット上に開示する意思を持っていたとしても、オープンソース(OSS)として不特定多数の人に利用を許諾しているとは限りません。

「オープンソース(OSS)には著作権がなく、著作権法の話は関係してこない」は誤り

先述の通り、オープンソース(OSS)と呼ばれるものにも著作権者は存在します。著作権者が存在したうえで、その著作権を行使した結果として、不特定多数の人への利用の許可がなされているからオープンソース(OSS)となっているのです。すなわち、オープンソース(OSS)というもの自体、著作権法の枠組みを前提として成り立っているものなのです。

「オープンソース(OSS)の利用にかかるコストはすべて無料」とは限らない

オープンソース(OSS)というものの本質はあくまで利用許諾にあります。したがって、ライセンス料は定義上誰でも無料となります。しかしライセンス料以外のところで費用が発生する可能性までは、オープンソース(OSS)というものの定義からは排除できません。このことの良い例としては、ウェブサイトの開設によく用いられるワードプレスの、プラグインがあります。ワードプレスの機能を拡張するためのプラグインを世界中の技術者が作っており、これらは規約上オープンソース(OSS)とされていますが、プラグインのダウンロードは有料のものもあれば無料のものもあります。

「オープンソース(OSS)であれば、制限なく自由に利用していい」は誤り

オープンソースというものの本質はあくまで、不特定多数の人々にむけて、包括的に無償で利用することを許諾することにあります。したがって、そこにも一定の制約が課されている場合はあります。たとえばコピーレフト条項が記されたオープンソースは、それを元にした新たな創作物にも同様にコピーレフト条項を付与し、オープンソースにすることを求めます。他にも、たとえオープンソースであっても、著作権の表記の方法などについて制約が設けているものは少なくありません。

まとめ

作品の制作にかかる技術の話とは無縁であるため、モノづくりが好きな人にとってあまり興味関心が向かいにくい分野であるのが著作権法であると考えられます。しかしオープンソース(OSS)についての理解は、クリエイターにとっても決して無関係な領域ではありません。正確な理解ととともに、やってよいことと悪い事の把握につとめることが大切であると考えられます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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