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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

知っておきたい企業買収の基本と手続き

IT・ベンチャーの企業法務

知っておきたい企業買収の基本と手続き

IT技術の進歩・デジタル化・グローバル化などの経営環境の変化、さらには後継者問題もあり、M&Aは中小企業の存続を左右する重要な経営選択の1つになりました。

M&Aの中で企業を買収する方法としてよく用いられるのは、

  • 株式譲渡
  • 事業譲渡
  • 株式交換
  • 第三者割当増資
  • TOB(公開買付)

などです。

経済産業省が2017年12月に中小企業を対象に実施した「中小企業の事業再編・統合、企業間連携に関する調査に係る委託調査報告書」では、株式譲渡(40.8%)と事業譲渡(41.0%)の2つの手法だけでM&Aの実施形態の8割以上を占めていますが、実際に企業買収を行う際にはいろいろな手法が考えられます

そこで今回は、「株式譲渡」には限定せず会社の経営権の移転に関するM&A全般の基本知識や必要な手続きなどについて詳しく説明します。

企業買収のメリットとデメリット

企業買収は対象とする企業の発行済株式の過半数以上を取得して経営権を移転する手法です。

少数株主の非上場会社には株式譲渡が適していますが、上場会社の場合にはTOBによる企業買収が近年増加傾向にあります。

企業買収は買い手にとっては短期間に事業の拡大を図れるなどのさまざまなメリットがある反面、デメリットもあるので注意が必要です。

企業買収のメリット

会社の競争力を高められる

買収した会社の技術・ノウハウ・人材・営業情報などの経営資源を活用することで、自社に不足している技術・商品開発力や販売力を強化し競合他社に対する競争力を高めることができます。

新規分野への進出が可能となる

自社が独自に新規分野に進出するためには多額の資金と長い時間が必要となりますが、ターゲットとしている新規分野で事業を行なっている企業を買収することで短期間での進出が可能となります。

コスト削減が可能となる

自社と買収した企業が保有する事業拠点などの共同利用や、商品や備品などの共同発注によるコストダウンも可能となります。

企業買収のデメリット

リスクも一緒に引き継ぐことになる

資産や権利などを選択的に売買できる「事業譲渡」は異なり、企業買収では会社を丸ごと承継するため資産だけではなく負債も同時に引き継ぐことになります。

また、債務保証や訴訟などを抱えていれば将来発生するかもしれない簿外債務などのリスクもあります。

期待したシナジー効果が得られない可能性も

買収した企業の経営資源を過大評価していて実際にいろいろな取り組みを行なった結果、投資に見合ったシナジー効果が得られないという可能性もあります。

優秀な人材が流出するリスクがある

企業買収によって経営陣が交代すれば、新しい経営方針に賛同できない従業員も出てきます。そのため、技術や営業分野の中心的な人材が競合企業に流出する、あるいは引き抜かれるという可能性もあります。

企業買収の中心的な手法「株式譲渡」について詳しく知りたい方は下記記事にて詳述しています。

企業買収の4段階

ここからは企業買収を実際に行うための手順と、各プロセスで必要となる書類や契約書について詳しく説明します。

準備段階

  • 戦略の策定

M&Aは自社が目指す将来の目標を達成するための手段として行うものですから、自社のビジョンや中長期の事業方針に基づき、M&Aに期待するものは何か、そのためにはどれくらいの資金を投入できるかなどを明確にしなければなりません。

  • 仲介会社の選定

M&Aのアドバイザーには売り手か買い手のどちらか専属のFA(ファイナンシャルアドバイザー)と、両者と契約し中間に立って交渉を進める仲介会社があります。

中小企業の場合には交渉が早期にまとまりやすい仲介会社を選択するのが一般的で、依頼する仲介会社が決まれば秘密保持契約及びアドバイザリー契約を締結します。

  • M&A形態の決定

企業買収の目的や投資できる資金などを考慮し、さまざまなM&Aの手法の中から適したものを選択します。この判断には専門的な知識が必要なので、仲介会社や専門家のアドバイスを参考にすると良いでしょう。

選定段階

  • ノンネームシートでの検討

交渉相手を選定する初期段階では売り手が作成した匿名資料「ノンネームシート」で検討します。この資料は、企業名が特定されないように配慮された概略のみをまとめた情報となります。

  • ネームクリア

ノンネームシートで興味を持った企業があれば、買い手は仲介会社を通じて企業名や詳細な経営情報の開示が可能かどうか売り手に対し確認を行います。

  • 企業概要書の提示

売り手からネームクリアの確認が得られれば、仲介会社は買い手に対し事業内容や財務状況などを詳しく記載した企業概要書を提示し、買い手は本格的な検討に進みます。

  • 企業価値評価

買い手は企業概要書の内容をもとに対象企業の価値がどれくらいかを金額で見積もります。この金額が後述する「意向表明書」に記載されることになります。

企業価値評価の手法には、純資産に基づく「コストアプローチ」、将来の収益に基づく「インカムアプローチ」、類似企業の価値に基づく「マーケットアプローチ」などがあります。

交渉段階

  • トップ面談

企業買収の場合は、具体的な交渉に進む前に売り手と買い手の最高責任者が会って相互理解を深めることは重要なプロセスです。特に買い手の経営に対する考え方や、対象会社に関する疑問点などがあれば直接相手に質問し、お互いの不安や疑問を解消します。

  • 意向表明書の提出

トップ面談で両者が納得すれば、買い手は株式の買取りを希望する意思を伝えるために会社概要、M&Aの形態、買取り価格などを記載した意向証明書を売り手に提出します。

  • 基本合意書の締結

売り手と買い手が交渉し譲渡に関する条件、譲渡価格、スケジュールなどの基本事項について合意できたときには基本合意書を作成します。

これは、それまでの合意を記録に残すもので最終契約書ではありません。

「M&A契約における基本合意書の法的効力」について詳しく知りたい方は下記記事にて詳述しています。

  • デューデリジェンスの実施

基本合意書を締結した後、買い手はそれまで提出された資料の内容を弁護士や公認会計士などの専門家チームによって精査します。

ポイントは、

  1. 対象企業の適正価値
  2. 今後の課題
  3. 潜在・顕在のリスク
  4. 将来性
  5. 自社事業とのシナジー効果

を、事業・財務・人事・法務など多面的に分析・評価することです。

最終段階

  • 最終譲渡契約の締結

デューデリジェンスの結果に基づき最終企業価値評価を算出し、売り手との合意に基づき最終譲渡契約を締結します。

ここで特に重要となる条項は、

  1. 譲渡日
  2. 譲渡金額
  3. クロージング
  4. 表明保証
  5. 株式の譲渡承認(譲渡制限株式の場合)
  6. 取引先の事前承認(チェンジオブコントロール条項がある場合)

です。

  • クロージング

最終契約書に基づき、買い手は譲渡代金を売り手に支払い、売り手は経営権を買い手に移転させ、企業買収の手続きを完了させます。クロージングはM&Aの手法によって資産や負債の移管や取引先の事前承認などで数ヶ月かかることもります。

  • PMI(統合プロセス)

買い手企業と買収した企業の経営方針や管理体制などを統合し、社員間の対立を防ぎ期待したシナジー効果がスムーズに発揮できるようにします。

株式譲渡における弁護士の役割とは

弁護士は経営権の移転を目的としたM&Aにおいては非常に重要な役割を担っています。各種契約書のチェックはもちろんですが、対象企業が締結している契約書や社内規定などのチェックやコンプライアンス違反などのチェックを通じて隠れたリスクを評価する「法務デューデリジェンス」は、専門知識と経験がある弁護士でなければできない仕事です。

この他にも株式譲渡が独占禁止法に抵触しないか、あるいは手続きが各種の法令に従って進められているかなどをチェックし、時には問題解決のための助言をするアドバイザーとしても重要な存在です。

まとめ

「企業買収のメリットとデメリット」「企業買収の4段階」「株式譲渡における弁護士の役割とは」について解説してきました。

後継者問題やビジネス環境の変化によってM&Aによる企業買収は年々増加しています。しかし多額の資金と様々な手続きが必要となる企業買収にはリスクもあるため、手順に従って安全かつスムーズに進めなければなりません。

そのためには、専門的な法律知識と経験豊富なM&Aアドバイザーでもある法律事務所に初期段階から相談し、どのように進めてゆくかアドバイスを受けることをおすすめします。

「企業買収成功の秘訣」について詳しく知りたい方は下記記事にて詳述しています。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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