IT・ベンチャーの企業法務

システム開発の紛争の解決手段としての民事調停とは

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システム開発の紛争の解決手段としての民事調停とは

なにか紛争が起きた場合に、その解決策として一般的に、訴訟といった手段があることはよく知られている通りです。しかし、システム開発における紛争解決の手段は、なにも訴訟に限られているわけではありません。本記事では、訴訟に代わる紛争解決の手段として、民事調停という手法を紹介とともに、ADRという概念について紹介しています。また、システム開発にまつわる紛争の民事調停の特色や、民事調停という手法のメリットなどについての解説も行なっています。

ADRとしての民事調停の位置付け

ADRとはなにか

民事調停は、ADRの一種です。したがって、分野の全体像を踏まえたうえで民事調停というものについて理解するためには、まずADRについて知っておく必要があります。ADRとは、Alternative(代替) Dispute(紛争)Resolution(解決)の頭文字を一文字ずつとったものの略称であり、日本語では、「代替紛争解決手続」と訳されるものです。ここでいう「代替」とは、「裁判に代わる手段である」ということを意味するものです。

そもそもシステム開発に限らず、何らかの紛争が起きた際に、それをあえて訴訟で解決しようとすると多大な手間やコストがかかることも覚悟しなければなりません。こうした事情から、実際のビジネスでは裁判に踏み切る以前に、当事者間での交渉によってなにかしらの妥協点が見出され、解決していくことが多いものです。

なお、紛争解決の手段として、「裁判」と「交渉」の比較を踏まえて、それぞれのメリット・デメリットを整理したものとしては以下の記事があります。


この記事では、交渉による紛争解決が、低コストかつスピード感をもった手法として、裁判にはないメリットを多くもつ点を紹介しつつ、交渉による解決を目指す場合においても、法律の知見が有用であることを解説しています。

こうした分野の全体像のなかでADRの位置付けを示すならば、ADRは「訴訟」と「交渉」の間に位置する分野であるという理解を持っておくとよいでしょう。すなわち、裁判そのものではないものの、裁判に「代替」する他の手段によって、より柔軟に紛争の解決を目指していくということです。

ADRの類型と民事調停の位置付け 

一般に、ADRと呼ばれる手続きは下記の二種類に分類されます。

  • 紛争の当事者同士の合意を促進するための各種手続き→調停などがこれに当たります。
  • (たとえ両者が合意に至っていないとしても)第三者が紛争に対する判断を行い、その判断に両当事者が拘束される旨を取り決める手続き→仲裁などがこれに当たります。

なお、ADR自体はこのようにきわめて広範な概念であり、裁判所が主体となって行うものもあれば、ADRを専門とした民間団体等が主体となって行うものもあります。民事調停はこのうち裁判所が主体となって行うものです(民事の問題を「民事裁判」として取り扱うのではなく、「話し合い」として取り扱うのが「民事調停」であると理解すれば、いずれも管轄が裁判所であることは理解しやすくなるのではないでしょうか)。

民事調停とは

民事調停とは、裁判によらずして、裁判所が当事者同士の話し合いを促進することにより、紛争の解決を目指すものです。必ずしも法律に拘束されることなく、当事者が抱える具体的な事情を踏まえた解決が期待できる点などが、裁判にはないメリットであるといえます。解決までにかかる時間が訴訟に比べて短くできることや、非公開で行うことができる点もメリットとなります。

以下に引用する民事調停法第一条にも、そうした民事調停の位置付けは明確にされています。

第一条 この法律は、民事に関する紛争につき、当事者の互譲により、条理にかない実情に即した解決を図ることを目的とする。

システム開発紛争における民事調停の特徴とメリットとは 

一般的な民事調停とは異なるシステム開発上の紛争の調停とは?

なお、システム開発についての紛争の場合、それは通常、ユーザーとベンダーの間の企業(もしくは個人)間での話として、民事上の話として扱われることとなります。しかし、システム開発にまつわる話の場合、一般的な民事調停とはいくつか異なる特色もあります。

調停委員に、ITの専門家が選ばれる場合もある点

システム開発にかかわる紛争を、民事「事件」で争う場合にせよ、民事「調停」で話し合いによって解決する場合にしろ、そこには、システム開発という分野固有の専門的知見をいかにして取り入れるかが課題になりがちです。

こうした点を踏まえて、たとえば東京簡易裁判所では、システム開発関連の民事調停では、IT関連の知見として当該事案に相応しいものを有する専門家を一名と、法律の専門家を1名ずつ調停委員として指名するのが原則となっています。そもそも民事調停では、裁判官または弁護士出身の非常勤裁判官である調停官が1名、調停委員が2人という合計3名体制で調停委員会を構成し、調停委員会が間に入って両当事者の合意を形成するために助力していくことになります。すなわち、この調停委員2人という枠のうち1人は、IT部門の専門家から選ばれるのが原則であるというのがシステム開発調停の特徴だということです。

もっとも、事件の規模が大きい場合や、または必要となる専門的視点が複数必要となる場合には、専門家調停委員が3名以上選出されるような場合もあります。

ITの専門家の役割が、裁判で争う場合に比して大きい点 

また、調停委員にITの専門家が2名中1名選出されるのが原則であるという点につながる点でもありますが、調停においては、法律ではなくITの専門家のもつ役割は大きくなる傾向にあります。裁判手続きにおいては、あくまで判決を下すのは裁判官であり、鑑定人などのかたちでITの専門家の知見をもつ人が関与するとしても、それは補助的な役割を超えるものではありません。

しかし、調停の場合には、IT・システム関連の専門家が直接当事者の間にたち、相互に譲り合うよう促すといた役割も期待されます。調停室において実際にコンピューターを作動させるなどにより、実際にソフトウェアの状況を検証するといったことも、場合によっては行われます。こうした取り組みは、東京地裁などの大規模な裁判所ほど活発に行われており、形式的な裁判手続きに囚われない紛争の解決策を、裁判所自らも主体となって行なっているのです。

調停と訴訟は二者択一ではないので注意 

なお、ここまでの話のなかで注意を要するのは、「調停」と「訴訟」はどちらか一方を選択したら、どちらか一方のオプションを放棄するという性質のものではないということです。これはシステム開発に限った話ではありませんが、はじめ調停による解決を目指したとしても、結局両者で意見の一致を見なければ、結局民事事件として裁判で決着をつけるしかなくなるといったことは実際にあるものです。

また、一度訴訟として裁判で戦いになったものが裁判官の判断により、調停へと回されるということも実務上あるものです。これは「付調停」と呼ばれるものです。

民事調停法 第二十条 受訴裁判所は、適当であると認めるときは、職権で、事件を調停に付した上、管轄裁判所に処理させ又は自ら処理することができる。ただし、事件について争点及び証拠の整理が完了した後において、当事者の合意がない場合には、この限りでない。

これは、事案の性質等により、裁判官が自ら判断を行うのが極めて難しいと判断した事案や、双方の譲歩が相応しいとみられた事案に対して行われるものです。

まとめ

本記事では、システム開発にかかわる紛争を解決する手段として、民事調停を扱いました。IT関連の専門的知見を踏まえたうえで、司法的な解決を目指すということには多くの困難が伴います。それゆえ当該領域における総合的な紛争解決のためには、ひとつの手段にとらわれずに、状況に応じた解決策を選択していくことが重要になると考えられます。

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