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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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コロナ禍で急増する電子署名と電子契約 その有効性を解説

コロナ禍に伴うテレワークの拡大に伴い、電子契約が増加しています。電子契約では、郵送してもらった文書に記名押印して返送するという手間がなくなり、内容をパソコン等で確認して署名するだけで済むので、時間も手間も大幅に節約できます。

ここでは、電子署名と電子契約の有効性について、解説します。

契約と契約書

当事者が合意することによって法的な権利義務関係が発生する行為を「契約」といいます。合意することで権利義務が発生するのではれば「契約書」とは何のためにあるのでしょうか。

民法と契約

契約書は契約の要件ではありません。契約は口頭でも成立し、口約束でも契約となります。しかし、一旦契約について争いが起こった際には、その契約を証明しなくてはならなくなり、口頭での契約では証拠が存在しないことになってしまいます。こういった場合に備えて、紛争時の証拠とするために契約書が必要となるのです。

ただし、民事訴訟の際に契約の証拠として提出できるものは、紙の契約書に限定されてはおらず、ビデオテープ等に収録された映像や、磁気ディスクに保存された電子データも、証拠として提出できます。

契約については、民法では、

民法(契約の成立と方式)第522条 

契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

と、規定されています。これは、当事者の意思が合致したときに契約が成立することを定めたものであり、第2項では、契約の成立には書面の作成は必須ではなく、方式も自由に決めてよいとあります。だから、現在では、ほとんど全ての契約書を電子化しても問題ありません。

ただ、第2項に「特別の定めがある場合を除き」とあるように、法令によっては書面が求められるものがあり、この場合には、一般的には紙による書面作成が契約の成立条件になります。

たとえば、保証契約や借地借家法上の定期賃貸借契約などは書面によらなければ契約の効力が認められません。ただし、保証契約については、民法第446条第2項で「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない」とあるものの、第3項に「電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。」とあるので、電子契約でも契約は有効です。

一方で、贈与契約は口頭での契約も認められますが、書面でない場合には当事者は解除することができるということに注意する必要があります。保証契約では、書面での契約が必須なので、電子契約による保証契約では、解除が認められる可能性があります。

その他、訪問販売などのクーリングオフについては、事業者に契約内容を明らかにする書面の交付義務が課されており、書面を交付しなければクーリングオフ期間が進行しません。消費者もクーリングオフするには書面で行う必要があります。

民事訴訟法と契約

民法第522第2項により、特別の定めがなければ契約は書面がなくても有効に成立しますが、契約が有効に成立していることと、裁判においてその契約が証拠として認められるかどうかということは、別の問題です。契約について紛争が生じた場合には、証拠によって契約の有効性を決める必要が生じます。

では、電子化した契約書は、裁判においては有効なのでしょうか。民事訴訟法においては、文書の証拠提出について、

民事訴訟法(文書の成立)第228条

文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。

(略)

4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

と、されています。民事訴訟法第228条は、文書の成立が真正であることを証明しなければその証拠能力は認められないことを規定した条文ですが、実際問題として、成立が真正であることを証明することは困難な場合があります。例えば借金の借用書にしても、誰が書いたのか、誰が作ったのかが明らかにされねばなりませんが、この証明が難しい場合があります。

そこで、同条4項では、公文書ではない私文書であっても、「本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」という、「推定規定」を設けています。つまり、「署名又は押印」が、文書が「真正に成立したもの」の推定要件となっているのです。

ただし、押印がありさえすれば真正とみなされる、というものではなく、それが本人のものであることを証明する必要があります。実印であれば実印証明書を添えて、この印鑑が本人のものであると証明できますが、三文判などを使うと本人証明が難しいこととなります。

電子書面の場合には、民事訴訟法第231条に、「文書に準ずる物件への準用」として、「この節の規定は、図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないものについて準用する」とあります。したがって、電子書面についても、この規定により文書に準ずるものとして扱われ、電子メールであっても、その内容の信憑性が高い場合には、裁判でも証拠として認められています。

電子署名法と契約

「電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)」は、電子文書に施される「電子署名」の定義および効果ならびにその認証を行う事業を規律し、電子署名の法的有効性を規定した法律です。

電子署名の定義については、

電子署名法第2条 

この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。

1 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。

2 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

とされています。

整理すると、「電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置」であり、「当該措置を行なった者が作成者であることを示すもの」で、「当該情報に改変がないことを確認できるもの」が、電子署名となります。

現在のところ、電子署名を実現する仕組みは、公開鍵暗号方式と呼ばれる暗号技術です。一対になった暗号鍵と復号鍵の鍵ペアを作り、特定の復号鍵で復号できる暗号文がある場合、その暗号文は、その復号鍵に対応する暗号鍵で暗号化されていない元の文を暗号化したものである、と証明できます。

この2つの鍵のうちの復号鍵をインターネット等を通じて相手方に公開して公開鍵とし、暗号鍵は秘密鍵にしておくと、公開鍵で復号できる暗号文は、その公開鍵と一対となっている秘密鍵の管理者によって暗号化されたものであると推定されます。この方式により、その電子ファイルの作成者と、作成したファイルが改変されていないことを推定できるようにした仕組みが、公開鍵暗号方式です。

しかし、電子署名法の条文では、こうした公開鍵暗号方式を採用していることを要件とはしていません。今後の技術発展により新たな技術が実用化された場合でも、これを電子署名として法律上で扱えるよう、公開鍵暗号技術に限定しないという配慮がなされているからで、将来、本人性や非改ざん性を証明するためのよりよい方法が見つかるかもしれないからです。

電子署名法では、電子文書については、

電子署名法(電磁的記録の真正な成立の推定)第3条 

電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

とあり、本人だけが行うことができる電子署名が行われていれば、真正に成立したものと推定するとされています。

本人による電子署名であるかどうかは、電子証明書を用いて証明することができます。印鑑の場合には、印鑑証明書によって印影と印鑑が同じであるかを確認しますが、電子署名は電子証明書で正しいものかどうかを確認できます。電子証明書には、電子署名を検証するための情報となる「公開鍵」が含まれているので、公開鍵で確認できる電子署名は、本人のものと証明できるのです。

まとめ

インターネット等におけるやりとりでは、相手と対面することが不要なので、情報の受信者と発信者がそれぞれ本当に本人なのか、情報が途中で改変されていないかを確認することが必要とされますが、そのための有効な手段として電子署名が存在します。

電子署名は押印と同じ効力を持っています。電子契約であっても契約の有効性は認められ、裁判においても電子契約書を証拠として利用することができます。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。電子契約の安全な活用は今後ますます需要が増えてくることが予想されます。当事務所では、東証プライム上場企業からベンチャー企業まで、様々な案件に対する契約書の作成・レビューを行っております。もし契約書についてお困りであれば、下記記事をご参照ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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