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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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薬機法では美容やダイエット広告のビフォーアフター写真はNG?

化粧品などの広告で、使用前と使用後の写真を比較している広告を見たことはありませんか? オンラインショッピングなど、製品が手元にない状態では試しに使ってみることができないため、比較写真があれば、どのような効能・効果があるのかを判断してもらいやすくなります。

しかし、製品の使用前と使用後を比較した写真を用いた広告は、薬機法の広告規制に触れ、違法となる可能性があります。

本記事では、比較写真を載せた広告を出す際のポイントや、気を付けるべき広告規制について解説します。

広告のビフォーアフター表現と薬機法の関係

化粧品や、医療機器などの広告で見かける、使用前後を比較した写真や動画(以下、「ビフォーアフター表現」といいます。)は、虚偽・誇大広告として、薬機法の規制に反する可能性があります。

薬機法(「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」)では、医薬品や医療機器、化粧品などを対象として、その製造や販売、広告などに関する規制を定めており、広告規制の一つとして虚偽・誇大広告の禁止(第66条第1項)があります。

もっとも、どのような広告が虚偽・誇大広告にあたるのかについては、個別の事案ごとに判断が分かれることから、厚生労働省によって「医薬品等適正広告基準」が定められており、判断の指標となっています。

医薬品等適正広告基準におけるビフォーアフター表現

医薬品等適正広告基準におけるビフォーアフター表現

「医薬品等適正広告基準」は、医薬品等の広告をめぐる環境の変化に伴って繰り返し改正されており、最新のものは平成29年9月に改正されています。

その中では、効能効果等又は安全性を保証する表現の禁止(第4の3(5))において、「医薬品等の効能効果等又は安全性について、具体的効能効果等又は安全性を摘示して、それが確実である保証をするような表現をしてはならない。」と定められており、ビフォーアフター表現は、これに反するかどうかが問題となっていました。

これに関して、「医薬品等広告に係る適正な監視指導について(Q&A)」(厚生労働省|平成30年8月8日事務連絡)では、

Q1 医薬品等の効能効果等を広告する場合、年齢印象をイラスト及び写真を用いて説明する表現において、広告上で良い印象を受けるものと悪い印象を受けるものを並べて記載する表現は認められるか。

A 良い印象のイラストと悪い印象のイラストを並べて記載することや、異なる部位の写真で印象が良いものと悪いものを並べて記載することで製品による効果と結びつけて受け取られることを企図したものは、それが、使用前後の写真等の表現であるかどうかを問わず、医薬品等適正広告基準第4の3(5)に抵触すると判断される場合には、指導対象とすべきと解する。

と示されています。

さらに、「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について」をみると、上記の項目((第4の3(5)))の解説では、「図面、写真等について」との見出しで、「使用前、後に関わらず図面、写真等による表現については、承認等外の効能効果等を想起させるもの、効果発現までの時間及び効果持続時間の保証となるもの又は安全性の保証表現となるものは認められない。」とされています。

つまり、ビフォーアフター表現を含め、承認等を受けていない効能効果があると誤解させる表現や、効果が現れるまでの時間、持続時間などを保証するような表現は、虚偽・誇大広告と判断されるということになります。

ビフォーアフター表現が認められるケース

ビフォーアフター表現が認められるケース

それでは、ビフォーアフター表現を用いた広告を作成したい場合、どのようにしたらいいのでしょうか。

前述の「医薬品等広告に係る適正な監視指導について(Q&A)」の中では、いくつかの事例を挙げてビフォーアフター表現の可否を判断しているので、その一部を紹介します。

表現1:染毛料・染毛剤の広告の例

染毛料・染毛剤の広告では、染める前と染めた後の色を比較する写真の使用が問題になります。

これについては、「原則、差し支えない。」とされています。というのも、医薬部外品や化粧品にあたる染毛料・染毛剤では、毛髪の染色という効能を表示することが可能ですが、色の対比だけであれば、染毛料等の効能効果を保証したものとまではいえないと考えられるためです。

もっとも、効果発現までの時間や、持続時間の保証となる表現は認められないため、染めた後の写真の説明として、「〇〇分後」や、「〇〇時間、色落ちしません」等と表現すると、虚偽・誇大広告にあたってしまいます。

表現2:「鎮痒消炎薬」(いわゆるかゆみ止めなど)の広告の例

「鎮痒消炎薬」とは、効能として、湿疹、皮膚炎、あせも、かぶれ、かゆみ、しもやけ、虫さされ、じんましんを含む医薬品をいいます。この広告の場合、虫さされにより腫れた患部の写真と、治癒後の患部の写真を比較することが可能かが問題となります。

これについては、「原則、差し支えない。」とされています。また、補足として、「疾病を治癒、完治する効能効果を有する製品においては、効果発現までの時間及び効果持続時間の保証となるもの又は安全性の保証表現とならなければ、使用前後の写真等で治癒又は完治している内容であっても差し支えない。」とされていることからも、疾病の治癒・完治が承認された効能効果であれば、治癒・完治後の写真を用いることが可能ということがわかります。

ただし、「〇〇の緩和」等の効能効果で承認を受けている場合には、治癒・完治後の写真を用いることは、承認等外の効能効果等を想起させることになり、違法となるため、注意が必要です。

表現3:化粧水やクリームの広告の例

化粧品や医薬部外品に分類される薬用化粧品などでは、使用すると肌が保湿されるということを伝えるため、乾燥した角層と保湿後の角層の図面を比較する広告が用いられる場合などに問題となります。

これについては、「原則、差し支えない。」とされています。というのも、化粧品や薬用化粧品では、「皮膚にうるおいを与える。」という効能効果の表現の使用が認められていますが、保湿された角層の図面を示したとしても、皮膚にうるおいを与えるという効能効果を保証するものとはいえないと考えられるためです。

表現4:「〇〇を防ぐ」という効能が認められた薬用化粧品の広告の例

「ひび・あかぎれを防ぐ」といった効能表示が認められた薬用化粧品の広告について、ひび・あかぎれのない肌と、製品の使用後もひび・あかぎれのない肌、製品を使用せずひび・あかぎれしている肌の写真を使用することは問題ないのでしょうか。

これについては、「認められない。」とされています。その理由は、「ひび・あかぎれを防ぐ」という効能は、製品の使用前後の写真を比較したとしても、表現することができないため、とされています。

製品の使用前後の様子としてこれらの写真を用いた場合、「ひび・あかぎれの治癒・完治」といった効能効果を示すことにはなりますが、予防効果があることまでは製品の使用前後の写真からは判断できません。

なお、上記では4つの例を紹介しましたが、「医薬品等広告に係る適正な監視指導について(Q&A)」ではその他の例も示されているのでご参照ください。

その他の気を付けるべき美容や医療分野の広告規制

そのほかの気を付けるべき美容や医療分野の広告規制

ここまで、ビフォーアフター表現に関して、虚偽・誇大広告の規制を紹介してきました。美容広告や医療分野の広告では、薬機法や景品表示法の対象となる医薬品、医療機器、化粧品などを扱うことから、虚偽・誇大広告の禁止以外の広告規制も設けられています。

例えば、承認前の医薬品等の広告の禁止(薬機法第68条)や、優良誤認表示の禁止(景品表示法第5条第1号)などです。

これらの広告規制に反した場合にも、広告停止の措置命令や、懲役刑・罰金刑などを受けるおそれがあるため、それぞれの規制について、確認しておくことが必要となります。

広告規制については、下記記事もご参照ください。

関連記事:薬機法の広告規制とは?適法な表現で広告を作成するポイントを解説

まとめ:美容や医療の広告表現に関する悩みは弁護士へ

ここまで紹介してきたように、ビフォーアフター表現については、完全に禁止されているわけではなく、製品の効能効果などに誤解を与えないなどの条件のもとで、一部については虚偽・誇大広告にあたらないとされているということになります。

しかし、どのような表現が虚偽・誇大広告にあたるのかという判断は、明確な指標があるわけではなく、個人による判断だけでは確実に適法と断定することは困難です。自社の広告が薬機法に反していないかどうかを判断する際は、経験豊富な弁護士に相談することをおすすめします。

薬機法等のリーガルチェックや書き換え表現の提案は、非常に専門性の高い領域です。モノリス法律事務所は、薬機法法務チームを組成し、サプリメントから医薬品まで、様々な商材の記事チェックに対応しています。

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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