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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

IT業界における偽装請負の判断基準と対処法とは

IT業界における偽装請負の判断基準と対処法とは

システム開発をはじめとするIT系のプロジェクトでは、多数の人手が必要となる場合が多く、その労務管理・労働環境の整備もきわめて重要な課題となります。プロジェクトメンバーの労務管理を適法に行うためには、契約に関する法律の知識も求められます。契約に関する知識が不十分なまま現場に人を送ることは、ときにコンプライアンス上の問題にも発展する危険があります。そうした例としてある意味非常に分かりやすいのは、「偽装請負」でしょう。本記事では、偽装請負の判断基準や、それに該当しないようにするための対処法について解説していきます。

IT業界のプロジェクトの特徴とは

IT業界におけるプロジェクトは、多数の人手を必要とするものが多く、巨額な商取引・大規模なサービス業へと発展しやすいという特徴があります。なお、システム開発をはじめとする多くのIT系プロジェクトが、現場に多くの人員を擁して行う形態に発展していく傾向があるということは、仕事を受けるベンダー側からみれば、プロジェクトをマネジメントしていくことの難しさという問題にもつながっていきます。

上の記事では、ベンダー側からみたプロジェクトの進捗を取り仕切ることの難しさといった観点から、サービス業としてのIT系プロジェクトの特徴を説明しています。

プロジェクトでよく用いられる契約とは

現場に多数の人を巻き込みながら進んでいくIT系プロジェクトにおいて、契約のやり方としてよく用いられるのは、請負契約と準委任契約です。これらの違いについては、以下の記事で詳細に説明しています。

詳しい内容は上の記事に譲りますが、「仕事の完成」という結果を債務の履行要件として重視する請負と、当事者間の信頼関係を基礎に、一定の注意義務をもって委任事務を進めることを重視する準委任の二種類がよく用いられます。こうした二種類の契約が、あるときは下請業者を巻き込みながら、あるいは多段階に開発工程を区分けしながら契約実務は取り仕切られていきます。

契約実務が、こうした契約型本来の意味や目的に沿った形で行われるならば問題はありません。しかし逸脱したかたちで用いられた場合には、様々な法令上の問題が発じる場合があります。

労働者供給と労働者派遣とは

多数のチームメンバーが関わるプロジェクトの労務管理・規制について説明していきます。

なお、多数の人を巻き込みながら進んでいくことの多いIT系のプロジェクトは、人材ビジネスを営む人にとっても有望な市場となりえます。こうしたプロジェクトのチームメンバーの労務管理を適法に執り行うためには、こうした人材ビジネスに関わる各種の規制についての知識も重要になります。

労働者供給とはなにか

職業安定法という法律では、「労働者供給」が罰則付きで禁止されています。では、職業安定法と、それが禁止する「労働者供給」とはなんでしょうか。以下に職業安定法の目的規定と合わせて、該当する条文を確認してみましょう。

(法律の目的)
第一条 この法律は、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)と相まつて、公共に奉仕する公共職業安定所その他の職業安定機関が関係行政庁又は関係団体の協力を得て職業紹介事業等を行うこと、職業安定機関以外の者の行う職業紹介事業等が労働力の需要供給の適正かつ円滑な調整に果たすべき役割に鑑みその適正な運営を確保すること等により、各人にその有する能力に適合する職業に就く機会を与え、及び産業に必要な労働力を充足し、もつて職業の安定を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与することを目的とする。

すなわち、就職活動を行う労働者と、職業紹介を行う職業紹介事業者の関係を、(往往にして失業中であり、社会的立場も弱くなりがちな求職者に配慮して)公平な状態に取り仕切ることを目的とした法分野であるといえます。また、以下に引用するのは、当該法令における労働者供給を罰則付きで禁じている条文です(傍線部・太字は筆者が追加したものである。)。

第四条七項 この法律において「労働者供給」とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。以下「労働者派遣法」という。)第二条第一号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。

(労働者供給事業の禁止)
第四十四条 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
(労働者供給事業の許可)
第四十五条 労働組合等が、厚生労働大臣の許可を受けた場合は、無料の労働者供給事業を行うことができる。

第六十四条 次の各号のいずれかに該当する者は、これを一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
(一項から八項中略)
九 第四十四条の規定に違反した者

まとめると、法律で定められた適法な労働者派遣の場合を除き、他人の指揮下のもとで労働させるような契約することは原則違法であるということです。こうしたことを規制する背景にあるのは、労働を目的とした契約で無用な仲介者を挟むことが、仲介者による搾取・ピンハネを招くことにあります。また、人材を受け入れる側からみれば、労働者と直接契約することなしに人材の受け入れができるとなれば、あえて人を雇用して労働法を遵守する意義がきわめて乏しいものともなりかねません。そうした事情から、労働に関わる契約は、人材派遣業の許可がおりているような特殊なケースを除き、「働く人」・「働かせる人」の二者間で完結させることが求められるのです。こうした原則によって制度が成り立つことにより、不当な労働搾取や労働法の潜脱も防止されているのです。

労働者派遣となにか

労働にかかわる契約が、仲介者を介在させないことが原則である以上、雇用する人と労働させる人が別となるような場合でも適法となる場合というのはきわめて限られます。以下に引用する「労働者派遣」に該当する規定は、そうしたことを端的に物語るものです(下線部・太字は筆者)。

第二条 請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であつても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き労働者派遣事業を行う事業主とする。
一 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。
イ 次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1) 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
(2) 労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。
ロ 次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1) 労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
(2) 労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
ハ 次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1) 労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
(2) 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。
二 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。
イ 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。
ロ 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
ハ 次のいずれかに該当するものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
(1) 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。
2
(2) 自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。

非常に長い規定となっていますが、話の要点としては、こうした細々とした規定を全て充足した場合にのみ、それは労働者派遣とは扱われず、それは正当な業務請負となりうるということです。言い換えると、一つでも充足しない条件があるならば、派遣に該当し、人材派遣業者として厳格な法律要件が課されることになるのです。

偽装請負に該当しないようにするには

違法な偽装請負とならない為の対策とはどのようなものがあるでしょうか。

以上、偽装請負とはなにかを知るための道具立が整いました。人材派遣業には免許制に基づき厳格な規定が及ぶところ、実態としては人材派遣を行なっているにもかかわらず、建前としては請負契約として(通常無許可で、それゆえ違法に)労働者の仲介を行う場合に「偽装請負」となるのです。こうした理解を踏まえれば、偽装請負に該当しないようにするための対策の方向性も自ずと明らかになります。

労働者と直接契約をしていない、ユーザー・クライアント側から労働者に対する指揮・命令・監督をしない(もしくはさせない)

請負契約にしろ、準委任契約にしろ、表面上の契約がなんであれ指揮命令に基づく関係が構築されれば、そこには労使間における労働者保護の要請が生じます。したがって、労働者が現場に常駐する際にも、業務命令はあくまでベンダー側から出すこととし、労働者があくまで”常駐先のためにやる仕事”ではなく”自社が受けた自社の内部の仕事”に従事しているという建て付けにすることで問題を回避できます。

人材派遣業の許可を得て、適法な人材派遣を行う

人材派遣業を適法に行うためには、厚生省に申請のうえ、許可を得る必要があります。なお、請負を派遣に変えることで適法化をはかる場合には、派遣先責任者の選定や、派遣先管理台帳の整備などが派遣先にも求められます。つまり、常駐先となる現場にも一定の使用者責任が課せられるということです。

まとめ

本記事では、適法な請負契約・準委任契約の内容を基礎として、違法な偽装請負と、それを適法化していくための道筋について解説しました。人材派遣業の法律なども絡むことから、内容は複雑でもあります。話の要点としては、まず原則として、労働者・使用者双方の義務や権利が一対になっている点を押さえておくことが重要です。すなわち、労働者側は指揮・命令に沿ったかたちで労働力を提供することが求められ、使用者側は労働者の権利を擁護することが求められるということです。そして、両者の義務は仲介者を挟まず、一対になって直接契約で規律されるのが原則なのだという点を理解することで、その例外にあたる人材派遣の位置付けや、偽装請負のもつ違法性についての理解も容易になるものと考えられます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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