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FTX Japanへの行政処分から学ぶ 暗号資産交換業者における「利用者保護」の重要性

FTX Japanへの行政処分から学ぶ 暗号資産交換業者における「利用者保護」の重要性

暗号資産の普及に伴い、暗号資産の売買またはその媒介や取次ぎ、代理を行う暗号資産交換業者も増加しています。暗号資産交換業者にとっては、法令を遵守し、適切に利用者保護の施策を講じることが極めて重要です。利用者保護の施策が不十分だと判断された場合、事業者は、業務停止命令などの行政処分を受ける可能性があります。

そこで、本記事では、FTX Japan 株式会社への行政処分の事例を題材に、暗号資産交換業における利用者保護の重要性を説明します。

暗号資産交換業者に対する行政処分の事例

2022年(令和4年)11月10日、金融庁が、暗号資産交換業者であるFTX Japan株式会社に対して行政処分を行なったことを公表しました。

参考:金融庁|FTX Japan株式会社に対する行政処分について

FTX Japanのどのような行為が問題視されたか

FTX Japanのどのような行為が問題視されたか

FTX Japan株式会社は、米国のFTX Trading Limitedが親会社となっています。

FTX Japan株式会社は、米国親会社であるFTX Trading Limitedの方針であるとし、利用者に対して、明確な理由を説明することなく、利用者に対する預かり資産の出金を停止しました。ただ、預かり資産の出金を停止しているにも関わらず、利用者からの財産の受け入れや利用者との暗号資産取引は継続しているという状況でした。

そんな中、米国親会社であるFTX Trading Limitedが信用不安となっているという報道がなされました。

通常であれば、FTX Japan株式会社としては、利用者との新たな取引を停止し、また、FTX Japan株式会社の資産が海外等に流出し、出金が停止されている資産の出金が行えなくなるというような状況が発生しないように、万全を期し、利用者の保護を図ることを最優先にするべきところです。

にも関わらず、FTX Japan株式会社は、利用者保護に関する措置を行いませんでした。

FTX Japanにどのような内容の行政処分がなされたか

FTX Japan株式会社には、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)及び金融商品取引法に基づく行政処分が行われています。

関連記事:暗号資産に関する規制とは?資金決済法と金融商品取引法との関係を解説

資金決済法に基づく行政処分

資金決済法に基づく行政処分として、FTX Japan株式会社に対して、業務停止命令(資金決済法第63条の17第1項)及び業務改善命令(資金決済法第63条の16)がなされています。

業務停止命令により、令和4年11月10日から同年12月9日までの1か月間、暗号資産交換業に関する業務および暗号資産交換業に関して利用者から新たに財産を受け入れる業務を行うことが停止されました。

ただし、FTX Japan株式会社が、利用者から預かっている法定通貨及び暗号資産を速やかに返還できる態勢が整った場合には、令和4年12月9日よりも早い時期に、業務を再開できる可能性があります。

この業務改善命令により、以下がFTX Japan株式会社に命じられました。

  • 利用者及び利用者から預かった資産の正確な把握
  • 利用者から預かった資産の保全及びFTX Japan株式会社が有している財産を不当に費消しないこと
  • 利用者の保護のために万全の措置を講じること
  • 利用者の資産保全について、利用者に周知徹底し、適切な対応に配慮すること

金融商品取引法に基づく行政処分

金融商品取引法に基づく行政処分についても、資金決済法と同様に、業務停止命令(金融商品取引法第52条第1項)及び業務改善命令(金融商品取引法第51条)がなされています。

また、資産の国内保有命令(金融商品取引法第56条の3)もなされています。

業務停止命令により、令和4年11月10日から同年12月9日までの1か月間、店頭デリバティブ取引に関する業務および店頭デリバティブ取引に係る証拠金等の預託を新たに受ける業務が停止されました。

資金決済法に基づく業務停止命令では、暗号資産交換業に関する業務および暗号資産交換業に関して利用者から新たに財産を受け入れる業務が業務提起命令の対象とされており、金融商品取引法に基づく業務停止命令とは、停止される業務に違いがあります。

ただし、関東財務局が個別に認めた業務については、業務停止の範囲から除かれています。

また、FTX Japan株式会社が、利用者から預かっている証拠金等を速やかに返還できる態勢が整った場合には、令和4年12月9日よりも早い時期に、業務を再開できる可能性があります。

この業務改善命令により、以下がFTX Japan株式会社に命じられました。

  • 投資者及び投資者から預かった資産の正確な把握
  • 投資者から預かった資産の保全及びFTX Japan株式会社が有している財産を不当に費消しないこと
  • 投資者の保護のために万全の措置を講じること
  • 投資者の資産保全について、投資者に周知徹底し、適切な対応に配慮すること

さらに、資産の国内保有命令により、FTX Japan株式会社は、令和4年11月10日から令和4年12月9日まで、同期間の間、FTX Japan株式会社の貸借対照表の負債の部に計上されるべき負債の額から、非居住者に対する債務の額を控除した額に相当する資産を日本国内において保有することを命じられました。

暗号資産交換業における利用者保護とは

今回のFTX Japan株式会社の事例から、金融庁においても、暗号資産交換業者が取るべき利用者保護に関する措置を重視していることが伺えます。

まずは、利用者および利用者から預かった資産の内容を正確に把握し、厳格に管理をすることが重要となります。また、利用者から預かった資産については、当然のことながら、適切に管理し、不当に費消することや、不当に流出させることを防止する必要があります。

そして、利用者保護に関する万全の措置を行うとともに、万が一問題が発生した場合には、利用者に周知徹底を行うとともに、利用者への適切な対応を行う必要があります。

FTX Japan株式会社の事例のように、親会社が海外にあるようなケースでは、国によってルールが異なることから、利用者保護義務が十分に果たされない可能性もあります。暗号資産交換業者としては、適用される法令を遵守して利用者保護を軽視することなく、適切に利用者保護のための施策をとることが重要となります。

FTX Japanの事例の今後

FTX Japanの事例の今後

資金決済法に基づく業務改善命令及び金融商品取引法に基づく業務改善命令の双方に関し、関東財務局は、FTX Japan株式会社に対し、令和4年11月16日までに、業務改善計画を書面で提出するように求めました。そして、FTX Japan株式会社は、令和4年11月16日に、金融庁に、業務改善計画を提出したと報じられています。

FTX Japan株式会社が提出した業務改善計画の詳細は、明らかになっていません。ですが、FTX Japan株式会社は12月1日に「サービス復旧に向けた取組みについて」としてリリースを発表しました。会社側の発表によると、出金・出庫サービス再開へ向けた計画は本社で基本的に合意・承認され、エンジニアリングチームによりこの計画に沿って開発が始まっているとのことでした。 また、コントロール、セキュリティ監査、照合、レビュー等を組み込むことで、堅牢かつ安全なプロセスを導入していくとのことでした。

FTX Japan株式会社は、提出された業務改善計画に基づく業務改善が完了するまで、1か月毎の進捗・実施状況を、毎月10日までに、書面で、関東財務局に報告をしていくことを命じられていましたが、会社側の発表でも「また関東財務局からの業務改善命令が継続されている間は、毎週月曜日に資産管理状況等として当局に報告していく」とあります。

記事執筆時点(12月5日時点)ではFTX Japan株式会社の業務の再開はされていません。

今後は、提出された業務改善計画に基づき業務改善が行われていくものと考えられます。

まとめ:暗号資産交換業の規制については弁護士に相談を

以上、暗号資産交換業を営んでいる事業者を対象に、行政処分の事例を題材に、利用者保護の重要性を説明しました。利用者保護に関する問題が発生し、行政処分を受けてしまうと、業務を行えなくなってしまうこともありえます。

そのため、暗号資産交換業を営む事業者は、利用者保護を含めた業務運営に関し、専門的知識を有する弁護士に相談することをおすすめします。

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モノリス法律事務所の取扱分野:暗号資産・ブロックチェーン

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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