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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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2019年意匠法改正で何が変わった?具体的な3つのポイントを解説

デザインを保護する法律である意匠法。

わかりやすく言えば、コピー商品や類似商品などの模倣品対策に活用できる法律です。その意匠法が、2019年5月に改正されました。

今回の改正の大きなポイントは下記の3点です。

  • 保護対象の拡充
  • 関連意匠制度の見直し
  • 意匠権存続期間の延長

本記事では今回の意匠法改正について「保護対象の拡充」を中心に解説します。

意匠権と意匠法

意匠法の第1条には、「この法律は、意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」

この意匠権を得るためには、特許権や商標権と同様に、特許庁への出願及び登録が必要です。ですが、下記の要件を満たさなければなりません。

  1. 工業上の利用性が認められること
  2. 新規性があること
  3. 創作が容易でないこと
  4. 先に出願された意匠の一部と同一又は類似でないこと
  5. 一意匠一出願であること

1.の「工業上の利用性」とは、工業的技術を利用して同じ物を反復して多量に生産可能であることです。

つまり、動植物などの自然物や絵画・彫刻は、工業上の利用性を欠くので、意匠登録できません。

2.の「新規性」とは、新しいデザインであることです。日本だけでなく外国で広く知られたようなデザイン、刊行物にすでに掲載されているデザイン、インターネット上に公開されたデザインなどは新規性がないので、意匠登録できません。

3.の「創作が容易でない」とは、仮に新奇なものであったとしても、他業者が容易に創作できるものは、意匠登録できません。

既に知られたデザインの置き換えや、配置や比率を変更しただけのデザインは、意匠登録できません。

4.の「先に出願」は、「先願主義」と言われます。すでに登録されている意匠の一部と同一又は類似する意匠は新しい意匠を創作したものとはならないため、意匠登録できません。

5.の「一意匠一出願」は、意匠登録出願の原則です。ボールペンとペンケースのような2つの物品には、それぞれに別個に2つの出願が必要になります。

ただし、例外として、ティーカップとティーポットなど、2つ以上の物品を組み合わせて一つの意匠となるものは「組物の意匠」として、自動車から飛行機へ変形するおもちゃなど2つ以上の形状や色彩に変化する物品は「動的意匠」として、それぞれ保護される可能性があります。

意匠権が認められるには、これらの要件が満たされていなければなりません

“群のデザイン”である関連意匠制度の見直し

意匠法は、本改正前から「関連意匠」の登録を認めていました。

関連意匠とは、同一出願人の類似関係にある意匠のうちの1つを本意匠とし、その他を関連意匠として、意匠登録ができる制度です。

類似の意匠について異なった日に複数の意匠登録出願があった場合は最先の出願人のみが意匠登録を受けることができるのが先願主義の原則です。ただ、関連意匠制度はその例外です。これは、同一出願人による一貫したデザインコンセプトに基づく意匠群を保護することが趣旨です。

本改正前の意匠法では、関連意匠にのみ類似する意匠については、意匠権侵害は認められませんでした。しかし、本改正により、関連意匠にのみ類似する意匠についても、当該関連意匠を本意匠として、関連意匠としての意匠登録を受けられるようになりました

これにより、一貫したコンセプトに基づき開発されたデザインが保護可能となり、例えば自動車のモデルチェンジのようにデザインを少しずつ変えていく場合に、各デザインを「群のデザイン」として保護することが可能となりました。

意匠権存続期間の延長

本改正前の意匠法での意匠権の存続期間は、「設定の登録日から20年」とされていましたが、本改正により、意匠登録の「出願日から25年」とされました。

また、関連意匠の意匠権の存続期間は、基礎意匠の意匠登録の出願日から25年となりました。

本改正前に「設定の登録日から」であったのが「出願日から」に変わったのは、出願日を起算として20年とする特許法と異なっていたために、知財管理が煩雑であったからです。

2006年改正により、それまでの15年間から20年間に延長されていた意匠権の存続期間は本改正により、起算日を変更するとともに期間が25年間に延長されました。

保護対象の拡充

本改正では前述の存続期間の延長とともに、保護対象も拡充されました。新たに対象になったのは物品に記録・表示されていない画像、建築物の外観、内装のデザインなどです。

本改正前の意匠法では、意匠法の保護対象は自動車や手提げかばんのような「物品」に限られており、不動産や固体以外のものなど、「物品」でないものは対象外でした。

しかし、本改正により保護対象が拡充され、新たに「画像」、「建築物」、「内装」のデザインについても、登録ができるようになりました

画像

本改正前の意匠法では、表示画像及び操作画像のうち、物品に記録・表示される画像が、保護対象となっていました。すなわち、サーバーに記録され、利用の都度送信される画像や、物品以外の道路などに投影される画像は対象外でした。

改正後は、物品に記録・表示されているか否かにかかわらず、表示画像や操作画像そのものを保護することができるようになりました

このため、例えばネットワークを通じて提供されるソフトウェアやウェブサイトの画面やアイコン、また、壁や床、さらに人体等に投影される画像、IoTやVR/ARのような分野の画像も意匠登録の対象となります。

ただし、画像全てが登録対象となったのではありません。表示画像や操作画像が登録対象であって、ゲームや映画、テレビの画像、壁紙等の装飾的画像や写真などのコンテンツなど、画像が関連する機器等の機能に関係がない画像は、改正後も保護されません。

建築物

本改正前の意匠法では、「物品」は「有体物である動産」を意味したので、建築物の不動産については、意匠権で保護することはできませんでした。

改正後は、店舗やホテルのような建物、つまり不動産である「建築物」についても意匠権で保護できるようになりました

改正意匠法の審査基準では、「建築物」とは、土地の定着物であり、土木構造物を含む人工構造物とされています。例として、商業用建築物、住宅、工場などのほか、競技場、橋梁、電波塔や煙突などがあげられます。また、「学校の校舎と体育館」や「複数の棟からなる商業用建築物」のように、結びつきが強固でない場合にも、一体的に実施がなされ得るものである場合には、複数の建築物を一つの意匠とすることが可能となっています。

内装

本改正前の意匠法では、複数の物品(テーブル、椅子、照明器具など)や建築物(壁や床の装飾)から構成される内装のデザインは、一意匠出願という要件を満たさないので、意匠登録を受けることができませんでした。

改正後は、複数の物品、壁、床、天井等から構成される店舗等の内装のデザインについても、「内装全体として統的な美感を起こさせる」という要件を満たす場合には、一つの意匠として意匠登録を受けることができることとなりました

店舗や事務所の内装だけでなく、宿泊施設、医療施設、客船、鉄道車両などの内装、リビング、バスルームなど、建築物の一部も意匠登録の対象となり得ます。

この意匠法上の内装の意匠に該当するためには、以下の1~3を全て満たすことが必要とされています。

  1. 店舗、事務所その他の施設の内部であること
  2. 複数の意匠法上の物品、建築物又は画像により構成されるものであること
  3. 内装全体として統一的な美感を起こさせるものであること

一つの出願に含められるのは、一つの施設における内装空間に限られるため、物理的に分断された複数の空間を含むものである場合は、原則として一つの内装の意匠に該当しないと判断されます。

ただし、空間を仕切る壁等が、例えば透明であるなどして、視覚的に連続した空間と認識される場合等は、一つの空間として取り扱われます。

また、二つ以上の空間を含むものであっても、それらの空間の用途に共通性があるとともに、形状等が一体的に創作されたものと認められる場合は、一つの内装の意匠として取り扱われます。

これまでは、店舗デザインの保護手段は、不正競争防止法が中心でした。しかし、同法で保護される店舗デザインは限定的であり、条件が限られていました。今回の改正により、意匠権は、店舗デザインの保護を図るための有力な手段となる可能性があり、注目されています

まとめ

改正意匠法は2020年4月に施行され、すでに建築物の意匠として「ユニクロPARK 横浜ベイサイド店」「上野駅公園口駅舎」、内装の意匠として「蔦屋書店」「くら寿司浅草ROX店」が登録されています。

特許庁審査第一部意匠課が2021年1月に発表した「新たな保護対象についての意匠登録出願件数」によれば、画像685件、建築物294件、内装172件が出願されています。新しい分野における意匠権の利用が期待されます

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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