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IT・ベンチャーの企業法務

契約書を交わしていない依頼元に損害賠償請求することはできるのか

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契約書を交わしていない依頼元に損害賠償請求することはできるのか

業務を受託する場合、業務委託契約書を締結するのが原則です。契約書を締結していれば、契約成立が明らかであるため、何らかの損害を被れば損害賠償を請求することができます。では、契約書を締結していないケースで損害賠償を請求することは可能なのでしょうか。

本記事では、正式な契約書を締結せずに仕事を請け、依頼元の都合により一方的に契約を切られるなどのトラブルが発生した場合に、損害賠償を請求することはできるのかについて解説します。

契約書がなくても業務委託契約は成立するか

業務委託契約書は、契約書の性質上「請負」と「準委任」の二つに分けることができます。どちらの場合であっても、当事者の合意の意思表示のみで契約が成立する「諾成契約」です。つまり、契約書の作成は契約の要件になっておらず、口約束のみでも契約が成立します。つまり、「○○円で△△業務をお願いしたい」「承知しました」といった会話だけでも、契約は成立していると言えます。

ただし、ソフトの作成やカスタマイズを目的とする請負契約については、仕様書や見積書などの書面によって作業の詳細や報酬をお互いに確認した時点で契約が成立したとみなすのが通常であるとの判例もあります。

契約書がなくても契約は成立しますが、トラブルになった際に証拠が残らないため、契約書を作成した方がよいでしょう。契約書を締結できない場合でも、仕様書や見積書などの書面は最低限作成しておいた方が安心です。

契約書がなくても契約は成立しますが、トラブルになった際に証拠が残らないため、契約書を作成した方がよいでしょう。契約書を締結できない場合でも、仕様書や見積書などの書面は最低限作成しておいた方が安心です。

業務委託契約書の詳細については、以下の記事をご参照ください。

契約書を締結しないで作業に着手した場合、損害賠償は請求できるか

契約書を締結しないまま作業に着手し、依頼元から一方的に契約の解除を通知された場合、着手した分の報酬を損害賠償として請求することはできるのでしょうか。こうしたケースでは、「契約が成立しているか」「契約が成立していることを証明できるか」がポイントとなります。

契約が成立していれば損害賠償請求は可能

上記で見てきた通り、契約を締結していなくても当事者の合意の意思表示があれば、業務委託契約自体は成立していると言えます。ただ、損害賠償を請求する場合には、契約が成立していることを証明するための証拠が必要となります。

正式な契約書が存在しない場合、見積書や仕様書など受託業務の内容や報酬額が明記されている書類があれば、契約が成立していることを証明しやすくなります。これらの書面が存在しない場合は、メールのやり取りや電話の録音などを証拠とします。また、成果物を納品していることがわかる書面や代金の振り込みが記帳されている通帳なども証拠になりえます。こうした証拠により、契約が成立していることを証明できれば、損害賠償を請求することはできます

契約が成立していない場合

契約が成立していることが明らかにできない場合は、「契約締結上の過失」という法理論により、損害賠償を請求できる可能性があります。これは、契約の交渉が進んでいるにもかかわらず、一方当事者が信義に反する行動をとったことにより相手方に損害を与えた場合に損害賠償責任を負うという理論です。

具体的には、契約を締結するつもりがないにもかかわらず契約締結への強い期待を抱かせるような行動を繰り返し、相手方が実際に商品の製造開発に着手してしまった場合などが「契約締結上の過失」に当たります。

この理論に基づいて損害賠償請求を認めた判例もありますが、契約の交渉をしていたのに契約の締結をしなかったというだけで適用されるわけではなく、信義に反する行動が認められた場合にのみ適用される点に注意する必要があります。たとえ契約の交渉を進めていたとしても、何らかの理由で契約の締結に至らないことは珍しいことではなく、それぞれの当事者には契約しない自由も認められているため、契約の締結をしなかったからといって直ちに損害賠償を請求できるわけではありません。

アニメ「東京BABYLON2021」をめぐるトラブル

契約を締結せずに制作に着手してトラブルになっている例として、アニメ「東京BABYLON2021」をめぐるGoHands(ゴーハンズ)とキングレコードの争いがあげられます。

2021年8月、アニメ制作会社GoHandsがキングレコードに対し、「東京BABYLON2021」製作費未払い分の支払いを求めて東京地裁に訴訟を提起しました。このアニメは、キャラクターデザインがアイドルの衣装に似ているなどと指摘されて放送取りやめとなっていました。

ゴーハンズ社は「東京BABYLON2021」の制作をキングレコード社から請け負い、すでに13話分を納品していました。制作費計3億1460万円が分割払いされる予定でしたが、最初の支払い後に一方的に契約を破棄されたと主張しています。残りの製作費のほか、正式な契約書は締結していないものの、すでに制作に着手していた14~21話分の費用1億7182万円の支払いを求めているとのことです。

正式な契約書が交わされていない14~21話分の支払いについては、契約書以外の証拠により契約が締結されていたことを証明できるかどうかが争点になりそうです。ただし、たとえ契約の存在が認められたとしても、ゴーハンズ社による模写を理由に報酬が支払われない可能性も考えられるでしょう。

まとめ

たとえ正式な契約書が交わされていなくても、業務委託契約は成立します。ただ、何らかのトラブルになった場合に証明が難しくなりますので、できれば業務開始前に契約書を締結するのが望ましいでしょう。万が一、契約書を締結せずに業務を請け負ってしまってトラブルに発展した場合でも、契約の成立を立証する方法を探すことはできますので、諦めずに弁護士へ相談しましょう

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。企業間の取引においては、契約書の作成が不可欠です。当事務所では、東証プライム上場企業からベンチャー企業まで、様々な案件に対する契約書の作成・レビューを行っております。もし契約書についてお困りであれば、下記記事をご参照ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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