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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

マリオカート事件中間判決と知的財産権侵害

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マリオカート事件中間判決と知的財産権侵害

任天堂の人気ゲームキャラクター「マリオ」などの衣装を貸し出し、公道でカートを走らせる映像を宣伝に利用したのは不正競争行為にあたるとして、同社が、公道カートレンタル会社「マリカー」(現・MARIモビリティ開発)に使用の差し止めと5000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審中間判決が2019年5月30日、知的財産高等裁判所(知財高裁)でありました。裁判所は「標章やコスチュームなどはいずれも類似している」として営業上の利益を侵害していると判断してMARI社の賠償責任を認め、また、代表取締役についても、悪意または重過失があるとして、連帯して損害賠償責任を負うと認定しました。

この日に下されたのは中間判決で、損害賠償額については今後審理されることとなりますが、この中間判決が意味するところを、考えてみたいと思います。

1審判決はどのようなものであったか

MARIモビリティ開発は任天堂の人気ゲーム「マリオカート」の略称「マリカー」を社名やサービス名に無断使用し、マリオやルイージ、ヨッシーといった人気キャラクターの衣装を外国人観光客らカート利用者に貸与したほか、カートの映像などを営業や宣伝に利用していました。

これに対し、任天堂がMARIモビリティ開発を不正競争および著作権侵害で訴えていましたが、東京地方裁判所は、2018年9月27日判決で任天堂側の主張をほぼ認め、1000万円の損害賠償を命じる一方、日本語を理解しない外国人観光客を想定した「MariCar」などの使用は不正競争行為に当たらないとしました

その後、任天堂とMARIモビリティ開発の双方が控訴して、知財高等裁判所において審理が行われていたのです。

中間判決とは

今後終局判決に進むか、和解となるかに注目が集まっていますが、そもそも「中間判決」とは、どのようなものなのでしょうか。

裁判所で審理が行われるとき、その審理を完結させる判決のことを「終局判決」といいます(民事訴訟法243条)。通常用いられている「判決」とはこのことですが、「中間判決」とは、審理の途中で当事者間に争いのある事項について下される判決のことです(民事訴訟法245条)。中間判決には、審理を整理して終局判決を準備するという目的があります。

中間判決を出すかどうかは、裁判所の裁量にまかされていますが、中間判決が出される例は多くはありません。知的財産訴訟(知財訴訟)では、知財高裁が地裁の判断をくつがえして特許権侵害を認めた事例において中間判決が出された例がいくつかあります。

例えば、「切り餅事件」(知財高裁2011年9月7日中間判決)では、発明の名称を「餅」とする特許の特許権を有する控訴人(一審原告)が、被控訴人(一審被告)による被告製品(切餅)を製造、販売及び輸出する行為が、特許権の侵害に当たると主張して、被控訴人に対して被告製品の製造、譲渡等の差止め、被告製品等の廃棄を求めるとともに、損害賠償として14億8500万円の支払を求めたところ、原判決は請求をいずれも棄却しました。そこで控訴人が控訴した事案で、中間判決として、被告製品は本件発明の構成要件をすべて充足し、本件発明の技術的範囲に属するものであり、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないとした事例があります。

今回の中間判決では、1審の東京地方裁判所判決よりも広く任天堂の主張を認める判断が示されています。つまり、知財高裁は、任天堂が地裁判決に不服としていた部分についても任天堂の主張を認め、その限度で地裁判決とは一部異なる判断をしています。社会的に注目度の高い事件でもあり、損害額の議論に入る前に、裁判所の見解を明らかにしておくという意図があったのでしょう。

また、この事件は、論点が多岐にわたり、各論点をめぐる当事者間の対立も激しかったことから、中間判決による審理の整理を図る効果も大きかったのだと思われます。

中間判決の論点

今回の中間判決では、論点が15個に整理されています。そのうち、1審判決に対して任天堂が不服としていたのは、主に以下の3点です。

文字(マーク)の使用差止・抹消請求の範囲

地裁判決では、「マリカー」の表示は、日本語を解しない者の間では周知または著名であったとはいえないとされ、外国語のみで表記されたウェブサイトおよびチラシについては、「MariCar」などの文字(マーク)の使用差止・抹消が認められませんでした。

しかし、今回の中間判決では、「マリオカート」の英語表記である「MARIO KART」の表示も国内外で著名と認定され、これと類似する「MariCar」などの文字(マーク)を使用したMARIモビリティ開発の行為は、外国語のみで記載されたウェブサイト等で用いる場合も含めて不正競争行為に該当すると認定されました。これにより、知財高裁が終局判決をする場合には、外国語のみで表記されたウェブサイト等についても、これらの文字(マーク)の差止めや抹消請求が認められると予想されます

文字(マーク)の使用について地裁判決と中間判決とで判断が異なりましたが、その理由は、適用された不正競争防止法の規定が異なる点にあります。

地裁判決では、「マリカー」の表示は、任天堂の人気ゲームシリーズ「マリオカート」を意味し、日本全国のゲームに関心がある者の間で周知であり、任天堂が関係している事業との混同が生じるおそれがあるとして、不正競争防止法2条1項1号(混同惹起行為)に違反するとされましたが、外国語のみで表記されたウェブサイト等については、認められませんでした。

これに対して、今回の中間判決では、「マリオカート」の表示は国内で、「MARIO KART」の表示は国内外で、それぞれ著名であるとして、不正競争防止法2条1項2号(著名表示冒用行為)に違反するとされました。「著名」とは、「周知」よりも知名度が高いことを意味します。

第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
1項1号:他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
1項2号:自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

不正競争防止法2条1項1号ではなく2号の違反とされたことには、どのような意味があるのでしょうか。

著名表示が他人に無断使用(冒用)されると、たとえ混同を生じない場合であっても、冒用者は営業努力を払うことなく著名表示の有している顧客吸引力に「ただ乗り(フリーライド)」することができる一方で、長年の営業努力により高い信用・名声・評判を有するに至った著名表示とそれを本来使用してきた者との結びつきが薄められる(希釈化、ダイリュージョン)ことになります。

不正競争防止法2条1項2号は、このようなフリーライドやダイリューションから著名表示を保護するための規定であり、混同のおそれは不要とされています。

MARIモビリティ開発は、カートの車体などに「任天堂は無関係」といった打ち消し表示を行っていることなどから、混同のおそれが生じる余地はないといった主張をしていたのですが、知財高裁は、不正競争防止法2条1項2号では混同のおそれは不要とされていることから、MARIモビリティ開発が打ち消し表示を行っていることは、同社の不正競争防止法違反を否定する事情ではないとしました。

https://monolith-law.jp/corporate/intellectual-property-infringement-risk

ドメイン名の使用差止・登録抹消の範囲

地裁判決では、「マリカー」の表示は、日本語を解しない者の間では周知ではなく、「maricar」を含むドメイン名を外国語のみで記載されたウェブサイトに用いる場合には、任天堂の営業上の利益を侵害せず、差止めは認められないとしていました。

しかし、今回の中間判決では、「maricar」は国内外で著名な「MARIO KART」表示と類似することから、

一審被告会社は、不正の利益を得る目的をもって、一審原告の特定商品等表示である原告文字表示及び「MARIO KART」表示と類似する本件各ドメイン名を使用したと認められるから、同行為は不競法2条1項13号所定の不正競争行為に該当し、一審原告の営業上の利益を害するものであるということができる。
知的財産高等裁判所2019年5月30日中間判決

とし、「不正の利益を得る目的」で「MARIO KART」及び「マリカー」と類似する各ドメイン名(maricar.jp,maricar.co.jp,fuji-maricar.jp,maricar.com)を使用していると認めました。これにより、知財高裁が終局判決をする場合には、外国語のみで記載されたウェブサイトに用いる場合の差止めおよびこれに用いられるドメイン名の登録抹消請求も認められることになると考えられます。

https://monolith-law.jp/corporate/domain-law-registration-confuse

MARIモビリティ開発の代表取締役に対する損害賠償請求

会社法は、会社の役員がその職務を行うにあたって悪意または重大な過失があったときは、第三者に対する損害賠償責任を負うと規定しています(429条1項)。任天堂は、この規定に基づいて、MARIモビリティ開発の代表取締役個人の損害賠償責任をも追及していました。

この点について、地裁判決では、同社の代表取締役は不正競争または著作権侵害に当たると認識していたとは認められないなどとして、代表取締役個人に対する損害賠償請求は棄却されました。

しかし、今回の中間判決では、取締役には会社が不正競争行為を行わないようにする義務があり、同社の代表取締役にはそのような義務に違反した点について悪意または少なくとも重大な過失があるとして、代表取締役個人に対する損害賠償請求も認められました。

ビジネスから、フリーライドの要素を完全に排除することは困難ですが、あまりに悪質なフリーライドとみなされれば、今回の中間判決のように、取締役個人も責任を追及される可能性があります

今後の展望

今後は、終局判決に向けて、中間判決の内容を前提として、損害賠償額などの審理が行われることになります。

損害賠償額

賠償額については、任天堂は控訴審において、損害賠償の請求額を1000万円から5000万円に増額しています。もともと任天堂が一審で請求していた1000万円もいわゆる「一部請求」であり、任天堂が主張する損害額の全額を請求したものではありませんでした。

任天堂は、一審では損害額を7490万円と主張し、そのうちの1000万円を請求していたのですが、控訴審では、MARIモビリティ開発の営業継続も考慮して、損害額を1億1660万円と主張し、そのうちの5000万円を請求しています。

東京地裁は、任天堂の一審での請求額をわずかに上回る1026万4609円を任天堂の損害額と認定しました。今後、控訴審で和解が成立せず、知財高裁が終局判決をする場合には、賠償額がいくらとなるか、注目されるところです

中間判決の影響

何にでもすぐに略称がつけられ、その略称が商品名を超えて一般に流布していく日本においては、「マリカー」のような略称については、防衛のためにどの範囲まで商標を取得するかは、企業のブランド管理において、経費的にも難しい問題です。

商標を取得していない場合でも、周知または著名な表示を保護するのが不正競争防止法ですが、今回の中間判決において、地裁判決よりさらに広い範囲で不正競争防止法による保護が認められたことは、今後の企業のブランド管理においては、明るい材料となったと考えられます。

https://monolith-law.jp/corporate/domain-trademark-company

まとめ

本判決は、他者(他社)の商品名の略称や、商品に登場するキャラクターのコスチュームを使用するビジネスに対して不正競争防止法に基づき判断を示したものとして、参考になるものです。

一方、本判決は、著作権に基づく請求については、差止めの必要性や選択的併合を理由に実質的な判断を示さなかったので、コスプレと著作権の問題には踏み込まない結果となりました。

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