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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

ユーザー間取引におけるプラットフォーム事業者の法的責任

インターネットの役割が増すにつれて、インターネット上での電子商取引はBtoC(事業者対消費者)取引市場として、その規模を拡大させてきました。その一方で、個人間のCtoC(消費者対消費者)取引も、事業者が提供するインターネットオークションを主流として、発展しています。

さらに、最近では、スマートフォンの普及に伴って、出品物の価格が入札により決定するインターネットオークションだけでなく、出品者が価格設定をして購入者はその価格によって購入するかどうかを決めるフリマアプリを介したユーザー間のCtoC取引も活発に行われるようになっています。

ユーザー間取引においては、プラットフォーム事業者が提供する取引を媒介するシステムがその発展に極めて重要な役割を果たしており、プラットフォーム事業者は、不可欠な存在となっています。

ここでは、ユーザー間取引が行われるサービスにおいて損害を受けたと主張するユーザーに対し、当該のプラットフォーム事業者は責任を負うことがあるのか、という問題について解説します。

プラットフォーム事業者とユーザーとの法的関係

プラットフォーム事業者は、利用規約においてユーザー間の取引の成立や内容に関して一切関与しない旨を定めていることが多いのですが、利用規約による責任制限は、実際にはどのように機能するのでしょうか。

利用規約

プラットフォーム事業者とユーザーとの間の法律関係は原則として、利用規約に従います。

利用規約は、例えばユーザーとしてオンライン登録する際に、利用規約への同意のクリックをすることでプラットフォーム事業者とユーザーの契約となります。ユーザーが、個々の取引行為(出品行為、入札・落札行為、購入申込等)の都度、利用規約に同意クリックを要求されることもあります。

このような契約が締結されると、ユーザーとプラットフォーム事業者間の法律関係は、原則として、利用規約に支配されることになりますが、利用規約には、通常、プラットフォーム事業者が責任を負う場合と負わない場合が明記されています。

ここで注意すべきことは、プラットフォーム事業者とユーザーの間の契約は、消費者と事業者との間で締結される契約となるので、消費者契約法が適用されるということです。

消費者契約法が適用されると、プラットフォーム事業者が自己の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項(消費者契約法第8条第1項第1号)や、プラットフォーム事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項(同項第2号)、当該事業者にそれらの責任の有無又は限度を決定する権限を付与する条項等は、利用規約にあったとしても、無効となってしまいます。

次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

1 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

2 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

消費者契約法(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)第8条 

利用規約を用意しておけばいいというものではなく、利用規約に同意してもらえれば、一切の責任が免除されるというわけでもありません。

プラットフォーム事業者の責任

利用規約においては、ユーザー間の売買契約に関してプラットフォーム事業者は一切関与せず、したがって責任を負わない、と規定していることが普通です。よってプラットフォーム事業者は取引に実質的に関与しない場合には、原則として、ユーザーに対して責任を負いません。ただし、例外として、取引の「場」やシステムを提供していることに伴う一定の注意義務を認める余地はある、とされています。

また、プラットフォーム事業者が取引に実質的に関与する場合には、その役割に応じて責任を負う可能性があり、取引行為に関する責任を全部免責する条項は、消費者契約法第8条により無効とされる可能性があります。

プラットフォーム事業者が取引に実質的に関与しない場合

ユーザー間取引には様々な類型がありえます。このうち、プラットフォーム事業者が個人間の売買等の取引仲介のシステムのみを提供し、個々の取引に実質的に関与しない形態のサービスにおいては、一般論としては、取引は各ユーザーの自己責任で行われ、プラットフォーム事業者は責任を負わないとされています。

この場合、プラットフォーム事業者はシステムを提供するという形で取引の仲介をする役割を果たしますが、実際の取引行為の当事者となるわけではありません。このような場合には、プラットフォーム事業者は、単に取引の場やシステムの提供者であるにすぎず、個別の取引の成立に実質的に関与するわけではないので、原則としてユーザー間の取引に起因するトラブルにつき責任を負わないものと解されるのです。

ただし、プラットフォーム事業者はユーザー間の取引行為に係る情報が仲介されるインフラシステムを提供しているのですから、一定の場合には責任が生じる余地があります。つまり、プラットフォーム事業者には、ユーザーとの間の契約に基づいて取引の「場」を提供している以上、一定の注意義務を求められる可能性があるといえます。

例えば、インターネットオークションにおいて、出品物につき、警察本部長等から競りの中止の命令を受けた(古物営業法第21条の7)にもかかわらず、当該出品物に係る競りを中止しなかったため、落札者が盗品等を購入して、盗品等の所有者から返還請求を受けた場合などにおいては、プラットフォーム事業者は、落札者等に対して、注意義務違反による損害賠償義務を負う可能性があります。

プラットフォーム事業者が取引に実質的に関与する場合

プラットフォーム事業者が単にユーザー間取引の仲介システムの提供に徹して、個々の取引に実質的に関与しない類型では、原則として、個々の取引に起因する責任は求められません。しかし、実際にはサービス運営事業者は、様々な場面で単なるシステム提供者を超えた役割を果たしている場合があります。

経済産業省による「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」には、プラットフォーム事業者が取引に実質的に関与する場合として、以下の3つをあげてあります。

まず、プラットフォーム事業者がユーザーの出品行為を積極的に手伝い、これに伴う出品手数料又は落札報酬を出品者から受領する場合があります。

例えばインターネットオークションやフリマサービスにおいてブランド品の出品等に関し、プラットフォーム事業者がユーザーから電話で申込みを受け、当該ブランド品を送付してもらい、ユーザー名で出品行為を代行し、出品に伴う手数料や落札に伴う報酬を受領する場合を考えてみましょう。この場合、プラットフォーム事業者は出品代行者であり、単なる場の提供者ではありません。なぜなら、プラットフォーム事業者は、出品物を手にして偽ブランド品かどうか確認できる立場にあり、その上で出品者の出品行為を代行したのですから、利用規約の規定にかかわらず、トラブルとなったときには、買主に対して責任を負う可能性があります。このような場合に、依頼を受けて出品代行する商品が「古物」に該当する場合には、プラットフォーム事業者は古物営業法上の規制を受ける可能性があります。

特定の売主を何らかの形で推奨する場合も、実質的に関与する場合とみなされます。

例えば、プラットフォーム事業者が、特定ユーザーを推奨したり、特定ユーザーの販売行為を促進したり、特定の出品物を推奨した場合には、その推奨・促進の態様によっては、プラットフォーム事業者にはユーザー間の取引に起因するトラブルにつき責任を負う可能性が生じます。例えば単に一定の料金を徴収してウェブサイト内で宣伝することを超えて、特定の売主の特集ページを設け、インタビューを掲載するなどして積極的に紹介し、その売主の出品物のうち、特定の出品物を「掘り出し物」とか「激安推奨品」等とするような場合には、売買トラブルが発生した場合、プラットフォーム事業者も責任を負う可能性があります。

また、プラットフォーム事業者自体が売主等の取引当事者となる場合には、実質的に関与しているとみなされます。

例えば、ユーザー間取引プラットフォームなどにおいて、ユーザーの出品物につき、プラットフォーム事業者自体がシステム上は売主等の取引当事者として表示されているが、実際の売上金(計算)は直ちに出品ユーザーに帰属するという場合があり得ます。このような場合には、プラットフォーム事業者は原則として、売主等の取引当事者としての責任を負うこととなります。

まとめ

利用規約を用意しておいても、そして利用規約において利用者の同意を得ていたとしても、ユーザー間取引に関して、プラットフォーム事業者が責任を一切問われないというわけではありません。

また、プラットフォーム事業者とユーザーとの間には、プラットフォーム事業者が提供する取引仲介システムを利用することに関して契約関係が成立していると解されるので、ユーザー間の取引に関するトラブル以外にも、例えばシステムの維持・管理等に関する義務も、問題となりえます。

これらは、インターネットオークションだけでなく、フリマサービスにおいても同様です。

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モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。近年、ネット上でのプラットフォームを介した取引は増加傾向にあることから、リーガルチェックの必要性はますます増加しています。当事務所では知的財産に関するソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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