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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

新型コロナウイルス等が原因の債務不履行と不可抗力条項とは?

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新型コロナウイルス等が原因の債務不履行と不可抗力条項とは?

2020年に入ってから新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で猛威を奮っています。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、例えばシステム開発業務において開発担当者が感染してしまい急遽出社停止となる事態が起こり得ます。
そして、このことが原因で開発業務が遅延して契約で定めた納期に間に合わないなどといった危機に直面した際、一体どうすればいいのか悩まれる企業経営者も少なくないと思います。

このような事態を想定したものとして不可抗力条項があります。
システム開発業務委託契約書では多くの場合にこの不可抗力条項が定められていると思われますが、実際に新型コロナウイルスに関して適用されるかは個々に判断する必要があります。そこで、新型コロナウイルス感染症等が原因で契約上の義務を履行できなくなった場合に不可抗力条項が適用される可能性があるか、不可抗力条項とはそもそもどのようなものかについて掘り下げて解説します。

なお、システム開発契約の遅延による法的責任一般に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

[blogcard url=”https://monolith-law.jp/corporate/performance-delay-in-system-development”]

不可抗力条項とは何か

不可抗力とは?またその事例について解説していきます。

不可抗力とは何か

不可抗力とは、契約当事者がコントロールすることのできない外部的な事象をいいます。
典型的な例としては、台風・地震・洪水・津波などといった自然災害、戦争・騒乱・テロなどの社会現象があります。
このほか、今回の新型コロナウイルスの感染拡大のような疫病の発生も不可抗力に含まれることが多いといえます。
日本法においては契約法上負っている義務について期日に間に合わないなど債務不履行が生じた場合には損害賠償請求等の責任追及ができますが、当事者の責めに帰すべき事由によらない債務不履行については免責されることになっています。
不可抗力条項において定められるような不可抗力事由の発生はまさに当事者の責めに帰すべき事由にあたらない場合といえます。

不可抗力条項の規定例

不可抗力条項の定め方には色々なバリエーションがありますが、典型的には次のような条項となります。

第○条(不可抗力)
本契約の一方当事者が、次の各号に定める事情に起因して本契約又は個別契約上の義務の履行を遅滞し又は履行不能となったときは、その責を負わないものとする。
(1)自然災害、火災及び爆発
(2)伝染病
(3)戦争及び内乱
(4)革命及び国家の分裂
(5)公権力による命令処分
(6)暴動
(7)その他前各号に準ずる事態

不可抗力条項を契約書に規定する場合には、上の条項例のように不可抗力に該当する事由を具体的に列挙し、かつ列挙事由にあたらない事由を捕捉するため(7)号のようなキャッチオール条項(包括的な条項)を設けることが一般的です。

キャッチオール条項が設けられている場合には、具体的に列挙された事由はあくまでも例示的なものでありこれに限定する趣旨ではないと解釈されますので、想定外の事態が生じた場合に柔軟な解決が可能となります。

不可抗力条項の適用における留意点

新型コロナウイルス感染症により、不可抗力条項が適用される条件とは?

実際に新型コロナウイルス感染症が原因で契約上の義務について不履行が生じた場合に不可抗力条項が適用されるかは契約ごとに個別に判断されます。
不可抗力条項が適用されるためには、以下の2点を満たす必要があると考えられます。

  1. その事象が「不可抗力」に該当すること
  2. 不可抗力と債務不履行との間に因果関係があること

不可抗力への該当性

不可抗力条項において「疫病」や「伝染病」が列挙事由として定められている場合には、新型ウイルスの感染拡大は「疫病」「伝染病」にあることに争いはなく不可抗力条項が当然適用されると考えるかもしれません。
しかし、今回に限らず新型ウイルスが流行したからといって当然に不可抗力条項に定められた「疾病」や「伝染病」にあたるとは限らないことに留意すべきです。
冒頭でも説明したように、不可抗力とは契約当事者がコントロールすることのできないレベルの事象である必要があります。
そうでなければ、契約上の義務が免責されることを正当化できないためです。
したがって、新型ウイルスの蔓延が不可抗力事由に該当するためには、例えば感染拡大により契約の履行に必要不可欠な工場や社屋が全面的に閉鎖されるとか、通信回線の重大な事故が続き作業が予定通り進まなかったとか、物流が滞ることにより契約の履行に必要な物資がまったく入手できないといった契約当事者の努力によってはコントロールできない状況が生じている必要があります。

反対に、新型ウイルスの蔓延に伴い必要な物資が高騰したため入手のハードルは上がったものの高騰した価格であれば入手できないわけではないとか、システム開発に用いていた作業場が閉鎖されたもののテレワークの導入により各自が自宅で作業を進めることができるなど代替手段がある場合には、契約当事者の努力によってコントロール可能であるため不可抗力とは認められない可能性が高いといえます。
なお、今回の新型コロナウイルスの感染拡大については、国家から緊急事態宣言などが発出されたことにより物流の制限が生じて納品が遅延したとか、突然の外出禁止令により契約の履行に必要な作業ができなくなったような場合には、契約当事者の判断や努力によってコントロールすることは困難であるため不可抗力に該当すると判断されることが多いでしょう。

不可抗力と履行遅滞との因果関係

不可抗力を理由として契約上の義務が免責されるためには不可抗力と債務不履行との間に因果関係が必要です。例えば、新型コロナウイルスの感染拡大時にシステム開発の遅延が生じたものの、その原因は開発担当者のミスであったような場合には当然ながら免責は認められません。
偶然に不可抗力事由が生じたことによって、本来であれば免責されないものが免責される結果となるのはバランスを欠くためです。

不可抗力についての裁判例

不可抗力において実際に争われた裁判例について紹介していきます。

不可抗力に該当するかについて争われた裁判例として、次のようなものがあります。

バブル経済の崩壊

バブル経済崩壊後の経済状況がゴルフ会員権に関する預託金据置期間延長の要件である「天変地変、著しい経済変動その他会社及び倶楽部の運営上やむを得ない事情があると認めた場合」にあたるか争われた裁判で、裁判所は「著しい経済変動」にあたらないと判断しました。

「著しい経済変動」は天変地異に準ずる程度の極めて高度の変動が予想されているものと解されるが、バブル経済崩壊後の経済状況は、近来見られなかったものであるとはいえ、予測不可能な程度のものであったとまではいえず、当該要件に当たるものということはできない。

東京地方裁判所平成17年4月27日判決

豪雨による浸水被害

一方、東海豪雨による浸水被害を受けたことにより修理を請け負っていた自動車が全壊した場合に、被告である修理業者が自動車の引渡義務の不履行による損害賠償責任を負うかが争われた裁判で、裁判所は修理業者が債務不履行責任を負わないと判断しました。
その理由として裁判所は、修理業者には豪雨及びそれによる浸水被害の発生について予見可能性がなく、また被害を回避する可能性もなかったことを具体的に認定しています。

被告には、東海豪雨のように未曾有で大量の降雨をもたらす非台風の豪雨が発生すること自体につき予見可能性があったとは認めることができず、かかる豪雨による洪水に対処するための危機管理体制を敷くことはできなかったというべきである。また、被告が早期に降雨の推移に気づくことも、…東海豪雨が名古屋市近郊全体を一様に襲ったのではなく、しかも、…台風の場合とは異なり緩やかに降り始め、総降雨量が莫大となったという特徴を有するものであったことを考慮すれば、被告が早期に降雨の推移を把握し、上記浸水被害ないし本件自動車の水没を予見する可能性があったとは言えない。…被告が,本件自動車の水没,全壊被害を回避する可能性はなかったものと言うべきである。

名古屋地方裁判所平成15年1月22日判決

不可抗力に関する裁判所の考え方

以上2つの裁判例をみる限り、債務不履行が発生したときに不可抗力として免責されるかについて裁判所は、不可抗力条項の文言解釈そのものよりも被害の発生について予測可能性があったか、また被害を回避できる可能性があったかという観点から契約当事者に責任を負わせることが妥当かを実質的に判断しているということができます。
したがって、2つ目の名古屋地方裁判所平成15年1月22日判決のように不可抗力条項が契約書上明確に定められていない場合であっても、債務不履行について当事者の責めに帰すべき事由がないといえれば裁判所は免責を認めることがあります。
注意したいのは、だからといって契約書に不可抗力条項を定める意味がないわけではないことです。
不可抗力条項が契約書に明確に定められていれば、そもそも訴訟によらずとも当事者間の協議により免責するとの合意に達しやすくなりますので不可抗力条項を設けることには一定の意味があります。

新たに不可抗力条項を設ける際の留意点

不可抗力条項を設ける際の留意点とは?

今回の新型コロナウイルスの感染拡大のような事態はそれほど多く発生するわけではないものの、実際に発生した場合には契約関係に与える影響は甚大です。
このため、少なくとも重要な継続的契約には不可抗力条項を設ける必要があるでしょう。
不可抗力条項については、上で挙げた条項例のように可能な限り具体的な事由を列挙した上で、最後に「その他前各号に準ずる事態」といったキャッチオール条項を設ける形式が一般的です。不可抗力という言葉自体は抽象的であり、実際に不可抗力と思われる事象が生じた場合には当事者間で不可抗力に該当するのかが争いになりがちです。

このため、不可効力条項において具体的事由をできるだけ列挙しておくことは当事者の予測可能性を担保する上でも望ましいといえます。
なお、例えばシステム開発契約の発注者側である場合には不可抗力の範囲は限定したいと考えます。発注者側が契約上負う義務は報酬の支払い義務であるところ、金銭支払い義務に関しては、民法上不可抗力によっても免責されないこととされています。

したがって、システム開発契約において不可抗力条項の恩恵を受けるのはもっぱら受託者側といえるためです。このため、発注者側としては不可抗力条項における具体的列挙事由について範囲を限定して規定するよう検討する必要があります。例えば、列挙事由として挙げられることの多い「地震」については震度2~3といった程度であれば免責の必要が生じることはまずありません。したがって、「大地震」とすることや「震度6以上の地震」などと具体的に規定することも一つの方法です。

一方、システム開発契約の受託者側である場合には考えられる事象をできるだけ不可抗力条項の列挙事由として挙げておくことが必要となります。
例えば、システム開発においてネットワーク環境が必須である場合には「通信回線の事故」を列挙事由に入れておくことも一案です。なお、請負型のシステム開発契約書におけるチェックポイントに関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

[blogcard url=”https://monolith-law.jp/corporate/checkpoints-for-contracts-of-system-development”]

まとめ

今回発生した新型コロナウイルスによる感染は世界中に広がり、各都市で外出禁止その他の経済活動を制限する措置が行われています。
このように国家が緊急事態宣言を出すとか都市封鎖をするような事態に至っているのであれば、不可抗力による免責の対象となる可能性は高いといえます。

とはいえ、不可抗力にあたるような事象が生じたことにより債務不履行となる見通しである場合には、まずは契約当事者間で協議して期限の延期などの対応を判断するべきといえます。
したがって、期日に間に合わないことが想定される場合には早期に契約の相手方に相談することが大切です。
具体的な事案について不可抗力により免責される余地があるかは遅延を生じた経緯によっても異なりますので、取引先との交渉がうまくいきそうにない場合は弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

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