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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

システム開発における請負契約の仕事の完成とは

システム開発における請負契約の仕事の完成とは

システム開発は通常工期が長きにわたるものであり、さらには幾度となく仕様変更や追加機能の実装を求められるようなこともあり、仕事を受けるベンダーにとって、ときに出口の見えない苦境に立たされる場合があります。そんなベンダーにとって、「そもそも何をどこまでやったら自分たちの仕事をやり遂げたことになるのか」という問題は、ときに切実な悩みの種ともなりえます。

そして、システム開発は請負契約で行われるケースが多いと言えますが、請負契約は、「仕事の完成」を目指す契約です。

本記事では法律的にみて、「システム開発はいかなるタイミングで、なにをどこまでやり遂げたときに、完成したことになるのか」という点について解説していきます。

システム開発の完了とは

技術者にとってのシステム開発の完成とは

システム開発の現場において、「システム開発の完了はいつか」と問うたなら、一般的には、「テスト工程を終了し、成果物を納品したとき」というような答えが返ってくるのではないでしょうか。たしかに一般的なシステム開発の流れは、実装すべき機能の内容の洗い出し等を行う要件定義に始まり、各種設計書の作成、プログラムの実装へと進み、最後は正しく動作が行われているかを確認するテスト工程を終え、ユーザー側の検収をもって終了するというのが基本です。

したがって、具体的業務に携わる技術者の目線でいうならば、「システム開発の完了=検収の合格」というような理解が一般的でしょう。

法律的な目線でみたシステム開発の完成とは

一方、法律的な目線でみて、システム開発の完了はいつかと問えば、そこでは当然、ベンダーが契約上負っていた法的義務が、いついかなるタイミングであれば履行が完了したといえるかが議論の中心となってきます。そもそもシステム開発における契約は基本的に、請負契約と準委任契約のいずれかに分類されます。

この二つの契約類型の違いについての解説は、上の記事に譲りますが、システム開発の完了、すなわちベンダー側が負っている債務の履行という点に関して言うならば、その判断基準となる条文はそれぞれ次のように与えられています。

請負契約:民法632条
第632条
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
準委任契約:民法643条
第648条
1.受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
2.受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第624条第2項の規定を準用する。
3.委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。

システム開発の完了が問題になるのは請負契約

もっとも、システム開発の文脈に限らず、「仕事の完了のタイミングがいつか」という点で問題になるのは、基本的に請負契約です。準委任契約の場合は、特定の結果や成果をもたらすことをもって債務の履行とするというよりは、専門性をもった人材として、一定の裁量を持った上で、(結果はどうあれ)適宜やるべきことをやるという意味合いの強い契約類型であるからです。準委任契約は条文上においても、たとえ想定通りの成果物ができていなくとも、事務処理自体が適切に進められていたのであれば報酬の請求は可能となっており(648条2項)、受任者の責めに帰すことができない事由で履行が中途で終了したのであれば、その割合に応じて報酬の請求は可能であると定められています(648条3項)。請負契約は「結果」重視、準委任契約は「プロセス」重視という言い方もできるでしょう。

したがって、準委任契約ではむしろ、委任された業務を進めていくプロセスでの「注意義務」が法律上の問題となりやすい傾向にあります。すなわち高度な信頼を寄せられていることを前提としたときに、委任契約に基づく注意義務の違反を追及できるのはどのようなときかという問題です。

一方、請負契約において重要なのは、「仕事の完成」です。完成させるべきものが完成しなければ、ベンダー側の負っている債務の履行はなしえないし、報酬の請求も行えないのが原則です。しかし完成しているのであれば、殊更にその途中経過の部分のことを問題にする意味はありません。したがって、「システム開発プロジェクトの完了がいつか」という問題は基本的に、請負契約における「仕事の完成」という文言の法解釈の問題と言い換えることができるでしょう。

システム開発における仕事の完成とはいつか

「仕事の完成」と言える要件とは?

では、そうした「仕事の完成」のタイミングは具体的に、いつと考えればよいのでしょうか。この点について、過去の裁判例を確認してみましょう。

仕事の完成をめぐる裁判例

以下に引用する裁判例では、ベンダーが納品したシステムについて、後から処理速度や通信費用などの点で課題が発覚したという事案です。そうした課題が見つかりつつも、開発工程自体は全て完了していることから、「仕事の完成」といってよいのか否かが争われました。結果としては、仕事の完成自体は認められる旨が判示されました。

民法632条及び633条は、請負人の注文者に対する報酬の支払時期について、請負人が仕事を完成させ、仕事の目的物を注文者に対して引き渡したときであると規定し、他方、同法634条は、仕事の目的物に瑕疵があるときは請負人は注文者に対し担保責任を負い(1項)、請負人が仕事の目的物の瑕疵についてその担保責任を果たすまでは注文者は報酬の支払につき同時履行の抗弁権を有すると規定している(2項)。これら民法の規定によれば、法は、仕事の結果が不完全な場合のうち仕事の目的物に瑕疵がある場合と仕事が完成していない場合とを区別し、仕事の目的物に瑕疵が存在しても、それが隠れたものであると顕れたものであるとを問わず、そのために仕事が完成していないものとはしない趣旨であると解される。
よって、請負人が仕事を完成させたか否かについては、仕事が当初の請負契約で予定していた最後の工程まで終えているか否かを基準として判断すべきであり、注文者は、請負人が仕事の最後の工程まで終え目的物を引き渡したときには、単に、仕事の目的物に瑕疵があるというだけの理由で請負代金の支払を拒むことはできないものと解するのが相当である。

上記判決では「仕事の完成」は、システム開発における最終工程まで終えてさえいれば要件を充足すると判断されました。ベンダーの作ってきたシステムの不備(法律上は「瑕疵」ということが多い)があったときに対する救済措置としては、そもそも別途瑕疵担保責任という制度が別途用意されています。

そのため「仕事の完成」という概念をやや広く解しても、最終的にはユーザー側に不公平を強いることにはならないということです。まとめるならば以下の通りです。

【請負契約における債務=仕事の完成=全工程の完了】
===========
仕事が完成しないなら・・・

【債務不履行責任を負う】
===========
仕事が完成していても不備があるなら・・・

【債務の履行を認めた上で、瑕疵担保責任の問題】

という課題の切り分けを行うことを示したものが、上記の裁判例となります。

もっとも、「仕事の完成」という点に関連しては、視点を変えて「ユーザー側の検収の合格」という点からも考察していくことができます。ユーザー側の検収がはかどらない場合の法律問題については、別記事にて解説を行なっています。

法律上の仕事の完成が意味すること

請負契約では「仕事の完成」と認定された後、報酬の請求が可能となります。

システム開発において、「仕事の完成」が認められれば、債務を履行したことになるため、債務”不履行”責任を追及されることがなくなります。請負契約であれば、仕事が完成したといえなければ、報酬の請求も行えず、もし前払金の支払いなどを特約で結んでいたとしても、それらは基本的に返還しなければならなくなります。一方完成しているという事実が認定されるのであれば、ベンダーは瑕疵担保責や契約上の品質保証の問題を負えばよいということになります。

債務不履行責任からベンダーが解放されるということは、ユーザー側からの契約の解除がなされる余地が一気に小さくなることを意味します。なぜなら瑕疵担保責任に基づく契約の解除は、契約の目的を達成できないような場合に制限されているためです。契約が解除された場合には、ベンダーも報酬を請求する権利を失う(つまり簡単にいうと、報酬が一切入らなくなる)ということでもあるため、実務上も「仕事の完成」をめぐって争いが起きることが多くなりがちなのです。

なお、システム開発における契約の「解除」というものについての解説は、以下の記事にて詳細に行なっています。

仕事の完成に関連する諸注意

仕様変更・追加開発をどのように考えるか

なお、ベンダーにとって、「当初言われていたような仕様はもうすでにクリアできているが、仕様の変更や、機能の追加を採算求められおり、業務を終わらせようにも、区切りがつかない」といった局面に立たされる場合も想定されます。こうした場合にも、「システム開発を終わらせるタイミング」といった問題が浮上します。その場合についての解説は、以下の記事にて詳細に行なっています。

民法改正にも要注意

また、請負契約に基づく瑕疵担保責任の規定は、従来条文同士のつながりも複雑でわかりにくくなりがちであった背景から、民法改正の影響を強く受けている領域です。民法が改正されるなかで、「瑕疵」というものをどう解すべきかについては、以下の記事にて詳細に解説を行なっています。

まとめ

本記事では、ともすれば「出口が見えない」といった状況にも追い込まれがちなシステム開発プロジェクトに対して、それを「仕事の完成」という法律論につなぐまでの道筋について解説しました。個々のプロジェクトの出口は、開発の要件によって様々でしょうが、いざこうした点をめぐって争いが起きた際には、法律上の「仕事の完成」という概念が導きの糸となる場合は少なくないものと思われます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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