弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

美容整形口コミサイトで患者のレビューや術前術後の比較画像を掲載する場合の注意点

「理想の顔になるためにどんな施術が必要?」「経験者の体験談を知りたい」「気になるドクターやクリニックの評判を知りたい」など、美容整形を考える女性にとってはクリニックの口コミ情報や、サイトに掲載される手術内容や術前術後の写真は気になるものです。

美容整形は行為の特質上、自らの経験をSNSなどに積極的にアップする人は少ないでしょう。これから美容整形を受けようか悩んでいる人にとっては、事前に十分な情報に接することが難しい現状です。

こうしたニーズを満たす、美容整形口コミサイトは便利ですが、法的な問題も生じるようになりました。それは、患者のレビューや術前術後の比較画像を掲載する行為が違法なのではないかという点です。

上記行為の適法性や注意点などを解説していきましょう。

美容整形口コミサイトとは?

近年は、整形外科手術を検討する女性は増えています。世界の美容整形外科の市場は2017~2023年の間に、年平均7.8%の成長率で伸びると言われています。この美容整形への需要の高まりを背景に、美容整形口コミサイトが注目を浴びています。

美容整形口コミサイトの種類

美容整形口コミサイトには、具体的には以下のような種類があります。

  • Meily(メイリー):クリニックの症例やメイリー編集部独特の記事があるため、美容整形初心者や知識がない人でも安心
  • トリビュー:美容外科や美容皮膚科などを対象にした、美容医療の口コミアプリ。価格や施術箇所、エリアや満足度によって、クリニックや医師を比較できる、美容クリニック版の食べログのようなアプリ
  • カンナムオンニ(韓国):韓国発の整形口コミアプリ。ユーザーによるレビューの投稿のみならず、チャット機能を使えば、クリニックのカウンセリングを受けられることが特徴

自分とは異なる症例だと理解していても、術前術後の写真を見比べて大きく変化が見受けられると、クリニックの受診を決める判断材料となるでしょう。また、医師の対応や処置に使用する装置などに関するレビューがチェックできると、とても参考になります。

ただ、美容整形口コミサイト上で、患者がレビューや写真を投稿する行為は、法律に抵触する可能性があります。この点を次章から詳しく解説していきます。

患者によるレビューや術前術後の画像を公開する行為は違法?

医療広告ガイドラインの「何人」と「広告」に抵触するか

医療法は医療広告に関して規制し、委任を受けた施行規則や施行令が規制の内容を具体的に規定しています。また、2018年に通知された「新医療広告ガイドライン」や「医療広告ガイドラインに関するQ&A」でも、行政による医療広告の内容が表示されています。

医療広告関連法令の対象ですが、医療法第6条の5第1項では以下のように定めています。

何人も、医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して、文書その他いかなる方法によるを問わず、広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示(以下この節において単に「広告」という。)をする場合には、虚偽の広告をしてはならない。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC0000000205_20181201_429AC0000000057&openerCode=1

「何人も」と規定しているため、規制を受けるのは医療機関だけではありません。医療機関から依頼を受け広告を掲載する美容整形口コミサイトも医療法に関する広告規制は及びます。このため、医療機関の広告を掲載する美容整形口コミサイト側においても、掲載する広告の内容をチェックする必要があるでしょう。

医療広告ガイドラインの禁止事項

医療広告ガイドラインでは、以下の通り、広告の禁止事項を定めています。

  • 虚偽広告
  • 比較優良広告
  • 誇大広告
  • 公序良俗に反する内容の広告
  • 患者等の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告及び治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前後の写真等の広告

上記のような、ガイドライン違反のホームページを放置していると、厚労省の委託機関や保健所などから改善を要求する通知が届くことがあります。対応せずに放置すると、行政指導や中止命令が段階的に出され、悪質だと認められると、半年以下の懲役、30万円以下の罰金、クリニックの開設許可の取り消しなど重い処分を受けることもあります。

「患者等の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告及び治療等の内容」は患者のレビュー、「治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前後の写真等の広告」は患者の術前術後の写真(いわゆるビフォー・アフター写真)に該当します。

レビューは個々の患者の状態により当然に異なるものであり、また、個人によって治療内容や効果は当然異なるため、「誤認を与える恐れがある」と言えるでしょう。

このような規制に抵触しないためには、レビューや写真が医療法上の「広告」に該当しないことが必要といえます。では口コミやレビュー、術前術後の写真は医療広告ガイドラインにおける「広告」に当たるのでしょうか。

医療広告ガイドラインにおける「広告」の定義

医療広告ガイドラインにおいて、「広告」とは

  • 患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)
  • 医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)

のいずれの要件も満たす場合に該当するとされています。

口コミサイトの性質上、特定性は満たしていると言えます。問題は誘引性ですが、これに関して、医療広告ガイドラインは下記のように述べています。

個人が運営するウェブサイト、SNSの個人のページ及び第三者が運営するいわゆる口コミサイト等への体験談の掲載については、医療機関が広告料等の費用負担等の便宜を図って掲載を依頼しているなどによる誘引性が認められない場合は、広告に該当しません。

https://www.mhlw.go.jp/content/000371812.pdf

費用負担の有無がポイント

医療広告ガイドラインによると、美容整形口コミサイトのレビューや写真が医療広告ガイドライン上の広告に該当するかについては、「医療機関が広告料等の費用負担等の便宜を図って掲載を依頼しているかどうか」が焦点となります。

そして、この点は実態で判断されます。一般的な広告出稿の場合、医療機関は口コミサイトに対し、広告料を支払い、掲載へと進みます。口コミサイトに良いレビューが投稿されれば集客につながるため、広告効果があり、掲載を望む医療機関は多いはずです。

一方、口コミサイト側もコンテンツを充実させるために、自ら医療機関に金銭を支払い、広告出稿をお願いするケースがあります。

口コミサイトが費用負担している場合は?

口コミサイト側が費用を負担して医療機関からの依頼を掲載している場合でも、その費用に対応する対価を医療機関から一部でも受け取っている場合、実態として、口コミサイトが医療機関の費用負担の上掲載を依頼している、と判断される可能性が高いです。

このように、美容整形口コミサイトのレビュー掲載において、医療機関と口コミサイト側で金銭の支払いが発生する場合には、写真やレビューが医療広告ガイドライン上の広告に該当することになり、それらの掲載はガイドライン違反にあたります。

医療分野におけるステマに関する法規制については、下記記事で詳しく解説しています。

まとめ

美容整形市場の隆盛を受け、利用者の増大を見せている美容整形口コミサイト。クリニック受診者からのレビューや写真などが寄せられますが、このような投稿が医療広告ガイドラインに抵触し、医療法に反する可能性もあります。

医療広告ガイドラインでは「患者等の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告及び治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前後の写真等の広告」は禁止されており、レビューや写真はこれらの投稿に該当する可能性が高いものです。

写真やレビューが医療法上の「広告」に該当するかという点が争点となりますが、「医療機関が広告料等の費用負担等の便宜を図って掲載を依頼している」かどうかがポイントです。

多くの医療機関が広告料等の費用負担をしていると推察されるので、写真やレビューが医療法上の広告に該当する可能性は高いです。

違法だと判断されるリスクを低くしたい場合には、医療機関が支払う金銭と患者が受け取る金銭の関係性を低くすることが重要となります。美容整形口コミサイトの運営に関する法的リスクについてご心配の方は、専門知識が豊富な弁護士へあらかじめご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る